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ダブルクロス3rd リプレイノベル ~Team of Gisselle~  作者: みぃ
第1章「Priestess of Dragon」
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第9話「ふたつの原因」(下)

一方そのころ奏は、静かな田舎の町を走る。


肩にはちび裕子がしがみつき、目的地までの場所を奏に教える。

走る奏によって、乗馬でもするようにバランスを取りながら裕子は掴まっていた


「あばばばば、し、しかしどうやってあの女の子の事調べようかなぁ…!?」


奏は走りながら、あの白昼夢の中の白い着物の少女を思い出す。


「……知っているんだ、あの子の事…」


「ふぇっ!?」


裕子はゆられながら目をぱちくりさせた。


やがて、裕子に導かれるままに奏が走っていくと、学校で遊んだ帰りか何かか、普通に通学路を歩いているいつみの姿を見つける。


「…いた」


奏は道の角から軽くいつみを見た。

間違いなく、彼女はあの白昼夢の少女だった。


「…間違いなくあの子だ。…っでも、一つだけ気がかりなことがあるんだ。」


「?」


「……僕があの子と直接話したのは、白昼夢の中でだけなんだ…。

彼女が覚えていなかったら、ちょっと面倒くさいことになるよ。」


「お、おおう…?」


裕子は奏の話を理解しきれていないのか、首を傾げながら言う。


「うーん、でもとりあえず、あの子は何か知ってるんじゃないかな?

オーヴァードでもない一人の人間からレネゲイドが漏れ出てるなんて、あまり聞かない話だし…」


「……まぁ、そうだね。考えてても仕方ないか」


そういうと、裕子が腕時計にまた化けた後、奏はその道を進み彼女を追った。


鼻歌交じりに歩く少女の小さな背中は、奏が歩を進めるうちに、どんどん近づいてくる。

そして、やがて目の前に来たといところで、奏は思い切って声をかけた


「あ、あの、君!」


「……!はい?」


少女はくるりと振り向き、知らないものを見るような顔で奏を見上げてくる。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」


