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07 家ダーク

家の中は、真っ暗だった。カーテンも閉めてあるのか、他の家の電気の光や月の光さえ入らない。闇の世界だった。

なんで電気をつけてはいけないのかはわからなかったが、ネコが真剣に言っていて、危ない気がしたので明かりをつけずに進んだ。

真っ暗だったがだんだん目が慣れてくる。

それでもこの暗さなら普通の人だとまったく見えないだろう。幸い、僕の目がいいおかげでうっすらとあたりが見える。

「な、なんだぁ??」

よく見ると、家の中は散らかり放題で無法地帯になっていた。そして、すごく臭い。

そこそこ広い家なのに、ゴミのせいで床が見えないほどゴミがある。まるでゴミ屋敷だ。

いつからゴミをためればこんなにたまるんだ??

「アイツ、全然掃除してねえな~。って、アイツの飼い主か。さっさとかばんとって帰ろ」

まったくどうやったらこんな家になるのかわからない。というか、人が住めるような状態じゃない。いつもどうやって家に入ってるんだろうか??

どう考えても家に入る場所がない。ベランダから入るっていうのなら納得だが、自分の家にベランダから入るっていうのもどうなのだろうか。

少しずつゴミをよけて道を作りながらリビングに向かった。

家が広く、暗くてどこに行っていいかわからない上、ゴミが山のようにあるせいでリビングにたどり着くまでに10分ほどかかった。

リビングも同じでゴミが広がっている。これじゃあまったくくつろげそうもない。そしてここが一番くさい!!

「あ、これのことだな」

こんなに部屋は汚いのに、机の上はきれいで、このカバンだけしか置いてなかったので、簡単にそれだとわかった。男子高校生が部活でよく使うような、黒い大きめのカバンだ。

「う、重い……。なに入ってんだ??まあいいや、それじゃあ、後は帰るだけ……」

「ドダッ!!」

「!?な、なんだ??」

何かが落ちてきたようなそんな音がした。

(あのネコ誰もいないっていってたよな??じゃあ今のはなんなんだ??)

ただ音がしただけなのにビビりすぎなのかもしれない。僕はこういうのが苦手なわけではない。

それでも、他人の家に侵入した上、周りがうっすらとしか見えないとなると、少し物音がしただけでも相当怖い。

ビビって当然だ。

(ごみの山が崩れたのか??)

…………

静かになった。

だが、違う。なにか……いる。そんな気がした。

「誰かいるんですか??」

「……」

「あの、濡れたまま勝手に入ってしまって、すみません」

「……」

何の音もしなかった。でも、少し見える。目の前に絶対何かいる!!

僕は恐怖に襲われた。この家の人ではないだろう。よくわからないが、ただ者じゃない、そんな気がした。

「はぁ、はぁ」

よくわからない何かと向かい合っているだけで息が荒れてきた。

動けない。うかつに動くと大変なことになると僕の本能が叫んでいる。

見えないそれは、人なのだろう。だが、様子がおかしい。この静かな空間でそいつの音がない。息の音すら全く聞こえない。

(逃げた方がいいのかな??ってか、ネコのやつ、こんなこと言ってなかったじゃねえか!!)

心の中でネコを恨む。だが、そうしていても何の解決にもならない。僕は必死に頭を回転させる。

―――――――――

何もしない時間が続く。時間をこんなに長いと感じたことはない。

実際には十分くらいしかたっていないのだろうが、もう何時間もずっとこのままでいるような感じがする。

(逃げたい……。逃げたい、逃げたい、逃げたい)

ただ立っているだけのはずだ。相手も全く動いていない。それなのに頭がくらくらする。僕の息が荒れて、普通に呼吸ができない。

「はぁ、はぁ、はぁ」

緊張のせいか、精神的に疲れてくる。もう、気が狂いそうだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」

苦しい時間がゆっくりと流れる。まるで、地獄の中に放り込まれたかのようだ。

(呼吸ってなんだったっけ??――――ってか、今何してるんだっけ??――――何でこんなにしんどいの??)

完全におかしな状態になっているが、体は動かなかった。意地でも動かさないと、足を踏ん張り、耐えている。

(逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい、逃げたい!!)

もう限界だった。

「!!」

気付いた時には、片足を一歩後ろにひいていた。

ただそれだけだ。ただそれだけの動作で、この空間の気が変わった。

殺気というのか、けたたましい何かの重圧に潰されそうになる。

一瞬にして世界が崩壊してしまうような、そんな感覚だった。

(苦しい……)

「……!!」

ビュン

風を切る音がする。

突然、何かが飛んできた。

窮地の状態に追い込まれることで、感覚が限界まで研ぎ澄まされている。

そのおかげで飛んでくるものがよく見えたので、なんとかよけられた。

「な、!?」

ゆっくりと後ろを振り返ると、それは後ろの壁に刺さっていた。

ナイフ!!

