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久しぶりに訪れたこの場所は、何一つ変わっていないと思われた。
「しかし、まぁ」
殺風景である。相変わらず、家の表札は黒く汚れているし、ポストは錆びついてボロボロ。隣の珈琲屋は枯れた花を飾っているし、客の入りもいまいちのようだ。
「失礼」
ドアノブをつかむと、鍵は開いていた。中を覗くと真っ暗で誰もいない。リビングに上がる。テレビがついていた。しかし音が出ていない。無音のままチカチカと画面が変わっていく。バラエティ番組のテロップが目に障る。
「あっちか」
リビングを後にして、珈琲屋へ向かう。ガラスのドアを開けるとカランコロンと鳴った。誰もいない。珈琲の香りもしない。
「…………」
近くの椅子に腰掛ける。ポケットから紙を取り出す。そこには電話番号が書かれている。店内を見回して、電話を探す。
「あるわけないか」
紙をくしゃくしゃに丸めて、もう一度ポケットに押し込んだ。両手で顔を覆う。大きく息を吐いて、うつむく。
「あ」
思い出して、店を出る。この場所に来てわかったことは、確実に変わっていたということだった。
久しぶりに「小説家になろう」を訪れた私、田崎史乃でした。