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第五章 真成

西乃国国内の問題でも山積みなのに、そこに東之国のお姫さまを巡って中ノ国とも険悪なことになってしまった劉煌。

西乃国の劉操亡き後、3か国に13年弱ぶりに訪れた平和も、たったの半年で一気に3か国に緊張が走ることになってしまい、、、

 馬車が西乃国皇宮の鄧禹門に到着すると、劉煌は、孔羽に友鶯宮に馬車をつけて欲しいと頼んだ。


 簫翠蘭が馬車から降りる時、劉煌は彼女の手を取りながら、「中ノ国出張中に友鶯宮内に、簡易厨房を設置させたから、チェックしてみて。」と囁いた。彼はそのまま友鶯宮の外階段を一緒に登り切ったところで彼女の手を優しく離した。


 簫翠蘭は、友鶯宮の玄関の前で深々と劉煌に頭を下げると、「陛下、何から何までありがとうございます。何と御礼を申し上げたらよいのかわかりません。心より感謝いたします。」と言ったまま、頭を下げ続けていた。


 そんな彼女を見て、劉煌は、わざと女っぽく「そうそう、帰って早々申し訳ないけど、後で一緒に建設中の医療施設に行って欲しいのよ。医師としてアドバイス頂けると嬉しいわ。じゃあ、30分後に迎えに来るからね。」と明るく言うと、友鶯宮の外階段を使わずに回廊から地面に飛び降りると、彼を待つ馬車の孔羽の横にこれまた飛び乗った。


 簫翠蘭はその場にたたずみ馬車を見送っていたが、くるっと振り向いて友鶯宮の扉を前にして大きなため息をついた。


 実は、西乃国国境付近で馬車に乗ってからずっと、彼女は、白凛になんと言って詫びたらいいのかと考えていた。そして、李亮にも、梁途にも。


 結局乗車中ずっと考えていたにも関わらず、どうお詫びしたらいいのかの考えはまとまらなかったのだった。


 簫翠蘭は、友鶯宮の扉を開け、おそるおそる重い足取りで中に入り白凛を探したが、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。


 そして共有スペースの一角に真新しい厨房セットを見つけると、簫翠蘭は、首を傾けて、その上にそっと手を乗せ、それから手を右左に滑らせた。しばらく厨房セットをボーっと見ていたが、彼女は気を取り直して自室に戻ると、西乃国靈密院の着物に着替え、髪をいつものポニーテールに結わえなおし、外に出て劉煌がやってくるのを待った。


 劉煌は約束通り、30分きっかりで友鶯宮にやってきた。


 簫翠蘭は、劉煌に気づくとすぐに恭しく礼をしたので、劉煌は大きなため息をつきながら「今迄と変わりなくしてくれない?今は医者の小高蓮だから。そしてあなたもここでは張麗。」と彼女に念を押しておもむろに歩き出した。


 だが簫翠蘭は今迄とは違って、劉煌の1歩後ろを歩いた。


 劉煌はそれに本当は少し傷つきながらも、すごく嬉しそうな顔をして「楽しみにしてて。君が僕を助けるために選択した小屋をヒントに医療施設を作っているんだ。今迄の靈密院は入院設備がなかったけど、今回作っているのは入院設備も手術設備も完備した医療施設なんだ。」と告げて笑った。

 そして、その話に彼女の顔がパッと明るくなるのを見逃さず、「笑っちゃうけど、その最初の入院患者が大将軍で、今大将軍からいろいろダメ出しもらっているらしいんだよ。言わば思いがけず彼がモニターになってくれたって感じかな。」と言ってしまったために、彼女の顔をまた沈ませてしまった。


 劉煌は彼女の横に付くと、彼女は1歩下がったが、彼は全くひるむことなく今度は彼女の腕を取って強制的に隣で歩かせた。

「君は張麗、僕は小高蓮って言ったでしょ。」と言い、更に「大将軍の怪我は君のせいじゃないよ。自爆だ。」と断言して彼女にウインクした。


 簫翠蘭はようやく口を開くと、「自爆?」と不思議そうに聞いてきた。

「そうさ、お凛ちゃんは100%対処できるのに、わざと格好つけて自ら彼女の前に出て盾になったんだから、自爆。」と冷たく言い放つと、右腕を上げて右手の奥に見える建物を指さし「あの天辺に白の十字を入れている建物があるでしょう?そこに奴はいるから。大丈夫、文句言える位元気だってことよ。」

