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第六章 謀略

季節は冬なのだが、劉煌+簫翠蘭ペア、李亮+白凛ペアに春が訪れる気配が、、、


 機は熟したと考えた簫翠蘭は、その日の劉煌宛の手紙に、先帝の三周祭儀式終了後すぐに西乃国から東之国の皇帝に、正式に婚姻の申込をしてほしいと書いた。ただ、東之国の皇女の婚姻は建国初のことである上に、3年前の火事で資料庫である本蔵院も焼失し、さらに東之国の女皇族も翠蘭以外は全員他界していることから、女皇族の婚姻に関わる作法一切が不明で、西乃国の作法で申し出てほしいとも記載した。


 それを読んだ劉煌は、すぐに自室の金庫を開け、父と母の婚姻に関する記録を取り出した。


 父の場合は、特使を母の実家に派遣して、聖旨と共に馬車8台分にも及ぶ縁起物を結納品として贈っていた。何しろ西乃国の皇帝も代々皇后としたのは同国の配下の娘しかおらず、他国の、まして皇女を娶った経験はないことから、劉煌はとりあえず東之国の皇帝宛に使者を派遣し、婚約と結納の打診を行うことにした。


 すぐに孔羽を呼び出した劉煌は、事の次第を告げると、徐に両親の結納時の記録を孔羽にみせた。


 孔羽は応接間に常駐してある饅頭に手を出すと、無言で巻物を読み始めた。


 劉煌は「東之国宛に結納の使者を派遣するにあたって人選なんだが、、、」と言い始めると、孔羽はそれを手で制して、

「まずは東之国宛に”西乃国皇帝と東之国皇女の婚姻の件を司る特使を出す”ことを、我が国の官職たちに納得させないとだぞ。何しろこの前は中ノ国からの話を断ったんだからな。」と、饅頭を食べる速度を変えずに回答するという孔羽ならではの離れ業をやってのけた。


 それにすぐ劉煌は反応して口を尖らせて左手指先を右手の先でいじった。

「ちょっと待ってよ。いつ中ノ国の話を断ったのよ。あれはあっちから話を無かったことにしたんだから。」

「じゃあそれはいいとして、でもどうやって特使をだすことを納得させるんだ。しかも自国の貴族の娘じゃなくて、他国の、しかも皇女だぞ。前例がない。」

「前例が無いことは得意よ。後宮だって無くしたし。」

 劉煌は自慢げに両手の人差し指をくるっと外向きにした。

 ところが、逆に孔羽は難しい顔になって饅頭を頬張りながら叫んだ。

「そうだ!その問題だってあるじゃないか!第一どこに住まわす気なんだ?友鶯宮にはお凛ちゃんだっているし。」

「え?ここに決まってるじゃない。夫婦なんだから同じ屋根の下で暮らすのよ。」劉煌は大真面目に答えた。


 この回答に孔羽は心底呆れてしまった。

 西乃国において、夫婦で同じ屋根の下で暮らすなどという文化は底辺民だけで、平民でもある程度の稼ぎがあれば夫婦別棟にするのが常である。それを国の最高位の皇帝が、底辺民の文化を導入しようと言っているのだ。

「そんなの、聞いたことないし!もっと身分が低くても側室のことを考えて、夫婦は別棟で生活するのが当たり前なのに。もし張麗さんとの間に子供が生まれなかったらどうするの?他に妃を娶らなければならなくなった時のことも考えろよ!」


 劉煌は椅子に座って足をバタバタ前後に揺らしながら、当たり前のことのようにさらっと答えた。

「子供が生まれなくても他に妃は娶らないから大丈夫だ。」

「な、、、こ、皇帝が何を言っているんだ!!!」

 劉煌の浮世離れした回答にとうとう孔羽はそう叫んで爆発した。


 ところが、まるでそれは想定内だったように劉煌は身体を左右に振りながら平然と答えた。

「東之国と婚姻関係になるんだから、うちで生まれなきゃ、東之国から養子を迎えたっていいし、何なら、五剣士隊の誰かの子供を養子にしたっていい。まあ、そんなことにはならないだろうし、なったらなった時に考えればいい。今は東之国との関係を強めるために、他に妃を持つ気が無いことをアピールしておけば、東之国での皇女の婚姻への反対も減るだろう。」

「それはそうだが、しかしだな、、、」

「そうだ。孔羽はあの席にいなかったんだったな。ごめん。大事な話を報告するのを忘れていたよ。中ノ国で条約締結した際に、僕がこれで安心して皇女を東之国に帰国させられると伝えた時、成多照挙は、張麗が簫翠蘭だと気づいて暴れたんだ。そうしたらさ、中ノ国が条約を守らなければ東之国の皇帝も中ノ国との国境に軍を配備するって言ったんだ。」