「あ、はい…?」


奏は、どことなくわかっていたが、やっぱり覚えてないか、と頭のなかで呟くと、こう続ける。


「あのさ…最近、君の周りで何か変わったことはない?」


自分でも大分苦しい質問だな、と頭の中で思う。

当然少女はきょとん、とすごく困った顔をした。


「???え、えっと、ありません…、よ?」


これを見ていた裕子も、仕方ないか、と声を出さずに行った。


「あ、変なこと聞いてごめんね。」


「は、はい。…お兄さんは、何かを調べてる人ですか?」


「うん。最近このあたりに危ないガスみたいなものが漏れてるらしくてね。それを調べに来たんだ。

このあたりで何か怪しいところがないか調べに来たんだけど…

何でもいいんだ。何か気になったことはない?」


奏がそういうと、少女はうーんと考え込み、やがて口に出す。


「うーん…。通学路の途中にある、西田さんって人のお家があるんですけど。

そこで飼ってる、柴犬のコロが最近風邪引いちゃったみたいです?」


「そ、そっか…」


気まずい空気が流れる。

奏も裕子も、この状況をどうすればいいのかわからなかった。


その時だった。


奏は、ずっ、と前方から後方へ闇が駆け抜ける追うな錯覚を覚えた。


そして、ふと気が付くと、目の前には白い着物を着たいつみが

足元の感触が、アスファルトから石畳に変わっていた。


闇が駆け抜けたわけではない。

“ここ”が夜なだけだった。


奏は再び、気が付いたら「あの島」の神社の前に立っていた。


「……ごめんなさいね、お兄さん。“表”の私は、何も知らないのよ?」


少女は少し困った笑顔を浮かべて奏を見る。

それは、間違いなく…昨夜出会った彼女であった。


「君は、一体…?」


奏がそう聞くと、少女は軽く考え込んだ。


「うーん、なんていえばいいのかしら…?」


そう言って、ほんの少しだけ考えた後、

いつみは足元の石畳を、ぺちぺちと履いてる草履でたたいた。


「この下に、何が眠っているか知ってる?」


奏は、軽く首を横に振った。


「…わからない。でも、それがこのままだと、この町の人々にとって危険なことになることは知ってるよ」


いつみは、こくん、と頷く。


「そうね。この下にいるのはとても危険なものだわ。1000年かけて抑えてきたけど、そろそろ、限界なのよ」


「…そこには、何がいるの?」


奏が聞くと、いつみははっきりと言った。


「龍よ。1000年以上も昔の。」


「あの、伝承の?」


「うん。私が、封印したの。1000年前に」


「…そうなんだ。」


奏は、じっといつみの足元を見る。

伝承に伝わるレネゲイドビーイング。

それが、この下に眠っている。


「…お兄さんは、何が知りたいの?」


いつみがそう問うと、奏は少し悩んでから答えた。


「…知りたいことよりも、僕がここに来た理由を話した方が、手っ取り早い。」


いつみははてなといった顔を浮かべて、奏の言葉を待つ。


「この町は今…レネゲイドというウィルスの濃度がどんどん上昇している。僕はそれを食い止めに来たんだ。

そのウィルスが発生しているのが、普通の世界にある龍の眠る場所と、表の君の身体」


「…れねげいど?ああ、きっと龍の気のことを外ではそういうのかしら?」


「多分そうだと思う。その気に侵された人は……こんな風になる」


奏がそういうと、右手をすっと空に翳す。


すると、どこからともなく光の玉が手に現れ、空に飛び上がっていった。

そして高いところまで飛んでいくと、まるで花火のように、パァンとはじけて消える。


「そうなんだ。……綺麗だね」


いつみはその小さな花火を見て、軽く微笑んだ。

奏は右手を下ろすと、複雑な顔をする。


「でも、僕らにとってこの力は、いいものではないんだ。

……こんな力だけじゃないよ。体が変に動いたり、獣になったり……人の間では、普通じゃないことが普通になってしまう。」


「…そう…」


奏は、軽く俯きがちに続ける。


「そういった、普通じゃない人間を、人は怪物というんだ。

君が言う龍の気は、人を怪物にしてしまうんだよ。」


「…なるほど。」


奏は顔を上げると、はっきりと言った。


「だから、止めなくちゃいけない。そのために僕は来たんだ」


いつみはその奏のまっすぐな表情を見ながら、言う。


「つまり、お兄さんは龍の気をどうにかしたいのね。」


「うん。」


いつみがくるりと踵を返し、地面を、龍の眠っている場所を見ながら答える。


「龍の気が漏れ出ている原因はとても簡単よ。

私の魂が朽ちようとしているの。単純に、限界なのよ。

だから、今まで抑えていた封印が不完全になりつつある。」


彼女は、地面を見た後空を仰いでそう言った。


「どうすればいいの?」


「どうしようもないわ」


「そんな…」


奏は帰ってきた答えに愕然となる。

しかし、いつみは再び奏のほうに向きなおってこう答えた。


「そうね、一番シンプルなのは、元を絶ってしまうことだと思う。

封印が解けて、目覚めた龍を殺すの。」


「…やっぱり、そうなるんだね…」


「そのほかにも、新しく封印をするという方法もあるわ。

でもそれは…新たな人柱が必要ということよ」


