11 最大ミステイク
夕日に照らされて真っ赤に染まる道を僕と佳奈は歩き続けた。
僕は佳奈に無理やり着せられた黒いジャージの上下(佳奈とお揃い)という服装が恥ずかしすぎて、少しの間顔を真っ赤にしていた。
必死に違う服を着ようとしたが、その抵抗も虚しく、殴られ、怒鳴られ、そして今に至る。
僕がそれを着たとき、すごく満足そうな顔でうんうんと頷きながら早く行こうと急かしてきた。
いったい何の罰ゲームだ??僕が一体何をしたっていうんだ?
いいや何もしていない。ただの気まぐれなのだろう。
まったく付き合わされている身にもなってみてほしい。
こんな姿、――に見られたら……。
最初はそんなことを思いながら歩いていたが、先日、佳奈の家に行った時とは違い、佳奈がいろいろしゃべりかけてきた。
(もっとも、その時佳奈はネコで怪我をしていたわけだが。)
実は佳奈はすごくおしゃべりなんじゃないかと思う。これは大阪人の血なのだろうか??
というか、佳奈は大阪生まれなのだろうか?
話している内容は、戦うときは相手の目を見ろだとか。魔法にもいろいろ種類があるとか。魂の話とか。
「魔法が使えるかどうかは、魂で決まるんや」
佳奈が歩く足を止めずに言う。
「魂??どういうこと??」
魂と言われても、昔は肉体に魂が宿っていると考えられていたことしか僕は知らない。
「天界の住人が生物の魂を操り、管理することができるっていうのは言ったやろ?」
「う、うん。でも、魂を管理するってどういうこと?」
「神様はな、生まれてくる肉体に入る魂を作ることができんねや」
「魂を!?」
「そうや。魂がないと、肉体が生まれてきても動かへん。つまり、死んだ状態で生まれるわけや。そこで神様が魂を作るって入れてあげんねん」
「神様が??」
「生物が生まれてくる時、親からは肉体をもらい、天使から魂をもらうねん」
現実的ではないにしろ、言っていることはなんとなくわかった。
だがそれが本当だとしたら神様はとんだお人好し野郎だ。
佳奈が淡々とした調子で話を続ける。
「へぇ~、でも、それと魔法が使えるのとどう関係があるんだ??」
「それがあんねや。神様が魂を作る、その作った時にはどの世界の魂か決められて、それぞれの能力を持った魂が作られるわけや。つまり、人間界の魂、魔界の魂、天界の魂、霊界の魂、異界の魂がつくられて、その魂自体に力が備わってんねん。肉体によって能力は多少変わるけど、魂が入ればそれ相応の肉体に変わるから、あまりかかわれへん」
佳奈はさらっと流れるように言った。
(なんか、よくわからなくなってきた。魂に力が入ってる??多分、才能とかそういう話なんだろう)
「えっと~~。ってことは、魔界の魔人が魔法を使えるのは魔界の魂を神様からもらったからっていうわけだね?」
「そういうことや~。物わかりが速くてええわ~。で、神様はその魂を天使に渡して、その天使が生物まで届けんねんけど……時々どんくさい天使がおって、魂を入れる世界を間違えんねや」
どの世界にもドジッ子はいるものだ。
「それって……この魔界にも、人間界の魂を持った人がいるかもしれないってこと?」
「まあそういうことやな~。逆に人間界にも魔界の魂が行くことがある。陰陽師や忍者とかは聞いたことがあるやろ??あんなんはその例や。忍者なんて、人間の肉体を究極まで鍛えて、魔界の魂も究極まで鍛えてるから体術も忍術も備わって、暗殺のプロになれたってわけや」
「忍術って、魔法だったんだ!!」
どうりで昔、忍術をしようとしてもできなかったわけだ。……まあ、これも作られた記憶なんだろうけど。
「だからやなあ、天使が間違って、ひすいに人間界の魂を入れてたら、肉体のおかげでちょびっとだけは魔法が使えるかもしれんけど、ほとんど魔法が使われへんってことになるかもしれんな~~」
「えぇ~~~~~~~!!」
ショックなことを聞いてしまった。
「まあ、天使もそんなに間違えへんし、普通はちゃんとした世界にいくねんで」
「そうなんだ……」
僕はとてつもない不安に襲われた。
(僕ってハズレが1つしか入ってないくじ引きでハズレを引き当てる人だからなぁ。ある意味すごい運だよ~)
戦いに行く足取りが少し重くなった。
(どうせ魔法が使えないんだったら、今のままにしてみんな使えない方がいいんじゃないかな?)
