【短編版】魔法が支配するこの世界で、魔法を使えない貧乏貴族の生きる術
「ちょっと遅くなっちゃったな」
塾からの帰り道。美しい星空が見守る中、俺——西堀千明は、まばらな街灯が照らす夜道を歩いていた。
——ピコンッ。
メッセージ受信を告げるスマホの通知音が鳴る。
立ち止まってスマホを開いてみると、それは友人からだった。
曰く、模試の大爆死が親にバレて怒られたんだとか。
(全く、帰ったら電話してやるか)
今帰っている途中だから後でな、と返してスマホをしまう。
どこにでもいるありふれた普通の高校2年生——だった。
今、この瞬間までは。
「いやぁああ!」
唐突に女性の大きな悲鳴が夜の静寂を切り裂いた。
(なんだ……?)
声のした方向へ走ると、暴漢に襲われていた女子高生を見つけた。
「やめてください……!」
「へへっ、痛い目に逢いたくなきゃ黙ってついて来いっての」
「いやっ……」
(誘拐か……!)
手をつかまれ、近くに止まった黒い車へと引っ張られていく女子高生。
もはや警察を呼ぶ猶予すらないと判断した俺は、助けるために飛び込んだ。
『人に危害を加える奴は許すな。弱い人を助けられる強い男になれ。心配するな、千明は俺の息子なんだから大丈夫だ』
酔っぱらった父が毎晩のように言っていた言葉を思い出しながら。
そして……あわよくば、これが人生初の彼女ができるきっかけになるかもしれない——
そんな下心をちょっとだけ持ちながら。
「おい、何しているんだ!」
「あん? なんだお前?」
甘かった。
何もかもが甘かった。
俺は物語の主人公ではなく、こんな事件を解決できる力なんか持ち合わせていないことを。
相手は女子高生を襲う卑劣な犯罪者で、何をするか本当にわからないことを。
俺は一つとして理解していなかった。
勢いよく飛び込んだ俺に待っていたのは、暴漢の持つ包丁だった。
ズブリ、と、腹の中に異物が侵入してくる。
まるで俺から火が出ているかのように熱さを感じる。
腹を刺された、と認識した時にはもう遅かった。
反撃する力も出ず、大量の出血で立っていられなくなった俺は、堅いアスファルトの上に倒れた。
もう、何もできない。どこにも力が入らない。
腹から出た血の匂いが俺の嗅覚を支配する。
それでも最後の気力を振り絞って、女子高生のほうを見る。
(俺は助からないかもしれないけれど、君だけは逃げて——)
だが、その願いは届かなかった。
「お前も何逃げようとしてんだよっ!」
「ぐっ……」
暴漢は俺を刺したことによってヒートアップしてしまった。
そのせいで女子高生もまた、奴の凶刃にその身を貫かれてしまったのだ。
もみ合ったときに飛び出したのだろう、目の前に彼女の生徒手帳が落ちてきた。
茅原凛——それが今倒れた女子高生の名前らしい。
「あーあ、やっちまったなぁ」
暴漢はこちらを一瞥すると、足で頭を踏みつけてきた。
けれど、俺は痛さを感じなかった。
腹部の激痛すら最早感じない。
(そっか、俺はもう死ぬんだ)
人は死ぬとき痛みを感じなくなると何かで聞いたことがある。
俺は自らの運命を悟った。
したいことがあった。叶えたい夢があった。
友人を慰めなきゃいけないのに。
色々してくれた父と母にまだ何も返せてないのに。
最期に、薄れゆく意識の中で茅原さんを何とかとらえる。
彼女も痛みや苦しみで辛いだろう。
もう、俺も君も助からないとわかっているだろう。
それでも、口を開いて何かを必死に伝えようとしてくる。
「————生きて————」
だが、俺の耳にはほとんど何も聞こえない。
何を伝えたいのだろうか。
お前が変なことをしなければ私も生きていられたかもしれないのに、とかかな。
わからないけれど。
俺は彼女を助けられなかった。
それどころか、犠牲者を増やしてしまった。
こんな攻撃が効かない体だったら守れたのに……!
もし来世があるとすれば、そんな体に産まれたいな。
俺の意識は、絶えぬ自責と無茶な願いを抱えたまま無へと消え去った——
♢
意識が戻り、俺は目を覚ました。
確実に死んだ、と思っていたのだが……助かったのか?
