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第四章 過渡

劉煌を取り巻く三角関係は2つから3つにグレードアップ?してしまいました


 中ノ国の南大門では、昼前に東之国一行が到着し、その後を追うようにすぐに西乃国一行も到着していた。西乃国一行には劉煌に化けた梁途が馬車に乗っていた。彼は仮面をつけて馬車から降り、途中で鉢合わせになった白凛と共に、劉煌がいる迎賓館へと向かった。


「亮兄が心配してたぞ。」

ボソッと梁途が呟いた。

そう言われて、白凛は李亮が自分のことを心配しているのだと思いながらも、しらばっくれて「何を?」と聞いた。


 ところが梁途は彼女の予想に反して「夢見が良くなかったらしい。」とだけ渋い声で言って、後は劉煌のところで話そうと言った。それなのに白凛は黙っていない。


「いやだ。まさかまた太子兄ちゃんのことじゃないでしょうね。」

 白凛は青ざめて梁途に詰め寄った。


 こういう状態になった白凛を抑えるのは、皇帝陛下でも無理と知っている梁途は、前言撤回し、しぶしぶ答えた。


「また帰りの馬車が襲われる夢を見たらしい。」


 そこで白凛は文字通り思いっきり頭を抱えて「アイツ本当にろくな夢見ないわ。」と嘆いた。


 二人が劉煌の部屋に着くと、劉煌は既に正装だった。

 劉煌は、二人に「ご苦労さん。座って。」と言うと、茶と菓子を勧めた。


 白凛は、「太子兄ちゃん、れいちゃんの件だけど。」と言うと、何故か梁途の方が嬉しそうに「うんうん」と言って身を乗り出してきた。白凛はまず梁途を見るといーだという顔をして見せて、次に普通の顔になって劉煌に向かうと「私が聞いた範囲では中ノ国での目撃情報はないわ。残念ながら。」と本当に残念そうに言った。


 劉煌は、「お凛ちゃんありがとう。」と頭を下げて、しばらく黙っていたが、大きいため息をついた後、「もしかすると、彼女は、、、東之国の皇女かもしれない。」と呟いたので、それを聞いた白凛は「えー!」と叫んで椅子から飛び上がり、梁途はちょうど茶をすすっていたこともあり、飲みかけを吹き出した後、ゴホゴホと咳をし続けた。


 劉煌は、咳を続ける梁途の背中をさすりながら白凛に向かって言った。

「でも記録上は東之国の皇女は死んだことになっているんだ。今日の3ケ国の祭典で何かわかるかもしれない。」

 すると白凛は本当に不思議そうな顔をして劉煌に聞いた。

「記録上死んでいるのに、太子兄ちゃんは、どうしてれいちゃんがその皇女様だって思うの?」


 その瞬間、劉煌は、彼女が長屋の門から半分顔を出してこちらを伺っていた姿と数日前彼女が彼の背中に身体を合わせた時のえもいえぬ感覚が浮かび、一度目を閉じて、しばらくして目を開くと、ただ「勘だ。」と呟いた。


 それを聞いて白凛も梁途も胸を撫でおろして、「じゃあ、大丈夫だ。」と何が大丈夫なのかわからないことを言った。


 ところが梁途はすぐに真剣な顔つきになると、申し訳なさそうに劉煌に告げた。

「そうだ、勘と言えば、亮兄が、また夢見が悪かったらしい。帰りの馬車が襲われる夢を見たって。」


 白凛は両腕を大きく動かしながら「前がそうだったから、、、皆にとって本当に強烈な出来事だったから、、、彼の記憶の隅にあったのが、呼び起こされて見た夢なだけかもしれないけど。」と取り繕うようにそう言ったが、劉煌は、顔色一つ変えず「わかった。李亮がそう言うなら警戒しておこう。梁途、何かあったら張麗が隠れられるように馬車の後ろの座席の下には何も入れるな。いいな。」と命じた。


