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第六章 謀略

李亮&白凛の結婚式part1

 ちょうど西乃国の特使が東之国の皇帝にお目通りを願っていた時、西乃国の大将軍府では、主である武官トップの李亮と名門白家の令嬢であり皇帝の私軍:皇輝軍将軍である白凛の結婚式が執り行われることになっていた。


 西乃国ではおめでたい行事には黄色や金色を使うのが昔からの習わしで、大将軍府は上から下まで、金色の布で覆われていた。


 西乃国は新婦を花嫁と呼んでいるが、その名前の由来は、花をあしらった輿に乗って嫁いでくるからで、新婦の家から嫁ぎ先迄、新婦の家の男が輿を担ぐ習わしになっている。


 白凛は、マナーも常識も気にしない性格だが、その日はしきたり通り、朝起きると、まず風呂に入り、心身を清めてから白の着物を着た。髪を正装に相応しく遊び無く結い上げ、金色の大きな髪飾りを左右対称に付け、普段はしない化粧を施した。最後に金色の打掛を羽織ると、まず両親の部屋に挨拶に行った。


 白凛の両親は、この期に及んでもなお、白凛の結婚に渋っていたが、いつものように悪びれることもなく、気品漂う姿で、マナーのお手本のように入室してきた白凛を見て、二人とも息を飲んだ。


 そして白凛は、そこで正座をすると、手を床につき「お父様、お母様、今迄育てていただきありがとうございました。」と言って丁寧に座礼をした。


 正面を向いた白凛に、母は声をかけようとしたが、父はそんな母を止めて白凛を無視した。


 そんな両親に慣れっこであった白凛は、全く怯むこともなく、そのまま立ち上がると、いつもの軍隊式ではなく、上流階級の子女の手本のように完璧な所作で部屋を出て、廊下を玄関の方に歩いていった。


 玄関で打掛と供布の金色に輝くベールを被ると、白凛は召使に連れられて外に出た。


 外は冬にしては珍しく暖かく、まるで彼女の新しい門出を祝福しているかのように、日が燦々と白凛に降り注ぎ、それが羽織っている金色の打掛とベールに反射して、まるで白凛から金色の光が放射しているのかと見まがうようだった。


 白家から花嫁が出るという噂は、何日も前から京安中で噂になっていた。吉事には、ご祝儀を配る習わしのある西乃国なので、ご祝儀が出ると思って門の周辺に集まっていた人だかりは、その白凛の神々しさに圧倒されて、ご祝儀が出ていないことにも気づかず息を飲んで彼女の姿に見入っていた。


 白凛が輿に乗っても両親は見送りに来る気配は全くなく、彼女はそこではああとため息をつくと、輿を担いでくれる男たちに、一言「出して。」と言った。男たちは、「へい」と威勢のいい返事をしてから、西乃国の嫁入りの歌を歌いながら、輿を担いで行った。


 その歌声は、まだ寝室にいた白凛の両親にも届き、白凛の母がたまらなくなって夫の制止を振り切って外に駆け出した時には、白凛を乗せた輿は角を左に曲がるところだった。


 ”凛が幸せでありますように。李亮という人が凛を守って一生大事にしてくれますように。”

 白凛の母は、心でそう願いながら、娘の門出を見守った。


 輿が見えなくなった所で門の中に入ろうとしていた白凛の母に、横から「白学殿に陛下からご命令です。」という声が聞こえた。彼女がギョッとして振り返ると、そこにはあきらかに宮中の宦官たちと思われる一行が立っていた。慌てた白凛の母は、宦官に礼をするのも忘れて、すっ飛んで寝室に駆けつけると、ふて寝している白学を文字通り叩き起こし、「あなた!あなた!大変よ!陛下からの使者が来ている!」と叫んだ。


 慌てて着替えて宦官たちの前に出てきた白凛の両親に、その先頭に立つ宋毅は、李亮と白凛の賜婚の聖旨を読みあげ、さらに「これからすぐに大将軍府に行くように。」と伝えると、呆気に取られている二人を無理やり馬車に乗せた。


 その馬車の中には首相である孔羽が座っていて、二人が馬車に乗ると、降りられないようにすぐに馬車を出させた。そして二人に向かって難しい顔をして「陛下からの伝言だ。『意地を張ったことで、一生後悔することがある。一人娘の門出を暖かく見守らねば、孫を抱かせてもらえないぞ。』だそうだ。」と告げると、二人はしゅんとなって神妙な顔つきをした。孔羽はそれを見て彼らの気分をあげようと「次は私からで、祝宴の料理の手配は私が行ったから、とっても美味しいので期待していてください。」と嬉しそうに語ったが、孔羽の手は白学夫妻には全く通じず、ふんという顔をされたので、今度は孔羽がしゅんとなってしまった。


