4白い壁
「そ、そんな……ばかみたいな話……あ、るわけないじゃないですか!
なんですか、出られないって……この学園から出られない?冗談はよしてください
何しろ証拠は……」
驚きで途切れ途切れにになる黒雪の言葉を湊は手で止める。
白い綺麗な人差し指を黒雪の唇に当て、渋い表情を浮かべた。
「そんなに俺の話が信じられねぇってなら、見せてやる。証拠をよ」
そう言うと湊は黒雪の手を握り、そのまま外の方へと歩き出した。
黒雪が連れてこられたのは、学園の一番端っこの庭。もう空が暗くなり始め、設置されているライトがチカチカと点滅する。
しっかりと点灯したライトの光に二人は照らされる。
「こんなところまできて、何をしたいんですか?」
「お前が俺の話を信じねえから連れてきてやったんだろ。
もうちょっとで着くから……黙って歩け」
彼の背中を見ながら黒雪はムスッとする。お面をかぶっていても、どんな表情を浮かべているのかぐらい分かる。
「ちょっと冷たすぎません?
まぁ、私は下級の者ですし……冷たくされるのは当たりまえですよね」
黒雪は悲しそうに肩をおとす。しかし、彼は淡々とした口調で当たり前の様に言う。
「上下ってあんま関係ないんじゃないか?
だって、この世界のカーストだって、どっかの誰かが決めたことだろ?
気にしないで生きてればいいだけじゃねぇのか」
他人事の様にほざく湊を黒雪は睨んだ。
――上位ランクの野郎に言われたくないですよ。
生まれた時からできていたランクで自分の価値を決められて……。それと顔のせいで、愛されなくて……。
「あっ……ついたぞ。
これが証拠だ」
彼が指差すその先をたどり、黒雪は見てみる。
黒雪は驚きのあまり、仮面をゆっくりと外し、目をまん丸くした。
「ど、どうゆう……ことですか?」
黒雪の目線の先には、真っ白い、壁の様なものがあった。それは本当に真っ白で、通れるのか通れないのかも分からない。硬さも触ってみないと分からないほど、不思議な物体だった。
どうしてこんなものがあることに気がつかなかったのだろう……。
黒雪は顔をしかめ、白い壁を興味深く眺めた。
「どうだ……これで…」
「こっち向くな!」
黒雪の方を振り返ろうとすると、彼女は声を裏返し、狂ったような大声を出した。
湊はすぐさま振り返るのをやめ、白い壁を見つめる。湊の青い目は魚のように泳いでいて、かなり混乱しているのが目に見えて分かった。
それもそうだ。振り向いただけなのに怒鳴られたら混乱するに決まっている。
混乱を招いた彼女はすぐに仮面を着け直し、深呼吸する。
「すいません……驚きすぎて仮面を外してしまいました……本当にこんなものが存在するのかと、目を疑ってしまいまして」
「いやっ、別にそれはいいんだが……急に怒鳴られると普通にビビるわ。もうこれからそれ、やめろよな」
そういい、黒雪の腕を引っ張る。そして、その手を握り、優しくそれを撫でた。
「俺にはお前が必要だ……だから」
「えっ……と」
彼は戸惑う黒雪を自分の方に寄せ、抱きつくポーズをとる。まさか……そうゆう好意を黒雪に抱いていたのか!?
そんな……禁断の恋愛を王子がしてしまうなんて……。
なーんて私は思っていたが……、湊はすぐさま体を横へとずらし、黒雪の腕を白い壁へと突っ組む。
白い壁に、波紋が広がる。その感覚は水に手を突っ込んだ時のようだ。
しかし、黒雪は今更だが気づいた。
自分は今、命の危機にさらされているのだと!
