第三章 模索
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本来であれば謀反を起こした者は、共犯者も一族郎党全員死刑、それも公開斬首である。
そして、その首謀者に至っては、肉を少しずつ削って殺す凌遅刑がこの参語圏3か国のならわしである。
しかし、劉煌は劉王朝高祖を助けた彼らの先祖に免じて、今回クーデター未遂の貴族たちを死刑にはしないと朝議の場で語った。
朝廷に出ている官職たちが一斉に困惑の表情を浮かべざわめく中、法捕司卿の王政が中央に躍り出た。
「陛下に申し上げます。謀反は、最も重い罪、それでは下々に示しがつかないのではないでしょうか?」
王政の再犯を心配しての進言だった。
「死刑にはしないが、勿論刑罰は与える。まず土地・財産を全て没収し国庫に入れ、全員身分を平民とする。そして西端の砂漠地帯に流刑とし、一族郎党全員京安から永久追放する。」
氷のように冷たい劉煌の声に、朝廷の間にいる者達は真夏だというのに背筋がぞーっと凍り、辺りはシーンと静まり返った。
「信じてくれ、はっきり言って、今まで甘い汁をすすってきた者達にとって、この刑は死ぬより辛いはずだ。すぐにあの時公開でも斬首にしてもらった方がずっと良かったと思うだろう。」
そうダメ押しする劉煌に、信じるも何も、その場にいる者の大半が辛酸をなめて生きてきた者達だったので、この刑がいかに生き地獄であるのか言わなくても彼らはよくわかっていた。
震えあがっている官職たちを見て、劉煌は宣言した。
「よいか。ここにいる者は、皆、朕の信頼を得ている者達だ。
知っての通り、手当も公僕でありながら民間の倍以上だ。
何故かわかるか?
それは汚職を避けるためだ。
前にも申した通り、袖の下、献金、度を越した贈り物等、不正に繋がる恐れのある行為は全て禁止だから、その分が上乗せされている手当なのだ。
万一これらを受け取った場合は、朕の信頼を裏切る行為になるのだから、謀反と同じことだ。
よって謀反と同じ厳罰に処す。
すなわち原則死刑だ。
情状酌量になっても、今回の謀反人たちと同じく死んだ方がましな思いが待っている。
これは本人だけではない。家族も対象だから、皆家族にもくぎを刺しておくように。
決して朕の信頼を裏切るでないぞ。」
官職たちはその場でひれ伏しこう言うしかなかった。
「わかりました、陛下。肝に銘じます。」
その日の朝のお勤めの後の迎賓館での官職たちの昼食会は、まるで葬式の場にいるかのような暗さだった。
いつも官職たちのムードメーカーで明るい元質屋の番頭、現大蔵長官の陳義でさえも暗~い面持ちで食欲すらなくなっていた。
その横で食欲だけは絶対になくなることのない孔羽が、一人でパクパクとテーブルの上の物を、いつものように美味しそうにいただいていた。
そんな孔羽を陳義はしばらく横で眺めていたが、とうとう彼に向かってこぼし始めた。
「宰相はいいですね。あんな話を聞いても、食欲が落ちないなんて。陛下の幼馴染で恩人だから特別扱いなんでしょ。」
「そんな訳ないよ。陛下はそれはそれ、これはこれの人だから。もしおふくろが袖の下もらっていたら、完全にアウトだ。」
「それなら、どうして食欲が落ちないんです?」
「だって、もし貰っていたらもうこんな御馳走にはありつけないだろう?だから食べておく。」
「・・・・・・、心配じゃないんですか?」
「心配したってどうしようもないじゃない?もう親だっていい年だから僕の言うことなんて聞かないから、どうすることもできないよ。まあ、これはある意味賂死暗ルーレットみたいなもんさ。だから今のうちに食べておく。」
陳義は、孔羽を訝し気に眺めてから視線を食卓に移したが、やはり食欲は戻らなかった。
しかし、陳義はここでハタと気づいてしまった。
向こう側からも箸が出て、なんとおかずをつついているのだ。
陳義が顔を上げると、なんと向かいに座っている大将軍の李亮も宰相に負けず劣らずバクバクと食べていた。陳義はあたりを見回したが、やはりこの2人以外箸が進んでいる者はいなかった。
”やっぱり陛下の幼馴染は別格なんだ、、、”
陳義がそう思った瞬間、ようやくだいぶ腹が満たされてきた孔羽が李亮に向かって口を開いた。
「大将軍はいいな。家族が誰もいなくて。家族リスクがゼロってかなりのアドバンテージだ。」
「お前そんなこと言うけど、10歳から丁稚奉公したかったか?」
「いやだ。」
「じゃあ、そんなこと言うな。それに今はそうでも俺だって家族ができる可能性はある。そしたら自然に家族リスクができる。だが、俺はそれでも妻を娶るし、子供を作ることを選ぶ。」
「ま、家族ガチャだな。」
そんな二人の会話を横で聞きながら、陳義は大きなため息をついた。
~