背中には柔らかい布の感触がするし、多分ベッドなんだろう。
あの出血と傷から助かるなんて現代医療は素晴らしいんだな、と最初は思った。
が、それは間違いだった。
ぼんやりとする俺の目に入ってきたのは病院の白い天井ではなかった。
それどころか、なにやら豪華そうな装飾の施された天井が目に映し出されていた。
(……なにが起こっている?)
状況を確認するため周囲を見渡そうと試みたが……できなかった。
体が動かせないのだ。
頭だけではない。腕も、足も、何もかも。
俺の体のはずなのに、俺の意思で動かせない。
いや、動かせないというのは違うか。
動けてはいる。が、うまく動かせない。
(それでも、今どういう状況か確認しないと……!)
そうやってジタバタしていると、俺が横たわっていた布の感触が消えた。
同時に体を支えられながらもフワリ、と体が浮く感覚を覚えた。
こんなの、ありえない。
だって、俺は男子高校生。
体重は平均的だったけれど、それでもひょいっと簡単に持ち上げられるような体格じゃない。
「あっ、あなた! レイが起きましたよ!」
しかもそれが、これまた豪華なドレスを身にまとった青髪美人の女だというのだから驚きだ。
こんなお世辞にも力が強いとは言えなさそうな女に持ち上げられるなんて、赤ちゃんでもない限りあり得ない。
……あれ?
「おお! レイ、私が君の父だ。父上、って呼んでごらんなさい」
「もう、まだ赤ちゃんなのよ? そういうのは成長してからにしてください」
「おっと、すまん。でもレイアル、許しておくれ。何せ君は我がロスバル伯爵家の長男、嫡男となる子なのだから」
髭を触りながら、上機嫌そうな黒髪の男が俺をなでる。
……今、父って言ったか?
「とはいえ、貧乏伯爵なのだけれどね。ごめんね、レイ」
「なんてことを言うんだ、エルサ。確かにそれは事実なのだが……」
「でしょう? だからレイが大きくなるまでには裕福……とまではいかなくても普通の伯爵と名乗れるくらいにはしてくださいね、ジャック」
「これも愛する妻と息子のためだ、頑張ってみるさ」
男は最後に俺をもう一度撫でた後、どこかへ行ってしまった。
女は俺を布の上に戻し、微笑みかける。
「あらら、そんなにジタバタして。どこか痛いの? 大丈夫、今治してあげますからね」
俺に手をかざした母親が何か唱え始める。
手からは緑色の淡い光が出ている。
——パチュン!
「……あら?」
が、その光は俺に到達することなく弾け飛んだ。
これは……何をしたんだ?
何もない空間に光が集まり、弾けた。
ただの男子高校生にとって、これは魔法のような何かとしか思えない。
しかし当然、日本に魔法などない。
一定の年齢まで純潔を守り続けた者も、ついぞ魔法使いになれなかった。
(ということは……転生したのか?)
日本のどこにもないであろう豪華な部屋。
俺のことを西堀千明と呼ばずにレイアルやレイという名で呼ぶ、ジャックという父を名乗る男とエルサという恐らく母であろう女。
貧乏という割には庶民の常識と乖離した高級そうな部屋と服。
そもそも日本にない伯爵という称号。
改めて整理すると、これはもう疑いようがない。
西堀千明は死に、レイアル・ロスバルとして生まれ変わったのだ、と。
♢
あれから16年の月日が経った。
俺は今、星々が照らす貧民街の夜道を歩いている。
俺の背中には1本の剣。
少々目立つが……まぁ、いいだろう。
(……暗いな)
大通りや貴族街には大量にあった魔法の光による街灯もここではまばらだ。
一応0ではないところは、貧民街も見捨てていないという国王陛下の慈悲なのだろうか。
俺は今、貧民街に住んでいる。
没落した? いや、そんなことはない。
父上は今も伯爵家当主として立派に頑張っている。
ではなぜ、伯爵家長男の俺がこんなところにいるかというと——
「おい、あの銀髪!」
「あぁ、剣もあるし間違いねぇ。無魔のレイアルだ」
「おい、あんま見るんじゃねぇよ。魔力が消えちゃうかもしれねぇ」
——魔法が使えなかったからだ。
……貧民街の住人達が俺の噂をしているな。
だが、それも仕方ない。
魔法が使えないというのはそれだけのことなのだ。
それに、後ろ指をさされるだけならまだ幸運な方だろう。
この王国、いや、この世界は魔法が大部分を支配している。
学校の成績や進路はもちろん、ある程度までであれば魔法だけで権威すらも得られる。
そんな世界で魔法が使えなかったら……?
