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第一章 現実

9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。

しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。


彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々邁進していたが、そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそんな時に限って運命の女性が現れる。


果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 さらに劉煌が力を入れたのは、不正防止であった。


 具体的には、チップ、袖の下、献金、度を越した贈り物等、不正に繋がる恐れのある行為を禁止したことだった。


 実は、このことも、政府高官や上級官僚達がこぞって辞職した理由の一つであったが、彼らは一応それが表向き好ましくないという自覚はあって、裏金が作れないということを退職理由にはしなかった。


 劉煌の予想通り、今まで朝廷の重要ポストに付いていた者たちは、武官を含めて、劉煌の新西乃国構想では全く今までのウマミが見込めないことから、全員引退を決め、試験結果を待たずして辞職することに決めていた。


 しかし、試験結果を見た彼らは、自分たちの悲惨な成績のことは棚に上げて、公平と言う名の本当はヤラセだったのではないかという疑惑を深め、最後の抵抗に入った。


「陛下、公平な試験とのことでしたが蓋を開ければ、陛下の以前からのお側付きが重要ポストではありませんか。これのどこが公平公正なのですか?」


 大蔵長官が、いつも顎で使っていた元メールボーイで新首相に内定している孔羽を睨みながら劉煌に嚙みついた。


「そうなのだ。朕もそれには驚いたのだ。何しろ朕が問題を作って書いたのは試験開始30分前なのだ。試験問題は、試験開始10分前に会場に運ばせるまで朕の傍にあり、誰も中を見ていないのだ。孔羽、李亮はともかく、梁途それに白凛があんな高得点を取るとは朕も驚いている。」

そう劉煌は妙な相槌を彼に打った。


 劉煌が本当のことを言っているのに、大蔵長官は頭から嘘と決め込んでいた。


「恐れながら嘘をつかれてるのでは?今ここで首相になるコイツが本当にそれに相応しいかを試してみようではないですか。」


 そう言うや否や大蔵長官は、劉煌の許可も得ず突然現首相と新首相に、ランダムに文書を取り出して問題を出し始めた。


 すると、当然?ながら現首相はとんちんかんな受け答えをし、孔羽はどんな問題でも正解してしまった。それどころか、それについての考察、今後の展望そして改善案まで具体的に提示してきたのだから、現職の官職たちはたちどころに目を泳がせてしまった。


 大蔵長官は、自分が今この瞬間に作った問題を解け、さらに展望まで見通せ、改善案まで出てくる孔羽にイラついて彼に噛みつくと、孔羽はサラッとこう答えた。


「だって、ずっと陛下が皇帝になることを夢見て、中央省司の全文書を読んでは必要な物を抽出、要約し、考察をつけて陛下に送っていたのです。いやでも頭に入ります。」


 自分も文書を読んでいたが頭に入っていないことも多かった大蔵長官は、孔羽の発言にまたイラついたが、孔羽にそれをぶつけると倍返しを食らうことに気づき、そのイライラの矛先を未知の存在である劉煌に向けた。


「だいたいこの13年近く他国にいた方が、いくら情報を貰っていたとしても、わずか1か月でまるで全てを把握しているかのようなあんな試験問題を作れるわけがないではないか。」


 朝政の官職たちが、先日の会食時のことをすっかり忘れて大蔵長官の訴えに同意し大きく頷いている様子を見て、劉煌が「いやー、そんな1か月なんて長い時間かけてないし。」と答える前に、今までこの大蔵長官が口を開くたびに甚だしい怒りが込み上げそれが蓄積されていた宋毅が、もう我慢ならずこの時とばかりに答えた。


「それは、あなたが皇帝陛下のことを全く御存知ないからです。宋某(それがし)はこの二月強陛下のお側について陛下のお人なり、お力すべてつぶさに見てまいりました。陛下は、本当に13年分の各省司の文書をものの1時間で全て読み切り、ただ読み切っただけではなく全てご自身の頭に入れられてしまったのをこの目で見ているのです。試験問題も本当に当日の試験30分前にご自身で書かれたのです。陛下は本物の天子さまなのです。まあ凡人にはこの話は到底わかりますまいが。」


「何を?宦官ごときが。科挙トップの私を凡人だと?」

かつての科挙試験成績と同じくらいプライドの高い大蔵長官が吠えた。


しかし、宋毅も堰を切ったように言い返す。

「ええ、陛下に比べれば誰でも凡人です!」


 売られた喧嘩は必ず買うタイプらしい大蔵長官は、ここでやめておけばいいのに向う見ずにも劉煌に挑戦状を叩きつけた。


 大人げないとは思いつつも、こればっかりは実際を見せないと肉親でさえ信じなかったのだから見せるしかないと思った劉煌は、大蔵長官の挑戦を受けた。


 劉煌の参戦宣言を聞いた白学と王政は、真っ青になって必死に大蔵長官を止めたが、自分こそが世界一の天才だと疑ったことのなかった大蔵長官に「この腰抜け」と罵倒されるに終わってしまった。


