第六章 謀略
白凛をチャネリングした簫翠蘭は、大衆の前に躍り出て、、、
”劉煌殿はいつもピンチをチャンスに変えていらした!”
私もピンチをチャンスに変えましょう!
そう意を決して、簫翠蘭は劉煌が用意してくれた一張羅の東之国の皇女の正装に着替えると、お陸を呼んで、平京(東之国の首都)に出るので数名腕利きのSPを連れてくるように伝えた。そして、お陸がSP達を連れて御所にやってきた時には、彼女は勝負メイクを完成させており、完全に頭の先からつま先まで一分の隙もない完璧な絶世の美皇女に変身していた。
お陸は翠蘭がぶち切れたのではないかと心配になって、「内親王殿下、何をなさるおつもりで。」と珍しく下手に出て言うと、翠蘭はアイメイクで更に大きくなった目を不敵にキランと輝かせると、一言、「ショータイムよ!」と言い、自ら折りたたみ式の木製の踏み台1脚と銅鑼を手に持った。
お陸とSP数名を引き連れて、平京の掲示板の前に現れた簫翠蘭は、SPが大衆を下がらせている間に、自ら木製の踏み台を広げてその上に立つと、突然撥を勢いよく振り上げ、銅鑼を1回バーンと鳴らした。
その音の大きさにたまげて、大衆が1歩引いたところで、翠蘭は、銅鑼をお陸に渡すと、何とそこで、大衆相手に演説をはじめたのだ。
驚愕しているお陸を無視して、
「皆さん、こんにちは。皇女の簫翠蘭です。」
声のトーンを悲しげにして翠蘭は、そう言うと大衆に向かって、わざと科を作りながら恭しくお辞儀をした。
そうでなくても皇女を見る機会等無い下々の者達にとって、突然大衆の前に現れた美しい御姫様に、みんな圧倒されていると、翠蘭は、さらに憂い感満載に、
「皆さん、私は皆さんに本当のことをお伝えするために、今ここに立っています。」と言って、純白の絹ハンケチをギューっと握りしめた。
大衆は皆ゴクリと、固唾をのんで簫翠蘭を凝視した。それをチラッとみた翠蘭はタイミングを見計らった。
「3年前の火事は、ある人物が私を亡き者にしようと狙った犯行でした。私は命からがら火事から逃げ出したものの、その後もずっと狙われ続け、身を潜めているしかありませんでした。そんな私を救って下さったのが、西乃国の現皇帝陛下である劉煌殿だったのです。劉煌殿は、私が素性を隠していたのにも関わらず、何度も何度も私に襲い掛かる暴漢から私を救い、守ってくださいました。そして、あれは一月前のこと、とうとう3年前の放火犯が私の居場所を突き止め、私を襲ってきたのです。そこでも劉煌殿はご自身の命も顧みず、私を助けてくださり、そのことで私の素性を突き止めると、今度は私が安全に東之国の皇宮内に戻れるよう、3か国の平和条約を締結させ、こうやって私は今、東之国に無事帰ることができたのです。」
ここまで彼女は一気に言うと、今度は涙をハンケチで拭うふりをした。
そして横にいるお陸は、涙一粒たりとも出ていない簫翠蘭の下手クソな演技とお粗末なでっち上げストーリーに、内心完全に呆れ果てていた。
しかし大衆は完全に簫翠蘭に聞き入っていて、その場はシーンと静まり返っていた。
「帰国してから、宮中の女性という女性、みんなから私の肌の、、、自分で言うのも何ですが、、、『美しさ』を聞かれました。私はすぐにその理由がわかりました。私は西乃国の皇帝劉煌殿と出会ってから、劉煌殿の下さった美容クリームを愛用していたのです!」
そして翠蘭は美容クリームの入った容器を天高く、高々と持ち上げ、「これは、西乃国の皇宮で作られる貴重なクリームで、他の国では手に入らないお肌によい成分が配合されています。劉煌殿と懇意な私がいるからこそ、西乃国でも大変貴重で生産が追いつかないほど人気のこのクリームが、西乃国から幾千里も離れたとおーいここで、手に入るのです。皆さんもご存知のように、1日あたりの入荷数に限りがあるので、欲しい方全員になかなか行きわたらず、皆さんのお気持ちを察しますと、大変申し訳なく思います。」と言うと、また大衆相手に丁寧にお辞儀をした。
皇族が一般大衆にお辞儀をするなど初経験の大衆は、簫翠蘭の礼儀正しさに感動し、皆口々に「それなら仕方ないわよね。御姫様がわるいんじゃないんだから。」と今迄クリームがないことに怒っていたことが嘘のように、翠蘭を養護する発言が飛び交った。