答えは簡単。死、あるのみだ。
だから、両親は俺を貧民街に住まわせた。
というより、隠した、といった方が適切だろう。
貴族街にいては、いじめられ、傷つけられ、殺されるかもしれないのだから。
領地が配分されていない我が家にとって、ここが一番マシな場所なのだ。
それに、両親は時間を見つけては俺のところに来てくれる。
貴族で立場もあるだろうに、俺にたくさんの愛情を注いでくれる。
嫡男という立場から降りた俺にそこまでしなくていいのに。
「そんな体に産んでしまって申し訳ない……」と謝りながら、精一杯をしてくれる。
(……良い両親の元に産まれたものだ)
聞けば、家が貧乏なのも貴族生活に必要な最低限を残し、後は貧民などの庶民に寄付しているからだそうだ。
お世辞にも治安が良いとは言えない貧民街において俺が噂されるだけで普通に生活できているのも、長年にわたって行ってきたロスバル伯爵家の活動のおかげなのだ。
生まれの幸運に感謝しているその時だった。
貧民街の音を全て掻き消すような轟音に思わず耳をふさぐ。
遅れて、来るものを拒もうとする圧も感じた。
先ほどまで俺の噂をしており、悪い治安に慣れているはずの彼らですら我先にと家に逃げ帰ってしまうほどのものだった。
星空の夜。街灯もまばらな道。突然の大きな音。
嫌な圧も相まって、どうしてもあの日を思い出してしまう。
もし、また誰かが襲われていたらどうしよう。
あの時と変わらず、俺に力はない。
割り込んだって、今度も助けられないだろう。
——それでも。
俺は音の発生場所であろう空き地へと向かって走り出した。
助けられない?
だったら助けなきゃいいのだ。
助ける力がなくとも、この身は盾となれる。
この世界で魔法を使えない俺に価値はない。
それでも、死ぬ時くらいは価値が欲しい。
♢
「へっ、お嬢ちゃん。その魔銃はもう使えないぞ?」
「おとなしくすれば命だけは助けてやるかもなぁ?」
「このっ……!」
全速力で走り、空き地についた俺が見つけたのは、尻もちをついた貴族令嬢っぽい女の子が4体の魔族に囲まれているところだった。
(……は? 何が起きているんだ?)
貴族令嬢がここにいる意味が分からない。
貧乏貴族ならいざ知れず、彼女の衣装は豪華絢爛で貧民街には不釣り合いだ。
犯罪の標的にされてもおかしくないだろう。
魔族がここにいる意味も分からない。
誘拐目的の襲撃かとも思ったが、魔族が貴族令嬢を誘拐するなんて大事件は聞いたことがない。
そもそも、王都に侵入されている時点で衛兵は懲戒もの。ここにいて良い存在ではない。
この状況の何もかもが理解できずにいる。
だが、混乱している暇はない。状況は刻一刻と悪化していっている。
「おい、魔族ども。何をしているんだ?」
「あん? なんだ、ガキか」
「おい、ガキ。死にたくなきゃここを去りな。今なら見逃してやる」
「なっ……あなた、私はいいから逃げて!」
狙い通り、魔族の注目が俺に集まった。
金髪ショートの貴族令嬢の顔は絶望感にあふれている。
だけど、彼女は逃げようとしない。
(注目を集めただけじゃ、逃げる隙が生まれないか……)
俺は覚悟を決め、魔族達のほうへ一歩踏み出す。
「残念だが、それはできない。それに……危ないのはお前達だぞ?」
「俺達が危険? 何言ってんだ、てめぇは」
「証拠ならある。これを見ろ」
俺は懐から懐中時計を取り出す。
「魔族には理解できないかもしれないが……これは通信用魔道具だ。この場所はすでに送信してある。今頃俺達を迎えに大量の兵や使用人が来ているだろう」
「なっ……!」
「隊長、マズくないですか……?」
当然、嘘だ。ハッタリだ。
この懐中時計は普通の懐中時計。魔道具なんかじゃない。
そもそも、俺は魔法が使えないのだ。魔力を必要とする魔道具を使うこともできない。
慌て始めた魔族を見て、俺は勝利を確信していた。
——ヒュンッ!
