第一章 現実
9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。
しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。
彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々邁進していたが、そのせいで劉煌のお顔は大変なことに、、、
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
天地を切り裂くかのような絶叫が皇宮中にこだました。
劉煌のあの美しいお肌に吹き出物が、それも1つや2つではない、数えきれないほど出ているではないか!
劉煌のただならぬ叫び声を聞いて、慌てて宋毅が劉煌の寝室に飛び込んできた。
「皇帝陛下、いかがなさいましたか?」
劉煌は「すぐに御典医長を呼んで来い!」と叫ぶと、顎に手を当てながらありとあらゆる角度から自分の顔を鏡にうつした。
”ち、朕の美しいお肌がっ、な、なんてことっ!失恋よりもショックでかいかもしれないっ!”
何しろ、御典医長を呼べと言った張本人が隣国の御典医長だった過去を知っている宋毅は、彼自身で解決できない問題が起こったのかと皇帝の身を酷く案じ、血相を変え転がるようにして天乃宮から出て行った。程なくして汗だくの宋毅に連れられて走って寝室に入ってきたのは、かなり年配の医師だった。
彼は劉煌にむかって恭しく挨拶すると、すぐに劉煌の脈を見、ストレスと睡眠・栄養不足と診断し、薬を煎じるために、靈密院(皇宮内の医院)に戻っていった。
劉煌は、若いけれども、小高蓮として中ノ国で御典医長をしていた程の腕利きの医師でもあったことから、西乃国の御典医長が煎じてきた薬の匂いだけで、彼が、
”年だけはとっているがただの藪医者”
と見抜いてしまった。
ここで、劉煌は、西乃国に戻って3か月にして、抜本改革が必要なもう一つの分野、”医療”があることに気づいてしまったのだった。
しかし、昔から、ピンチはチャンスと言われているように、劉煌は頭を抱えるのではなく、ここで閃いてしまった。
これこそ、西乃国の財政難を乗り切る切り札だったのだ!
吹き出物だらけの顔をさらすのは自分の美のポリシーに反するので、劉煌は着替えて仮面をつけるとすぐに御典医長の後を追い靈密院に向かった。靈密院に到着した劉煌は、先ほどの御典医長の前で仮面を取ると、突然彼に向かって最新医学文献の話をまくしたてた。
すると御典医長は恐れをなして、すぐにその場で医服を脱ぎ、辞職した。
こうして、劉煌が西之国皇帝になってから3か月で、仮面をつけている時は皇帝として、素顔の時は西乃国御典医長:小高蓮として、彼は2重生活を送ることになったのだった。
劉煌は、すぐに小高蓮(自分)宛に、西乃国御典医長に任命する聖旨を出し、これまた歴代の皇帝が誰もしなかった、禁断の国が財政危機に皇帝の私財を投入するということをやってしまったのだった。
それは、具体的には、後宮内の建物の一部を化粧品工場に改装し、読み書きのできない宮女を工員にして、(念願の)新しい制服を与え、美容クリームを大量生産したことだった。
この美容クリームは、中ノ国の京陵の杏林堂の主力商品であったが、当時の中ノ国皇宮の後宮でも皇后、唐妃と桃香さまが奪い合った伝説のクリームだった。
中ノ国の皇族がこぞって愛用した商品であれば、西乃国の貴族や元中央省司官僚の家の女達が飛びつかないわけはない。
これなら貴族や元中央省司官僚たちが搾取した国の資産を、そうとは気づかれずに少しは回収できるかもしれない。
なにしろ古今東西、女の美への執着は果てしないものがある。(女ではないが劉煌も、、、)
世の女性は美しくなるために化粧品を購入するが、その大部分が誇大広告であるのは周知の事実である。
それなのに彼女らは、シミが消えると言われれば買い、しわが無くなると言われれば買うが、古今東西、シミもしわも未だにこの世から無くなっていない。彼女らは、だまされてもだまされても今度こそはと買い続ける。もはやその発想は宝くじに近いと言っても過言ではない。
つまり、その商品の購入と共に彼女らは夢も一緒に買っているのである。
従って、今も昔も化粧品の値段ほど原価との差が著しい物はない。