しばらく、大衆に好きに語らせていた翠蘭は、突然その大きな目をギュッとつぶり、やや右に上半身を傾け、今度はオーバーに自分自身を両腕で抱きながら、
「でも、このクリームを買えなかった方は、本当は幸せなのです。何しろこのクリームはあと一年も経たない内に永遠に入手できなくなるのですから、なまじこのクリームのよさに気づかない方が身の為なのです。」と言うと、首を横に大袈裟に振りながら、また涙をハンケチで拭うふりをした。
そしてここまで来ると、お陸は逆に、”この御姫さん何を企んでるんだ”と俄然興味が沸いてきた。
大衆は、突然簫翠蘭が、今後はこのクリームが東之国では入手不可能という聞き捨てならないことを言ったので、不安と恐怖でざわつき始めると、まずはこのクリームの価値を知ってしまった大店の娘がこれに噛みついた。
「もう、入手できないってどういうことですか?私はこのクリームがないと生きていけない!」と腕を高く上げながら抗議すると、次々と「どうして、どうして」と大勢が腕を高く上げ、翠蘭を指さしながら、そう言う声があがった。
翠蘭は、右腕を斜め右上の彼方の方に上げながら、
「どうしてかとのご質問にお答えします。皆さん、私は東之国の皇女です。東之国の皇女は20歳になると巫女として神に仕えるため、別の土地に行き、一切の下界との接触を絶つことになっています。私はあと一年弱で20歳になります。それ故、美容クリームの窓口である私が居なくなりますから、皆さんはもうこのクリームを入手できなくなるのです!」と言うと、また美容クリームの容器を天高く、高々と持ち上げた。
すると大店の娘は、閃いたように「うちのお父さんなら西乃国から輸入できないかしら。」と呟くと、周囲も「そうだ、そうだ。」と言いだした。
翠蘭はこれに右手を口元に添えふっと笑うと、「お嬢様、このクリームはただのメイド・イン・西乃国ではないのですよ。西乃国の皇宮で作られているのです。貴女のお父様をもってしても、西乃国の皇帝とお話しすることはできません。何しろ相手は皇帝なのですから。私だけが西乃国の皇帝の劉煌殿と交流ができるのです。」と言って、俯いた。
大店の娘は、また閃くと、「なんで皇女様は今のままではいけないの?なんで『みこ』とやらをやらなければならないの?そもそも『みこ』って何?そんな人いた?」と眉間にしわを寄せて不思議そうに聞いた。すると周囲も「そうだ。そうだ。そんな人いるのか?」と不思議がった。
翠蘭は内心シメシメと思いながらも、今度はとても悲しげな表情を浮かべて、「それが大昔からの東之国だけの掟なのです。他の国の皇女は普通に結婚できるのですがね。因みにこの千年東之国には皇女が生まれませんでしたから、今も昔もこの千年間、巫女はおりません!」と言うと、大きなため息をついて、「実は、西乃国の皇帝の劉煌殿は、私が東之国の皇女だと気づく前に、、、私にプロポーズしてくださったのです。」と囁いて、顎を挙げとおーい目をしてみせた。
これを見てお陸は、翠蘭がお立ち台に登った真の目的を理解すると、”へえー、この御姫さまやるね。百蔵が講談師に語らすまでもないじゃないか。また百蔵がむくれるよ。”と思った。
すると、また大衆は水を打ったようにシーンと静まり返った。
「ですから、この美容クリームは西乃国の皇帝の私への愛の証なのです。だから皆さんわかりますね。何故私しかこの美容クリームの窓口になれないのか。」
翠蘭はそう話すと、また美容クリームの容器を天高く、高々と上げ、すかさず宣言した。
「私が他の国の皇女のように結婚できるなら、私は、皆さまの美しさのためにも、西乃国の皇帝と結婚し、この美容クリームの東之国での安定供給を保証いたします!」
勿論これに大衆は、おぉおおぉお~と言って盛り上がったのは言うまでもない。
そして大衆の「皇女と西乃国皇帝を結婚させろ!」というシュプレヒコールが鳴り響く中、簫翠蘭は大衆に大仰に一礼すると、お立ち台から降りて、お立ち台をきちんと畳み、お陸の方を向き小さくガッツポーズをしてニッと笑い「作戦成功よ、さあ、帰りましょう。」と言ってから、化粧のせいで側で見ると人間離れした巨大な目でウインクした。
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