 その頃、李亮も白の着物に金色の羽織を着て、大将軍府の門の所で、白凛の輿がやってくるのを待っていた。


 輿が遠くに見えてくると、新郎の手伝いに来ていた梁途が李亮の横で、「本当にこの日が来るとは、思ってもみなかったな。」と感慨深げに呟いた。それに李亮が「ほんとうだ。未だに親父さんに許しはいただけていないからな。」と残念そうに言うと、梁途は李亮の背中を叩いて、「大丈夫だ。今日は俺たちがいるから。ま、太子以外だけど。」と小声で励ました。


 その言葉に李亮が梁途の顔を振り返ると、梁途は「でもきっと太子のことだから、後日奴の応接間で気の利いたことしてくれるよ。」と言って李亮の背中をポンポンと叩いた。


 輿はようやく大将軍府に到着し、輿の担ぎ手たちが掛け声とともに輿を地面に降ろすと、リーダーの男らしい頭巾を被った男が、輿のカーテンを開け、白凛に手を差し出し新婦が外に出るのをエスコートしようとした。


 白凛はふっと何気なくその男を見た。

 彼女はその瞬間、驚きのあまり「ギャッ!!!!!!!」と大声を上げた。


 この白凛の反応に、瞬時に李亮と梁途に緊張が走り、彼らはすぐに輿に駆けつけた。


 すると、ギャッと言われた男の「もーやーねぇ~。陛下から直々に頼まれたから輿の担ぎ手をしたのに、ギャは無いでしょうギャは!」と白凛に文句を言うその男の声を聞いて、それが誰なのかわかってしまった李亮も梁途も、その場で呆気に取られて茫然と立ちすくんだ。


 ギャっと言われた男は、さらに、科をつくりながら右手をくねくねくねらせて、李亮と梁途の方に顔を向けると、「もー、白家が非協力的だから、白家の男の代わりに一番相応しい私がボランティアしたのよ。なんか文句ある?」とブーたれると、もう一度輿のカーテンを開けて、白凛に手を差し出した。


 白凛は差し出された手を掴んでなぜか思いっきり内側に引っ張った。

 それ故手を引っ張られた男はその勢いで、上半身が輿の中に入ってしまった。


 そこで白凛は、花嫁なのに、メイクが崩れそうなほど涙をポロポロ流しながら「太子兄ちゃん、何やってるの。」と涙声で聞いた。

 「お凛ちゃん、見ればわかるでしょ。それに幸せになる日に涙は禁物よ。せっかくのメイクが崩れちゃうわ。もっとも、朕は得意だからすぐに直してあげるわっ。」

 劉煌は嬉しそうに言うと、今度こそ白凛の手を取って、彼女を輿の外にエスコートした。


 左手で白凛の手をとっていた劉煌は、右手で李亮の手を取ると、二人が手を繋ぐよう誘導し、自分は一歩後ろに引き下がった。


 白凛は、後ろを振り返り、劉煌に向かって恭しくお辞儀をし「小高御典医長、ありがとうございます。」と感謝した。そして頭をあげた瞬間、劉煌の後ろが目に入り、彼女はハッとしてその場で固まってしまった。


 動かなくなった白凛に焦った李亮は「お凛ちゃんどうしたんだ。」と心配そうに声掛けし、白凛の視線の先を見ると、全く思いがけないことに、白凛の両親がそこに立っているではないか。


 李亮は、大将軍府の門に向かうのをやめて、それとは反対の方向に白凛の手を取ったまま歩み、白凛の両親の前で立ち止まった。李亮は、白凛の方を振り向いて彼女に目配せしたかと思うと、二人で一緒に白凛の両親に丁寧にお辞儀をした。その二人の阿吽の呼吸を目の当たりにした白学は、ようやく観念すると「突然だが席はあるのかね。」とあっちを向きながらボソっと言った。

「勿論です。お待ちしておりました。来ていただき誠にありがとうございます。ささ、どうぞ。どうぞ。」

 李亮は礼儀正しくそう言うと、緊張の面持ちながらもとても嬉しそうに白凛の両親を連れて、大将軍府の中へと入っていった。


 それを腕を組んで見ていた劉煌のところに孔羽と梁途が寄ってくると、梁途がいたずらっぽく劉煌に向かって脅した。

「太子の席はないぞ。出席するなんて聞いてないからな。」

 劉煌はそれに全く動ずることなく、「テーブルは円卓だって聞いたわよ。一人ぐらい紛れ込んでも大丈夫よ。ほら、箸だって持ってるし。」と答えると、懐からマイ箸を出して不敵に笑った。

「おっと、こんなところで油を売っている場合じゃないわ。みんな見ててよ。お凛ちゃんを世界一美しい花嫁にしてくるから。」

 劉煌は、目にも止まらぬ速さで、輿から大きなメイクボックスを取り出して、大将軍府の門を駆け抜けていった。


 新婦の控室をノックした劉煌は、白凛の母が開けた扉からいいとも言われていないのにずかずかと入ると、左手の甲を顔に当てて科を造りながら「お化粧直しに参りました。ご両親は奥でお座りになっていてくださいな。」と言った。