だが、劉煌の調合したこの美容クリームは確かに効果だが、そんじょそこらの化粧品とは一線を画す。
誇大広告でなく、本当に肌のきめが整いハリがでてくる夢のような逸品なのだ。
一度使いだすと、それは怪しい薬物のように手放せないが、それとは違って身体に良いことはあっても弊害になることはない、2000年先の医術を誇る医師故ドクトル・コンスタンティヌスの愛弟子だからこそ開発することができた逸品なのである。
しかもこの美容クリームの主要成分は、保湿効果の高い杏月華という薬草の抽出液で、この薬草は西乃国でしか取れないから国内だけでなく、将来的には外貨獲得もできるかもしれない。
劉煌が帰国し蔵論も北盧国に帰り、杏林堂を閉店してしまったため、中ノ国ではこの美容クリームはもう入手できない幻の逸品になっており、実は先日も中ノ国の唐皇太妃から何とか手に入らないものかという手紙が彼宛に来ていたのだった。
美容家中の美容家の劉煌が、吹き出物だらけになるほどの忙しさだったことから、中ノ国唐皇太妃から手紙が着ていたこともすっかり忘れていた劉煌は、早速中ノ国唐皇太妃宛に返信を書いたのが今から1か月前のことだった。
*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*
=1か月前中ノ国=
「照子、照子!」
美容に気を付けているのもさることながら、中ノ国唐皇太妃は年頃の娘がいるとは到底思えないほど、美しく若く見える。
そんな母に久しぶりに弾んだ声で呼び止められた照子は、振り返ると母である唐皇太妃に向かって丁寧にお辞儀をした。
「照子、2人で旅行にでも行かないこと?照子は行ったことのないところよ。私の生まれ故郷。」
「え?私も一緒に?」
何しろ唐皇太妃は、自分が美しくなることには傾注するが、自分の娘については全く無関心で、照子が子供の頃に皇太子のせいで理不尽な扱いを受けていても全く意に介さなかったほどの母親である。一人で出かけることはあっても照子を誘って出かけることなど、照子の17年の人生で全く無かったことだった。
”母皇太妃が私を旅行に行かないかって誘うなんて、天変地異でも起こるんじゃ…”
照子の心配をよそに唐皇太妃は有頂天になって彼女に向かって告げた。
「そうよ、西乃国に行くのよ。西乃国は美容のメッカなのよ。あなたも小高御典医長が居なくなって困っていたじゃない?二人で顔のおパックに、エステをして垢ぬけてココに戻って、皆に私たちの美しさを見せつけてやりましょうよ。」
照子は、小さい時におばさんのような恰好を強いられたトラウマからファッション、特に着るもの、髪型、アクセサリーに異様なほどの執着を見せていた。自分が好むようなファッションで自分が満足するには化粧も重要なファクターで、化粧乗りを良くするには日々の肌の手入れが欠かせない。
しかし、あの今となっては伝説の御典医長だった小高蓮がある日突然消えてから、まだティーンでぴちぴち肌のはずの照子も自らが納得の行く化粧乗りの日が少なくなっていた。
「うん、キレイになるんだったら行く。ねえねえ、じゃあお義姉さま(小春)も誘っていい?」
今までの人生で構ってもらったことのない照子は、毎日自分を構って遊んでくれる小春のことが大好きで、まるで幼い子供のように声を弾ませて母に聞いた。
これに、隣国の当時皇帝だった劉操が、この皇宮に乗り込んできた時の小春と劉煌の痴話話を目撃していた唐皇太妃は、大慌てし、上ずった声で叫んだ。
「こ、皇后陛下はお誘いしちゃだめよ。彼女は国のお役目があるのだから簡単に国を離れては行けないわ。そうだわ、行先も目的も皆には内緒にしておきましょう。皆羨ましがるから。照子、善は急げよ。すぐに出立の支度をいたしましょう!準備!準備!ほほほほ!」
というと、自分の楼に向かってスタスタと歩き出した。
その後ろ姿をしばらくはあっけにとられながら見ていた照子も、気を取り直したのか、おもむろに自分の楼に向かい始めた。
”西乃国旅行って楽しみだなぁ~。そういえばお義姉さまの得意な羊のシチューも西乃国料理だって言ってたっけ。本場のあれが食べられるんだ!うふ、楽しみ!”
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