02 学校フィーバー
「はぁ、はぁ」
(やばいやばい)
忘れ物をしてしまったせいで、ギリギリになってしまった。
いや、忘れ物だけならいいが、家について、もう一度妹との会話を楽しんでしまったせいだ。
妹は学校が近いからいいが、僕は学校まで30分ほどかかる。
いつもこんな感じで学校につくのは遅刻寸前になってしまう。
(まったく、ダメなお兄ちゃんだ)
何とか学校に間に合った。
「セーーーフ!!」
勢いよく教室に飛び込んだ。その時、誰かにぶつかった。
「いたっ!!」
女の子だった。僕とぶつかった女の子は後ろへと倒れ、尻餅をついた形になる。
「ご、ごめん!!だいじょう……」
高校生で女の子ということはスカートをはいているわけで……
今のは事故だったが、思春期の男の子ならばこんなことがあれば誰でも見てしまうだろう。
「!!」
それに気付いたのか、目の前の女の子は慌てて手でスカートをおさえる。
顔が赤い。女の子の顔から火が出そうだ。よく見ると、その子は野中麻衣だった。
(や、やばい)
黒くて長い髪は三つ編みにして束ねていて、メガネをかけていて、スカートは一切おらずに長く、真面目な委員長だ。
スタイルが良くて、胸もそこそこあり、おとなしそうに見えるのだが、これがまたきつい性格で、いつもツンツンして、校則を破るやつは許さないってタイプの人間だ。
特に僕はしょっちゅう怒られている。
「日月……。またやったわね……」
やっぱりきた。もう逃げられない。
「わ、わるい、麻衣。スカートの中は見てない……から」
「見たのね。私の……」
「……いや、あの、わざとじゃなくて、たまたま見えちゃったっていうか……」
怒っている。今にも飛び掛かってきそうなライオンのような気迫でこちらを睨んでいる。
「だいたい、こんなギリギリに来るから走らないといけないのよ。バカ!!」
「それには色々深い事情があって……」
「妹とお喋りするのが深い事情なのかしら。このシスコン!!」
寸鉄殺人だ。僕は一瞬にして灰へと変わった。
「何でそれを知ってるんだよ~」
半泣き状態で尋ねる。
「えっ、た、たまたま、あなた達を見ただけよ」
わなわなと震えだす麻衣を見て、不審に思う。
「たまたまって、お前の家ウチの方向と違うじゃねえか。それに声かけてくれれば良かったのに」
「そ、それは……そっちの方に用事があって……う、うるさいわね。何でこんなこと言わなきゃならないのよ!!」
右の頬にいいパンチがとんできた。そして、殴られた。
麻衣はプイと横を向いてどこかへ行ってしまった。散々だ。いや、まあ見たのだけれども……
(性格がこんなのでなけれ可愛いのになぁ)
そう思いながら再び教室へ入ろうとする。
教室へ入る。すると、後ろから忍び寄る影が……
「よ~、たちもり~。寂しかったよ~」
「なっ!?」
言い終わらないうちに、僕は抱きつかれた。相手の体の感触。『ふんわり』なんていうもんじゃない。
……筋肉質でがっちがちだ。これが、かわいらしい美少女ならまだよかったのだが、残念ながらこいつは男だ。しかもマッチョで角刈り。
「うふふ。お前に会いたくて会いたくて、夜は眠れなかったよ~~」
「トモ、お前夜以外はずっと寝てるだろ。それに、昨日もあってるだろ。そして、気持ち悪い離れろ」
僕は必死に引き離そうとする。が、なかなか離れない。こいつなかなか馬鹿力だ。なにか格闘技を習っているらしいが、よく知らない。知りたくもない。
「無理だよ、た~ちもり~。俺は毎日ランニングや筋トレなどのトレーニングをやっている上、愛の力まで入っているからそんな弱い力じゃ離れないよ~~」
「いつ俺とお前の間に愛の力が生まれたんだ、この変態!!」
「どうしてそんなことをいうの??」
「暑い、うざい、きもちわるいの三つがそろってるからな」
「そ、そんなぁ。そんなこと言うなんてひどいよ。智樹悲しい。ぐすん」
「一生泣いてろ。ったく」
まったく、騒がしい奴だ。こいつ、草薙智樹は幼稚園のころから一緒で、いつもくっついてきやがる。いわゆるホモだ。|(本人は否定している)そのくせ、顔がよくて女子からモテモテなところがよけい僕を腹立たせる。この世に神がいるとしたら、これは何かの間違いだろう。そう願いたい。
「ピッピー」
目の前の女の子がホイッスルを鳴らした。
「いつも仲がいいね。二人とも」
そこには、音無奏がたっていた。少し栗色が入った髪は綺麗な肩までかかるセミロングで、さらさらと揺れてとてもきれいだ。優しそうで、大きすぎず小さすぎない程度にふっくらとした胸、整った顔立ち。まさしく、美少女って感じだ。かわいい。見た目だけじゃないぞ。性格もかわいいんだ。でも、なぜかわからないが、いつもホイッスルを持ち歩いている。部活のためか??