「な、何するんですか!?変な壁に無理やり手を入れさせるだなんて……酷いですね!」
黒雪は白い壁から手を引っこ抜き、自分の手を撫でながら怒りをぶつける。
そんな黒雪に無表情で彼は謝罪する。
「あぁ、ごめんな。
もし俺が手を入れて、腕が切れたり、無くなったりしたら困るから、だいじょうぶそうな人を探してたんだ」
その言葉一つ一つからは、全く反省していない事が伝わってきた。
黒雪はムカついた様に頭に怒りマークを出したが……、もう諦めがついたのかすぐさまため息をついた。
「まぁ、腕がなくならなかっただけいいですけど……
っていうか……どうしてこんな壁があるんですか?この先には何があるんです?」
「それが分かんねえんだ。一人で突っ込めば死ぬ、触ったら体が変形するかもしれないからな……下手に入ることはできねぇ。
でも、お前が手を突っ込んだおかげで少しだけ手がかりをつかめたぞ。
まず、この壁は通れる。そして手を入れても何の変化も無かった。感覚は?」
黒雪は自分の手をグーパーグーパーしながら答える。
「水の中に手を突っ込んだみたいな感じでしたかね?
入れた瞬間に波紋も広がりましたし……」
「なるほど……じゃあ、その中に入ったら息が吸えなくなるのかもな。水中と同じ感じで。
まぁ、予想だがな。
それで……俺はお前が必要なんだ。だから、協力してくれるか?可愛い子ちゃん」
湊は腰に手を当て、黒雪にニコッと笑いかけた。しかし、全てがお世辞だと気づいていた黒雪はそれを無視し、冷静に話す。
「そうゆうのは要らないですよ。正直……気持ち悪いんで」
がっくりしたかのように湊は口を開け、悲しげな顔を浮かべる。しかし彼は気を取り直し話を戻す。
「とにかくだな。人手が必要なんだ。この壁は何なのか、そしてこの世界は何なのか。本当に学校から出れないのか。調べることが沢山ある。
本性を見せてしまったお前にしか頼めないんだ。さわやかなのを演じるのもなかなかエネルギー使うんだ……」
照れくさそうに黒雪のお面を見つめる。黒雪もそこまでひどい人間じゃない。と言うかなんだかんだ言って優しい分類に入るだろう。
不満そうにしながらも
「まぁ、僕なんかでいいなら……」
と手を差し伸べた。
湊は小さく口角をあげ、黒雪の手を握った。
「あぁ……よろしくな。仮面野郎」
黒雪は少し照れくさそうに下を向く。
「ただ……手伝う代わりに、一つだけお願い事してもいいですか?」
「あぁ、別にいいけどよ。それより、願い事ってなんだ?」
「僕と、友達になってくれませんか?」
彼はきょとんとし、モジモジする黒雪を見つめた。
何を言っているんだコイツはとでもいうような顔をする。
「僕、友達とか、仲の良い人とかいないんです。生まれてから一度も……
だから、協力する代わりに、形だけでも…僕とともだ……」
「いいぞ」
あっさりと願い事を引き受けた彼は無表情にそういう。まるでそう言うのが当り前かのように。
断られると思っていた黒雪は、あっさりと認めてもらえたことに少し驚く。
「友達になればいいんだろ?簡単じゃねぇか
そんなのでいいのか?もっと、金が欲しいとか……そういうんじゃないんだな」
「まぁ、僕も友達が欲しいだけで手伝うわけじゃありませんし、この学園の事気になりますし、この外がどうなってるのか知りたいので……協力してもいいかなっ……」
「バチャっ…」
彼は静かに黒雪の腕を白い壁へと突っ込む。
――デジャブ……。
黒雪はそう思いながら、彼の顔をじっと見つめた。
「あのう……いきなり私の手を突っ込むのやめてもらっていいですか?
自分の手を入れるのは勝手ですが……人の手を無理やり入れさせるのは……人としてどうかと思いますよ」
辛口コメントを受け取った湊は無表情に
「ごめんな」と言った。
デジャブだ……完全に同じ事が起きてる……。
黒雪は苦笑いしながら、お辞儀した。
本当にこの二人はだいじょうぶなのだろうか?
この学園の、世界の秘密を暴く事ができるのだろうか?まぁそれより先に、トラブルを起こさない事を願うがな。