 そう言って彼は取っている彼女の手を保証するかのようにポンポンと叩いた。


 彼の手から伝わる、言葉では表現しきれない優しさと温かさに彼女の心はほんわか癒され、隣にいる皇帝陛下を一度見上げると、すぐに感謝の気持ちを込めて頭を下げた。


 なかなか陛下扱いが取れない彼女に、劉煌は、

「もう、張麗、らしくない行動はやめてよね!」

と言うと、突然彼女からバッと手を放し懐から手鏡を取り出して自分の顔や髪の乱れが無いか、いつものように手の指をこめかみに当てながらチェックし始めた。簫翠蘭はそれを見たら安心したのか、耐えきれなくなって思わずクククと笑い始めた。


 作戦がうまくいって内心ガットポーズを取りながらも、劉煌は見るからに不機嫌そうに嫌な顔をした。

「あら、何がおかしいのよ。失礼ね!」

 劉煌は更に手鏡の前でいろいろなキメポーズを取っていったので、それを横で見せられた簫翠蘭は、いつもの張麗に戻ってコロコロと笑った。


 ~


 新しく作った医療施設用の門を潜り抜けると、右手には中央庭園があり、その右奥に美容施設3棟が並んでおり、医療施設の建物は中央庭園を挟んでそれらの対面であった。

 

「あそこがこの前のレストランですね。」と翠蘭が右手の美容施設の最前列にある建物を指さすと、「そうよ。ただいま絶賛接客訓練中。」と劉煌が大真面目な顔をして答えた。「そして、ただ今大将軍が入院中なのはここ。」と彼は目の前の楼を指さした。


 劉煌はその建物の外階段を駆け上がりながら「担架を入れやすいようにスロープも付けたほうがいいわね。」と独り言を言った。劉煌は、建物の外回廊まで上がると、翠蘭が上がってくるのを待つ間、外回廊や外階段など、建物の外回りを腰に手を当てながら真剣に見入っていた。そして、翠蘭が劉煌の側に立つと、彼は早速、医療施設としてこの外回りをどう思うかを彼女に聞いた。


「確かに陛下のおっしゃる通り、階段部分は改良されると更に良いかもしれません。ただ、私は外回廊は外階段に通じる部分に柵扉等を付けて、落ちないようにさえすれば、足腰訓練のリハビリ等に最適な場所ではないかと存じます。」

 翠蘭が真剣にそう答えて劉煌を見上げると、彼はムスっとして胸の前で両腕を組んでいた。

 彼は左右を見渡しながら「どこに陛下がいるのよ。」と彼女に聞くと、今度は小声になって「あなたも口裏合わせて貰わないと、ここのスタッフはみんな私のことを小高蓮と思っているんだから。」と文句を言った。消え入るように詫びの言葉を告げた翠蘭に、劉煌は彼女の手を取って真面目な顔をして懇願した。

「お願い、私を助けると思って、私が皇帝であることを忘れて。」

 翠蘭は劉煌から手を離すと両手を自分の横につけ、彼の目を見て「はい。」とだけ言った。


 二人が扉を開けて建物に入ると、横に細長い待合室があった。その部屋は、清潔感がありながら、目に優しい印象を与えるアイボリーホワイトの壁と落ち着いた濃いベージュ色の天井に、こげ茶色の受付会計カウンターがあり、やはりこげ茶色の椅子が幾つもカウンターに向かって並んでいた。


