表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/87

第三章 模索

9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。

しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。


彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々皇帝として邁進していた。さらに、祖国の政治だけでなく医療もお粗末になっていると気づいた医師としても一流な劉煌は、ひょんなことから自ら御典医長も兼務することになり、仮面をつけている時は皇帝、素顔の時は御典医長の小高蓮と、二重生活を送ることに。そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそういう時に限って運命の女性が現れる。


果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 目をつむって脈を取りながらうんうんと頷いていた張麗が、目を開けて老女の顔を見てニッコリと笑った。

 「梁夫人、すごく良くなって来ましたね。」

 梁夫人と呼ばれた年老いた淑女は「先生のおかげです。」と深々と頭を下げた。

 「この調子なら、もうお薬はいりません。今迄の通り、食事とお身体を動かすことを守っていただければ、もうわざわざ来ていただくことはないと思いますよ。」と張麗が言うと、廊下で聞き耳を立てていた梁途が「いえ、先生、家族としては心配なので、まだしばらく毎月1回は診ていただきたいです。」と口を挟んだ。


 ちょうどその時、白凛がやはり壮年の女性を連れて梁途が立つ廊下にやってきた。

 白凛は梁途を見るや否や戦闘モードにシフトすると、梁途に向かって「なんであんたここにいるのよ。」と冷たく言った。


 梁途は、”まずいところでまずい人間に会った”と思いながら、「前も言ったと思うが、張麗先生は母のかかりつけ医なんだ。」と白凛とは違う方向を見ながら答えた。


 こうして張麗の診察室前の廊下には、あっちを向いている梁途、それを睨みつけている白凛と、彼女を心配そうに見ている女性の3人が立って、異様な空気を醸し出していた。


 ほどなくして、張麗が引き戸を開けて、患者を梁途の所に誘導すると、梁途が「また来月もお願いした方がいいだろう、母さん?」と必死に目くばせしながら言ったのにも関わらず、梁途の母は「先生もお忙しいんだし、先生がもう来なくていいと言ってくださっているんだから、もう来なくていいだろう。」と息子の手を取ってポンポンとその手を意味深に叩いた。

 彼女はそのまま張麗の方に向き直って「先生、ありがとうございました。また調子が悪くなったらお願いします。」と言って深々と頭を下げた。

 張麗は「勿論ですとも。いつでも。でもそんなことが無いように祈っています。」と笑顔で言うと、梁途に向かって「禁衛軍統領さまのお仕事もお忙しいでしょうから、今迄毎月大変でしたね。もうお仕事に専念できますよ。本当に良かったです。」と言うや否や、すぐに白凛の方に向きなおって、「それでは奥様、お嬢様とご一緒にどうぞ。」と言って白凛と彼女の母を部屋の中に入れて引き戸を隙間なくぴっちりと閉めた。


 梁途が、がっくりして、目の前で閉められた引き戸に向かって「くそ!」と小声で呟くと、それを聞き逃さなかった梁途の母がしびれを切らして啖呵を切った。

 「全くいい加減におしよ。他の医者の所には連れて行ってくれたことなんかないのにさ。何が家族としては心配だよ。もう何年もその手が通じてないんだから、私をだしにするのはいい加減やめておくれ。」


 母からすっかり見透かされていたことを知った梁途は、恥ずかしさのあまり真っ赤になりながら、さーっと母親を小脇に抱えると、猛ダッシュでその場から走り去った。


 廊下の様子が筒抜けだった診察室では、当惑している張麗の前で、白凛が腹を抱えて笑っていた。


 その様子を見て、母親は、娘を一にらみすると、

「はしたない。おやめなさい。まさか、皇帝陛下の前でそんな恰好をして笑っていたりしないでしょうね。」と言うと、白凛も負けじと母を睨み返して「してたらどうするの。」と聞いた。

 白凛の母はこれを聞くと下唇をかみしめて、わなわな震え始めた。


 この様子を見ていた張麗は、「少しお待ちくださいね。」と言って席を立ち、しばらくしてからお茶を持って戻ってきた。


 そしてお茶を二人に差し出すと、どうぞと言ってお茶を飲ませた。


 ようやく落ち着いた患者に問診をすると、まず更年期障害のようだった。


 脈・舌・腹診でもやはりその兆候がみられたので、年を重ねた女性に多くみられることを説明し、不快症状を緩和させる薬を使うか、年月が経てば自然と収まることなので薬を使わないか、どちらでも問題ないことを伝え、今どちらかの判断をしても、気が変わればいつでも変更できることも説明した。


 彼女は薬を使いたくないとのことだったので、張麗はそれを尊重すると話して診察を終了したが、帰ろうとする二人を張麗は診察とは別にプライベートでお話ししたいことがあると言って引き留めた。


 何かと思って白凛と母が構えていると、張麗は、白家と白凛がよければ、できれば白凛に自分のルームメイトになって貰いたいと思っていると話した。白凛の母は始めはいい顔をしていなかったが、張麗が住んでいるのが、皇宮内の独立した建物である友鶯宮であると知ると、急に方向転換し、是非にと言いだした。


 「お母さま、お父さまの許可なしで大丈夫なの?」珍しく心配そうに白凛が母親に向かって聞いた。

 「大丈夫よ。皇宮内で、しかも女官の宿舎じゃない立派な独立した友鶯宮なんて素晴らしい名前がついている所なんて、こっちが願っても住める所じゃないんだから。いい、ちゃんとメイクしてもっとお嬢様らしい装いにするのよ。そうだわ、帰りに呉服屋さんに寄りましょう。」