 それに白学が劉煌の行動を阻止しようとすると、白凛が機転を効かせて言った。

「待っていたわ。お父様、こちら小高御典医長、美容のスペシャリストでもあるの。私が頼んだのよ。」 「男で美容のスペシャリストだと?気色の悪い。」

 白学は、十数年その気色の悪い男に娘を嫁がせんと画策していたことなど、本人は全く気づかずに劉煌に向かって悪態をついた。


 劉煌は苦笑しながら白凛の両親に向かってお辞儀をすると、「小職、国の美容施設の責任者を仰せつかっており、トータルビューティーセラピストの養成講師兼スーパーバイザーもしております医師の小高蓮です。」と名乗り、今度は白凛に向かって「じゃあ、はじめましょうか。」と促した。


 白学はムスっとしていたが、白凛の母は国の美容施設の評判を知っており、その中でもトータルビューティーセラピストは、施術の予約を取れないほど凄腕であることを知っていた。そんなトータルビューティーセラピストを教えている人物は、いったいどんな技を持っているのかと興味津々になった彼女は、「小高御典医長、お差し支えなければ凛のお化粧をされるのを、見ていてもいいかしら?」と聞いてきたので、劉煌は有頂天になって答えた。

「もう、是非、変身の過程を見ていてくださいな。」


 彼は白凛の母と白凛に向かって「これはお化粧落としのクリームです。」と言ってツボを開けて見せ、「もう化粧がだいぶ崩れているので、直すより、落として最初から化粧をやりなおす方が結果的に早く、しかも美しく仕上がります。」と説明してから、クリームをたっぷり自分の左手の甲に置き、慣れた手つきで、白凛の顔全体にクリームをたっぷり塗ってから、サッと蒸した手拭いでふき取った。


 そして別の綺麗な蒸し手拭いを白凛の顔の上に乗せている間に、化粧用の筆、ブラシやメイクアップに必要な材料道具一式を、いちいち小指を立てながらテーブルに並べると、今度は液体の入っているツボを取り出した。劉煌は白凛の顔の手拭いをとると、そのツボの液体を自身で顔にまんべんなく軽くたたくようにつけるよう彼女に指示し、その間に別のツボに入っているドロッとした肌色のクリームを少量自分の左手の甲においた。


 白凛が手に取って顔につけている液体の匂いを嗅いだ白凛の母は「これはマンネンロウ(ローズマリー)の匂いみたいだけど。」と呟やくと、劉煌は嬉しそうに「さすがお母さま、お目が高いですわ。その通りです。マンネンロウの芳香蒸留水です。お肌の引き締めにすごくいいんですよ。」と言いながら、手の甲の肌色のクリームを極少量ずつ白凛の顔につけて伸ばしていった。


 劉煌は白凛の顔をいろいろな角度から確認しながら、白凛の母に「お嬢様のお顔だちはとてもいいので、あまり変なことをせずナチュラルに仕上げましょう。」と提案し、おしろいを綺麗に重ね塗りしてから、軽くノーズシャドーとアイシャドーを入れ、眉毛の上、鼻筋と顎にホワイトを入れてから、眉毛を筆で書いていった。


「今はぼたっとした太眉が流行りなんですが、お嬢様はシャープな感じがお似合いなので、太くはしませんわ。でも花嫁なのでかわいい印象も出したいんで。」と説明しながら、綺麗に左右対称の柳のような眉を長めに書き、「目元も眉と同じような印象に書いていきますね。」と言うと、白凛の切れ長の目を、更に強調するような目尻を書いていった。


 目頭にホワイトを少し入れ、グラデーションで目尻が濃い色になるように朱を入れていくと、「これは市販されていない秘密兵器よ。塗っている間もその後もしばらく絶対瞬き厳禁よ。」と注意してからまつ毛に黒い液体を塗っていった。


 ここまででも、一瞬で他者がハッとなるほど印象付ける魅惑的な目となり、自分の顔を鏡で見た白凛は「たい、、、小高御典医長、べ、別人です。」と言った。それに劉煌は「ダメよ!まだ全然仕上がっていないわ。」とムッとすると、頬紅、リップを塗ってから、また顔全体にハケで粉を塗り、眉毛の下と涙袋にハイライトを入れてから、再度目の下の涙袋の部分を念入りに、複数の細かい筆を駆使して書いていった。


 そしてやおら、白凛の顔をまたいろいろな角度から確認して、「ま、こんなところでどうでしょう。」と腕を腰に当てて、白凛母子を見ると、娘の変身を目のあたりにした白凛母は「小高御典医長閣下!私にもお願いします!!!」と劉煌の腕を掴んで懇願した。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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