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目覚めし者,1

 目が開く。視界に映ったのは何もない、ただ真っ白な光景。

「ここはどこだ?」

 360度どこを見渡しても真っ白な世界が広がっている。思考を巡らせ、オレは一つの結論に辿り着く。

「ハハッ…やっぱりオレは死んだんだな」

「それは違うぞ」

 突然声が聞こえ、後ろを振り返る。そこには一人の真っ白な人が寝転んでいた。声の感じからして、おそらく年寄りの爺さんだろう。

「あんた誰だ! ここはどこなんだ。それは違うってどういうことだよ、オレは死んでないってことなのか!?」

「一度に質問が多いわい。一つずつにせんか。まったく…、ここは君の精神の中じゃよ」

 精神の中? 一体なにを言っているんだこの爺さんは…。 

「精神の中? 爺さんボケてんのか。ふざけるのもいい加減にしてくれ!オレは死んだんだろ?そしてこの真っ白な空間は天国か?うん、多分そうだ。そう言ってくれれば納得しやすいぜ」

「バカもん!天国なんてありゃせんわ!それにワシが言ったことは事実じゃ。ここは君の精神の中じゃ。君は死んではおらんよ」

え…、じゃあ本当にここはオレの精神の中なのか?にわかには信じられない。

「まだ信じられないって顔をしとるなお主。まったく…、天国という非現実的なことは信じとる癖にワシの言うことは信じんとは、よくおる自分に都合の良いことしか信じない人間の典型じゃわい」

「うるせぇな! じゃあ証拠を出してもらおうじゃないか。ここがオレの精神の中だという証拠をさ」

「まったく…、もうじき分かることじゃよ。では小僧、また会おう」

 そう言い残し、老人は段々と遠ざかってく。

「おい! ちょい爺さん待てよ!」

 追いかけるもまったく追いつけず、次第に爺さんは消えていく。

「あの爺さんは一体何者なんだ…」

 そう思考している内に段々目まいがしてくる。

なんだ…目まいが! また意識が……。

…手に薄っすら温もりを感じる…。なんだ…?誰かに手を握られているんだろうか。

目が開いていき、薄っすらと光が見える。ここは…。感触のある右手を確認すると、そこにはオレの手を握ったまま寝ている推の姿があった。その後に辺りを見渡して、ここが病院であることを理解する。窓から見える景色は暗い。今は夜なのだろうか。

「オレは生きていたんだな」

ここでオレは記憶を掘り返す。あの卒業式の日、オレは突然の強烈な頭痛に見舞われてステージから落下した。そして意識を失ってそのあと…

「あの爺さん!」 

 オレが突然大声を出したため、推が目を覚ましてしまう。

「うぅ…、なに~…。うわーーー! お兄ちゃん!? あ、ちょ、ああああ!」

 オレが起きているのを見て、推は驚き椅子ごと後ろに倒れてしまう。

「推! 大丈夫か!?」

「イテテテ…ってお兄ちゃんいつ目覚ましたのー!?

「ついさっきだが…」

「アタシ…アタシ…、もうお兄ちゃんは目を覚まさないんじゃないかって…!うぇぇぇーーーんん!!!」

 大声で泣き出す推。おいおい…。心配してくれたのは嬉しいが、こんな大泣きされたら少し困る。幸い個室のため、他の患者さんの迷惑にはなってないようだが…。

 推の泣き声が廊下まで聞こえたのか、看護師の人が病室をノックして入ってくる。

「失礼します。どうかなさいましたゕ…って大変ッ!」

 看護師の人は急に慌てて病室を出ていく。一体どうしたというのか。それにしても推はいつまで泣いてる気だ。

「推、いつまで泣いてるつもりだ? 兄ちゃんはもう目を覚ましたぞ。大体、少し気を失ってただけじゃないか。そんな大泣きすることかー?」

「何言ってるのお兄ちゃん…グㇲ…お兄ちゃん三週間も眠ったままだったんだよ?」

 三週間?

推から予想外の言葉を聞き、一瞬思考が停止する。三週間眠ったままだったということは…、卒業式の日は三月十八日。ということは、今日は四月八日ということになる。オレが通う予定の高校の入学式の前日じゃないか! まずい、こうしちゃいられないぞ、早く家に帰って準備を…!

そうしてオレは急いでベッドから出ようとするが、推が止めに入る。

「ちょーっとお兄ちゃん! どこ行く気なの! まだ安静にしてなきゃ!」

「家に帰って明日の入学式の準備をしないといけないんだ! 離してくれ!」

「何言ってんのー!? 寝てなきゃダメだよ!」

 三週間も寝ていたせいか、体に全然力が入らず、推に押さえつけられる。推と組合になっている間に、さっきの看護師が病院の先生と思わしき白衣を着た男を連れてやってくる。

「ちょっと何やってるんですか! 起きたばかりなんですから安静にしてください!」

 オレと推の組合を見て、看護師は止めに入る。看護師の仲介で組合いは終わり、オレはベッドに戻ることになる。

 ここで白衣を着た男がオレの容態を見るために近づいてくる。心音や脈、瞳孔などいろいろ確認され、どうやら以上は無かったらしい。

「双さん、あなたは三週間も目を覚まさず寝たきり状態でした。しかし、検査をしてもまったく以上がなく、我々も原因が分からずに困っていたんです。まずは今日ゆっくり休んでいただいて、明日、問診(もんしん)にお付き合いください」

「あ…はい。分かりました」

「それでは失礼します」

 そう言い、先生と看護師は病室を出ていく。

「先生の言う通りだよお兄ちゃん。今日はもう安静にしててね?」

「分かったよ。じゃあ今日はもう寝るから、推はもう帰っていいぞ」

「何よその言い方―! ずっと心配して、お母さんと変わりばんこで面倒見ててあげたのに、起きたらもうこの扱いですか! いいですよー、もうお兄ちゃんのことは知―らない」

 言葉選びをミスってしまった…。確かにずっと心配させてしまったのだから感謝すべきだな。

「悪かったよ推。ずっと見ててくれてありが」

「あー! そうだお母さんにお兄ちゃんが起きたことまだ伝えてなかったんだった! 早く伝えないと!」

 オレが感謝の言葉を述べている途中だったのだが…。

 推は携帯を取り出し、母さんに電話をかけ始める。

「もしもしお母さん? お兄ちゃんがさっき目を覚ましたよ。うん、そうそう、分かった待ってるねー」

 推は電話を切り、今から母さんが飛んでやってくることをオレに伝える。母さんにもかなり心配をかけてしまったのだろう。申し訳ない気持ちが心に積もっていく。

 その後に母さんも病院に到着し、母さんから長い抱擁をされる。オレと推、そして母さんの三人で卒業式の日を振り返ったり、オレが意識のない間の話だったりを三十分程し、母さんと推は家に一度帰るようだ。

「じゃあフナト、母さんたち今日はこれで帰るわ。安静にしとくのよ!」

「うん。ありがとう母さん。推もありがとな」

「じゃあお兄ちゃん、またね~」

 病室を出ていく二人を見送った後、おれは大きくため息を吐く。

 一体オレの体に何があったというのだろうか。三週間も意識がなかったのにも関わらず、医者が言うには体に異常は無かったらしい。それに、目を覚ます前に見たあの夢? あの爺さんは何だったんだ…? 爺さんが言うには、あの白い空間はオレの精神の中らしいが信憑性(しんぴょうせい)は全くない。というか、何をこんなに気にしているのだろうか。あれは恐らく夢や幻覚の類のものだ。対して気にする必要もないな。忘れることにして今日はもう寝よう。




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