「人柱…」


奏がそう呟くと、いつみは奏に問いかける。


「お兄さんは、薄々わかっているでしょう?私が普通の存在じゃないことに」


「…うん」


奏が頷くと、そうよね、といつみはわかっていたようにつぶやき、続けた。


「1000年前にね。私は荒れ狂う海に身を投げたわ。起こった龍を封印して、船に残った仲間たちを沖に帰すために。

私の魂は龍を封じることが出来た。でも、この魂は龍を封じたのだから、彼岸に行くわけにはいかなかった。」


奏は、そう語るいつみを見ながら、黙って聞き続ける。


「だから、私は町の人間として生まれ変わったわ。何度も何度も。ずーっと。

そして、最後になったのが…この『竜宮殿いつみ』って子だったのよ」


「…そうなんだ。」


奏は、少し間を開けて、いつみに質問した。


「もしも…君の魂が壊れて龍が解き放たれたら…君はどうなるの?」


「もちろんそれは…」


いつみは、やけに淡々とはっきり答えた。


「死ぬわよ」


奏の息が一瞬詰まる。

そうばっさりと告げた彼女は、それを全て受け入れていたように語る。


「だから、この子には悪いことをしたわ…。最後の『私』としてこの世に生を受けたせいで、たった十数年しか生きられないのだから。」


奏は、じっと黙りこくる。


そして、ぎゅっと拳を握った。


「……君の魂は…壊れて…いつみちゃんも、死んで……そんなの、あんまりだ……」


そう悔しそうに、悲しそうに言う奏に、いつみは告げる


「でも、どんな生き物もいつかは死ぬわ。例外なんてものはあり得ない。」


それは全てを悟り、受け入れた表情だった。

奏はそんな彼女を見て、更に悲しそうな顔をする。


「……そうだとしても…こんなの、絶対幸せなんかじゃないよ。君だって…そうでしょ?」


「受け入れろとは言わないわ。でも、駄々をこねたところでどうしようもないの。」


奏は押し黙って俯いた。

静かな夜の空間に、静寂が流れる。


しかし、少しするといつみが奏に問いかけた。


「ねぇ、お兄さん。お兄さんのその力は、強いのかしら?」


奏は悩むようなしぐさを見せるが、やがて答える


「…僕はまだ、力を使い始めたばっかりで、強いって自信はあるとは言い切れないけど…。

でも、僕は一人じゃない。

……僕には、強い仲間がいる。だから胸を張って言えるよ。」


奏は、まっすぐと目の前の少女を見る。


「約束する。龍を倒して…君を助ける。」


それを聞いて、いつみは少し安心したような笑顔を浮かべた。


「そうか、龍を倒してくれるのか…。

よかった。それなら、私みたいに1000年も囚われる人を出さずに、これ以上誰も傷つけずに、全てを終わらせられるね。」


最後まで彼女がそう言うと、安心した笑顔は、段々寂しそうな表情に代わっていった。


「……どうしたの?」


「なんでも、ないよ?…それよりもお兄さん。聞いて。龍の封印が解けるまでもうあまり時間がないの。」


奏は、少しわかっていたようにうなずくと、いつみはまた寂しげに笑った。


「お兄さんたちが、この時期にここに来てくれて本当に良かった。

私は、お兄さんたちを信じる。この町を、町の人たちを、よろしくね…?」


「うん、任せて。」


それを聞いて、いつみはにこりと笑うと、奏は、ずずずずと、意識を後ろに引っ張られる感覚に合う。


そして、ふと気が付けば、目の前には困惑した表情の竜宮殿いつみがいた。

アスファルトの感触、昼の日差し。

そこは元いた大判市の住宅街の一角だった。


「あ、あの、こんな微妙な変わったことでも、役に立ちますか…?」


おろおろと、困った表情を見せる“表”のいつみに、奏は一歩後ずさって心配しないように両手を振った。


「ご、ごめんね困らせちゃって。ボク、他の人にも何か知ってるか聞いてくるから。この辺で。」


「い、いえ。対してお役に立てなくてごめんなさい。」


「ううん、大丈夫。気を付けて帰ってね。


申し訳なさそうな表情の、年相応の竜宮殿いつみはぺこりと頭を下げると再び帰路に就く。


「ありゃりゃ…これは、収穫なしかな…?」


腕時計のままのちび裕子は、残念そうな声を出した。

しかし、奏はそれに反して強い意志を感じられる声で言った。


「いや、全てわかったよ」


奏は、踵を返してまた走り出す。


「急がなきゃ、いけない」


「……えっ」


裕子の驚愕も気に留めず、奏は走ってこのことを伝えるため、宿への道を駆けた。




  ◇  ◇  ◇





月はいつも天上の真ん中に浮かんでいる。



ここはずっと、夜なのだ。



右の手に玉を宿したお兄さん。


槇原奏って、前に名乗っていたかな?


彼はきっと神に選ばれた人なのだろう。だから、ここに来れた



「『剣』は勇気、『鏡』は英知、そして『玉』は心を宿す……」



伝承の通り、彼はとても優しい人だった


まっすぐで、こんな私のことも、真剣に考えてくれた。




でもごめんね、お兄さん




「龍が目覚めた時には、もう私はいないんだ…」




少女は天を仰ぐ



長かった日々が、終わりを迎えようとしていた



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