その日の午後、検死時間が近づいてくると、劉煌は落ち着きが段々となくなってきているのを自身でも感じていた。
”彼女は今日、来てくれるのだろうか。。。”
開業医継続研修が終わり、トボトボと検死解剖室に向かった劉煌は、準備室の前で一つ大きく深呼吸してからその部屋を開けた。すると、検死解剖室でもう台の上に乗っている遺体の外観目視に入っている張麗の後姿が目に入った。
劉煌はホッとしてふっと微笑むと、自分の準備を整えて検死解剖室に入り、「こんにちは。」と挨拶をした。
張麗は、検死を止めて、劉煌の方を振り向くとやはり「こんにちは。」と挨拶をした。
劉煌は、すぐに張麗と検体を挟んで反対側に行くと、外観目視を始めた。張麗はしばらくそこに立っていたが、検体に視線を戻してまた劉煌の反対側で外観目視に入った。
無言の圧力に耐えられなくなった劉煌は、「白将軍が越してくるそうね。」と検体の手を確認しながら張麗に話しかけた。張麗は、「ええ。」とだけ答えて仕事を続けた。
張麗との会話が続かないのは想定済みの劉煌は、検体の手を台に降ろすと、「彼女の荷物の搬入もあるけど、簡易厨房設備の工事も入るみたいだから、うるさくなるかもしれないけど、我慢してね。」と言いながら、検体の足の方に進んだ。すると彼女も流れから検体の足の方に進んだため、検体の足元で二人は鉢合わせになってしまった。
劉煌は、彼女の邪魔にならないように右にどくと、張麗も彼の邪魔にならないようにと左によけたので、また鉢合わせになってしまうと、張麗は「すいません。」と言って苦笑した。
苦笑であっても彼女が笑顔になったことに少しほっとした劉煌も「私の方こそ。」と言うと、「今日のは簡単そうだな。鋭い刃物が胸を貫通していたようだから。」と付け加えた。張麗も「そうですね。念のため他も見ますけど」と言うと、いつもの流れで解剖を始めた。
案の定、解剖を進めても、他の死因の可能性や他殺の動機に至るような可能性のある現象は何も見つからなかった。
解剖が終わり全ての片づけを終えた時、劉煌は思い切って「食事どうする?」と彼女に聞いてみた。
張麗は驚いて劉煌を見ると、すぐに下を向いて消え入るような小さい声で恥ずかしそうに彼に聞いた。「他に中ノ国料理の美味しいお店はありますか?」
劉煌は心底ホッとして微笑み「では、桃源香に行こう。」と言って、先に張麗を部屋から出すと、部屋の鍵を閉めた。
それからは、あのわだかまりは無くなったかのように、二人で歩きながら普通に話し、普通に店に入り、普通に食べた。
店からの帰り道は、気が付かないうちにもう季節が真夏になっていることを感じさせるほど、真っ暗な夜であるというのに風が生暖かった。
”そう言えば、今度の日曜は夏の花火大会だな。”
と劉煌は思った。
西乃国は太古から硫黄、硝酸カリウムがよく取れるので、それを利用した花火制作が数百年前から盛んであった。そのためもう何百年とその集大成を年に2度花火大会として全国各地で同日同時刻に開催していた。
西乃国の皇太子として生まれながら、その半分以上を中ノ国で過ごした劉煌は、この伝統行事の在り方を改めて全然知らないことに気づいた。
「京安の夏の花火大会はどんな感じなの?」
「京安は凄く賑わいます。毎年その日だけはみんな楽しそうでした。出店がそこら中に出て、昼より夜の方が明るい感じ。」
張麗はそう言うとニッコリと歯を見せて笑った。
「そうか。出店が沢山でるのか。一緒に行かない?」
話の流れを利用して、劉煌はサラッと軽い感じでこう張麗を誘うと、張麗はそこで立ち止まり、それには答えないで、劉煌の方を振り返ると彼の目をジッと見つめた。
しばらく彼の目を見ていた張麗は、視線を右上に変えるとニッと笑って「いいわ。」と答えた。
劉煌はとても嬉しそうな顔をしたが、「白将軍も誘う。」と張麗が続けて言うと、途端に思いっきり嫌そうな顔をした。
劉煌はふてくされながら「女2人と男1人じゃ絵にならないわ。」と呟くと、「誰が女2人と男1人って言いました?」と張麗はふんと鼻を上げて「大将軍もお誘いするんです!」と嬉しそうに付け加えた。
「えええ?!」
劉煌は驚いて素っ頓狂な声を出すと、張麗は数日前の白凛とのガールズナイトの翌朝の出来事、すなわち大将軍が友鶯宮の前で白凛を心配して待っていた件を劉煌にとくとくと説明した。
その話を聞いて、劉煌はすぐに白凛が言ったことを思い出した。
『うちの親は、私を太子兄ちゃんの皇后にさせたくてしょうがないのよ。』
自分の身分が、自分の最も大切な親友たちの恋路にまで影を落としていることを痛感した劉煌は、真面目な顔をして彼女に冗談なのか本気なのかわからない答えをした。
「わかった。医者二人が大将軍、将軍を従えて行こう。」
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