十四年前、生物教室にて
能力系バトルものにしていきます。
この話はまだプロローグですらありません。主人公も出てきません。あしからず……
「『我々は知らない、知ることはないだろう』」
日曜日の静かな学校。
生物教室には二人の人物がいた。そのうちの一人の白衣を着た若い男は、メダカのいる水槽にエサをまいている。水槽は窓辺からのやわらかい日差しを浴びて透明に輝いていた。
「生理学者のエミール・デュ・ボア=レーモンの言葉です。この世には僕たち人間が永遠に理解できないものがある。物質と力の本性、運動の起源、意識の起源、自由意思……」
手に付着したエサを両手でぱっぱっと払いながら、白衣の男はその教室のもう一人の人物のほうを向いてにやりと笑い、言葉をつづけた。
「そして、例の『あの力』……それとここ五年間の『停止した世界』……どちらもあらゆる分野の学者が解明しようとしてますが、無駄に終わるでしょうね。もっとも、深追いしても消されるだけでしょうけど……」
白衣の男は再び水槽のメダカに目を落とし、表情を失う。メダカは男がまいたエサに群がっていた。
「僕たちはこのメダカと同じなのかもしれない。自分のいる世界が何なのかもわからず、自分が捕らわれているという真実にもたどりつけず、ただただ生きて……死んでいく」
「それはつまらんな。あまりにも」
教室の片隅、パイプ椅子に腰をかけていたその男はおもむろに立ち上がった。
白衣の男がスラリと細い肉つきをしているのに対し、その男はガタイがよく、左目は深い切り傷で潰れていた。
「人間には真実を知る権利があるはずだ。『あの力』はなんのために存在するのか……。一体何が、あるいは誰が、この『停止した世界』を生んだのか……。真実は必ず存在する。たとえそれがどんなに遠くにあってもだ」
「ではもしその真実が誰かに奪われていたら……?」
白衣の男は再びにやりと笑い、単眼の男に問う。
単眼の男は深い呼吸をして、見えている右目で白衣の男に強い視線を投げかけた。
「奪い返す。是が非でも我々のもとに取り戻す。そのためならば何度でも立ち向かい、抗い、戦い続ける」
白衣の男はフフッと笑うと、両手を広げて言い放った。
「そう、その目です……!その目が見たかった……!前嶋さん、あなたのその目が僕は好きなんだ……!さあ、始めましょう、『奪還』を!」
エサを食べ終わったメダカは、再び水槽の中をふらふらと泳ぎはじめていた。見えない出口を求めてさまようように……
初投稿でした。