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第四章 過渡

中ノ国にやってきた劉煌一行。

いったいここで何が起きるのか。

どうぞお楽しみに。


 中ノ国への道は、劉煌が9歳の時に通った道と全く変わらなかった。


 ただ、あの時は一人っきりで馬車に乗っていたが、今回は、白凛と張麗が一緒に乗っているので3人での旅だ。


 白凛と張麗は、本当に馬が合うらしく、二人で他愛のない話を馬車に乗る前からずっとしていた。


 日々の仕事の疲れもあって、馬車に揺られて少し経つと劉煌は眠ってしまった。

 それに気づいた張麗は、心配そうな顔をして彼にマントをかけた。


「小高御典医長は、仕事を抱えすぎですよね。そうでなくても西乃国の仕事だけでも大変なのに、中ノ国の皇后陛下のご体調管理までされるなんて。西乃国の皇帝陛下も陛下です。どうして別の国の依頼を断らないのかしら。」


 そう言って張麗は口を尖らせた。白凛はそれには答えず、「そうだ、れいちゃんは中ノ国に行くの初めて?」と聞いた。張麗は、ちょっとしてから、「いいえ。」とだけ言うと、白凛は、「私は何回かある。遠い親戚がいるの。」と嘘を言った。それに食いついてこない張麗に少しがっかりしながら、「短期間に2回2つの国の皇宮を往復するのも大変だから、小高御典医長を中ノ国の皇宮にお連れしたら、あとは親戚巡りするんだ。」と白凛が言うと、ずっと白凛と一緒に居られると思っていた張麗は驚いて、「えっ、凛姉ちゃんずっと一緒にいるんじゃないんだ。」と嘆いた。

「だって往復の警護だけだもん、私の仕事。だから、一度戻ってまた迎えに来るが基本で、一緒に皇宮内にずっとなんていないよ。」と白凛が腕を組みながらそう言うと、張麗は「そっかー。残念。でもどっちにしろ私は皇后さまのお世話しないといけないし、凛姉ちゃんとゆっくりできる時間なんてきっとないね。」と気を取り直してそう言った。


 国境の関所近辺の宿で1泊した一行が、翌朝無事滞りなく中ノ国に入ってしばらくすると、その日もよく眠っていたはずの劉煌が、突然顔をしかめうん?と言って目を開けると、そのまま何も言わずに立ち上がり、馬車から出て御者に「用を足したいので止めてくれ。」と告げた。御者が馬車を止めると、劉煌は近寄ってきた警護兵に「女性が乗っているから、少し遠くで用を足す。心配ないからついてくるな。」と耳打ちするや否やサーっと茂みの中に消えていった。


 中ノ国は今日も濃霧であったが、忍者もといくノ一の訓練をつんだ劉煌にとって、それは全く問題ではなかった。劉煌は、木々をぴょんぴょんと飛び跳ねながら進み、ある木に着いた時、一番下の太い枝に腰掛けると突然上を向いて「僕はもう首なんじゃ無かったの?」と言った。


 すると、その木の上の枝に足をひっかけた女が、劉煌の顔の横に自分の顔を見せると「いい生活している割には、衰えていないね。」と言って笑った。


「お陸さん、久しぶり。会えてとっても嬉しいよ。」と劉煌が言うと、お陸はスッと劉煌の横に座ってきた。

「私もだよ。来るって聞いたからさ、どうしても顔を見たくなっちまって。嫌だねー、年取ると涙もろくなっちゃって。」

 彼女はそう言いながら、劉煌のおかげでしわ・しみ一つ無い手で、同じくしわ・しみ一つ無い顔をぬぐった。


「私がいるのがわからないかなと思っていたけど、思ってたよりずっと早く気づいてくれたよ。もうこれで思い残すことは無いし、あんたもお連れを長く待たせてたらまずいだろう。」と言って枝の上で立ち上がろうとするお陸の腕を劉煌が素早く取ると、「お陸さん、実は折り入ってお陸さんに頼みたいことがあるんだ。調べてもらえるかな?」と聞いてきた。