「設計図を見た限りでは、こっちに行くと調剤室、診察室、処置室、手術室、休憩室の順に並んでいたはずよ。」

 待合室から続く廊下に向かって彼らが進むと、確かに劉煌の言った通りに部屋があった。

 一部屋一部屋開けて中を確認しながら進んだ二人は、靈密院も別にあることから、とりあえずはこれで良いのではないかと意見が一致した。


「あなたが選んだ守衛小屋をヒントにして、水回りは中央に集めたのよ。」

 そこには、中央の北の端から南に向かって、トイレ、リネン、水屋と続いてあった。

「西側が病室なんだけど、水回りには東からも西からもアクセスできるのよ。」

 彼は、水屋の東側の扉を開けて彼女を中に入れてから反対側を指さした。

 彼女が指さされた場所を見ると、反対の西側にも同じ扉があった。

 水屋の中の南側半分は薬の煎じ用具が沢山並んでいて、この部屋の真向いの調剤室で計られた生薬はここで煎じられるようになっていた。


「生薬の保存を考えると、調剤室と煎じ場所を別部屋にしたのは、とても素晴らしいアイデアだと思います。」と彼女は目を輝かせながら感嘆すると、水屋の中を上をみたり下をみたりしながら練り歩いた。


「一応今日の目的は大将軍の様子見だから、早速行きましょうか。」

 劉煌は残念そうにそう呟いて西側の扉を開けて廊下に出た。


 その廊下を北に向かって歩きだした途端、そこには劉煌と翠蘭以外誰もいないのに、彼はわざわざ手を口元で立ててひそひそと彼女に話し出した。


「大将軍だからさ、北を陣取ったのよ。窓も北と西と2方向あるし。」


 そしてあたり一面に響き渡るような大きな咳払いをしてから、北の端の部屋の扉をノックした。


 部屋からは、若い女の「どうぞ。」と言う声と共に、「邪魔するな!」と言う男の声が響いてきた。


 翠蘭は戸惑って劉煌を見ると、彼は全くひるむことなく「皇帝命令だ。開けろ!」と叫んだ。すると床をペタペタと歩く音が扉の方に近づくと共に、扉の向こう側からは、はああという大きなため息がしてから内側からギーっという鈍い音を立てて扉が開いた。


 そこにはぼさぼさ頭の李亮が露骨に嫌そうな顔をして立っていた。


 「どうだ調子は?」

 「この通り、歩けるし、食べれるし、問題ない。腹の傷が痛いだけだ。」

 皇帝の前だというのに、頭を掻きながら李亮は面倒くさそうにそう答えたかと思うと、さらに皇帝に向かってくるっと背を向けて、ベッドに向かって歩いて行った。


 劉煌は、扉を大きく開けて、翠蘭も中に入れると、それに気づいた白凛が、「れいちゃん?」と叫んで彼女の前に駆け寄った。

 白凛は迷わず翠蘭をその場で抱きしめた。「いなくなって本当に心配したのよ。どうしたの?」

 翠蘭がそれに答える前に劉煌が、「馬が途中で怪我して動かなくなったんだ。伏見村に行った時もそうだった。中ノ国の道は悪くて馬には負担なのさ。」と話すと、今度は李亮に向かって命じた。

「腹の傷を見せろ。化膿していないか、傷の治り具合もチェックする。もしかすると処置がまた必要かもしれないからな。さ、ベッドに横になれ。」


 劉煌が李亮の怪我の様子を見ている間、白凛と翠蘭は、部屋の外に出て待合室で座っていた。内装の出来上がったばかりのオープン前の施設故、他に誰もいないことをいいことに、白凛は、翠蘭の手を取ると、いきなり「れいちゃん。中ノ国を出る時、れいちゃん泣いていたよね。良かったらそのこと話してくれない?」と聞いた。


 その言葉に翠蘭が明らかに動揺しているとみた白凛は、それにひるむことなく続けた。

「ごめんね。れいちゃん。私はれいちゃんが悪い人だとは思わないんだけど、、、」

 白凛がそう言ったところで、翠蘭が彼女の話を遮るように口を開いた。

「劉煌殿をお守りしているお立場では、私を御疑いになるのは当然のことです。」


 その回答に白凛はいろいろな意味で動転し、真っ青な顔をして聞いた。

「劉煌殿って。。。れいちゃん、、、れいちゃんっていったい、、」

「その話は後よ!とにかく部屋に戻って。」

今度は劉煌の声がそれを遮った。


 二人が声の方を向くと、いつの間にかそこに劉煌が腰に両手をかけながら立っていて、まるでファッションモデルがランウェイの最先端にいるかのようにくるっとターンすると、左手は腰に置き、右手は指を外側にむけながら右肩の右約10㎝位の空中に留めて、腰をフリフリ病室に戻っていった。


