表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/15

ジェネシスの民

目の前の男が…ジェネシスの民…? おい嘘だろ…、ジェネシスの民っていうのはオレたちと同じような人間なのか…!? 確かに、聖奈に蹴られても何も問題無さそうにしている。さっきの蹴りを普通の一般人が受けていれば恐らくだが死んでいた。それくらいに凄まじい威力だった。

「ジェネシスの民は私たちと同じ人間なんだよ」

 とんでもない事実にオレは動揺し、思考が追いつかない。

「うーん、男の子の方はウェイカーになったばかりなのかな? まだ何も知ら無さそうだね~。そんな子を戦場に連れてくるとは、バカとしか言いようがないよ君は!」

 男がオレに向かって襲い掛かってくる。動揺していたオレは反応が遅れ、急に動こうとしたせいで足が(もつ)れる。

 その一瞬で距離を詰めてきた男はオレを殴りに掛かる。

「ぐ…!」

 殴られると思った瞬間、横から聖奈が男を蹴り飛ばす。オレはその光景を目の前にして、尻餅をついてしまう。

「まったく、邪魔をしないでくれるかい? 君は後だ。まずはそこのビビッて尻餅をついている弱いのから片づけたいんだが?」

「生憎とそれはできないね。フナトと戦いたいなら、まず私を倒してもらわなきゃ。まあそんな未来は来ないけどねー。そもそも、今日フナトは見学に来ただけで戦いに来たわけじゃないから」

「ほうー? じゃあそいつは足手まといでしかないじゃないか。そんな奴を連れてくるとはやっぱり君はバカだね!」

 今度は聖奈に向かって男が攻撃を仕掛けていく。

伝導(でんどう)!」

 男の放った拳が聖奈の腹部に直撃する。

(なが)し」

 直撃したはずの聖奈は横にズレ、くるりと一回転をし、男に蹴りを入れにいく。

「伝導!」

 先ほど男が言ったことと同じことを言って放たれた聖奈の回し蹴りが男の脇腹に直撃する。

「うぉ……!」

 男は吹き飛ばされ、地面に転がり(うずくま)る。

「くっそ…痛ぇ……」

 そんな目の前で起こっている戦いを見て、オレは茫然(ぼうぜん)としていた。これがウェイカーとジェネシスの民との戦い…、その激しさにあっけに取られる。

「フナト見てた? 今のが『伝導』だよ!」

「伝導…?」

 見てはいたが、再び聖奈が男を蹴り飛ばしたことしか分からなかった。

「伝導はね、相手の深い箇所までダメージを与える技!この技は練度が高いほど相手の内部までダメージを与えることが出来るんだよ!」

「そうなのか…」

 説明を聞いたが、まったく理解できない。要は伝導という技は攻撃の際に使われるということか…。

「じゃあ次がー、『流し』を教えるね!さっきも一回やったんだけど、分かったかな?」

「流し……あ、さっき見てた時にあの男の右ストレートが聖奈の腹に直撃したように見えたんだ。でも、聖奈は何事もなかったように横にズレてカウンターを入れた。あの時にその流しって技を使ったのか?」

 記憶を遡り、自分が不自然に感じた部分を指摘する。

「おー正解だよ! その時に流しを使ったねー。フナト良く見てる! 流しは名前の通りに攻撃を受け流す技で、『流動(りゅうどう)』とも言われるよ!」

「なるほど…」

「じゃあ次が三つ目の技だね! えーっと…」

 聖奈は次々と説明をしていくが、正直オレは着いていけてない。ひとまず説明に対して納得はしているが、実際は全然理解が追いついてない。

「次はあれにしようかな! 次に教えるのがよ…」

「おい…、さっきから戦闘の合間に何ごちゃごちゃと話してんだよ…」

 ここで男が起き上がり、再び戦闘態勢に入る。

「もーう、まだ寝ててよ! 今フナトに説明してる最中なんだから邪魔しないで!」

「黙れ! さっきから舐めやがって……、お前ら二人とも殺してやる!」

 憤慨(ふんがい)した男が聖奈に向かって襲い掛かる。

「死ねガキー! 伝導!」

 男の拳が聖奈の顔面目掛けて放たれる。

「あーもう、うるさいなー」

 聖奈は殴られる前に顔面を腕でガードする。

擁護(ようご)