 ~


 迎賓館で、劉煌、梁途、白凛が3者会議をしていた時、小春は衣装選びに困っていた。


 小春は「あー、ここのところゲッソリやせたのに、なぜか照挙が作ってくれたゆったりサイズでも入らない。どーしよー。」と死にそうな声で嘆いた。

「赤ちゃんがお腹にいるのだから当然ですよ。帯の締め方を変えましょう。」いつものように冷静に張麗がそう提案し、帯の前に長い紐で白い着物を巻くと、その上から帯を緩めに巻き、帯を締めていないことがわからないように淡い紫色の打掛を羽織らせた。


「あーこれなら楽だ。」と小春が明るい声で呟くと、最近小春のコントロールには『赤ちゃんのために頑張る』がキーワードであると発見した張麗は、「今は立っていてお楽だと思いますが、お座りになるとお腹周りが徐々にきつくなるかもしれません。そうなったら我慢せず退席しましょう。いいですね。私もおそばについていますから。赤ちゃんのために頑張りましょう。」と微笑んで言った。


 小春はニッコリとして、「うん。赤ちゃんのために頑張る。」と言って、すぐ横になった。


 ~


 劉煌は、予定より1時間も早く3か国の祭典の受付を済ませ、一人待ち合わせ場所に立っていた。


 勿論、早く来たのには訳があった。

 中ノ国の皇帝抜きで東之国の皇帝と摂政と雑談をしたいためである。


 そして期待した通り、東之国の少年皇帝と叔父摂政が30分前に受付にやって来た。

劉煌は彼らにすぐに近づくと、西乃国の皇帝として丁寧に挨拶をした。


 劉煌が彼らを見て驚いたのは、摂政も劉煌と同様に仮面を付けていること、そして話して驚いたのは彼の声がしゃがれていることだった。少年皇帝は自己紹介はしたものの、皇帝の威厳を保つためなのか、はたまた何も話すなと教育されているのか、雑談は摂政だけが行った。


 劉煌は時間もないことから、ストレートに本題に入った。

「東之国の3年前の火事は大変なことでした。心からお悔やみ申し上げます。」


 すると少年皇帝も摂政もちょっと引いてから、摂政が「本当に恐ろしいことでした。私が仮面をつけないといけなくなったのもあの火事のせいです。私が火事に気づいて、何とか助けられたのが、甥の現皇帝だけで、兄も姪も救うことができませんでした。」と言うと声を震わせた。


 劉煌が感じたのは、これは嘘ではなく、この人は本当に兄と姪を失って悲しんでいるということだった。


 劉煌はくノ一修行で鍛えたシンパシー力を最大限に活かし、相手の懐に入った。

「そうでしたか。姪御さんはおいくつだったのですか?」

「16でした。ご存知かはわかりませんが、うちの国は皇女が代々生まれませんで、やっと生まれた子だったもので、、、」

 摂政はここまで言うと、うううと低く嗚咽を漏らした。


 劉煌は、ちとシンパシーやり過ぎたかなと汗をかきながらフォローした。

「これは、失礼なことを聞いてしまい、申し訳ありませんでした。私はこちらで1回だけ翠蘭殿にお会いしたことがあったものですから。」

「いえ、あの子のことを覚えていてくださる方が居れば本当に嬉しいです。本当に天女のような子でした。お茶を入れるのが本当に上手でね。父親だけでなく、私の身体のこともよく案じてくれましてね、薬を煎じてくれていました。特に私の妻が突然他界した時は、自分の母も亡くなっているのにね、私のことを本当に案じてくれて、心の清らかな本当に優しい美しい子でした。」

劉煌のテクニックによって摂政は、今までこらえていた感情にようやく癒しを与える気になったのか、彼の前でも躊躇せず仮面を取って涙を拭いた。


 そしてその仮面の下は、確かに火が原因と思われるケロイドだらけで、声のかすれもそれが要因ではないかと、またおそらく視力もそのせいで弱くなっているのではないかと、医師の経験から劉煌はそう思った。


 すると、祭典開始の10分前になったことで中ノ国の皇帝成多照挙が現れた。そのため、摂政の癒しセッションは強制終了させられ、照挙を先頭に、東之国の皇帝簫翠葦が中央、最後に西乃国の皇帝劉煌の順に3か国の皇帝は並んで儀式の施設に向かって歩いて行った。