 白凛と翠蘭はそれを見て顔を見合わせると、すごすごと立って彼の後を普通に歩いて李亮の病室に向かった。


 白凛と翠蘭が病室に戻ると李亮と劉煌が厳しい顔をして待っており、劉煌がもうすぐ孔羽と梁途が来るのでメインの話はそれからと告げてから、一転優しい表情になって白凛に話しかけた。

「李亮の傷は順調に回復している。もう心配いらない。軍医がいい医者だったな。」

 それを聞いた白凛はほっと胸を撫でおろすと、翠蘭は微笑みながらギューっと白凛の手を握りしめた


 白凛と翠蘭が微笑み合っていると、病室の扉が開き孔羽と梁途が入ってきた。すかさず翠蘭が心配そうに梁途を見て、「お怪我の具合はいかがですか?」と聞いた。梁途は露骨に嬉しそうな顔をしてすぐに何か答えようとした。しかしその瞬間に劉煌がゴホンと咳払いをすると、「大丈夫よ。」と梁途の代わりにそれを一言の元に切り捨てた。


 劉煌は、全員に向かって重い口を開いた。

「みんな今日は集まってくれてありがとう。今日は他でもない、中ノ国が西乃国に宣戦布告したことについて話す。」

 それを聞いた途端、それを知らない白凛と梁途が飛び上がって驚いた。李亮の側に立っていた白凛は李亮がそれに驚かなかったことを不信に思い、彼に詰め寄った。

「亮兄ちゃん、知ってたの?知ってて私に黙っていたの?」

 それに李亮が慌てて弁解する前に劉煌が答えた。

「李亮には今、傷の診察中に話した。孔羽には帰りの馬車で話した。白凛と梁途も知っているように、3か国祭典の帰り道、関所で張麗だけ通せないと言われただろう?あれは、中ノ国の皇帝が張麗を、、、」とまで言うと劉煌は翠蘭の顔色を伺いながら、先を続けた。

「張麗を拉致しようとしたんだ。知っての通り、張麗は西乃国の大事な住民だ。それなのに、彼女の意向も聞かずに無理やり拉致など、横暴極まりない行為をしようとした。他国の皇帝が我が国の民を拉致など、この西乃国の劉煌は絶対に許さない!成多照挙から命令を受けたやつには、そのような行為は、宣戦布告とみなすと、戻って皇帝に伝えろと言ってある。明日の朝政ではこの件について議題に持ち込み、中ノ国との国境に軍を配備するつもりだ。」


 劉煌がそう宣言して周りを見渡すと、五剣士隊のメンバーが一様にしまったという顔をしていた。


 予想外の彼らのリアクションに、劉煌は「何?どうした?」と聞くと、梁途が気まずそうに答えた。「あの、、、その、、、西乃国の皇帝陛下を呼び捨てにしては、、、」


「あっ、その件か。大丈夫だ。張麗は朕が誰だか知っている。そうでなければ、長とはいえ典医がこんな話はできないだろう。」

 劉煌がそう答えた瞬間、劉煌と簫翠蘭以外の全員が「ああああああああ!」と叫んでその場にへたりこんだ。


 劉煌が「えっ、皆どうしたの?」と青ざめて聞くと、「もー、大変だったんだよな、隠すの。」とか、「もう演技しなくていい。」とか、「へまする心配から解放された!」等々の声があちこちから上がり、改めて劉煌が皆に強いていたことが、彼らにとって、とても荷の重い事だったことにようやく気づいた。


