14 既視感アフター
「……ガブッ」
目が覚めると、僕は耳をかまれていた。僕を馬乗りにしたネコ……ではなく、ネコ耳を付けた姉が優しく耳を甘噛みしていた。
長くてくねくねした髪が、僕の顔にかかっている。なんか、いい香りがする。
(うう、頭が痛い……、今どうしてるんだっけ?)
頭の中の記憶がぐるぐると駆け巡る。
意識が戻っていくにつれ、僕の感覚器官も正常に動き始めて……
「ッツ!?い、いてぇェェ~~~~!!ってうわ、白姉!!なにしてんの?」
「ん?ひーちゃんにご褒美だよ!!」
僕は今、高二で思春期なわけで、血の繋がっていない姉にこんな事をされると色々困るわけで……
「ご、ご褒美!?」
「そう、ご褒美。がんばったひーちゃんには、ギュウウってしてあげるね~~~」
「うがっ」
魅力的で豊満な女性の体が僕に絡みつく。
(白姉の成長した身体が僕の身体にくっついて!!やわらかい感触がぁぁぁぁぁ~!!しかも、やっぱり少し湿った髪からシャンプーのいい香りが。……って湿った髪!?ま、まさか、お風呂上りですか!!よくみたら、冬なのに長袖のシャツ1枚にズボンは……はいてない!?)
「ひーちゃん冷たくてきもち~~~」
「な、なに言ってんだよ!!」
(いや、こっちも気持ちいいけど、って、あれ??なんか懐かしいような気が……)
思春期の僕にとっては拷問のような誘惑をなんとか振り切ろうと自制心を保った。
「なんでもいいから、早くどいてよ!!」
「もう~。つれないなぁ~」
姉はそういって、やっと僕の上からどいてくれた。僕の姉、日月白雪は実際の姉ではない。本当は従姉なのだが、五年ほど前に親を亡くして、僕の親が養子として引き取ったのだ。姉とは従姉のころから仲が良くて、いつも世話を焼いて、僕にくっついてきた。姉になってからはよりいっそう僕の身の回りのことを色々してくれる。今は大学2年で、白魔術の研究をしているようだ。学生でありながら魔導師隊(正しい魔法の道を導く隊、警察のようなもの)にも入っているエリートだ。
「えへへ~~」
(外ではしっかりしてるのに、家ではいつもこうなんだよなぁ)
姉はふにゃふにゃした笑いを見せながら、僕のベットに座った。時計に目をやると、まだ、朝の四時だった。
(とりあえず、早く寝たい!!)
「こんな時間になんなんだよ~」
「ごめんね、ひーちゃん。でも、ちゃんと言っておかないといけなかったから」
真面目な顔つきで、僕の目を見ていた。
「……?何を?」
(昨日は姉と会った覚えはないんだけどなぁ)
記憶をたどっていると、何かが引っかかった。
「昨日の事って覚えてる??昨日どこで何をしたか」
「昨日のこと??えっと~……」
(たしか、昨日は佳奈と一緒に……って、そうだ!!アイツを倒す前に僕は頭が痛くなって意識が無くなってしまったんだ!!)
「思い出したぁ??昨日、急に全部思い出して、ガイのところに向かったらなぜか外ではトモ君が男に締め技をしているし、中でもひーちゃんがガイの上に倒れて気絶してて、びっくりしたんだからぁ~。何があったかわからなかったから、魔導師隊のESPの人たちにサイコメトリーで物に残る残留思念を読み取ってもらって、やっとひーちゃんがガイを倒してくれたってことがわかったのよ」
「僕がガイを倒した??で、でも僕はなにも……」
「なにもって、ガイに思いっきり体当たりしてたよね。あぁ~~、すっごくかっこよかったよぉ~」
「えっ、あれで気絶したのか??」
(ひょろひょろではあったけど、ここまでとは……ってか、こんなやつに世界が動かされてたのかよ)
一つため息をついて、再びベットに寝転がった。
「それで、あいつは?」
「え?ガイはちゃんと魔導師隊が捕まえたから、もう大丈夫よ」
「そうじゃないよ!!佳奈だよ、佳奈!!」
最初は何を言われているのかわからないといった表情だったが、すぐに変わった。
「あ~、あそこにいたエスパーの女の子??大丈夫。すぐに目が覚めたし、ちゃんと保護したわ。なあに~、気になるの~?」
姉はより一層ふにゃふにゃした笑みを僕に向けてくる。
「そんなんじゃないよ!!」
慌てて立ち上がり否定する。
(あれ、昨日さんざんガイに切られたはずなのに、痛くない。それに傷もない!!)
体のあちこちを見てもどこにも傷はなかった。
「うふふ。傷はお姉ちゃんが治してあげたわ」
「……白姉。ありがとう……」
姉がゆっくりと立ち上がり、僕の頭に手を置いた。
「ホントに、よくがんばったね。ひーちゃん……」
僕の頭を優しくなでながら、姉は僕を抱きしめた。姉は優しくて、暖かくて、シャンプーの香りがして、ふわふわしていて、気持ちよくて……