「な、なんだと?あの傀儡皇帝が?」孔羽はつい本音がポロッと出てしまった。


「傀儡なんて、とんでもない。あの皇帝は歴代皇帝が霞んで見えるほどの逸材だよ。あの年齢で末恐ろしいよ。たまたま僕は自然な形で簫翠蘭と縁があったけど、あの東之国の皇帝を見たら、無理やりでも東之国とは良い縁を結んでおくに越したことはないと思ったよ。」

「なるほど、言い出しっぺが締結直後に違反するような国が隣にあれば、東之国にとってもうちと手を結べば、中ノ国にとって挟み撃ちということで、この婚姻は相手にとっても我々にとっても隣国の暴走の巨大な抑止力になるな。よし、その線で話を持って行こう。帰りに亮兄の所に寄って、明日の朝政に必ず出席させるわ。条約締結直後に言い出しっぺが違反しそうになったことの証人になるからな。ただ、皇后の住まいのことは考えなおしてくれよ。後宮の別の宮は無くてもかまわないが、皇后宮が無いのは東之国に対しても失礼だからな。」孔羽はしごくもっともなことを言って締めた。


 確かに建前だけでも皇后専用の建物を作らないと東之国に失礼かもしれないと思った劉煌は、口を尖らせて不満げに「わかったよ。皇后専用の宮は再考するよ。」とボソッと言うと、ハッと閃いて「あ、あと明日の朝政だけど、李亮はいつもより早く来させて。お凛ちゃんのお父さんと参内が重ならないように。」と念を押した。


 ~


 西乃国は、ここのところ国内も安定し、山の調査はまだ期待した結果は出ていないものの、財政の心配も無くなり、変わった議題もなく毎日ルーチンの朝政となっていたが、その日は、皇帝から東之国の皇女との縁組の議題が出たので、だれきっていた朝政がいきなり活気づいた。


 しかも、劉煌はただの婚姻ではなく、皇后に迎えると宣言したので、寝耳に水だった白凛の父である白学は他者から見てもあからさまに慌てていた。


 根回し通り、首相の孔羽が、東之国との婚姻のメリット満載の意見を述べ、また東之国の顔を立てるためにも、名前だけでも皇后として迎え入れるのが筋と言うと、そうでなくてもここのところの中ノ国の横暴さに腹の立っていた官職たちの多くは、東之国との関係が深まれば、間の中ノ国は無茶ができないと思い、このご縁に賛成の意を表した。


 ところが予想通り、白学が、中ノ国とは平和不可侵条約を結んだので、中ノ国をそんなにけん制しなくてもよいのではないか、と意見した。


 それに劉煌と目が合った李亮が頷くと、白学のすぐ横に出て、劉煌にお辞儀をしてから「恐れながら、先だって平和不可侵条約の締結時、護衛をしておりました兵省の李亮です。」と名乗ってから、「平和不可侵条約はご存知の通り、中ノ国皇帝成多照挙殿の発案でしたが、締結発効が済んだ直後に、中ノ国皇帝は我が皇帝に刃を向けたばかりか、襲い掛かりました。その場にいた東之国の皇帝が、中ノ国皇帝に条約を守らなければ、東之国の軍を中ノ国との国境に配備すると宣言されなければ大事に至っていたかもしれません。」と述べた。


 すると婚姻賛成派は益々語気を強めて、東之国との結びつきを強化するべきだと言い始めた。


 しかし、白凛が5歳の時から彼女が皇后になる日を夢見ていた白学は、それでも引き下がらず、西乃国の皇后は代々西乃国の重鎮の娘であり、異国人を皇后にするのは、機密漏洩のリスクが高いと言って反対した。同じく東之国との婚姻に反対を表明した何人かの重鎮が後に続いたが、劉煌が台座から涼しい顔で見ていると、反対派は全て年頃の嫁入り前の娘がいる者たちばかりだった。


 ”お凛ちゃんの入れ知恵があって助かった。ありがとう。お凛ちゃん。君のこともこれで一気に解決だ。”


 仮面の下で片方の眉だけあげた劉煌はそう思うと、「あれー、皇后は朝政に出る訳でもないから、そのような話を知る由もないと思うのだが…あ、待てよ、貴殿は、朕が睦言で皇后に機密事項を話すと思っているということかな。」と聞くと、白学をはじめ反対派は一様に真っ青になり大慌てで「陛下、滅相もございません!」と叫んでひれ伏した。


 腕を伸ばして手を縦に振った劉煌は、「よいよい。白家をはじめ皆の家では夫婦間に秘め事は無いのであろう。夫婦円満でよいな。朕もあやかりたいものだ。」と丸く収めると、反対派はもうそれ以上何も言えなくなって、ただ「ハハー。」と言って何回もひれ伏した。