「か、奏!!いや、そういうわけじゃ……」
「ふふ、そうなんだよ。だって、俺たち愛し合ってるから……ね」
僕の言葉をさえぎるように、智樹は黒く焼けた顔を赤くして、恥ずかしそうに言った。
(きもちわるい!!何が嬉しくて僕がこんなことをされてるんだ?)
「おい、トモ!!ち、ちがうよ、奏。僕はこんな気持ち悪い奴とはいたくないんだ」
僕はトモの手を振りほどきながら言った。
「言われなくてもわかってるよ。本当にそんな趣味があるんだったら、私、日月君と友達になってないよ」
「あはは……そうだね」
奏から、少し黒い何かが見えたが、幻覚だろう。
(最近目の調子がおかしいのかな?あはは……)
「すると、俺は友達じゃないのか?」
と、トモは言った。
「じゃあ、日月君、私ちょっといかないといけないから」
「あれ、俺、無視されてる??いじめか?いじめなのか??なあ、たちもり~~?」
トモは震えるチワワのような目で僕を見る。目がキラキラしている。似合わないしすごく気持ち悪い。
(俺に振ってきやがった。ここはスルーだ!!)
「うん。わかった。じゃあね、奏。またあとで~」
「こっちもかよ。なんだよ~、たちもるぃ~~~」
無視だ無視!!相手にしなければいいんだ。あっち行ってろ。そう思っていると、体にトモの腕がからみついてきた。
「お、お前。暑苦しい。マジ離れろって」
離れない。離そうとするほどきつくからみついてくる。
周囲の女子からの目が痛い。その中の半数は、「日月君うらやましい」とか、思ってるんだろうなぁ。こんなことされても、僕はうれしくないよ。
トモは、女子から見れば、ただかっこいいのではなく、『キモカッコイイ』のだそうだ。まったく女子の好みはわけがわからない。
よくわけのわからないストラップを見て、「かわいい~~」とか言っているのがあるが、そういうことなのか??
そんなことより、この状況を何とかしなければ。
「どぉぅ~~るるらぁァァァ~~~」
僕がそう叫んだ瞬間、僕の中の何かが目覚めて、周囲に風が舞い、嵐が生まれ、トモが吹き飛ぶ……なんてこともなく、はなれなかった。
僕は右腕を握った。「くそぉ~~、この僕の右腕に眠る力が目覚めれば一発なのに~」と思ったわけではない。
トモの顔を殴ろうとしているんだ。でも、どんなに暴れても、攻撃できない。
(ほんとにこいつ力強ぇ~~)
「しかたがないなぁ~~」
そう言って、やっと僕は解放された。どっと疲れがたまった。
僕が距離を取ってトモの様子を窺っていると、先生がクラスに入ってきた。
「おい、みんな席につけよ~」
どうやら、僕の戦いは終わったらしい。戦いで言うなら、今回は負けだ。いや、今までに勝ったことがない。だからと言って、再戦をして勝ってやるとも思わない。というより、こんなこと二度としたくない。
僕は逃げるように窓側の一番後ろの自分の席へ座る。トモも残念そうな顔をしながらトボトボと反対側の廊下側の一番後ろの席へと座る。
そして、朝のHRが始まった。