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第五章 真成

簫翠蘭は元の身分を取り返す

喜ばしいことであるのに、翠蘭も劉煌も心が揺れる

 中ノ国皇宮の大理殿では、苦虫を嚙み潰したような顔の照挙が上座にある皇帝の座に座り、その横に皇后である小春が照挙のお目付け役として座っていた。


 そこから1段下がり、皇太后と唐皇太妃が、さらに1段下がって成多照明と照子兄妹が座っていた。


 東之国の皇帝は東側の客席の最も皇帝よりに座し、その下手に東之国の摂政簫翠陵が座っていた。劉煌は東之国の皇帝の対面に座り、その下手には李亮がさらに一歩下がって座っていた。


 これだけの人が揃っておきながら、長い沈黙が続いていた大理殿に突如、照挙付の北宦官が現れると、「東之国簫翠蘭内親王殿下御成り~。」と告げた。


 その場にいた全員が、その声で席から立ち上がると、東之国の皇女の正装で簫翠蘭が大理殿入口に姿を現した。


 その姿を見た、東之国の摂政簫翠陵は仮面の下で感涙を流し、照挙はうっとりとしたので、それを見逃さなかった小春が、成多照挙の足を思いっきり踏みつけ、彼の場合はそのために涙目になった。


 彼女は大理殿に入る前に一礼すると、顔を上げ、目線をしっかりと正面に向け、姿勢を正してしっかりとした足取りで大理殿の奥へ向かってゆっくりと歩きはじめた。


 劉煌は、仮面の下で最初は簫翠蘭のあまりの神々しい美しさに釘付けとなっていたが、彼女が近づいてくるにつれ段々と彼の顔は曇っていくと、彼女の姿を見ているのさえ辛くなりとうとう彼女を目で追うのをやめ、下を向いてしまった。


 通常、皇宮での挨拶は、主催国の国主である皇帝にまず挨拶をしてから他国の国主に挨拶をするのがマナーなのであるが、そこはあの気の強い簫翠蘭である。マナーは知っていても、その通りに行うとは限らない。


 簫翠蘭は、劉煌の前まで来ると、何故かそこでピタっと立ち止まり、突然劉煌の方に身体を向けたではないか。


 勿論皇宮マナーを知っている劉煌はこれに驚いて顔を上げると、翠蘭は劉煌に向かって上品に微笑み、そして長い時間をかけて恭しく普通ではないお辞儀をした。


 これには、劉煌は、驚いて声も出ず、東之国の皇帝と摂政は、動揺してうっと唸り声を上げ、面目丸つぶれな照挙は、彼の美しい顔を原型を留めないくらい歪め、小春ら女性陣はあっと言ったが、翠蘭は一人全く意に介さなかった。


 そして、翠蘭ははあと溜息をついてから仕方なく照挙の方を向くと、1歩前に出て、ようやく彼に向かって普通にお辞儀をしたが、さっさと踵を変え、すぐに東之国皇帝、そして摂政の順にお辞儀をすると、李亮の前に来て最後のお辞儀をした後東之国の摂政の下手に立った。


 小春につつかれた照挙は、渋々「簫翠蘭殿、ご無事で何よりです。」と言うと、忌々しそうに劉煌を見てから正面を向き直し、顎を斜め上に上げながら「()()提案で3か国の平和不可侵条約がこの度結ばれたので、貴女が帰国できる運びとなったこと、お喜び申し上げる。」と、まるで成多照挙が簫翠蘭の為に尽力したかと勘違いさせるような言い方をして、彼女に挨拶をした。


 それに、東之国の皇帝、摂政と簫翠蘭は、すぐに中ノ国皇帝の前に躍り出ると、「中ノ国成多照挙陛下、誠にありがとうございます。」と白々しく言ってお辞儀をした。


 東之国の皇帝は顔を上げるとすぐに「されば、我々はこれにておいとまし、帰国いたします。」と言い、照挙が何か言う前に、素早く照挙に向かってお辞儀し、さらに横に向きなおして、劉煌にお辞儀をした。劉煌も東之国の皇帝のお辞儀と同時に東之国皇帝にお辞儀をし、次にその場で照挙に向きなおしてお辞儀をした。その後劉煌は、小春を含む中ノ国の後宮の面々にもお辞儀をすると、「では、朕もこれにて失礼いたします。」と言い、東之国の皇族3人衆の後に続いて大理殿から退出した。