 するとお陸の顔つきは、”あのお陸姐さん”に変わり、すぐに身体を屈めると劉煌の口元に自分の耳を近づけた。劉煌が話し終わると、お陸姐さんは劉煌の顔をしげしげと眺めてから、「これは高いよ。」とだけ言って、劉煌が幾らでもと答える前にもう消えていた。


 ~


 中ノ国の皇宮門前に到着した時は、祭典より1週間も前だったせいか、野次馬一人おらず、全員がセキュリティーチェックを難なく通過できた。


 中ノ国の皇宮内に入った劉煌は、突然両腕をばーんと広げると「あー懐かしい!」と叫んだ。


 それに気づいた女官の一人が、劉煌の前に来て彼の顔を見るや否や、「きゃー、小高御典医長!」と叫んで、その場で両手を胸の前で組んで飛び跳ね始めた。

 その声に気づいて、近辺にいた女官達が一斉に「きゃー、きゃー」と言いながら劉煌に向かって駆け寄ると、彼の周りには、あっという間に何重にも人垣ができた。

 これに気をよくした劉煌は、左手の指先を左の額にちょっと当てて斜め下を向く得意のポーズを決めると、「まあ、皆さん、今日もご機嫌麗しゅう。」と低い声で言ったので、更に女官たちが彼に引き寄せられていった。


 遠くから休めの姿勢で腕を胸の前に組んでそれを見ていた白凛は、「中ノ国に行きたがるのも無理はないか。」とボソっと言ってから隣を見ると、張麗は前方に顔をむけたままムスっとしていて、彼女の持ち物を持つ手は必要以上に力が入り白くなっていた。


 ”へえーれいちゃんも太子兄ちゃんのことが好きなんだ。”

 ”これは、早く調べないと。”


 そう思った白凛は、「じゃあ、私はこれで失礼するね。」と言うと、え、、と言って腕を差し出した張麗に向かって、手を上げて「れいちゃん、またね!」と言って馬に乗って去って行ってしまった。


 その場でどうしようと思っていた張麗にやっと気づいたのか、人垣を掻き分けて劉煌が彼女に近づくと、「あれ、白将軍は?」と聞いた。ムスっとしたまま張麗は、「凛姉ちゃんはもうとっくに行っちゃいましたよ。」と彼と反対方向を向いてそう言うと、劉煌は「そうか。いやー、参ったな。こんな歓迎を受けるとは思わず。」と言って懐から手鏡を出すと、髪の乱れが無いかのチェックをし始めた。それを見た張麗はますます機嫌が悪くなり、「小高御典医長はここに何をしにいらしたんですか!」ときつめの口調で問うた。


 彼女の機嫌の悪さに気づくことなく、鏡のチェックが終わってホッとして、張麗の方を見た劉煌は、彼女が自分を睨んでいることにようやく気づいた。


「あ、とりあえず皇后陛下の所に行きましょうか。」

 苦笑しながら劉煌はそういうと、スタスタと歩き出した。そしてその後ろを何故かぷんぷん怒っている張麗が続いた。


 皇后楼の長い階段を上り劉煌が戸をノックすると、中から生気の無い顔をした皇后付きの女官:木練がよろよろと出てきた。


 木練を一目見るなり、「どうしたの?」と劉煌が言った方が早かったのか、それとも劉煌を一目見るなり「小高御典医長ぉ~!」と木練が言った方が早かったのか、わからないまま、木練はその細い腕を開いて、劉煌に飛びついてきた。


 木練は劉煌に抱きついて泣きながら「皇后陛下が、皇后陛下がっ!」と言うと、彼の顔を見て、「お待ちしておりました~!」と言って、そのまま地面に泣き崩れ落ちてしまった。


 あまりのことに訳が分からない張麗がとりあえず地面に突っ伏している木練を抱きかかえると、劉煌は、もの凄い勢いで楼の中に飛び込んで「小春!小春!」と叫んだ。


 “こはる!?”

 ”こはるって、もしかして、小高御典医長の初恋の人?その人が中ノ国の皇后陛下?!”

