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03 昼ブレイク

だらだらと先生の話を左の耳から右の耳へ受け流し、何のために受けているかわからない授業がいったん終わった。

今は、昼休みだ。

昼休みだからと言って騒ぐのは小学校低学年までで、今となってはただ昼ご飯を食べる時間にすぎない。

高校生になっても、昼食の時は皆、友達と机を合わせて数人で食べる。

特に女子は10人くらいのグループで集まって食べている。

男子はというとバラバラだ。中には一人で食べている奴もいるが、それは少し変わったやつだ。

僕はというと、一人で食べるのはなんとなく浮いて見えるから、いつもトモと二人で食べている。

トモは気持ち悪いが、悪い奴ではない。

食べている最中は何もしてこないし、いつも世間話をしている。まあ、話をするのは基本トモなんだが。

「なあ日月たちもり、お前朝は散々な目にあったな」

(散々な目の半分以上はお前なんだけどな。)

「それって、麻衣の事か?それともお前の事か?」

「俺の事??いつ俺の事で散々な目にあったんだ??」

トモはとぼけているといった様子もなく、真面目にそう聞いた。

(そうだった。こいつは全く自覚していないんだった。)

自覚がないだけよけい厄介だ。いつか何とかせねば……

「委員長の事だよ。委員長の野中麻衣。お前って、何かと野中にからまれるよな~」

「そうか??みんな麻衣に説教されてると思うけどな~」

「それはそうだけど。お前は毎日の中に絡まれてるじゃねえか。こんなやつほかにいねえぞ?」

確かによく怒られる。この前なんか外で偶然会って怒られた。

それは僕がいつもだらしなくて、遅刻ギリギリに学校に来るからなわけで、何か特別な理由があるわけではない。

「お前ら、怪しいんじゃねえのか~?日月たちもり、野中の事、麻衣って呼んでるしな。おい、どうなんだよ~。」

トモがふざけた調子で聞いてくる。しかし顔を見ると、眉間にしわが寄っていて……少し怖い。

「別に何ともないよ~。それに奏のことだって下の名前で呼んでるし」

「確かにそうだな~……。んっ??ということは、アレか!?野中と音無に二股ってやつか!?」

突然声を張りあげたトモは、必死に身を乗り出して聞いてきた。

「どうなんだ?日月たちもり!!野中とはどうなってんだ?どうなんだよ!!」

(やめてくれ~~。そんなに大きな声で言うと、聞こえちゃうじゃないか!!)

「何の話をしてるのよ!!」

づかづかと大股で現れたのはもちろん委員長、野中麻衣だ。

(やっぱり来た。)

「野中には関係ない。大切な話をしているんだ。あっちに行っててくれないか?」

トモは口調が変わり、明らかにめんどくさそうな顔をして野中を見ている。

これほどにも鋭い目つきをしたトモを見たことがあっただろうか。

「関係ないって、今私の名前を言ってたじゃない」

「ふん、まったく自信過剰な女だ。他人がみんなお前の話をしてると思ったら大間違いだぞ」

トモが嫌味っぽく麻衣に言う。

(いや、完全に麻衣の話してたよね!!)

かなり息苦しい雰囲気だ。多分、この後二人の怒りの矛先は僕に来るのだろう。今の間に逃げなければ。

「ちょっと~~、どこへいくの?日月たちもり君。あなたも関係あるのよ?」

「おい、日月たちもり!!まだ話は終わってないぞ!!」

ほら来た。理不尽だ。まったくもって理不尽だ。なぜ僕は二人に責められなくちゃならないんだ?

(ここは何か理由をつけて逃げるのが吉!!)

「あはは。ちょっと、頭が痛くなっちゃって、保健室に行こうかと思って……」

…………

無言だ。まるで、時間がとまったように動かない二人は無言で僕を見ている。静かだ。静かすぎて気味が悪い。

なんなのだろう。そんな言い訳通用するかと、言うことなのだろうか?

いや、でも、二人を見ても僕と目が合っていない。ということは、何かを考えているのか??

(これは……チャンスか??)

