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ダブルクロス3rd リプレイノベル ~Team of Gisselle~  作者: みぃ
第1章「Priestess of Dragon」
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第11話「嵐と雷の龍」(上)


一行は、小さな島に足を踏み入れる。

ほんの少し、中に入ればそこは森に囲まれた小さな社だ。


舞は、かつて杉木らと共にここにきた。

奏は、かつていつみの中にてこの地に足を踏み入れた。


ただ、今決定的に違っていたのは、そこに身の丈十数メートルはあると思われる、巨大な龍が鎮座していたことだろう。


そして、その龍の前には竜宮殿いつみが横たわったまま宙に浮いていた。


「…いつみちゃん!!」


奏の呼ぶ声にいつみは何の反応も示さない。


それもそのはずだ。

彼女の胸元から数寸上に漂っていたのは、強い輝きを放つ丸く美しい宝玉だった。

それは、幾つもの色を鮮やかに放っており、伝承にあるものに間違いないだろう。


そして、龍宮殿いつみを成り立たせていた、半分だ。


宝玉は、緩やかに本来あるべき場所、龍の頸もとへ戻っていく。


そして、役目を終えた少女の身体は、糸が切れたようにフッと浮力を失い落ちていった。


「っ!!」


ほぼ反射的に奏は飛び出し、宙を落ちるいつみの下へと駆ける。

その咄嗟の対応が間に合い、いつみは奏の胸へと落ちてくる。

そして、なんとか彼女を受け止めることに成功した。


受け止めてから、間髪入れずに杉木が叫ぶ


「奏くんっ!!すぐに退けっ!!」


「はいっ!」


杉木の叫びに奏が気づいた時、龍は千年ぶりの空を慈しむように、天を仰いでいた。


そして、元の場所に戻ろうとする奏の背中に、ビリビリとしたそれが響き渡る。



「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛! ! ! !」



大地を、海を震わす、龍の巨大な咆哮が響き渡る。


「……っ!」


「マズっ…!」


そして、その咆哮と同時に直観的な危険を感じた杉木と裕子はこちらに向かってくる


大きなライフルを抱えたビディと、もしもの時を見越した舞は、その後ろで警戒態勢を取っていた。



巨大な咆哮は、龍の膨大な力を凝縮して今にも放たれんとする。


その一瞬の間に、仲間たちがそれから奏たちを守ろうと動く。


「奏くん!!その子を護って!!」


「ビディ、頼む!!!」


裕子は、その一瞬で身体を大量展開して壁になる。

そして、杉木は裕子らの陰にいつみを抱えた奏を押し込み、庇った。


「…っ!舞さん!!」


後方のビディも、杉木の指示で瞬間的に動き、傍らにいた舞を庇って倒れこむ。



そして、龍から放たれた衝撃波が、島を一掃した。



大きな衝撃。

嵐のような勢いと波動に飲み込まれ、もみくちゃにされながら一行は島の海岸付近まで吹き飛ばされる。

だが、裕子、杉木、ビディの咄嗟の対応によって、その大きな衝撃派を受けても奏と舞、そして気絶したいつみはほぼ何事もなく難を逃れた。


しかし、庇った三人はまともに衝撃波を喰らってしまい、杉木とビディ地に伏したまま起き上がる気配がなく、大量展開したしたちび裕子は残骸すら見当たらなかった。


「…っ!裕子さん!杉木さん!ビディちゃん!」


奏がなんとか起き上がって状況を見て、心配のあまり声を上げる。

だが、舞は冷静にビディ、杉木のもとに駆け寄ると、二人の安否を確認した。


「…大丈夫、大事ではないわ。」


その言葉に、奏は安堵した。

舞は奏をみて、奏は舞を見て。


そして、龍を見る。

巨大な龍も、ちっぽけな二人の人間を見下ろしていた。


すると、舞の肩から声がした。


「勝手に…、殺さないでちょうだいよ」


「! 裕子さん!」


奏の肩に、ちび裕子が1人残っていたのだ。


「とりあえ、ず、メインのアタッカーを二人無傷で残せたのは、上々です、ね」


杉木がゆらりと立ち上がる