 大理殿の回廊では、張浩も合流した東之国の一行が劉煌を待っており、劉煌に向かって深々とお辞儀をした。


 そして簫翠陵は劉煌に対してとても腰を低くして「劉煌陛下、東之国の皇女の正装までお揃え頂き、感謝の言葉もありません。」と伝えると、劉煌や翠蘭がそれに何か言う前にそこに慌てて合流してきた照挙が「それなら朕も用意していたぞ。」と言ったので、そこに居た照挙以外の全員がギョッとした。


 翠蘭は、中ノ国の皇帝が自分を拉致しようと画策していた話を思い出すと、気持ち悪くなって簫翠陵の後ろに回り、「叔父上、劉煌殿はそれだけではありません。私が誰だか知らなかったのに、私が暴漢に襲われた時助けて下さり、住まいの融通をお願いすると、皇宮内の独立した建物に私を住まわせて下さったのです。」と教えた。


 それに簫翠陵が劉煌に礼を言おうとした瞬間、またもや照挙が、「朕も貴女の楼をここに用意していたぞ。」と言ったので、それを聞いた翠蘭は吐き気とめまいがしてふらつき、小春は顔色を変えて「それってどういうことよ!」と叫んだ。


 照挙はサラッと「小春、前にも言ったろう。彼女を妃に迎えるって。」と言ったので、小春の形相は不動明王のように変わり、「お前、張麗のことで懲りたんじゃ無かったのか!この馬鹿男!」と、周囲に全く気遣うことなく雷を落とした。


 それに負けることなく照挙は「馬鹿はどっちだよ!張麗は簫翠蘭だったんだ!そして劉煌が張麗を死んだように見せかけて私を騙したのだ!」と小春に向かって叫ぶと、今度は劉煌に向かって扇子を投げつけようとした。


 それを見た李亮が直ちに劉煌の前に盾にでたが、簫翠蘭も簫翠陵の後ろから飛び出して劉煌の前に踊り出ると「劉煌殿は私の死の偽装に何の関係もありません。あれは私の自作自演よ!劉煌殿はあなたを騙してなんかいないわ!」と叫んだ。


 照挙は苦笑しながら翠蘭に話しかけた。

「翠蘭殿、あなたは劉煌のことを何も知らない。劉煌は卑怯な男です。我が皇后を盗もうとして、この国の皇宮に入り込んだやつなのですよ。そしてそれができなかった腹いせに、今、朕から貴女を引き離そうと画策しているのだ。翠蘭殿、貴女は騙されている。だからこんな男をかばう必要はない。第一貴女がそんなことをなさるはずがないではないですか。だいたいそんなことをする必要なんてないし。」


 それに小春と翠蘭は同時に「そんなことを言う人がいるから、する必要があったんです!」と叫んだ。


 一人迷走暴走している照挙に小春は怒りが頂点に達し、わなわな震え始めたため、大理殿の建物がガタガタと音を立て始めた。


 この中で一番長く小春と暮らしてきた経験のある小春専門家である劉煌は、瞬時に、これはこのまま放置すると大惨事になると確信し、身体を小さく丸めてから、右の手を上にして両手を組むと、それを顎の左下に持ってきて、「小春ちゃん、お願い。冷静になって。東之国の人達もいるんだから。」と瞬きを繰り返しながら懇願した。


 小春はその懇願を無視して、さらに息遣いが粗くなると、劉煌はもう限界だろうと思ったところで、その通りに小春に限界が来て、彼女は両腕をあげて照挙に襲い掛かろうとした。


 その瞬間に劉煌は素早く小春の後ろに回り、小春を羽交い絞めにして、うーうー唸って照挙に向かって拳を振り上げている小春に「小春!小春!お願い、落ち着いて!」と叫んだ。


 小春の起こしている地震のせいで、全員がよろけている中、翠蘭はよろよろしながらもハッと閃いて


「赤ちゃんのために落ち着きましょうね。」


と小春に向かって優しく言うと、小春は突然パタッと動きを止め、ボーっとしたまま、拳を開いて腕を下げ、そのまま劉煌にもたれかかった。


 足場が安全になったので、成多照子が慌てて「御義姉様(おねえさま)!御義姉様!」と叫びながら小春の所にやってくると、劉煌に向かって「御義姉様から手をどけなさいよ!」とわめき、劉煌の手を振り払おうとして、乱暴に劉煌の手を掴んだ。


 それを見た翠蘭は、照子が劉煌のかつての縁談相手だと思い出すと、キッとして照子を睨み、「私の劉煌殿に何をするの!」と罵って、扇子で照子の手の甲をバシっと叩き、劉煌の手から彼女の手を払い落とした。