「じゃ、そういうことだから……」

僕は立ち上がり、勢いよく飛び出した。

否、飛び出そうとした。の間違いだ。体が一歩も前に動かない。

それもそのはず、さっきまで止まっていた二人が動き出して、左右の手が二人に引っ張られているからだ。

「……。な、なにかな?」

肉食動物に狙われた草食動物のような気分で、二人を振り返った。

さっきと同じ顔で僕を見ている。

(食われる。僕は、この人たちに食われてしまう……)

その時、トモの口元が動き、ニヤリと笑った。

「大丈夫か??日月たちもり。頭が痛いのか~。それはいけないな~」

僕の肩に手を置いて、心配するように言った。

「それじゃあ、俺が、うへ。連れてって、あ・げ・る!!うへぇへへぇへぇぇ」

「何でにやけてんだよ!!気持ち悪いよ!!近づくなよ!!」

「そんな遠慮しなくてもいいんだぞ~~。うへへへ」

このまま一緒に行ってしまえば、明らかに何かされることは確実だ。何とか阻止しなければ。

頭が痛いというのが嘘だとばらすか?

いやいや、そんなことをしてしまえばまたさっきのように二人に責められる……

(どうすればいいんだ!?)

「あなたうるさい!!」

「ぐはっ」

麻衣がトモを突き飛ばした。トモは机に頭を打ち付けたようで、倒れたまま動かない。

まあ頑丈なトモの事だ。命に別状はないだろう。

あっても記憶が少し飛んでるくらいだ。この際、記憶が飛んで別人のようになってくれれば非常にありがたい。

「た、日月たちもり――君。ホントに頭が痛いの?」

や、やばい!!麻衣に疑われている。

「ほ、本当だよ。昨日の夜あまり寝てなくて、それで、朝から頭痛がひどいんだ」

俯きながら頭が痛いアピールを続けた。どうだろう、うまくごまかせたのだろうか?

「えっ!!……そ、それなのに、私、朝、日月たちもり君を殴っちゃって……」

様子がおかしい。ふと、麻衣を見ると、瞼に涙をためて、今にも泣きだしそうな顔をしている。

「いや、その」

「ごめんなさい。日月たちもり君……。朝、私にぶつかっちゃったのも、頭が痛くてぼーっとしちゃったんだよね……。それなのに、それなのに私……」

(やってしまった!!どこでどうミスったんだ??何とか慰めないと。―――――泣きそうな顔、結構かわいいな……)

「別にいいよ、麻衣。僕はそんなこと気にしてないから。それに寝てないのもテレビを見すぎたせいだし」

「で、でも、頭痛いのに、殴っちゃって、それでもっとひどくなっちゃったんだよね……」

なんかすごい心配されてるような気がするのは気のせいなのか?

そして、麻衣は潤んだ目をこちらに向けて、もじもじとしながら申し訳なさそうな顔をして俯いている。

さっき少し取り乱したせいか、メガネがずれている。俯きながら時々僕をちらっと確認するように目線だけを上げるようすが……。

か、かわいすぎる!!

そして、ついには涙を流してしまう。

(こんなかわいい子にこんな思いをさせるなんて……。このままでは、僕の罪悪感が……)

「大丈夫だよ。もう痛くなくなったから。――――ありがとう、麻衣、心配してくれて」

俯いていた顔がふと上がり、まっすぐに僕の方を見ている。

「……」

麻衣の顔がかーっと赤く染まっていく。

「ち、違うわよ。心配したんじゃなくて、私のせいで授業に出られなかったら嫌だから……だから、心配してあげたのよ!!」

「心配したのか心配してないのかどっちなんだよ」

「う、うるさいわね。―――病気とか、怪我とかしないでよね……」

怒っているのか、安心しているのかよくわからない顔を浮かべながら、ぼそぼそとつぶやいていた。

僕がにこにことしながら見ていると、くるっと後ろを向いて、どこかへ行ってしまった。

(う~~ん。なんだったんだ??まあ、結構貴重な顔が見れてよかったな……)

などと考えながら、下を見るとトモが倒れている。

(とりあえず、こいつを起こさないとな。もうすぐ授業も始まるし。)

トモを起こした後、慌てて残っていたお弁当を食べ、次の授業の準備を始めた。

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