 そして開始から間もなく五剣士隊、宋毅、白学と王政の思った通り、劉煌は見事に大蔵長官を含めた全大蔵省丸を撃沈させてしまった。


 劉煌の離れ業を見た朝政の()の面々は新旧全員、先日宋毅がしたリアクションとほぼ変わらない反応をして口をぽかんとあけていた。


 大蔵長官はよほど悔しかったのか、他の省司の代表者(必ずしも長官とは限らず、一番わかってそうな人材を)を助っ人付きで無理やり投入し、過去のその省司の公式文書から自らが試験監督となり、劉煌と一騎打ちさせたが、ことごとく現役の役人側が破れてしまった。


 最後の一人となった法捕司卿の王政が劉煌に敗れた瞬間、大蔵長官はガクッと膝から落ちると、こぶしを地面に叩きつけて悔しがった。


「どうして!」

「言ったでしょ。陛下は本物の天子さまだって。」


 勝ち誇って宋毅がそう言うと、王政が溜息をつきながら

「13年もの間が空いていたので、今度こそ私が勝てるのではと思っておりましたが、間違いでした。陛下は全く変わられていない、、、どころかますます磨きがかかったのではないでしょうか。老臣、感服仕りました。」

と目を細めながら劉煌に告げた。


「まあ、法捕司は、あいこが続いて最後重箱の隅をつつくような問題だったからしかたないよ。それにしても、他の省司は、一問目から間違えるような者しかおらぬのか?」


 劉煌はあきれ返ってそう愚痴ると、各省司のトップは口をそろえてナンバー1を出したのにと地団太を踏んだ。


 そんな人たちだったので、本来であれば仕事というものは、引継ぎが必要なものなのだが、元々自分の仕事についてわかっていない人たちゆえに、新任との引継ぎ期間があっても意味がないとお互い理解し、彼らは戦いもむなしくその日でお払い箱になった。。。


 もっとも、彼ら側としては、お払い箱とは露にも思っておらず、誰が仕事をおまえらのような平民に教えてやるものかという意識だった。


 それゆえ、新しく禁衛軍の統領となった梁途が礼儀正しく銚期門から見送る中、彼らは、皇宮の門を1歩出たところで皇宮に向かって一斉に罵声を上げたが、今迄平民が首相になること等100%ありえなかったこの国に、平民が国の要職につける可能性ができたことに歓喜し、俄然政治への関心が高まってきた京安の民の逆鱗に触れ、彼らは民からそれの100万倍はあろうという罵声を逆に浴びて、すごすご西へ東へと逃げるように退散していった。


 結果、中央省司の高官はほぼ総入替となり、劉操政権からそのままスライドできたのは、法捕司卿の王政と白凛の父である秘書省副長官の白学だけだった。


 王政は、劉煌の父が皇帝だった時からの法捕司卿(警察刑罰司法長官)で、劉操が最も苦手な相手としながらも、憑りつかれたように他国侵攻に邁進していた劉操にとって、自分が留守がちな京安(首都)の治安を守るために渋々法捕司卿に据えていた存在であった。


 そして、白学はというと、劉煌の父の劉献時代は、自分の娘が皇后になれるかもしれないと鼻息が荒かったが、劉操が皇帝になってからは、とにかく自分が殺されないようにと真面目に与えられたことをコツコツと目立たずやってきたので、現役の官職の中では断トツに仕事がわかっていた、、、ただそれだけがそのままスライドできた理由だった。すなわち、それくらい現役の官職は、国政を担う器ではなかったということだった。


 大抜擢につぐ大抜擢のユニークな官職の採用の中でも、もっとも際立って全員を唖然とさせたのが新しい大蔵長官だった。


 なんと劉煌は、試験成績から陳義という、今まで劉煌と面識もなければ、身分は平民で、職業は質屋の番頭という若い男を大蔵長官に据えたのだ。


 それゆえ、劉煌のこの思い切った官職の人選は、後に、劉煌の適材適所と呼ばれるようになったことは言うまでもない。


 臣・役人の人選と同時進行で劉煌が行ったのは、劉操の野望のために何年も家に帰れていない兵士達を順次家に返すことだった。


 特に元々国軍にいたわけでない兵士達は、家に帰れることだけで喜んでいたが、劉煌は彼らへゆくゆくは年金を支給したいと思っていた。さらに、劉煌は、劉操の政変時、自分や父母を守って殉死した者達と劉操の徴兵で国のために殉死した兵達の家族への年金も支給したいと思っていた。


 だが、前大蔵長官が語っていた以上に、西乃国の財政は深刻で、年金どころかあとわずかで本当に破綻する状態であることに劉煌は気づいてしまった。それもこれも、劉操の北と西域への不毛な侵攻や、皇宮内の全権、言い換えれば国政を悪徳宦官:石欣に委ねていたせいで、戦争の分も石欣の分も殆どが回収不能な不良債権だった。


 世の中にはいくら桁違いに稼いでも破産する人がいるが、そういう人に限って消費もさらに桁違いで、単純に収入<支出なだけなのである。


 まさに西乃国は、劉操時代にその悪循環が出来上がっていた。


 もし劉煌が、政変に会わず平民を経験せずにスライド式に皇帝になっていたならば、そこまでこの財政問題に固執しなかったであろうが、底辺民の経験をしてきた彼には、これは見過ごすことなど到底できないことであった。