 儀式は無事終了し、場所を大広間に移して午餐会がまもなく始まるため、3か国の皇帝はそれぞれの控えの間にうつった。劉煌は控えの間に行くふりをして、張麗を迎えに行ったが、皇后楼で迎えてくれたのは清聴で、張麗は何かあった時のために小春の付き添いで行っていると言われてしまった。


 仕方なく一人で大広間に行き、西乃国皇帝の位置に座った劉煌は、周りを見渡すと、中央奥のひな壇最上段に中ノ国皇帝:成多照挙が座り、その向かって左二段下の横に中ノ国皇后の小春が座っており、その左横に木練、張麗の順で並んで立っていた。照挙は、小春が心配なのか、午餐会が始まる前からずっと小春の方を向いてジッと見ていた。


 張麗は、劉煌が今朝贈った着物を着ているのはわかったが、劉煌の席からは顔は良く見えなかった。


 中ノ国皇帝の向かって右の一段下の横に中ノ国の音輪皇太后(皇帝の実母)と唐皇太妃が並んで座り、その下の床面には中ノ国皇帝の異母弟である成多照明が車椅子に乗っていて、彼に付き添うように柊が後に控えていた。さらに劉煌の正面に東之国皇帝、東之国摂政の順で席があつらえてあり、それぞれの横に守衛が立ち、後ろにお付きの者の席があった。

 左側の列は、右側の列の照明の対面に中ノ国皇帝の妹である成多照子、そして劉煌の順であった。


 劉煌は、かれこれ13年ぶりの出席であったが、周囲の顔ぶれの変化以外、食事内容から催しまで昔と変わりなく、午餐会は進んでいたが、小春が座っているのが大変になったことから、小春は先に退席することになった。


 参加者が全員席から立ち上がり、中央を歩く小春を見送った。


 劉煌は、その小春の後ろをついて歩いていた張麗が自分の方を見てくれるか期待していたが、張麗は彼の方は少しも見ることなく、反対側の方にずっと目線を向けて歩いていた。そして張麗がちょうど東之国皇帝の前を通過する時、彼女の扇子が右の方にポロッと落ちてしまった。張麗はすぐに屈んでそれを取ろうとすると、手元まで転がってきたために東之国皇帝が先に拾い、彼女に手渡した。張麗は、失礼の謝罪と親切への御礼を述べると、そのまま小春の後を追い、中央を歩いて部屋から出ていった。


 劉煌は、彼の後ろに控えている梁途に中ノ国皇帝に小春の診察をしてくるので途中退席する旨を伝えさせると、中央ではなくサイドから退室した。


 外に出た劉煌は、周囲を見渡して誰もいないことを確認すると仮面を取って袂に入れた。そして、勝手知ったる中ノ国皇宮の道の中でも皇后楼へ最も近道となる小道を、走って皇后楼へと向かった。そこは、起伏の少ない皇宮の中では珍しく少し高くなっているため、運動を好まない宮中の人はほとんど通ることはない。


 そして、そこは、遥か昔、子供の時の簫翠蘭と劉煌が出会った場所でもあった。


 劉煌がその丘を走り上り頂上まで来た時、その先の中腹で、ボーっと座っている人影が見えた。

劉煌は歩みを緩めて近づいていくと、その座っている人は紛れもなく張麗であった。


 しかも、劉煌の記憶の簫翠蘭と同じ場所に同じ座り方で同じ方向を向いて。。。


 ”やっぱり、君なんだな。”


 劉煌はそう確信すると、彼女に向かって「そんなところに座っていたら、お着物が台無しよ。」と声をかけた。


 張麗は驚いて劉煌の方を振り返ると、すぐに立ち上がった。

「さあ、小春の様子をみましょうか。」と、劉煌が声をかけて張麗をよくよく見ると、なんと彼女は涙を流しているではないか。


 まさかの展開に慌てた劉煌が、「張麗、どうした?」と聞くと、彼女は我慢できなくなったのか、今までのぽろぽろから一転して肩を震わせて泣き始めたかと思ったら、今度は劉煌の胸に飛び込んで来て泣き続けた。