 

 照子は涙目になって扇子跡の残る手を摩りながら「何するのよ!」と翠蘭に突っかかると、翠蘭は、「あなたこそ、私の婚約者の手を握るなんて、何するのよ!」と罵倒した。


「こ、婚約者ぁ~?!」


 翠蘭と劉煌と張浩以外のその場にいる全員が李亮も含めて、眉毛を生え際迄つり上げて、素っ頓狂な声で一斉にそう叫ぶと、翠蘭は珍しく勝ち誇った顔をして、「そうよ、劉煌殿は私の婚約者です。」と言って、意識が遠ーくまで行っている小春を抱きかかえている劉煌の右腕に自分の両腕を巻きつけて組んだ。


 すると、今度は、照挙の意識が遠ーくまで行ってしまい、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。


 それを見た皇太后は狂乱し照挙の側に駆け寄ると、「だ、誰か、典医を!照挙ちゃん、照挙ちゃん、しっかりして!」と泣き叫んだ。


 劉煌はすぐに翠蘭に小春を預け、翠蘭に向かって頷くと、翠蘭も彼に向かって微笑んで頷き返した。


 すると劉煌は、照挙の元に向かい、彼の背後から両肩を掴んで、膝を彼の背骨に押し付けると「エイッ!」という掛け声で彼の両肩を後ろに引いた。その勢いで照挙の意識が戻り、それを見た劉煌は張浩に向かって「張先生!」と呼ぶと、張浩は簫翠陵の方をチラッと見た。簫翠陵が頷いたので、張浩は照挙の元に行くと、「失礼」と言ってから照挙の脈を取り始めた。


 皇太后は居ても立っても居られない感じで、「張先生とやら、照挙ちゃんはどうなのでしょう?大丈夫でしょうか?」と酷く心配そうに聞くと、脈を取りながら張浩は目をつむって何度も頷くと、照挙から手をパッと外したので、照挙の手はそのまま回廊の床にぶつかってパンと軽い音を立てた。


 皇太后は心配モードから一挙に怒りモードに切り替わると、パッと立ち上がり「なんと失礼な!」と張浩を指さして叫んだ。


 張浩はそれを意に介さず皇太后に向かって「それが問題なのですよ。」とポツリ呟くと、照挙の手を取って皇太后に見せた。


 そして「蘭、皇后陛下を連れておいで。」と言った。翠蘭は「はい。」と返事をしてから、ようやく我に返った小春の手を引いて、照挙の隣に座らせると、同じように取っていた手をパッと外したので小春の手も床に当たった。翠蘭は、小春の手を取ってやはり皇太后に見せると、張浩は下を向きながら説明を始めた。


「失礼ながら、皇太后陛下、ご覧ください。同じことをした手です。普通は女性の方が筋肉が少ないのであざができやすいのですが、皇后陛下はただ当たった所が少し赤くなっているだけ、それなのに皇帝陛下はすぐにあざになった。筋肉も少ないし、血管も弱いのです。ハッキリ言って、ひ弱すぎます。身体がこれだけひ弱だと、心もひ弱になるはずです。身体に自信がもてませんからな。」


 張浩は照挙の手を今度は優しく体側に戻してから、心配する皇太后を励ました。

「でも御心配には及びません。皇后陛下は非常に御強いですから、良い子が生まれますよ。」

 そう言って張浩はお辞儀をしてその場を立ち去ろうとしたが、皇太后はそれを制して張浩に向かって真摯に聞いた。

「張先生、照挙ちゃんを強くするにはどうしたらよいのでしょう。」


 張浩はニッコリ微笑むと、「皇后陛下と生まれてくるお子が、きっと皇帝陛下を良い方向に導くでしょう。」と答え、簫翠陵の元に戻った。


 中ノ国の皇帝夫妻がようやく立ち上がると、その後ろを支えていた劉煌と翠蘭も立ち上がり二人は微笑んでお互いを見つめ合った。


 すると照挙がハッとして、後ろを振り返り「こ、婚約だと!?」と蒸し返した。


 それには簫翠陵も反応して、「劉煌殿、先ほどは翠蘭が望むならと仰られていたのに、既に婚約とはどういうことですか。」と詰め寄ると、翠蘭はまたもや劉煌の腕に自ら腕を絡みつかせ、満開の笑顔で劉煌の代わりに答えた。