 男の拳が顔面をガードした聖奈の腕に直撃する…がしかし、聖奈の腕に弾かれる。

「くぅ…この野郎…!」

「もう、動きが単調すぎだよ」

 攻撃を弾かれ、よろめいた男に聖奈はすかさず蹴りにかかる。

「はい、じゃあこれで終わりだね」

 聖奈の伝導による蹴りが男の腹部に照準を定めて放たれる。

「やっぱり腹に来たか! もうお前の攻撃は読めてんだよ!」

 男は腹部に擁護を使い、守りを固める。

「擁護で弾いてカウンターで終わりだぁ!」

「ほんと単調な考えだね」

「あ?」

 聖奈は腹部に放たれていた右足の方向を変えて地面に着き、その足で軸回転をして反対の左足によるかかと蹴りを男の顔面目掛けて放つ。

「伝導!」

「うぉ…!」

 聖奈のかかと蹴りが男の顔に直撃して男は吹っ飛ぶ。この衝撃により、男は気絶する。

 聖奈は倒れて気絶している男の元まで行き、その様子を眺めている。

「あー、ほんとに終わっちゃった。物足りなかったよね?」

「え…いや、まあそうだな…」

 正直全体を通して何が起こっているのか分からなかった。ただ聖奈があのジェネシスの民の男を圧倒したとしか…。

「ちょっと今回の相手は弱すぎたなー、もっと強いジェネシスの民ならフナトにもっと戦いを見せられたのに!」

 そう言い、聖奈はスマホをいじり始める。

 あれで弱いのか…? オレからすれば十分強い…というか化け物なのだが。

「この男はどうするんだ?」

「今回は気絶してるだけで生きてるから、ウェイカー管理局に引き渡すよ」

「ウェイカー管理局…、確か西岡って人がいるところか?」

「そうそう! フナト西岡さんに会ったんだね!」

「ああ、オレがウェイカーになったことは西岡さんに告げられたよ」

「そっか! ウェイカー管理局は色々な仕事があってね、フナトみたいな新しくウェイカーになった子を見つけてチームに入れたり、捕まえたジェネシスの民を管理したりするのもウェイカー管理局の仕事なんだ!」

「そうなのか…」

 話を聞く感じ、ウェイカー管理局は中々忙しそうだな。

「今連絡したから、そのうち管理局の人がくるよ!」

 スマホを触っていたのは管理局に連絡するためだったのか。

「ここまで来てくれるのか?」

「うん! あ、待ってる間にさっきの技の説明の続きしよう! どこまで話してたっけ?」

「伝導と流動って技については聞いた」

「あーそうだったね! じゃあその続きで…、次は擁護! 擁護は防御の技で、相手の攻撃から体をガードする技なんだよね」

「確かさっきも使ってたよな?」

「うん! 使った使った!」

「オレには相手の攻撃から身を守るだけじゃなく、弾いたようにも見えたんだ」

「ホント良く見てるねー、大正解だよ! 擁護は伝導の反対技でね、伝導による攻撃を擁護でピンポイントで防いだ時は、相手の伝導を弾けるんだ! そこからカウンターに繋げるっていうのがお決まりの戦闘パターンって感じかなー。ただ擁護は弱点もあって、例えば擁護を腹に使ったとするでしょ? そうすると、腹以外の場所の防御力が落ちちゃうんだよねー。つまり、擁護してる箇所以外に攻撃を受けると大ダメージを受けちゃうの、だから擁護に関しては扱いが難しいんだー」

「なるほど…そういうことか」

戦闘が終わって少し気が落ち着いたおかげだろうか、今回のは割と理解が出来ている。話を聞いてる限り、擁護は初めにかなり強いと感じていたが、万能ってわけではないんだな…。