 自分の胸の中でオイオイ言って泣く彼女の後ろに腕を回して、劉煌は彼女をしっかりと抱きしめた。

 張麗はしばらくずっとそこで泣いていたが、一言「おうちに帰りたい。」と呟いた。

 劉煌は張麗の髪を優しく撫でると「わかった。小春の様子を診たら、すぐに帰ろう。」と言った。


 そして、彼女の肩を抱くと、二人でゆっくりと皇后楼に向かって歩き始めた。


 皇后楼の外階段を上りながら、劉煌は「小春は僕が診てくるから、君は荷造りをしていなさい。」と言って、まだひっくひっく言って泣き続けている張麗の肩をポンポンと叩いた。張麗は彼を見上げると、鼻をすすりながら1回だけ頷いた。


 劉煌が小春の部屋に入ると、小春は緩めとはいえ帯がきつかったようで、「ふー、ふー」言いながら横になっていた。


 何も言わずにすぐに彼女の脈を取り始めた劉煌に、小春は「蓮、蓮、もう帰っちゃうの?」と聞いた。劉煌は「ああ、仕事が山積みだからな。」と小春は見ずにそう答えると、彼女は「何でそんなに仕事があるの?」と聞いてきた。


 劉煌は、「オジキが国を滅茶苦茶にしたから、全部一からやり直しだからね。」と言うと、小春はわかったように、「そっかー。出てきた問題にだけ対処すれば言い訳じゃないんだね。それは大変だね。」と言った。


 劉煌は、小春の頭を撫でながら「いっちょ前なこと言うじゃないか。」と言うと、「私は皇后だよ。皇帝のサポートをしてるんだからそれくらいわかるよ。」と小春は笑って言った。


 劉煌は微笑んでもう一度小春の頭を撫でると立ち上がって「もう安定期に入るし大丈夫だろう。ただ、運動はちゃんとするんだよ。毎日後宮内一周は歩け。」と言うと、小春はすぐに顔をしかめて、「えー、そんなに。」と嘆いた。


「当たり前だ。そうでなくても今迄寝てばかりいたから、筋力が弱っている。出産は体力勝負だ。筋力が弱いと母体も赤ちゃんも大変だからな。赤ちゃんのためにも頑張れよ。」


 劉煌はそうとは知らずに小春のスイッチが入るワードを使ったので、小春は今度は文句を言わず、「わかったよ。」としぶしぶ言った。


 そして、「じゃー、蓮、元気でね。」と言って立ち上がると、ちょうど張麗が荷物をまとめて小春の部屋にやってきた。


 張麗は髪型をきっちり全て結い上げたスタイルから、いつものポニーテールに変え、束ねた部分に簪を斜めに1本付けた状態で小春に挨拶をした。


 小春は、「張麗さんは、こっちの髪型の方が似合うよ。今迄ありがとう。元気でね。」と言って、張麗に抱きついた。張麗はちょっと驚いて固まったが、すぐに小春を優しく抱き返すと、深々とお辞儀をして小春の部屋を劉煌と共に出た。


 皇后楼の出入口では木練と清聴が待っていて、別れを惜しみ、そこを出ると白凛が笑顔で待っていた。


 「れいちゃ~ん」と手を振りながら白凛が駆け寄ると、白凛は張麗の目が腫れているのに気づき、すぐに何事か?と劉煌の方を見上げた。劉煌は首を横に振ると、白凛はそれを見てすぐに張麗の肩を抱いた。張麗は白凛の肩に頭を乗せると、二人は無言のまま用意された馬車に向かって歩いていった。


 劉煌が仮面をつけて大広間に戻った時には、ちょうど会がお開きになったところで、劉煌は東之国皇帝と摂政に簡単に別れの挨拶をすませ、成多照挙のところに挨拶に行った。


 劉煌は、成多照挙に小春の容態はもう心配いらないだろうが、出産のため運動させるように等いろいろ話したが、成多照挙からは「うん、うん。」と、軽い気のない返事だけが返ってくるだけだった。


 ところが、劉煌がすぐ帰国すると言うと、突然成多照挙のモードが変わり、なんだかんだと言って帰りを引き伸ばし始めた。なんとかそれをかわし、成多照挙から離れると、劉煌は一目散に張麗の待つ馬車を目指した。


 そして残された成多照挙は、すぐに小鉄を呼び出すと、彼の耳元で長々と囁いた。

 不審げな顔をしている小鉄に向かって、照挙は容赦なく命じた。

「すぐに行け!」



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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