「叔父上、だから私が望んでいるからよ。」


 翠蘭のその笑顔は、その場の誰しもが引き込まれずにはいられないほど、文字通り蘭の花のように麗しく、水平線から顔を出す太陽のごとく神々しく光輝いていた。


 しかし、伝統派の簫翠陵には、それは耐えられないことであった。

 彼は意を決して「しかし、東之国の皇女は誰とも結婚せず、巫女に…」と言い始めると、翠蘭は翠陵に向かってキッとしてから、何を思ったのか劉煌の方を向いて「劉煌殿、失礼します!」と言いながら劉煌の仮面を少し上にずらした。劉煌はそれに慌てて仮面がずれないように両手で押さえていると、いきなり劉煌の唇に暖かく柔らかいものがヌッと乗った。


 翠蘭以外の劉煌を含めた全員が唖然としている中、翠蘭は劉煌の唇から自分の唇を離し、そのままの形で茫然となっている彼の仮面をちゃんと元に戻し、ご丁寧に彼の唇に付いた自分の唇の痕跡まで親指でそっとぬぐうと、今度は翠陵の方に向き直って「ほら、これでもう神には仕えられないわ。それに叔父上も先ほど見たはずよ。私が誰に仕えるか決めていることを。」と主張した。


 他国の皇宮にいるというのに、双方とも一歩もひかない翠陵(おじ)翠蘭(めい)の攻防を見て、今迄ずっと影にいた東之国の皇帝は、そのはちゃめちゃな翠蘭の行動・言動に、とうとう耐えきれずクククと笑い始めた。


 これに、反応したのはやはり翠陵だった。

 翠陵は怒りながら「何がおかしいのです!」と今度は東之国の皇帝に詰め寄ると、彼は笑いながら答えた。

「あのら、、、あの姉上がこんな無茶をするとは。私は俄然姉上を応援したくなりました。」

「しかし、陛下。これでは国のしきたりが、、、」

 動揺した翠陵がそうたしなめると、東之国の皇帝は翠陵の目をジッと見てサラッと言った。

「もう破ってはいませんか?」

 東之国の皇帝は笑いながらそう言っていたが、その目は全く笑っていなかった。それどころか、むしろその目はまるで見ている相手を責め立てているかのようだった。


 その彼の目力に耐えきれず翠陵が目を背けると、ここの場で一番年少なのに、落ち着いた声で東之国の皇帝は場を締めた。

「とにかく、もう帰りましょう。姉上も東之国の味が懐かしいでしょうし。」

 彼はおもむろに翠蘭の方を向いて、「さあ、姉上。」と言って手を差し出した。


 翠蘭はその手を見て、今迄の勢いが無くなり、下を向いてはあとため息をつくと、今度は劉煌を見上げて、「劉煌殿、、、」と囁き、とてもとても悲しそうな顔をした。


 その顔を見てたまらくなった劉煌は、もう彼女としばらく会うことができないと思うと、感極まり突然「御免!」と叫んだ。そして自らのマントの端をガバッと掴むとそれを斜め上に上げて勢いよく翻した。

 そうすることで、完全に劉煌自身と翠蘭の姿をマントの中に隠した劉煌は、片手で翠蘭のウエストを抱きかかえながら、もう一方の手で自分の仮面を外し、翠蘭に熱烈なキスをした。


 翻ったマントの揺れから時折チラッと見える二人の姿はあまりに華麗で美しく且つドラマチックで、実際そこには無いものの、まるで背景に深紅の薔薇の大輪が咲き乱れているかのように思えた。


 これを見て、東之国の皇帝は、思わず自分のマントを掴んで翻しながら自分も劉煌のようになりたい!と憧れ、照子は、あんなキスができるんだったら西乃国に嫁に行けば良かったと後悔し、小春は知らなかった蓮の一面を見て、指をくわえながら「ロマンティックでいいなぁ。」と呟いた。


 勝手に劉煌をライバル視している照挙にとって、この小春の呟きは聞き捨てならないものだった。

「何?あんなのがロマンティックだと?」

 すぐさま大理殿の壁に小春を追いやり、片手を壁につけ、もう一方の手で小春の顎を押し上げると、熱烈なキスをした。


 あまりの公衆の面前での大胆な愛情表現に外野の方が赤面し、たまらなくなった皇太后は、手をパンパン叩くと、「はい、そこまで。時代は変わっても節度は守りましょう!」と言って、まるでひよこを追い払うように各国の皇帝の回りを練り歩いた。

 3・28

お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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