 それからというもの、劉煌の頭の中には、どうやって国の財政を切り盛りしていくかという問題が、常に頭の片隅に瘤のように陣取っていた。


 幸い、大蔵長官(財務大臣)に新たに任命した陳義は、元質屋の番頭の経験を活かし、すぐに国政と皇宮の出金の問題点を洗い出し、緊縮財政であるにも関わらずかつてと同じ水準の皇宮生活を保てるほどまで改革できたが、いかんせん入る金については、すなわち税金となるので、国民の負担となってしまう。


 今までさんざん甘い汁をすすってきた貴族や中央省司の官僚たちから、回収することも考えたが、彼らが皇宮を後にするときの悪態について梁途から報告を受けていた劉煌は、これ以上彼らを逆なでして、謀反など起こされては、ようやく平和になった西乃国をまた戦乱に巻き込んでしまうと思い、とりあえずそれは断念した。


 かといって、劉操は、挙兵のために、国民からの税金を毎年上げ続けてきたので、劉煌までもが足りないからと国民から税金を上げてしまったら、何のために命をかけてまで劉煌が皇帝になったのかわからない。


 皇帝とは、天命により、天子として民を支配する信任を得ているのである。


 そんな誰でもできるような方法で財政難を乗り切るべきではないし、そんな阿漕な手段で乗り切る気など、彼にはさらさらなかった。


 そういう状態なのに、劉煌は、後宮の宮女達が目に入るたびに、そのまるで紺の寸胴鍋のような制服がイヤで気になって気になって仕方なかった。

 今、お陸が側にいれば、「あれお嬢ちゃん、宮女の制服変えていないじゃないか。これは公約違反って言うんだよ。」と言われただろうが、こんな時に後宮の宮女たちの制服を一新している場合ではない。劉煌は、彼女らとすれ違う度に、唇をかみしめ、両手が真っ白になるほど強く拳を握りしめ固く心に誓った。


「一日も早く国を軌道に乗せて、宮女の制服を変える!」


 千年に一人の天才のモチベーションが宮女の制服を変えるというのは、まさに天才は変人を地でいっているかのような劉煌であった。


 幸い叔父の故劉操は先祖代々の財産の隠し場所を知らなかったようで、実は劉煌にはどんなに贅沢三昧をしても少なくとも300年は暮らせるほどの隠し財産があった。


 しかし、いくら私財があっても、そうやすやすと国家財政につぎ込んでいてはすぐにまた元の木阿弥になってしまう。


 そこで、劉煌は、皇宮内の地図を眺めながら、諸国を含め皇族史上最も大胆な変革に取り組む決意をしたのだった。


 それとは、皇宮内に後宮ハーレムを無くし、今までの、湯水のごとく金を使っていたその地を逆に金を産み出せるような場所に変換することだった。


 既に劉煌が皇帝になってから、即日皇族の衣食住の簡素化が命じられていた。


 幸い劉煌が政変を起こし西乃国の皇帝となると、後宮にいた劉操の配偶者達と宦官達は、()()劉操を倒し、しかも血脈は劉操と同じである人物ならさぞかし残酷であろうと、そそくさと逃げてしまい、今現在、後宮には彼女らの衣食住の世話をしていた、逃げ遅れたか、行く当ての無い女官・宮女しか残っていない。


 つまり、皇族と言っても、今は劉煌だけしかいないのである。


 しかし、皇宮内の後宮とは、単に皇帝の妃達とその子らを住まわせるという単純な場所ではなく、皇帝の面子や権力の象徴でもあったので、それを無くすという彼の意志は当然家臣からの反発は必至であったが、劉煌はこれについてひるむことは全く無かった。


 何故なら、劉煌はその少年時代をほとんど皇族としてではなく、貧しい平民として暮らしてきたことから、現実的で柔軟な思考を持ち、たとえそれが本物であろうが、上辺だけを取り繕うようなモノには何の興味ももたなかった。さらに、(こはる)への報われない恋に傷ついてもいたので、世嗣の話をされたくないという事も後宮を無くす理由の一つだった。


 ただ後宮を無くすと言っても、現在後宮内に住んでいる皇族はおらず、実質的には、今ある土地建物と後宮専属のおびただしい数の女官・宮女達をどうするかということだった。


 後宮の不動産というハードは、取り壊すのであれば解体費、取り壊さなくても維持に金がかかるという現状をいかに打破するかということが課題であった。しかし後宮は、ただ単なるハードではない。ソフト、すなわち今いる女官・宮女達も広義の後宮に含まれるのである。彼女らは、劉煌による政変でも逃げずに留まったことを鑑みると、ここで暇をやっても生きていく当てが無いのは必至であり、無下に追い出すわけにもいかないことから、皇宮内で何の仕事を与えるかが課題であった。


 毎晩、どうしたらよいものかと、寝る時間も惜しんで地図や帳簿と睨めっこしていた劉煌は、ある朝起きて、鏡に映った自分の顔を見るや思わず絶叫してしまった。


 ギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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