「はぁ…っ! だいぶやられたけど、引き金を引くくらい、まだできるわ。

そこの女の子の盾になるくらいも、ね?」


続くようにビディが


「よかった……」


みんな、全員まだやれる。

三人は先の攻撃でボロボロだったが、全員なんとか立ち上がっていた。


「そういうことです。いつみさんは任せてください」


「私たちも、援護くらいならできるから…龍を叩くのは、頼んだわよ」


杉木と裕子はそう言って、彼女を遠くへ運んでくれた。


先の衝撃波によって空は陰り、やがて島の上空は雷雲に包まれ、やがて大粒の雨が降り出した。

それは、すぐに強まり、やがて嵐となってその場にいる者に叩きつける。

龍の能力。嵐と雷を操る力。



ところがその時、嵐に混じって何処からともなく声が響いた。




「うっわー…。なんかスゲーことになってんなぁ…」


「!……この声…!」


その声は、奏たちの後方から聞こえてきた。

2人が振り向くと、衝撃波と嵐の影響で水位が戻り、いつに間にか陸へと続く道が消えていた。


ぞして、その海を挟んだその向こう側の砂浜に“兇刃(ブレイド)”春樹辰巳が佇んでいた。


「………いやな奴に、会った」


舞はあからさまに嫌そうな顔をする。


「さ、て、と。どうしたもんかね? 色々とトンデモな状況だ」


彼は自身の能力でこちらの会話も聴きながら、海の向こうの、嵐に覆われた島を眺める。


「槇原奏、秋家舞。あんたら『また会ったな』。

そっちのUGNの皆さんは『初めまして』。春樹辰巳っすわ」


春樹は不敵に笑いながら、海の向こうから一向に声を投げかける。

ボロボロな杉木は、最悪だとでも言わんばかりな顔をして海の向こうを見た。


「この、状況で…っ、来てしまったか…!」


奏は海から龍へと視線を戻し、しかし聞いているであろう春樹に向かって話す。


「見ての通り、絶賛取り込み中なんだけど…」


「みてーだな。俺も龍なんて初めて見たわ…だけど…」


彼は、小さく見えるボロボロの杉木、ビディを見て


「絶好のチャンスでもあるんだよなぁ〜っ!」


と言いながら頭を掻きむしった。


「やっぱりね…」


「………」


ふたりは、春樹の返答に対しわかりきっていたように小さくため息をついた。


「でも、ここで秋家舞だけ攫って、アレをほっとくのも後味悪ぃな…。さーて、どうすっかね…」


春樹は、遠くに見える巨大な龍を少し凝視して、それから


「いや、でも“あの龍も大したこと無さそう”だな…」


と呟く。


そして、そうしなくても能力で伝わるのに、口でメガホンを使って春樹は叫んだ。


「よっし! 決めたぜ槇原くんよー!」


「…何?」


「俺も龍倒すわ。でも君らも倒すわ」


この距離と、激しい嵐でよくわからないが、春樹は何かをポケットから取り出し、パチンと鳴らした。


「ほれ、前に言っちゃったもんな。



『次会う時は、戦場で』って!」



春樹の声に呼応するように、眼前の龍が猛々しく吼えた。


幸い、春樹は海を越えた向こう側、距離はかなりある。

それまでに仲間らと協力し、龍を、そして兇刃(ブレイド)を打ち破らなければならない


奏はすごくバツが悪そうな顔をして呟く。


「…まぁね……あぁ、すっっごく厄介なことになった…」



龍が開戦の合図と言わんばかりに再び猛り吼える。

その大きな咆哮は、ビリビリと空気を震わせ、ふたりの鼓膜を大きく揺らす。



それは、ジャーム特有の、衝動を駆り立てる波動も含んでいた。

奏はその叫びを聞いてもなんとか踏みとどまる。

しかし、舞はその叫びによろめきそうになりながら、自分を抑える。

どくん、と鼓動が大きく鳴る。


それは、舞の内側にいる“彼女”の主調だった。


「ぐっ…」


「秋家さん、大丈夫!?」


「………私のことは、いいから…今は、目の前の敵に集中しなさい!」


奏は、舞の強い言葉にうなずいて、もう一度前を向く。


「………いくよ!!」

嵐の中での戦いが、始まった。





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