刺客
突然に男が襲い掛かってくる。
ヤバい避けられない…!
「え、」
ここでオレの前に藤沢が割って入ってくる。
「流動!」
「遅いな」
藤沢は流動を使い、男の攻撃を受け流そうとしたが僅かに間に合わず、男の拳が藤沢に刺さる。
「グホォ…!」
オレは殴られた藤沢と共に、店の壁を壊して外に飛ばされる。
「ああ…」
オレは道の真ん中付近にいることに気づく。二十メートルくらい飛ばされただろうか。辺りを見渡すと、オレの数メートル後ろに倒れている藤沢を見つける。
「藤沢!」
藤沢の元まで駆け寄り、状態を確かめる。
「おい藤沢大丈夫か!?」
「あ…、ちょっとヤバい…かな。攻撃を受け流せなくて、ほとんど諸に食らっちゃったからね…」
コイツ、オレを庇ったせいで…。一体何なんだ、なぜ急に襲われた…? アイツはジェネシスの民なのか? とにかくここに居ては危ない、藤沢をどこか安全な場所に運ばなければ!
「大丈夫だ! 今オレが担いで安全な場所まで運ぶから!」
オレは藤沢を担ぎ、今いる場所から離れようとする。
「…待って、まだ一条さんが中に…」
「アイツはきっと大丈夫だ! むしろオレたちがここにいる方が反って足手まといになる!」
聖奈の強さは前の戦闘を見てよく知っている。聖奈ならきっと大丈夫だ。
「あの男、疾風を使う瞬間までまったく未知力のオーラを感じなかった…。だからみんな無警戒で不意を突かれたんだ。オーラを消すのは高等のテクニックだから…、あの男はかなり強い。実際、僕は一発食らっただけでこの有り様だしね…」
確かに…、廃工場の時はジェネシスの民が姿を現す前に、聖奈は近くにいることに気が付いていた。だが今回の奴には聖奈もまったく気付いてない様子だった…。ということは、いくら聖奈でもマズイ相手なのか…? いや、だとしてもオレたちがここにいるのは得策ではない。
「分かった! でもまずはお前をここから離れさせる!」
「ハァ、ハァ…、分かった。じゃあ僕は大丈夫だから、双君は周辺の人の避難をお願いできるかい…?」
「それはもちろんやるさ! でも藤沢はどうするんだよ!?」
「僕は大丈夫。自力で歩く余力はまだあるから…」
「……大丈夫なんだな?」
「もちろんだよ」
「分かった。後のことは任せてくれ」
「ありがとう。後は頼むよ…」
「ああ」
藤沢は男の拳を受けた脇腹を抑えながら、ゆっくりとだが立ち上がろうとする。正直、藤沢の状態が心配だが、ここはコイツを信じて今オレに出来ることをするしかない。まずは周囲の人の避難か? そういえば聖奈は…。
ここで轟音と共に再び店の壁に穴が開けられる。そこから聖奈が飛び出てくる。少し遅れてあの男も出てくる。
「聖奈!」
「フナト大丈夫!?」
聖奈がオレと藤沢の元に駆け寄ってくる。
「ああオレは大丈夫だ! ただ藤沢がかなりダメージを食らってる! オレはとにかく周囲の人を避難させる! アイツは任せていいんだよな?」
オレはまだ戦う術がないため、今は聖奈に任せるしかない。
「うんそうだね…、頑張るよ!」
明らかに不安そうな聖奈の顔を見て、オレにも緊張が走る。
「あの男、やっぱりヤバいのか…?」
「うん…正直中々手強い相手だと思う。。でも心配しないで! 私の方が強いから」
聖奈が強いことは知ってるため、この言葉に信頼はできるが大丈夫だろうか…。いや、どのみちオレは戦闘では役に立てないんだ、ここは聖奈を信じるしかない。まだ店の中にも人がいる。オレは一刻も早くその人たちの避難をさせなければ!
