マネキンを破壊せよ
私は気がつくと白い壁に囲まれた部屋にいた。中央にはマネキンらしきものがいた。
マネキンを見ているとなんだか不快感が込み上げてきた。私自身、理由は分からない。どうしてなのか。
マネキンのことを観察してみる。頭上には砕けた王冠を被っている。まるで自身が王であったかのよう。しかし、砕けているということは反逆にあったのかもしれない。それに敗れたからこそ、砕けているのか。だとしたら自業自得だと思う。
ひびが入った眼鏡をかけている。何も見ていないことの表れだろうか。ひびのせいで見るべきものが見えていない。しかも、眼鏡の縁は金色。位の高さを表しているのだろうか。ひびが入っているから、どんなに高い眼鏡だったとしても、見るべきものを見ていない。見ることができなかったのかもしれない。
手には辞書らしきものを持っている。しかし、薄い。辞書というのは厚い物であるはずなのに。それが薄いとは。中身が底浅いのかも知れない。そのことを表しているのだろうか。
目のほうを再び見る。黒い穴がある。節穴を表しているのだろうか。何も見ずにいることを。見えてもひびが入った眼鏡越し。何も見えていないのも同じである。
下半身に視線を移す。狐の尻尾がそこにあった。虎柄のズボンを穿いている。虎の威を借る狐を表しているのではないだろうか。だとしたら、威張り散らかしているのかもしれない。相手を見ず、自分のほうが上だと勘違いして。虎の威を借ることしかできない。そう考えると哀れに思えてきた。
片手を見る。そこには欠けた鎖があった。共有することを拒んでいる。だとしたらどこまでも自己中心的なものなのかもしれない。偉そうに振舞うのも実力が伴っていない。空っぽの王様。裸の王様みたいなものか。いつしか風邪をひくことだろう。上半身が剝き出しなのだから。
見ているだけで、装いを考えるだけで、不快に感じられる。ただのマネキンだというのに。
マネキンの足元に紙切れがあった。私はしゃがみ、紙切れを手に取ると内容を見た。そこに書かれていたのは、「マネキンを破壊するように」とだけ書かれていた。しかし、どうやって破壊すればいいのか。素手で破壊しろというのか。
私が不思議に思っていると、急に背後を見たくなった。振り返るとそこには一本のハンマーがあった。
ハンマーを手に取る。軽めだが重さがある。マネキンを破壊するのにちょうどいいだろう。
問題はどうやって破壊するかである。縦に振り下ろして王冠ごと破壊するのか、横にして振り払うこともできる。どちらの選択が良いのだろう。悩みどころである。
私がしばらく考え込んでいると、天井から一枚の紙切れが落ちてきた。その紙切れを拾うと、「上から破壊するように」とあった。まるで誰かが仕組んでいるように思える。しかし、私はその指示に従うしかないのだ。
私は躊躇なくハンマーを両手で掲げると、一気に振り下ろした。マネキンの壊れる音が部屋中に響く。
これで先に進めるのだろう。マネキンの破片を踏まないように気を付けなくては。ケガをしたくないから。
しばらくすると、前方から扉が現れ音を立てて開いた。先に行け、ということだろう。この部屋でやれることは無くなったのだから。
しかし、ここは一体どこなのだろうか。私には分からない。けれども、これで良かった気がする。そんな気がしていた。
扉の先は分からない。手にしていたハンマーもいつの間にか消えてしまっていた。役割を果たし終えたかのようにして。私は扉の先へと歩みを進めたのであるーー。