 あまりのことに、木練に手を貸しながらも激しく動揺した張麗が楼の中に入ると、奥から男と女の激しいやり取りの声が響いてきた。


「あいつ殺してやる。なんでこんなになるまでほっておくんだ!」

「そんな滅相な。陛下もほうぼう手を尽くしたんだよ。国中の名医という名医にみせたんだよ。」

「なんで私にもっと早く言わないんだ!」


 張麗がそっとその声のする部屋を覗いてみると、青白く頬のゲッソリこけた女性がベッドの中でぐったりと横たわっていた。


 これを見て張麗の中の医師モードが発動すると、張麗は突然部屋に「失礼します。」と入るなり、手を伸ばして劉煌の首根っこを掴むと、そのまま彼を部屋の外に乱暴に連れ出した。

 あまりのことに劉煌が「何するんだよ!」と言って手を払おうとすると、張麗は今迄見たこともないほど怖い顔をして、「何するんだとは何ですか。患者の前で大声を出して!」と、相手が彼女の上司なのに彼を叱った。そしてそれに驚いている劉煌に向かって「とにかく治療が先です。あなたは引っ込んでいて!」と命令すると、唖然としている劉煌の前で息を整え、静々と皇后の間に入っていった。


 張麗は付き添いの女性にお辞儀をすると、「西乃国靈密院の医師張麗と申します。早速ですが皇后陛下のご様子を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?」と、先ほどの行為とは違って上品に微笑んで言った。


 付き添いの女性は疲労困憊な顔をして、「ありがとうございます。お願いします。私はこの子の母で備前清聴と申します。」と言ってお辞儀をした。


 張麗は脈取台を取りながら、「皇后陛下のお母さまでいらっしゃいますか。お母さまがお側におられるなら、すぐ良くなりますよ。」と清聴に向かって微笑んでそう言うと、今度は「失礼しますね。」と言って、意識のない皇后の腕を取って脈取台の上に乗せ、目をつぶって脈を取り出した。うんうんと頷きながら脈を取っていた張麗は、脈を取り終わると、台を取り、皇后の腕を下してそれをそっと布団の中に入れた。そして清聴に向きなおすと「失礼ですが、皇后陛下は、ご結婚前どちらでお暮らしでしたのでしょう?何と申しますか、とても生命力が強いというか、失礼ながら身分が高い方にありがちなひ弱さが全く無いと申しますか、、、」と言いにくそうにそう言うと、清聴は突然吹き出して大笑いを始めた。


「いやー、張先生、蓮が連れてくるだけあって本当に名医だね。」と笑いながらなんとかそう答えると、「その通り、田舎の小さな村の尼寺で育ちました。」と付け加えた。


 張麗はその時、この清聴と名乗った尼が、みなしごだった小高蓮を助けたお方に違いないと思った。


 ”ということは、小高御典医長の初恋の人というのは、彼を助けた尼さんの娘で、一緒に育った幼馴染、、、そして今は中ノ国の皇后。”

 そう張麗は頭の中で今までの情報を整理すると、ベッドに横たわる小春をじっと見た。


 目の大きさは誤魔化せても、鼻の形や顔の大きさは、寝ていても誤魔化せる訳ではない。

 おおよそ美の基準から逸脱している寝顔を見ながら、張麗は複雑な気持ちになった。


 ”田舎の尼寺の娘で、とりたてて美しい訳でもないのに皇后になっているというのもぶっ飛んだ話だけど、まさか小高御典医長は、彼女を追って中ノ国の御典医長になったのかしら?

 もしそうなら、皇帝から皇后を奪おうなんて、滅茶苦茶ロマンティックな人か、、、ただの無謀な大馬鹿かのどちらかだわ。”


 張麗がそう思うと、ここに到着した時の女官たちに囲まれてポーズを決めている小高御典医長の姿が頭にふと浮かんできた。

 

”…ま、後者だわね。”と結論に達した瞬間、張麗はハッとして首を振り、思いを払拭すると、医師モードに戻り、更に診察を続けた。


 30分程いろいろ診た張麗は、「大体どういう感じかもわかりましたし、多分こういう治療をすればいいのではという方向性も見えてきました。次に小高御典医長にも診ていただいて、二人で見立ての照合と治療法の検討をしてから、治療方針については皇帝陛下にご相談ということでよろしいでしょうか?」と清聴に提案すると、清聴は惚れ惚れした顔で張麗を見つめながら「先生、美人だねー。」と訳の分からない返事をしてきた。