「な、ナイフ!?な、なんで?意味が分からない。どういうこと?何?何?何!?」

僕は慌てて外へ逃げようとした。

ここまで来たら、もう動かない方がいいとか関係ない。全力で逃げ切る、これしか生き残る方法はない。

(やばい。絶対やばいよアイツ。狂ってる。ナイフとかありえないよ!!)

ひたすら走った。後ろにアイツの気配がある。怖い。全身が恐怖で震えあがりそうだ。

恐怖で体が動かなくなりそうなのをなんとかこらえながら出口を目指す。

「逃げないと、殺される……」

後ろからナイフが飛んでくる。僕は逃げた。行く時に通った道を全速力で駆け抜ける。道がよく見えた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

すぐ後ろから、ゴミにぶつかる音がする。アイツはあまり見えていないようだ。

(走れ、走れ、走れ、走れ!!!!)

後ろを振り向かなかった。振り向いたら追いつかれると思ったから、前だけを見て、ただ、ひたすら走った。そして、外へ出た。

雨はもう降ってはいなかったが、家の中と同じ、真っ暗だ。

「!?」

そこには、いるはずのネコがいなかった。

「おい、ネコ!!どこにいるんだ!?ネコォ!!!!!」

あたりは静まり返っていて、暗闇に僕の声だけが響く。

怖かった。その場から、すぐに立ち去りたかった。

「っくそ」

家から音が聞こえる。

(もうやけくそだ。くそっ。くそっ。くそっ!!)

僕は走りだした。今までこんなに速く走った事ないくらい速く走った。風の音しか聞こえない。できるだけ遠くへと、走った。


 ◆       ◆       ◆


10kmぐらいだろうか?長い距離を死に物狂いで走った。そして、今は体から湯気を出しながら道の真ん中に倒れている。

「はぁ、はぁ」

肺が潰れそうだ。心臓も痛いくらいに強く、ドクドクと動いている。

どうやら、僕は逃げ切ったらしい。安心して、全身の力が抜ける。もう一歩たりとも動けない。

(誰も追ってきてはいない。アイツ、なんだったんだ?なんで僕は殺されかけたんだ?ネコは?ネコはどこに行ったんだよ!?)

疲労でくらくらする。冬の冷たい雨に濡れたせいもあるだろう。意識がうすれてきた。

「私はここにいるぞ」

「ァッ!!」

目の前に黒いネコがいた。

その猫を見た瞬間、無性に腹が立ってくる。怒りが腹の底からどんどんあふれ出てくる感じだ。

「よく、生きて出てきたな」

「生きてって、お前!!」

(やっぱり、コイツ、こうなること知ってやがったんだ!!くそっ!!なんだよ!!)

いろいろ言ってやりたいことがあったが、舌が回らなくて言えなかった。

小さな一匹の黒いネコにはめられたことが悔しかったのも少しはあるが、それよりも何も話してくれなかったことに腹が立った。

もっと信用してすべてを話してほしい、そう思った。

(なんだよ、そんなに頼りなさそうかよ!!俺は……もうみんなを守れる人になったと思ったのに……)

目から涙があふれてきた。

悔しい、何もできなかった自分が悔しい。

五年前の事が頭をよぎり、余計に僕を苦しめる。

僕が小学六年生の時、ある事件が起きた。それは、残酷で、ひどい事件。そのひどい事件に僕とある女の子が巻き込まれた。

何が起きたかははっきりと覚えていない。

僕が覚えていること、それは、事件のせいではあったが、僕自身が大好きだった一人の女の子を傷つけてしまったこと。

どうやってかは覚えていない。だが、僕が傷つけた。

重症だった。その女の子は大きな病院に運ばれたため、転校してしまった。

それからは一切会っていない。

涙が止まらなかった。つらくて、つらくて。死んでしまおうかと思った。

だけど、僕は決めた。それを償うために、誰かを守れる人になろうと。

償えるかはわからないが、それしかないと思った。

でも、今でも僕は安心してすべてを話せるような人にはなってなかったみたいだ。

(無理……なのかな)

「……、でも、今、お前はカバンを持ってきてくれた」

「!!」

ネコが顔の横でこっちを見ている。

安心させてくれようとしているのはわかったが、無性に腹が立った。

「お前に何がわかるんだよ!!」

「まあ、そう怒るなよ。色々あったんだろう?―――――――……ありがとな」

そう言って、ネコが僕から離れる。

そしてカバンに近づき、口を使って器用にチャックを開け、その中へと入っていった。

「お前、何して……」

やばい、もう意識が……消えそうだ。

(家に、家に帰らないと、妹が待ってる。でも、ここから結構距離があるな……)

消えそうな意識の中、頭に妹の姿が浮かぶ。

(帰らないと……)

必死に動かそうとするが、体は動かない。こんな状態になっても、僕は妹の事を心配していた。

「今度は、私が助けてやるから……」

「えっ……」

「―――――――!!」

ネコがカバンの中で何かを叫んだ。その瞬間、光が現れ、僕を優しく包み込む。

空を飛んでいるような感覚だった。どこかで覚えがある。

(……夢??)

僕の目の前が真っ白になった……

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