しかし、それはまだ早かった。
隊長、と呼ばれていた恐らくリーダー格の魔族が俺に氷の槍を放ってきたのだ。
何とか避けるも……俺はその攻撃で悟ってしまった。
また、変に介入したせいで状況が悪化した、と。
「だったら、コイツらを始末して逃げればいい。ガキも嬢ちゃんも観念しな。お前らの人生はここで終わりだよ」
魔族達がキバをむき出しにして笑う。ここからは実力での勝負。数も多い彼らは勝ちを確信しているのだろう。
そして、周囲に先ほど俺を狙ったのと同じ氷の槍が数十本形成される。
その残酷なまでの冷気は、確実に目の前の子供を仕留めんと広がっていった。
「まずはお前からだ、ガキ。舐めたマネしやがって……遺言すら残せず消えな」
(……また、こうなるのか)
俺は4人の魔族から集中攻撃を受ける。
右から、左から、正面から、後ろから、上から——
ありとあらゆる方向から魔法が飛んでくる。
すさまじい冷気と確実に仕留めるという圧で動きが鈍りそうになるが、必死に避け続けていく。
動きだけなら滑稽なダンスのようだ。
「ちょこまかと動きよって……! 攻撃する余裕もない弱者の分際で!」
そりゃ、魔法使えないもん。
余裕がないのは確かだが、攻撃なんて最初からできないおかげで回避だけに集中できている。
だからここまで避けられているのだろう。ここまで回避に才能があったとは自分でも驚きだ。
(令嬢さんは逃げたか?)
ちらりと彼女がいたほうを見ると……彼女はまだそこにいた。
完全に魔族の意識は俺に向いているのに、魔銃を修理しているのか逃げる様子が全くない。
(……貴族令嬢なんだから早く逃げてくれよ。それとも、魔銃でどうにかできるのか?)
死の舞踏はまだまだ続きそうだ。
♢
「ええい、もういい!」
当たりそうなのに避けられる。
こうした状況に辟易したのか、魔族の1人が声を上げる。
そして再び氷の槍を作り出す……が、その穂先は俺に向けられていない。
(標的を変えたか……!)
しかし、未だに魔銃の修理に集中している令嬢は気付いていない。
どうすれば、と思ったところで、氷の槍が放たれた。
(こうなりゃ、仕方ねぇ!)
気力を振り絞って走った俺は、何とか令嬢と飛んでくる槍の間に立つことができた。
「な、何を……!」
「見たらわかるだろ! 俺が盾になってやるから早く逃げろ!」
ようやく攻撃に気付いたようで、彼女の顔が一瞬にして絶望に染まる。
「い、嫌よ……」
「……は?」
「私を助けてくれた人が目の前で死ぬのはもう嫌なの! だからもう私を見捨てなさい!」
……俺と同じ訳ありか。
でも、俺は彼女を見捨てる気はない。
それに、槍はもう眼前に迫っている。
この距離から回避するのは不可能だ。
(父上、母上……ありがとう。そして、ごめんな)
自らの死を覚悟する。
瞬きの後には槍に貫かれ、俺は冷たくなっていることだろう。
俺は目を閉じた。二度と開かれることはないと思いながら。
——パチュンッ!
場違いな音が鳴り、反射的に目を開けてしまう。
だが、俺の視界に槍はなかった。
俺に刺さってることもない。
俺は生きていたのだ。
「槍が、消えた……?」
確かに氷の槍は俺に当たったはず。
だが、傷どころか痛みすら感じない。
「……なんだ、これは」
予想外の出来事に魔族たちも混乱しているようだ。
攻撃の手が止まった。
(今だ!)
俺も動揺はしているが、この隙を逃すわけにはいかない。
背中の剣を抜き、鉛のように思い足を無理やり動かして魔族に迫る。
「ぐっ……! 貴様、剣だと……?」
反応に遅れた魔族は俺の一閃で地に伏せた。
「やりおったな、クソガキ……!」
仲間をやられた魔族が激高する。
今度こそは仕留めんと言わんばかりに槍が形成される。
俺を取り囲むは無数の槍。
だが、もう俺の足は動かない。
回避不能、絶体絶命の状況だ。
それでも、俺はある種の予感があった。
——パチュン!