「皆ごめんね。今迄ありがとう。でもまだまだ小高蓮との2重生活は続くから、よろしく頼むわ。」

 そう告げると、劉煌は真摯にみんなに頭を下げた。


 孔羽が劉煌をフォローするように話し始めた。

「これからはそんなには大変じゃないよ、他の人は張麗さんほど身近じゃないから。」

「一番大変だったのはお凛ちゃんだったよな。」李亮はそう言って、白凛の肩をポンポンと叩いた。

 白凛は李亮に微笑むと、今度は劉煌の方を向いて、劉煌に目で張麗の方を合図した。


 劉煌はそれに目で頷いてから、今度は翠蘭の方を向いた。

 翠蘭は心配そうな目で劉煌を見つめた。それに劉煌は優しく微笑んでただ頷いた。

 それを受けて、翠蘭は全員に深々と頭を下げた。

「この度は、私のことで皆さまに多大なご迷惑をおかけし、何とお詫び申し上げたらよいのかわかりません。」

 これに劉煌以外の全員は何のことだかさっぱりわからずキョトンとした。

「えっ、迷惑って?」と皆が言う中、翠蘭は、「中ノ国からの帰り道で賊に襲われたのは、私のせいなんです。」と告白した。


 全員が一斉に困惑気に顔を見合わせた。

 そして皆、彼女の私のせいと言うのを聞いた途端、あの


 ”理不尽なことに巻き込まれて命を狙われている”


 件を思い出し、白凛がまず「なんで?」と聞いた。


 翠蘭は、また劉煌をチラっと見ると、劉煌は今度は2回しっかり頷いた。


「......私の名前は、簫翠蘭と申します。。。東之国の、、、皇女です。」と簫翠蘭が下を向いてそう言うと、全員がえっと言ったまま、一様にまるで顎が外れたような顔をし、全員がそのまま口を閉じることを忘れたかのようになった。


「私の父と叔父は仲が悪く、いつも言い争っていました。6歳の時、西乃国で政変が起き、父は明日は我が身と思ったのでしょう、私を母にも内緒で医師の張浩の元に預けるようになりました。そこで私は、何かあった場合でも普通に生活できるように躾けられました。何しろ叔父が側にいるので、張浩の元に通う時は、いつも同じ年頃の下女に私の格好をさせて私の部屋に居させ、私は下女の格好をして部屋から出ていました。3年前のあの日も私は下女の格好で、経易坊、、、皇宮内の医院にいました。すると張浩が血相を変えてそこに飛び込んできて、私に手紙を渡すと、すぐに西乃国の華景の所へ逃げろと言ったのです。以前からいざとなった時、すぐに逃げる準備をさせられていましたので、私はそのまま馬に乗って逃げました。そして、風の便りで、皇帝であった父が焼死し、叔父は生きていると知りました。前々から、父より、父が叔父に殺されたら、叔父は私のことも生かしてはおかないだろうと言われていましたが、私は叔父がそんな人とはとても思えずにいました。でも先日の中ノ国の祭典で、叔父は私のことに気づかないふりをして、気づいていたのだと馬車が襲われてわかりました。何故ならあの馬車を襲ったのは、、、叔父の側近の楊偉人だったのです。」

 翠蘭はそこまで一気に言うと、その場で泣き崩れてしまった。


 劉煌は反射的に簫翠蘭が膝から崩れ落ちる前に彼女を抱きかかえ、皆の方に振り返った。

「皆、ということで、簫翠蘭は西乃国でかくまう。今後簫翠蘭という名前は一切封印だ。絶対に口にしないように。そして西乃国では今迄通り彼女は張麗として、靈密院で医師の仕事をしてもらうから、いいな。」

 そう命じると彼は全員に向かって鋭い視線を投げかけた。

 それにいち早く反応したのは、白凛だった。

 彼女は左の口角だけわずかにあげ「その話、乗ったわ。」と言うと、全員の真ん中に左腕をまっすぐさし出した。

 それを見た李亮がすぐに腕をだしたものの、傷口が引きつれたために傷んで「いてて、俺も。」と言いながら白凛の手の甲の上に自分の掌を乗せた。

「勿論だよ。」と梁途がその上に手を乗せ、「昔を思い出すな。」と言いながら感慨深げに孔羽が手を乗せた。


 劉煌は微笑んで、「みんなありがとう。」と全員に向かって言うと、今度は翠蘭に向かって「勿論君もこの話に乗るよね。」と言った。


 翠蘭は涙ながらに頷くと、劉煌は彼女の手を取って、その握った手を全員の手の上に置いて「せーの」と掛け声をかけると、翠蘭以外の全員が一斉に「す~ぱぁ~ふぁーいゔっ!」と叫んだ後、円陣の中のそれぞれの腕を空高く上げて解放した。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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