死の焦り
爆発により建物は一部倒壊し、周囲は激しく燃えている。
「ひとまずは大丈夫そうだね、生きていたとしてもすぐには動けないだろうし」
「そうだな。それにしてもお前の天賦、まじで凄いよな。集団戦においてはかなり強いだろ」
「まだまだだよ。もっと鍛えて、いつかは『万里の眼』の名に負けないくらいの能力になって見せる!」
「…やっぱり藤沢、お前は変わらず凄い奴だな!」
藤沢はウェイカーになって一カ月も経っていない。それなのに、ずっと先を見ている。これが強くなって上に行く人間の思考なのだろう。オレも見習っていかなければダメだな。
「僕は自分のやるべきことをやっていくだけだよ。ウェイカーになった以上は、強くなってジェネシスの民を倒していかなきゃだからさ!」
「ハハ! 気持ちいいくらいに主人公してんな」
「ええ何双君、嫌味かい?」
「違うって! 改めて尊敬しているんだよ」
「ああホント? それなら嬉しいな!」
藤沢との会話も束の間、瓦礫の山が崩れ出す。理由は考えるまでもなく、瓦礫に埋まっていた者が動き出したためだ。
オレと藤沢もその音に気づき、緊張が走る…。
「あー、ちょっとは効いたぜぇー、ハハハ!」
瓦礫の中から出てきたグレイに目立った外傷はなく、先程の爆発によるダメージはほとんどないように見えた。
「おいまじか…、なんでピンピンしてんだよ…」
「あ? あー、そんなの未知力で体を覆ったからに決まってんだろうが」
「体を覆った? そんなことも出来るのか…!」
「うん、出来るね…。というか、原理は同じだよ。伝導や擁護を使う時も、その箇所に未知力を集中させるから、それと同じことだよ…」
「…くっそ…!」
「まあそういうことだぁ。お陰で未知力を無駄に消費することになった。それにしてもガキ、お前の姑息な戦い方はクソつまらないな。俺の期待していたものじゃ無かった。だからもういい」
「………!」
「あ…は……そん…な…、双君…?」
気づいた時にはグレイの拳がオレの脇腹を抉っていた。
「うぉ…」
「つまらないやつだぜ、殺し甲斐がまったくねえ」
オレはその場で膝から崩れ落ちて倒れる。
「首をへし折ってやっても良かったが、それじゃつまらねえよなぁ? だから少しの間は生きてられるように脇腹を抉ってやったのさ。コイツは今、激痛でとんでもない苦痛を味わっている。即死よりも辛いな! ハハハ!」
「お前は許さない!」
憤慨した藤沢がグレイに向かって飛び掛かる。
「お、いいじゃねえか! 俺はそういうのを求めてんだよ!」
勢いよく飛び掛かった藤沢だったが、グレイに難なくあしらわれて返り討ちに合い、吹き飛ばされる。
「く……」
「ハハ! どうしたもっと来いよ!」
「…くっ…負けてたまるか…!」
再びグレイに向かっていく藤沢だったが、今度は腹に拳を捻じ込まれる。
「ぐふぉ…」
衝撃で藤沢は嘔吐し、その場に蹲る。
「心意気はいいがなー、やっぱ物足りねえな…。ああそうか、どっちかを殺せばもう一人のガキが怒って少しは楽しめるかもな…。ハハ! 俺って天才か!?」
「く…何を…」
「お前の方がまだ期待できるからな、そこに転がってる今にも死にそうな奴をもう殺しちまおう。それで出された指令も達成だしなー」
そう言い、グレイはフナトの目の前まで歩いていく。
「そこで見てな、コイツの息の根が止まるところをな!」
「…やめろ!」
グレイの手がフナトに向かって伸びていく…、一秒にも満たない速度で…。
ああ…意識が朦朧とする…。呼吸が上手くできない。これが伝導…、聖奈が言っていた通り、衝撃が体の奥深くまで伝わってきた。というか、体を貫通しているのか。ああ…、このままだとオレはいずれ死ぬ…。結局何も出来なかった。ウェイカーになった時に決意したことを何一つ成し遂げることなく死んでいくんだ…、死んでぃ……いや何考えてんだ! こんなところで死ねない…! 死にたくない! 絶対に死んでたまるか! オレは死なない! オレは……死にたくないんだよぉ!
「あぁ!?」
フナトはグレイの攻撃を瞬時にかわし、藤沢の横まで移動する。
「双…くん?」
「大丈夫だ藤沢、後はオレに任せてくれ」
「…でも!」
フナトはグレイに向かっていく。
「何だか分からねえが、いいじゃねえか! 来いよぉ!」
グレイに向かっていったフナトは急加速し、グレイの顔面に拳を当てる。
「グフォ…、何だ今の速さ…!」
「もうお前には何もさせない」
フナトの波状攻撃がグレイを襲い、グレイは身動きが取れない状況に陥る。
「くっそ…まったく見えねぇ、速すぎる!」
なんなんだコイツ…、急にとんでもない速さで動きやがる。俺でもまったく反応が出来ねぇ速さだぞ…、どうなってやがるんだ…!
なんでだ、滅茶苦茶に速く動ける! 急に頭に浮かんできた『焦』という字は何なんだ…? まあいい、このままコイツを倒す!
「双君…なんて速さなんだ…、動きがまったく見えない…! でも急に何で…、もしかして…双君の中で今、天賦が覚醒したのか…!?」
藤沢の言う通り、フナトの中では変化が起きていた。死が目の前まで迫ったことによる極度の焦りが天賦の覚醒をもたらした。
フナトの攻撃がグレイを襲い続けるが、今一つダメージが入らない。
「確かに速さは凄まじいが、威力が全然足りねえなぁ!」
く…、強化されたのは速さだけで、打撃の威力が上がったわけじゃない…! 速度によって威力も上がってはいるが、全然足りてない!
「おいおいどうしたー? さっきよりも遅くなってんぞ!」
体力が…もう切れそうだ…。抉られた脇腹から出血も止まらない。このままじゃ…!
「……ここだろ!」
タイミングを見計らったグレイによる反撃が当たり、フナトは弾き飛ばされる。
「く…、力が入らない…」
フナトは再び立とうと試みるが、すでに立つ余力は残っていない。
「おいおい終わりか? 期待して胸が躍ったが、速いだけで大したことは無かったようだなぁ。だがさっきのは中々に腹がたったから今度こそ殺してやるぜ」
「そうはさせない!」
藤沢がグレイに飛び掛かるが、擁護で弾かれ、回し蹴りによる伝導を入れられて弾き飛ばされる。
「邪魔だ」
「く……はぁはぁ…やめ…ろ…!」
グレイはフナトの首を掴んで持ち上げる。
ダメだ…、体に力が全く入らない…。今度こそもう死ぬ…のか…。
「ハッ、じゃあな」
グレイの拳がフナトの鳩尾を貫きにかかる。
「くっそ……!」
「遮断」
フナトにグレイの拳が触れた瞬間、突如として弾かれる。
「おい今度はなんだ!」
何度も殴ろうと試みるが、グレイの攻撃は全て弾かれてしまう。
「クッソ何なんだよ!」
「……伝導」
横からグレイの脇腹に強烈な一撃が叩き込まれる。
「グハァ…!」
その衝撃により、グレイは二十メートル近く吹き飛ばされる。
「緊急事態だと聞いて何事かと思い飛んできたが…、状況を説明してもらおうか」
「はぁはぁ…、あな…たは…?」
「俺か? 俺は白坂律。プロリタ所属の者だ」