(……やはりな)
俺に魔法は通用しない、という予感が。
数十本もあった氷の槍のことごとくが音とともに砕け散る。
そしてその時、鼓膜が破けるかと思うほど大きく乾いた銃声が響き渡った。
音と共に放たれた魔弾は、この状況を未だに理解できていない魔族の1人を撃ち抜き——倒れる。
まだ生きてはいるようだが、最早戦力として数えるのは無理だろう。
「魔法障壁を一撃で……!」
「これが私の力よ、恐れおののきなさい」
音のほうを見ると、魔銃を構えた貴族令嬢が立っていた。
彼女が魔族を打ち抜いたのだ。
「……っ! 撤退だ、これ以上の犠牲は看過できん!」
「はっ!」
倒れた仲間を担いで魔族たちは夜の闇に消えていく。
俺たちに追撃を仕掛ける体力は残っていなかった。
勝利とつかむことはできなかったのだ。
しかし——
(守れた。追い払った。生き残れた……!)
俺は大満足だった。
転生する前、あの日の屈辱をようやく返せた。
過去の自分を肯定できた。
そんな気がした。
「ご令嬢、大丈夫か?」
安全を確認した俺は、星と月以外何もない夜空を見上げる貴族令嬢に話しかける。
その姿からは高貴な生まれ特有のオーラがあふれている。
「えぇ、ありがとう。音が大きくても迷惑にならない貧民街で魔銃のテストをしていた時に襲われてしまい……あなたが助けてくれなかったら私、どうなっていたか……」
「間に合って良かった……が、ご令嬢の命を危険にさらしてしまった。申し訳ない」
俺は頭を下げる。
相手は恐らく高位貴族のご令嬢、彼女の機嫌1つで貧乏伯爵家が消える可能性すらある。
下げられるうちに下げておくのが良いだろう。
「そんなこといいわ……それと、ご令嬢と呼ぶのはやめて。私にはリン……リンジー・キャメロンという名があるのだから。貴方は?」
「キャメロン公爵家の……! それは大変失礼した。俺はレイアル・ロスバルという」
「そう、レイアルね。覚えておくわ」
そういう割に彼女はこちらを見ようともしない。いや、見られないのだろう。
目には先ほどまではなかったはずの涙が溜まってきている。
少しでも動かしたら溢れそうだ。
「しかし、リンジー嬢。どうして夜空を?」
「……昔、同じようなことがあったのよ。これくらいの綺麗な星空の日だった。そんな日に襲われた私を助けてくれた彼は目の前で死んだわ。結局、私も死んじゃったのだけれど……私に力があればと何度後悔したか」
「そうか……それは辛い経験を……死んだ?」
星空の日。襲われた人を助けた。結局2人とも死んだ。
一瞬、あの日の女子高生の顔が思い浮かび……リンジーと重なる。
……もしかして……いや、そんなことあるのか?
「リンジー嬢、君は——」
「にしても、あの魔族ども。ムカつくわね!」
先ほどまでの高貴さが一変。彼女は年頃の女の子に変身した。
「あいつら、王国に攻め込むつもりらしいわ。私達を舐めやがって……冗談じゃない!」
「リ、リンジー嬢……?」
「そうよ、レイヤルだっけ? アンタ協力しなさい! 見たところ魔法が効かないみたいだし、あのクソどもに2人で、目にもの見せてやるわよ!」
レイアルですけど……って聞いちゃいない。
リンジー嬢は既に空き地の出口へと向かっている。
俺の返事は聞かないらしい。強制参加のようだ。
こんな無茶苦茶でもきかなきゃいけないというのが、下級貴族の悲しいところだ。
「じゃあ、明日門で待っているわ。来なかったら……わかっているわよね?」
「行くよ。ちゃんと行くから伯爵家にはどうか……」
「もちろん。来たらなにもしないわよ。来たら、ね」
公爵令嬢、怖い。
これが俺とリンジー嬢の運命的ともいえる出会いだ。
その後、魔族……いや、この魔法世界にとっての天敵——シルバーバレッツと呼ばれ、恐れられる日が来るのは……そう遠い話ではない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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