「じゃあフナト、私が一番初めに使った技は覚えてる?」

 一番初め…、確か聖奈が何か言っていたような…。ダメだ、情報量が多すぎて思い出せない。

「すまん…覚えてないな」

「アハハ、おっけー!じゃあ説明するねー。私が最初に使った技は疾風(しっぷう)っていう技で、瞬間的に速度を上げる技だよ!」

「疾風…」

 ……そういえば一番初めに聖奈が男に殴りかかる時、一瞬で相手の前まで移動していた。あの時に使っていたのが疾風って技か。

「思い出した?」

「ああ、あの瞬間の聖奈は凄い速さだった…」

「ホント!? 私、疾風は得意技なんだ~」

 聖奈はオレが褒めた…というより見たままの感想を言っただけだが、嬉しそうにしている。

「他に技はあるのか?」

「基本的な技は説明した四個で全部だよー」

「分かった、ありがとう」

「いえいえ~」

 ひとまず、戦闘で用いられる技を復習しておこう。

基本技は四個。まず、一つ目が伝導、攻撃に使う技だ。二つ目が流動、または流し。これは名前の通り、相手の攻撃を受け流す技。三つ目が擁護。これは攻撃から身を守る防御技。ただ、擁護してる箇所以外は防御力が落ちるため、オレみたいなウェイカーになりたての人間が使うのは難しいだろう。そしてラスト四つ目が疾風。これはシンプルに速度を上げる技だな。

よし、頭で基本技についてのおさらいは出来た。後はもう一つの最大の疑問を聖奈にぶつけたい。

「聖奈、本当にこの男はジェネシスの民なのか…?」

「まだ信じてなかったのー? フナトは疑い深いね~」

「ああ確かに、この男は普通の人間とは思えないような動きや体の丈夫さをしてた。でも、オレにはどうみてもオレたちと同じ普通の人間にしか見えないんだ!」

「……私たちと同じ普通の人間? フナト、君は大きな勘違いをしてるよ」

 勘違い…? 一体何を勘違いしていると言うのか。

「私たちはもう普通の人間じゃない。未知の(アンノウン)を体に宿した化け物なんだよ。そしてこの男も同じ未知の(アンノウン)を宿した化け物。つまり、化け物として私たちとこの男は同じってこと」

 聖奈は寂しそうな目で淡々と話す。こんな顔の聖奈は初めて見た。

 聖奈の言う通り、オレは勘違いをしていたのかもしれない。あの男がオレたちと同じ普通の人間なのではなく、オレたちがあの男と同じように化け物なのだ…。

「確かにそうかもな…」

「でもね、この人も前は普通の人間だったんだよ」

 は? 今なんて…前は普通の人間だっただと…、じゃあこの人は…。

「じゃあこの人もオレたちと同じウェイカーな」

「それは違うよ」

 オレの言葉を遮り、聖奈は素早く否定に入る。

「私たちとこの男は違う。確かに同じ未知の(アンノウン)を使うという点では同じだけど、私たちとこの男では決定的な違いがあるよ。それはね、私たちウェイカーはアンノウンに飲み込まれていないってこと」

「アンノウンに飲み込まれてない…? それはどういうことだ」

「私たちは未知の力に目覚めてウェイカーになったでしょ? でも、その力が新たに加わっただけで他に異常はないよね?」

「ああ、まあそうだな…」

「でも、中にはアンノウンによって元々の自我を失ってしまって、別人に豹変(ひょうへん)してしまう人がいるの。さっき私が戦ったこの男みたいにね」

 今の話を聞いてオレは一つの結論に辿り着く。

「…じゃあジェネシスの民って…」

「そう、未知の力に目覚めたはいいけど、体が異常をきたして自我を失い、別人となった人間たちのことだよ」

 ずっと知りたかったジェネシスの民とは何者なのか知りたいという願いがもう叶ってしまった。実際、随分早く知れたことに少し拍子抜けしている。

「そうだったんだな…」

「とは言っても、この男と同じような奴らが自分たちはジェネシスの民って言ってるから、今現在ではそう結論づけられてるだけで、今でも謎は多いままなんだけどねー」

 なるほど、つまり確定された事実では無いってことか…。

「でも、この男を始めに、ジェネシスの民は常に人に危害を加えようとする。それに比べて私たちは、そんなジェネシスの民を倒して人間たちを守ってるんだよ! 違いは一目瞭然だよね!」

「…そうだな!」

 聖奈が言うように、ウェイカーとジェネシスの民は同じ未知の力を使う化け物という点は同じかもしれないが、ウェイカーには人を守るという意思があり、ジェネシスの民はその反対に人を傷つける。その点においては一目瞭然の違いだ。同じ力を持っていたとしても、使い方次第で見方は真逆を向く。これはその良い例なのかもしれないな。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