一条星奈の力
「今見せてあげるね、私の天賦」
聖奈の天賦…、今使うってことか…!
「一条さんの天賦…、見たい…」
「ハッハ! なるほどそう来るか! 見せてみろ、お前の自慢の天賦をよぉ!」
聖奈は構えを変える。肩を落とし、全身が力を抜いたような状態になり、今までとは雰囲気が変わる。
「天賦 『重力の主張』」
聖奈の体からアンノウンが溢れ出し、体全体にオーラが溢れている。
「重集場!」
男のいる場所に凄まじい圧の重力がかかる。地面には亀裂が入っていき、その空間だけ明らかに異様なオーラが流れる。
「グクッ! なんだこの重さは…!」
男はあまりの圧力に耐えられず、伸びていた膝も折れ、地面に体を叩きつけられる。
「なんて圧だ…動けねえ…、重力を操る天賦か…!」
これが聖奈の天賦…、唯々(ただただ)すげぇ…! 藤沢の天賦も凄い能力だったが…、聖奈のはこう…何というか、目に見える凄さがある。興奮で自分の語彙力が低下していることが分かる。それくらいオレは天賦の凄さに驚かされているのだ。
「フナト! 今の内に店の中の人を逃がして!」
「あ…ああ分かった!」
そうだ、じっくり眺めてる場合ではない! オレの役割を真っ当しなければ。
オレは聖奈があのグレイという男を足止めしてくれている間に、店の壁に空いている穴から中へ入る。
「皆さん大丈夫ですか!」
「は…はい…」
一人の女性店員がオレの呼びかけに返事をし、それに続いて屈んでいた人たちが順に顔を上げていく。
見渡す感じ、店にはまだ十人以上の人が残っていた。何人かは自力で店から逃げたようだ。
「もう大丈夫ですので、皆さん順番にここから離れてください!」
「ホントに大丈夫なんですか…? まだあの男がそこにいるじゃないですか…」
店の壁にポッカリ空いた穴からは、外で聖奈の天賦の能力によって地面に叩きつけられている男の姿が見える。
「はい大丈夫です! 後は僕たちに任せて皆さんは早く逃げて!」
もう大丈夫だろうが、一刻も早くこの場は離れさせたほうが良い。
「分かりました…、では皆さん! この方を信じて行きましょう」
オレの誘導で女性店員を先頭に列を作り、順番に店の外に出す。全員が店を出終わったところで、オレは聖奈に安全な場所にまで誘導する旨を伝える。
「分かった! 藤沢君、動けそうならフナトに付いてってあげてー」
「了解だよ、一条さんは一人で大丈夫?」
「もちろん! 誰だと思ってるんだい、任せておきなさい!」
「うん分かった、じゃあここはよろしくね! 双君! 僕も一緒に行くよ!」
「おう! 体は大丈夫か…?」
「うん! 休ませてもらったお陰で動けるようにはなったから!」
「そうか、じゃあ早く行こう」
そうして、オレと藤沢は店にいた人たちを逃がすために動き出す。
―フナト、藤沢たちが行って数分後―
「……よし…行ったね……ハァ、ハァ」
「おいお前…、そろそろ限界だろ…。これだけ強い重力を生み出してんだ、相当燃費の悪い能力なんだろ…!」
「ハハハハ……、特別にもう解いてあげる…」
男を押さえつけていた聖奈の技が解かれる。男はゆっくりと立ち上がり、息を整える。
「長いこと拘束されたぜ…、あのガキはもう離れちまったから追わねえとな」
「行かせるわけないでしょ? アナタの相手は私だよ」
「ククク、まあそうだよなぁ。だが、恐らくお前はさっきのオレを拘束していた技で天賦を使うための未知力がもうほとんど無いんじゃねえのか? かなりの大技だったはずだ」
「それはどうかなー? まだ余力は十分残ってるよ」
バレてる…。本当はこの男の言う通り、もう天賦はしばらく使えない…。
天賦……、これは他の基本技とは違い、極めて異質な能力。そのため、使用に必要とする未知力も基本技とは別のものを使う。例えるならば、単四電池を使う電化製品に単三電池を使用できないように、基本技と天賦では同じ未知力を使用することは変わらないが、それを貯めておくための箇所が違うのだ。
「無理するなぁ、もう燃料切れで天賦が使えないお前よりもまだ一度も天賦を使ってないオレに分があることは分かるだろ?」
基本技の練度や戦闘技術では正直ほぼ互角…、なら天賦を使われたら不利になるのは私ってわけか…。なら、今やるべきは少しでも時間を稼いでフナトたちが逃げる時間を稼ぐこと…!
