プロローグ:蟲毒
俺はあの人と共にありたい。誇り高き我等が隊長閣下。
戦火の消えた平和な世であの人暮らしていけるのだろうか。
―否、あの人も俺と同じ。
帝国軍の研究班が秘密裏に発掘した平安時代の陰陽師たちの秘術『蟲毒』
その術を用いて創られた戦うためだけの生物兵器。
物心着く前から同じ年頃の子供達が集められ、小さな箱庭の中で育った。
すなわちそれは殺し合いの日々。
壁はいつも、塗ったぐった血で真っ赤。床は最後の力を振り絞って子供が抉った跡が無数に刻まれていた。転がったままの死体は処理が間に合わず、古いモノから腐っていき、強烈な臭いを放っていた。子供は減った分だけまた何処からか集められ、補充された。―あまりにも残酷な、戦場よりも残酷な、箱庭の中が俺たちの日常だった。
正気を失う者もいた。
それでも俺たちは戦うことをやめなかった。
―殺すことだけが俺たちの生きる価値だったから。
戦うことでしか、自分を見つめることが出来なかった。
それ以外のことを何も教わらず、俺たちはこの中に放り込まれたのだから。
箱庭の中で人を殺す度に相手の力が俺の物になった。
戦うためだけの力の塊。それが俺。
名もなかった俺を柊沢 胡水と名付けてくださり戦場に導いてくださったあの人。
俺にとってあの人は母であり姉であり―何よりも愛しい人。他の仲間たちとは違う、とても大切で守りたい人。
―あの人の隣に在りたいから俺は戦い続けた。
―あの人が望むならこれからも戦い続ける。
帝国陸軍第一部隊隊長《蟲毒》
今となっては柊沢将校の養子
柊沢 胡水
それが俺。