 孔羽は賛成派、反対派の人数を確認し「陛下、陛下と東之国皇女との婚姻については、賛成圧倒多数でございます。」と報告すると、劉煌も「うむ。皆、ありがとう。これで中ノ国対策に必要だった労力も金も気苦労も、全ての無駄が一気に解消するな。それでは今日はこれでお開きにしよう。」と閉廷の宣言をした。


 官職たちが次々と退出する中、白学は指が真っ白になるほど拳を握りしめ、わなわなと震えながらその場に立ったまま全く動く気配がなかった。


 そこに劉煌がやってくると、俯いて歯を食いしばっている白学の横で立ち止まって、白学の方には向かず正面を向いて語り始めた。


「朕と白凛は幼馴染で親友だ。それ以下でもないが、それ以上でもないのだ。身分に差があったが李亮とも長い付き合いで、昔から朕の大親友だ。李亮も白凛も、朕が信頼できる数少ない人物だ。この二人のおかげで、今の朕があると言っても過言ではない。しかも二人は互いに深く信頼し愛し合っている。だから、朕はこの二人の結婚を祝福したいと思っている。そして、貴殿にも彼らの結婚を祝福して欲しいと願っている。」


 そして宋毅の方を向いて「さあ、帰るぞ。」と言うと、白学をそこに残したまま、太政殿から出ていった。


 ~


 西乃国の秘書省長官が特使として東之国の皇帝へ目通りを願ったのは、翠蘭が手紙を送った1週間後だった。


 東之国の朝廷である太極殿では、玉座に皇帝が座り、その横に摂政が、またその1段下がったところに簫翠蘭が立ち、そこから10段下がった平地に東之国の官職が中央を開け、左右に30名ずつ参列して、西乃国の特使を迎えた。


 西乃国の特使は、丁寧に皇帝に挨拶すると、西乃国皇帝劉煌と東之国皇女簫翠蘭殿下との婚姻の願い出を行った。東之国の重鎮の何人かは苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、翠蘭の画策によって今では地方にまで巨大ムーブメントとなった民意に後押しされ、その場で意義を唱える者はおらず、東之国皇帝による皇女の婚姻の詔勅も出た。


 その後西乃国の特使と東之国の摂政との間で、結納式と結納品についての詰めが行われた。


 ご縁とは誠に不思議なもので、花火大会の日に偶然出会った著名な占い師である諸葛瑛聖が、急な頼みにも関わらず喜んで劉煌と簫翠蘭の吉日を占っただけでなく、李亮と白凛の吉日も必要でしょうと自ら言って占った。


 諸葛瑛聖は殊の外劉煌と簫翠蘭の縁組を喜び、結婚式は皆が感動し、結婚後は子宝にも恵まれ、国は安泰、この縁組は大大吉であるといい、頼んでもいないのに万一に備え、数年後までの吉日・時間を事細かく算出し提出してきた。また、李亮と白凛の結婚も大吉で、彼らの場合は運を落とさないよう、すぐに行った方がいいと言われ、1週間後の吉日に急遽結婚式をとり行うことになった。


 東之国の要望もとい東之国の摂政の無駄な抵抗で、東之国でも諸葛瑛聖の誉れが高いのにもかかわらず、他の著名な易者に劉煌と簫翠蘭の縁を占わせたが、別に著名でなくてもこの組み合わせは非の打ちどころがないほどの良縁との結果が出た。

 それにより東之国と西乃国の代表による協議で、諸葛瑛聖だけでなく他の著名な易者の占い結果から、東之国先帝の三周祭の翌日が吉日であることから、劉煌と簫翠蘭の結納式がその日に東之国で行われることになり、その三か月後の吉日に西乃国で結婚式を行うことで双方が合意した。


 結納式と結納品は西乃国の劉煌の父の時と同じ段どりだが、双方親が他界していることから、使者が両家を行き来するのではなく、本人同士がやり取りを行うことに、また結婚式は簫翠陵の記憶を便りに東之国の先帝の結婚式同様に行うことになり、それぞれがすぐに準備に入ることになった。


 西乃国の特使はすぐに東之国でしか入手できない婚礼に必要な品を手配すると、劉煌に言われた通りにお陸に会い、引継ぎを行ってから直ちに西乃国への帰路に就いた。


 もうこの頃になると簫翠陵はすっかり東之国の掟を死守せんとする摂政ではなく、ただただたった一人の姪の幸せを願う叔父になっていて、暇があれば東之国の婚礼衣装である純白の打掛の制作現場に自ら出向き、目を細めて針子達が金糸で鳳凰の刺繍を刺しているのを見守った。

お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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