「さっきも聞いたけど、なんでフナトを狙うのかな?」
「しつけえな、そんなに知りてえのか?」
「当たり前でしょ、私の大事なチームメイトなんだから」
「チームメイトか、ハッ! じゃあ特別に教えてやるよ。指示されたんだ、あのガキを殺してこいってな」
「指示…? 一体誰にされたの」
「そりゃ言えねえなぁ」
「なんで! そこが一番大事なところなの!」
「言えねえって言っただろ。口止めされてるんだよ、言えばオレのことを殺すってな…。そしてあのガキを殺し損ねた場合もオレは殺される」
フナトを殺すように指示した人間がいる…、しかも言い回しからしてこの男を簡単に殺せる程の実力者…。目的は一体何…?
「目的は何なの…?」
「さあ知らねえな。ただ殺せとしか言われてねえよ。さあお喋りはここまでだ、オレも命が掛かってんだ、行かせてもらうぞ!」
男はフナトたちが行った方向へと行こうとしたところ、すかさず聖奈が立ちはだかる。
「だから行かせないって言ってるでしょ」
「やっぱ強行突破は無理そうだな。仕方ねえ、天賦使うか」
…天賦を使ってくる…。何とかして対応しないとフナトたちが危険に…、絶対ここは通してはダメだよ私…!
「さあ行こうか、天賦 『自己像幻視』」
男の体から徐々にもう一人の男が姿を現す。
二人に…、分身を作り出す天賦…!
「二対一だ。一対一でオレと互角だったお前に対応できるかぁ?」
「丁度良いくらいだよ…、二人でも三人でもまとめて相手してあげる」
「そうかぁ、じゃあお望み通り二対一だ!」
二人の男は聖奈に襲い掛かる。二手に分かれて一人は正面から、もう一人は後ろに回り込んで攻撃を仕掛け、聖奈を追い込んでいく。
「おらおら!」
「くっ…」
男の攻撃が次々に聖奈に当たり、刻一刻と聖奈の体力を削っていく。
やっぱり一対二はキツイ…。このまま続ければ間違いなく先に倒れるのは私の方…! ひとまずは距離を取るべき。
「疾風!」
聖奈は疾風を使って距離を取り、体制を立て直す。
かなりダメージを入れられた…、やっぱり二人相手じゃ分が悪すぎる…。ここは倒すことよりも時間を稼ぐことに方針転換するしかない。
「ハハハ! それは悪手だぜー? どうぞ通ってくださいって言ってるようなもんじゃねえかよー!」
今度は一人の男のみが聖奈に攻撃を入れにいく。
「おらぁ!」
男は伝導による打撃を連続で繰り出す。
さっきよりも攻撃の頻度が上がってる…、でも一人相手ならまだ対応できる! 流動で受け流して伝導で反撃をする! まずは一人だ、一人ずつ倒す…!
「じゃああっちは任せたぞー」
「はいよ」
「あ…」
一人の男が聖奈の相手をしている内に、もう一人の男がフナトたちが逃げた方向に向かい出す。
「ダメ待って!」
「よそ見してると足元救われるぜ!」
フナト達の方へ向かった男に気を奪われた聖奈が、目の前の男の拳を顔面に諸に食らい、後方まで殴り飛ばされる。
「ぐふぅ…」
「あー、足元じゃなくて顔面だったわ」
「くっ…、ハアハア…追わなきゃ…」
速くフナト達の方へ行った男を止めないと…フナト達が…。
「追うだと? ハハハハ! 今のお前じゃオレ一人にも敵いはしねえよ!」
かなり良いのを食らっちゃった…。戦闘中に他によそ見するなって、マッキーに散々言われてきたのに…、ホント私ってバカだね…ハハ…。とにかく、目の前のグレイ(おとこ)を何とかしないとフナト達の方へは行けない…。まずはこの男を倒すことだけを考えよう。