 張麗が戸惑っていると、だいぶ落ち着いたのか劉煌が静かに入ってきて「それでいいよ。」とだけ言い、今度は彼が小春の脈をとり始めた。


 張麗は静かに部屋をでると、部屋の外で心配そうに立っている木練に声をかけて、お茶を飲みに誘った。


 水屋で木練がお茶を入れようとするのを制して「私がやります。あなたは腰掛けていて。あなたにも治療が必要だと思いますから。」と言うと、張麗は茶を入れた。


 木練は言われた通り、ダイニングに座っていたが、あまりの良い茶の香りに思わず、「いい香り」と言うと、張麗は微笑んで「さあ、どうぞ。」と彼女に御湯呑みを手渡しした。木練は、しばらく香りを嗅いでいたが、一口飲むと「美味しい」と言って、目を輝かせた。

 張麗は木練の前に跪くと「脈をとらせてください。」と言ってから彼女の脈を取り始めた。


「心の病。」


 それだけ張麗は言うと、木練を見上げて微笑んで、彼女の隣に座って彼女の手を取った。


「皇后陛下のことを大切に思っていらっしゃいますね。大丈夫だと思いますよ。私の見立てだと、皇后陛下はたぶん身体の反応が激しい方だと思うんです。調子がいいときはすこぶるよくて、悪いとガーンとどこまでも落ち込むような。」と張麗が言うと、木練は張麗にまるですがるような感じで「その通りです。」と言って目に涙をいっぱい貯めた。


「そういう方は調子の悪いとき、復活するために周りの人の気も集めます。あなたが一緒に落ち込んでいると、皇后陛下もあなたもどちらも悪くなります。だからあなたがモリモリ食べて、明るく元気で居ればいるほど皇后陛下は治りやすくなります。」


 張麗はそういうと、先ほど水屋で見つけたお菓子を「食べましょう」と言って半分に割って木練に渡した。彼女はお茶と一緒にそれを食べた。


「なんか元気が少し出てきたように感じます。」

 木練の感覚は気のせいではなく、本当に顔色もずっと良くなっていた。張麗は残り半分のお菓子を木練の手に持たせ「夕飯もしっかり食べてくださいね。あと皇宮医院でこのお薬を調合してもらってください。これであなたは大丈夫です。」と木練に紙を渡してからすくっと立ち上がった。


 張麗はまた水屋に戻ると、お茶を入れた。

 お盆に2対の御湯呑みを載せると、皇后の居室に向かった。


 皇后の居室の扉の前で中の様子を伺うと、劉煌が振り向きもせずに「張麗、入ってくれ。」と言った。


 張麗は礼儀正しく「失礼します。」と言ってから部屋に入ると、劉煌の診察がちょうど終わったところのようだった。


 張麗の持っているお盆から大きい方の湯飲みを掴むとぐいっと一気に飲んだ劉煌は、大きい湯呑みをお盆に返して、小さい方の湯飲みを手に取った。すると張麗は、今度は清聴の方を振り返り、まず大きい湯飲みに入っているぬるい白湯を勧めた。やはり喉がカラカラだった清聴は、一気に飲み干すと、張麗がその湯飲みからお茶の湯飲みに変えて清聴に渡し、張麗はお盆と1対の大きい湯飲み茶碗を持って部屋から出ていった。


「へえー、このお茶美味しいね。何日かここで暮らしてるけど、こんな美味しいお茶は出たことがないね。」と言って清聴が目をつむりながらお茶をすすると、「ねえ、黙ってないで、なんか話しておくれよ。どうだい、そっちに戻。。。」と清聴が言いだした途端に、劉煌の顔は険しくなり清聴を睨むと、「それは言わない約束だと成多照挙から聞いていないのか?」と低い声で聞いた。


 清聴は、首を搔きながら「言われたような、あ、つい忘れちゃって。ごめん。」とばつの悪そうな顔をして笑ってそう言うと、今度は声を潜めて「でも3か国の祭典はどうするのかい。」と座っている身体をさらに屈めて聞いた。