「ひすい!!お前は何を考えてんねん!!アホとちゃうか??」
「ご、ごめんなさい。つい出来心で……」
冷たい風が吹き抜ける。だんだん空の赤色が暗くなってきた。月が見えない。今日は新月の様だ。
(このまま時間がたつと真っ暗になるな。早く行かないと)
そこで、僕はずっと気になっていることを聞いてみた。
「……気になってたことがあるんだけど、一つ聞いていいか??」
「ん?スリーサイズと体重以外ならべつにええで」
佳奈の顔がにやついている。
今からこの世界全体に幻術をかけ続けるようなすごい魔人と戦いに行くというのに、緊張感のない奴だ。
スリーサイズ……少し聞いてみたい気がする――――いやいや、そんな話ではない。
「誰が聞くかそんなこと!!……あの夜に僕が取ってきたカバン、何が入ってたんだ?」
「なんや~?乙女の持ち物を聞いてどうする気や、このエロやろう」
そのカバンを取りに行かせたのはお前だろ!!
佳奈の顔に笑顔が広がっている。
どこが乙女だ、どこが!!
「そんなんじゃねえよ!!あんだけ、苦労して取らせたんだからすごい武器とか入ってんのかなぁって思ってさ」
「武器?そんなん入ってへんで」
武器が入っていないのだとしたら、回復薬か、そんなものだろうか。
あの時佳奈は怪我をしていたのだからそれなら納得する。だが違う、何か嫌な予感がする。
「そうなのか?じゃあ、何を入れてたんだ?」
「何って、フツ―に着替えとか、乙女に必要なものばっかりやで」
「……??着替えって??」
「着替えが何かも知らんのか??それとも、ウチにやらしいこと言わせようとしてるんか??ホンマにエッチやな~」
佳奈を見ると、ニヤニヤとした憎たらしい顔で僕を見ている。
コイツの頭はこんなことしか考えられないのか。どっちがエロ野郎だ!!――――――いい勝負じゃないか!!
って、ちょっと待て、今なんて……
…………
カバンには着替えぐらいしか入ってないって??
遅れて、怒りが込み上げてきた。
「そんなものを俺に取りに行かせたのか!?あんな危険を冒させて!!」
「うん??なにを怒ってんのひすいっち~」
「そりゃ怒るだろ!!殺されそうになったんだぞ!?それなのに手に入れたものが着替えって……」
泣きたくなってきた……。
「なんや~、ウチに外で変身させて服も無く真っ裸になったらよかったって言いたいんか??うわっ、やらし~~。ほんまもんの変態やわ」
「だからそんなんじゃねえよ!!店で買えばよかったじゃないか」
「ひすいっちは女性用下着を店で買えんのか?それこそ変態やで」
「う、うう~~~~~~~~~」
僕は怒るというよりも呆れてしまって何も言えない状態だった。
(負けた。完敗だ。口で戦って勝てるような相手じゃない。その上、考えていることはばれてるって、どうしようもない。)
僕は佳奈と戦っても勝てないことを自覚した。悔しいが事実だった。
「っと、そんな話してる間についたで。ここや」
さっきまでのニヤニヤした顔から真面目な顔に切り替えた佳奈は立ち止まって、目の前にある家を指差した。広い家ではあるが、世界を動かしているやつが住むような家には見えない。
「こんな、普通の一軒家が、そのガイってやつの家なのか??」
「普通って、見た目に騙されたらあかん。幻術がかけられてあるって言ったやろ?カモフラージュや」
「ふ~~ん……で、どうやって入るの??」
僕が尋ねると、佳奈はニヤッとニヒルな笑いを浮かべた。
「こうすんねんや!!」
佳奈が何かを投げた。
ドゥーーーーーーーーン!!!!!