「分かった、頼むぞ!」
「うん!」
よし、周囲の人は既に逃げているため、後は店の中の人を助けに行きたいところだが…、店の前にはあの男が立っている。
「お前、助けにいくつもりかー? それよりも自分の心配したほうがいいぜ。まあ結局、全員死ぬんだけどな、ハッハ」
「それはどうかな、私にはアンタが地面に寝てる未来が見えてるけどね」
「そりゃ幻想だぜ」
「じゃあ今から現実にしてあげる!」
聖奈は男に攻撃を仕掛けにかかる。男の間合いまで距離を詰め、得意の蹴りを顔面目掛けて放つ。
「伝導!」
「フッ、擁護」
聖奈の放った蹴りによる伝導は男の手の擁護により防がれる。
「クッ…!」
聖奈はすかさず距離を取る。
「あー位置が少しズレたか」
「今危なかったね…、一条さんの蹴りがクリティカルで防がれていたら、弾かれてカウンターを食らってた」
クリティカル…、伝導による攻撃を擁護でピンポイントで防ぐと攻撃を弾き、相手の体制を崩せるってやつか…。今の一瞬の動作で分かる明らかに洗練されている動き、やはりこの男は今朝の奴と比べて段違いで強い。
聖奈が再び攻撃を仕掛けに掛かる。
「疾風」
疾風により距離を一気に詰め、伝導による蹴りに繋げる。
「また顔に蹴りかー? 単純だな」
「それはどうかな」
聖奈は顔面に放たれていた蹴りを寸止めして体を捻り、回し蹴りを放つ。
「ウグッ!」
今度は男の腹部に直撃し、男を後方まで後退させる。
「入った…!」
やはり聖奈はこの男に引けは取っていない。
「クッソ痛え…、どうやら雑魚ではないらしいな」
「アンタ、明らかに私たちを狙って襲ってきたよね? 何が目的?」
「私たちぃ? オレが用があるのはそこで震えてやがるガキだけだ」
そう言い、男はオレに視線を向ける。
「オレに…?」
「フナトに…? 一体何の用なのかな」
「ククク、さあな。ただ一つ言えるのはお前を殺しに来たってことだけだなぁ」
オレを殺しにきただと…? 一体なぜだ…。いや、ジェネシスの民が人を殺そうとすること自体はおかしいことじゃない。ただ、なぜオレを狙う…?
「どうしてフナトを狙うのかな、何か目的があるんでしょ?」
「一条さんの言う通り、何か特別な理由があるはずだ。双君はウェイカーになったばかりで、お前と因縁があるようには思えないけど」
藤沢の言うように、オレはこの男をまったく知らない。この男に狙われる理由に全く身に覚えがないのだ。
「そりゃそうだろうなぁ、オレとそのガキは初対面だ」
「じゃあ、尚更に双君を狙う理由が分からないな」
「なぜだろうなぁ。さあ、そろそろお喋りは終いにして殺戮タイムといこうか」
そうして男は臨戦態勢に入る。
「まずはさっきのお返しに女から行きたいとこだが…、やはりお前からだな!」
男は疾風を使い、オレに向かって一直線に襲い掛かりにくる。
「さっさと死んどけ!」
「やっぱりそう来ると思ってた」
聖奈はオレに殴りに掛かった男の進路に割り込む。
「クソ邪魔なんだよ!」
聖奈と男は再び組み合いになり、伝導や流動などの基本技を用いた戦闘の応酬が始まる。正直オレには何がどうなっているかは分からない…。
「凄い技の応酬だ…。一つ技を使うタイミングを間違えれば一気に崩されて攻撃を入れられる。この二人はほぼ互角だよ…、どっちが先にミスをするかの勝負だ」
オレにはただ凄い組み合いにしか見えないものを、藤沢は何が起きているのかを把握している。オレより早くウェイカーとして活動しているとはいえ、ほんの三週間余り程だろう。それでここまで成長して知識もつけているのは才能だけでは無理だろう…。おそらく凄まじい努力をしているとしか思えない。
ここで展開が動く。聖奈と男の伝導がお互いに命中する。
「うっ…!」
「ウゴッ…」
二人はお互いに相手から距離を取る。
「ハァ…ハァ…、やるなお前」
「まあね…、今倒してあげるから安心して」
「ハッ、生意気だな。その態度を評して特別にオレの名を教えてやる。オレの名は『グレイ』。お前の名はなんだ」
グレイ…? まるで外人のような名だが、この男は日本人にしか見えない。
「グレイ…、そう。私は一条聖奈」
「そうか一条…、じゃあさらにギアを上げてくぜ!」
「なんか熱くなってるみたいだけど、私は早く終わらせたいからもう倒すよ!」
「ハハ! やってみろ!」
「お望み通りやってあげる。藤沢君、さっき言えなかったけど今見せてあげるね、私の天賦」
聖奈の天賦…、今使うってことか…!