 「その時までには話したいと思っている。」と劉煌が俯いて言うと、清聴が突拍子もない声で「ええ?彼女知らない…」と言い始めたので、劉煌は慌てて清聴の口を手で押さえ、「黙ってて。お願い。」と懇願した。


 劉煌は頃合いを見計らって清聴の口から手を離すと、清聴は口チャックのハンドサインをしてから合掌してお辞儀をした。


 ~


 張麗は水屋にいた。


 劉煌がふと台に目線を移すと、張麗はどうも茶器を拭いて陰干ししているようだった。

 彼女は劉煌が来たことに気づくと、彼の方を振り返りもせず「気分は落ち着きましたか?」と聞いた。

「ああ。」と劉煌は言うと、水屋に入ってきて、お茶の湯飲みを2つ流しに置いた。そして流しに後ろ向きにもたれかかると、横にいる張麗を見た。


 彼女は、茶筒を棚から取って、その外側を拭いてはまた棚にしまっていた。


 劉煌は、張麗がまた茶筒を取ろうと手を伸ばしたのを見ると、その手を素早く掴んだ。手を掴まれた彼女はぎっと劉煌を挑戦的な目で見ると、劉煌はその目をしっかり見て「カンファレンスをしよう。」と言った。


 張麗は、劉煌の手を払うと、「いいわ。まずは小高御典医長の見立てから伺いたいわ。」と言うと、そこにある紙と筆を取った。


 二人の見立ては、ほぼ同じで、治療方針もほぼ同じだったが、劉煌が妊娠に影響のない薬を使うことを提案したのに対し、張麗は薬は使わないという点だけが異なった。張麗は、薬を使うか使わないかは後にして、とりあえず鍼で気を整えて、気の通り道を確保したいというと、劉煌もそれに賛成した。


「では鍼の結果を見て、また次のことはあとで考えよう。とりあえず、皇帝陛下に挨拶がてら治療方針を打診してくるよ。それまで治療は待ってて。」


 劉煌はそう言うと水屋から足早に出ていった。


 張麗は、皇后の居室に戻ると、清聴にお辞儀をしてから皇后の横に座り、彼女の手を取って背中を優しくさすった。


 清聴は、「張麗先生は若いのに凄いお医者さんなんだね。」と言うと、張麗は皇后の背中をさする手を休めず清聴に向かって首を傾けた。


「蓮が連れてくるってことはさ、相当優秀なんだと思う。」と言うと、清聴は張麗の側までとことこやって来て、小さい声で「ところで、蓮とはどういう関係?」と単刀直入にズバっと聞いてきた。


 それに驚いた張麗は、突然手を止めて飛び上がりながら


「何も関係ありません!あちらは御典医長で、私は靈密院の医者なだけです!」


と、顔をひきつらせながら焦って答えた。

 清聴は張麗の動揺ぶりに自分の聞き方がまずかったと素直に反省し、なんとかその場を取り繕おうとした。


「ああ、ごめん、ごめん。気を悪くしないで、そういうつもりで言ったんじゃないの。大体、あなたは、蓮のタイプじゃないし。」


 フォローのつもりが、清聴は、張麗が聞き捨てならないことを口走ってしまった。


 小高蓮のことが好きになっている張麗にとって、彼の母親のような存在が、”自分が彼のタイプではない”と言い放った言葉に、彼女は怒りでムッとしながらも、『皇帝と御典医長の禁断の愛』の噂を思い出し、下を向くと「男性がお好きだからですか?」とこれまた単刀直入に返した。


 それを聞いた清聴は、「は?」と言うと、何を誤解したのか、慌てて


「私はこう見えても尼僧だよ。男とはもう縁を切っているんだよ。絶対してない!」


と言いだした。


 張麗はこの珍回答に唖然とした後、相好を崩してクスっと笑うと「違います。小高御典医長は女性より男性がお好きなのではないかということです。」とズバッと正確に言った。


 それに清聴はまた、「は?」と言ってから、「それはないね。どうしたらそう思うんだい。」と苦笑しながら言うと、張麗は西乃国での噂を清聴に話した。


 それを聞いた清聴は、すぐそこに自分の娘が瀕死の状態で横たわっていることも忘れて、腹を抱えて大笑いを始めた。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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