大きな音とともに目の前が爆発し、美しく光が舞う。どうやら佳奈が爆弾のようなものを使ったらしい。
「ウチの特製、花火爆弾や~~」
「おまっ、こんなもん使うんだったら先に言っとけよ!!」
「堪忍や~~。ウチもこれ使うのはだいぶ久しぶりやったから、うまくいくかわからんかってん。もし爆発させるって言っといて、しょぼかったらウチめっちゃ恥ずかしいやん~」
佳奈は爆発したことに満足したのか、大笑いしていた。
恥ずかしさより、人の身を心配しろ!!
「そんなことで怪我するよりましだろ!!で、今のなんだよ!!」
「なははは。あれはな、ウチいきなり大きい魔力出されへんから、今日の朝の間にテニスボールに魔力を込めといてん。それに、ウチの発火能力で発火させて爆発させたっちゅうわけや。どや、すごいやろ」
(何?発火能力??こんなの使えるのかよ……)
「……、佳奈、お前そんな力使えるんだったら一人で勝てるんじゃねえのか??」
「それがやなぁ~、前にも言ったけど、ウチの能力は超感覚的知覚が基本やねん。だから、今の発火能力みたいなPK(サイコキネシス)はほとんど使われへんし、それに~~、……あははぁ~」
「な、なんだよ」
おかしな笑い。この後の言葉は聞きたくなかった。
「今の魔法で、魔力ほとんど使っちゃった……てへっ☆」
佳奈はかわいく笑って見せた。腹が立ったが、ちょっとだけかわいかったせいで不覚にもドキッとしてしまった。
「てへっ☆、じゃねえよ!!どうすんだよ。魔法なしでガイってやつと戦うのかよ!!」
「まあ、アイツもあんまり魔法使われへんやろうし~~、おあいこってもんやろ」
「適当だなぁ~」
だんだん煙が薄れてきて、家が見え始めた。あれだけの爆発が起きたというのに家のドアが吹っ飛ぶ、ぐらいしか壊れていない。
(見た目はすぐ壊れそうなのに、すげぇ耐久力!!)
やはり、普通の家ではないのだろう。今の爆発でそれは実証された。
「う~ん、まあこんなもんやろ。ウチ爆発は苦手やしな~。」
(これ、勝ち目ないんじゃないか??……僕、ここで死ぬのかなぁ~。それだったら、この前の雨の日に奏に告白しとけばよかったなぁ)
このとき、僕は後で死ぬほど公開するようなことをしでかしてしまっていた。
「ひすいっちやっぱり、あの子のことが好きやったんや~~」
「な、な、心読まれてる!!」
忘れてた!!
やばい、こんなこと佳奈に知られてしまったら……。
絶望だ~~。
「嘘!!今の嘘だから!!別に好きな人なんていないから!!」
「ふ~~ん。好きな人なんておれへんねや~。へぇ~~」
いつも以上にニヤニヤした顔で僕を見てくる。
(意地悪な奴だ。すごく嫌な奴だ。)
「嫌な奴??そんなことウチに言ってもええの?」
(やばい、弱みをつかまれてしまった……。これで僕は一生コイツの奴隷になっちまうのか~!!)
「へっへっへ~。この話はまた後にしとこっか~。今はガイを倒すことだけ考えよ」
「お、……おう」
ウキウキした様子で家に入ろうとしている佳奈の後ろをトボトボとついていく。
もう死んでしまいたいとさえ思ってしまうほどに僕のテンションはがた落ちだった。
僕が家に入ろうとしたとき、佳奈は立ち止まり、今までの雰囲気からガラッと変わった。
「どうしたんだ、佳奈??はやく……」
「アカン!!」
そう言って、佳奈がいきなり飛びついてきて、僕は押し倒された。
「な、なにするんだよ!!」
「アンタがおったとこ見てみ」
そこには、たくさんのナイフが地面に突き刺さっていた。
僕の脳裏にあの時の事が思い出される。
恐怖で全身から汗が出る。
「ナイフ野郎がきよったんや。コイツに会わんとガイを倒したかってんけどな」
家の中に黒いコートを着た、長身の男が立っていた。
そろそろ、第一章の終わりに近づいてきています。
読んでくださっているみなさん。
楽しんでいってくださいね!!