 白凛の母は手を叩いてそう言うと、張麗に挨拶することもなく、上機嫌でサッサと出口に向かって行った。


 白凛は、張麗に両肩をすくめて見せると「ありがとう。」と囁いて、母を追いかけた。


 ~


 その日の晩、公務が終わって劉煌が天乃宮に戻ると、宋毅がいつものように彼を出迎えたが、いつもとは違って、今日は白凛が待っていると彼に伝えた。


 先日頼んだ話の件と思った劉煌は、手を洗って着替えると、すぐに白凛が待つ応接間に行った。


 「お待たせ。」と言いながら入った劉煌は、白凛の姿を見るや否や「ど、どうしたの?」と言って、慌てて白凛の側に駆け寄った。


 白凛は、シャープな感じの美人さんだ。

 ノーメイクでカットの鋭い着物をいつもスタイリッシュに着こなしている。自分自身に何が似合うのか、本当によくわかっているのだ。


 それなのに、今日はピンクのコケティッシュなメイクにショッキングピンクの天女系の裾を引きずる着物を着ているのだ。しかもその着物の体幹部はボディコン、胸元や腕の先は、彼女が小さい時ですら拒否していた、たっぷりのひらひらまでついているのだ。


 劉煌が青ざめてどうしたのと聞くのも無理はない。


 白凛は、自分でもその恰好が浮いているのをよくわかっていて、「まあまあ。私の両親の趣味なだけで、私の精神状態は崩壊していないから。」と、頭からつま先まで自分の手で自分の姿を指さしながら不快そうにそう説明したのち「張麗さんの話。」と切り出した。


 白凛が自分一人では躓きそうになる着物で歩こうとしているのをサポートしながら劉煌が、彼女を席に着かせると、彼はすぐにテーブルの上の料理を勧めた。


「太子兄ちゃん、知ってる?この服、水1滴飲めないくらい締め付けられているのよ。」

 白凛は自分の置かれている現状について劉煌にそう説明すると、無駄に長い袂を上げて彼に着物の上半身部分を見せた。


 ”こ、これは、呂磨のコルセットよりも100倍たちが悪い!”


 劉煌はそう思うと、大慌てで宋毅を呼びつけ、すぐにテーブルから料理を下げるように伝えた。

 しかし、それを横で聞いていた白凛は、慌てて「あーちょっと待って。馬蹄糕だけは残しておいて。」と懇願した。


 それを聞いた劉煌は、白凛の本質は何ら変わっていないことに気づき心底安堵すると、彼女の希望通りにするよう宋毅につけ加えてから彼女に向かって「で?」と聞き始めた。


「今皇宮内の女官連中の間で最も旬な話題を教えるわね。」


 全く聞いてもいないことを白凛が話し始めたので、劉煌は「そんな事どうでもいいわよ。」と話を遮ると、「どうでも良くないわよ。それが原因なんだから。」と白凛が帯を緩めようとしながら言った。


「何。」と劉煌がつまらなさそうに聞くと、「太子兄ちゃんが、男色だって話。」とさらっと白凛は言った。


 これに劉煌は文字通り椅子から飛び上がって、「はあ?どーしたらそんな根も葉もない話が出てくるのよ!」と言って怒り狂った。


 白凛は劉煌のリアクションが面白いので、しばらく怒りのあまり狂ったように踊っている劉煌の姿を見ていたが、頃合いを見て「それが、意外に根も葉もあったりして。」と言って、爪をいじった。


 それを聞いた劉煌は白凛の方に身体の向きを変えると「何が根で何が葉なのよ!」とわめいた。


 それに白凛は、もったいつけて「そうね、、、言うならば、根が劉煌で葉が小高蓮。」と言ってぶーっと吹き出して一人で大笑いし始めた。


 全く意味のわからない劉煌は、テーブルを壊さんばかりの勢いでバーンと叩くと「全然意味わかんないわよ。ハッキリおっしゃい!」と唾を飛ばしながら言った。


 「だからね、皇帝と御典医長の禁断の愛!」白凛はそう言うと今度は腹を抱えて笑い出した。


 それでもなお意味がわからない劉煌は怒りを通り越して「はあ?」と聞くと、白凛は、劉煌を手で制しながら

「つまりね、太子兄ちゃんはうまく皆を騙せてるってことよ。皆太子兄ちゃんが皇帝で御典医長でもあるってことを知らないから、皇帝が短時間で御典医長に変身する時の髪とか着衣の乱れを、二人の間の真昼の情事と勘違いしているのよ。」

と言うと、またケタケタと笑った。


 その時、劉煌は、張麗が友鶯宮に引っ越して来た時の会話が脳裏に鮮明に浮かび、大声で「ああ!」と叫ぶと今度は頭を抱えてそこにうずくまってしまった。

 女官たちの噂話を裏付けるようなセリフを自ら張麗に吐いていたことに気づくと、劉煌は真っ青になって白凛に「どーしよう。」と今度は目に涙をたたえうるうるさせながら涙声で聞いてきた。


 白凛は、着物の無駄に長い裾を蹴とばしながら身体の向きを劉煌に向けると、

「張麗さんには誤解だと言ったわ。私の命かけてもいいって。ハハハ」と笑いながら言ってから、今度はシリアスな顔になって「でもこの噂、いい手かもしれませんよ。」と言った。


 大きな目にさらにいっぱい涙を貯めながら「どこがいい手なんだよぉ。」と劉煌が訴えると、白凛は「太子兄ちゃん、見て、私の姿。これ親が無理やりさせたんですが、何でさせたと思います?」と真剣に聞いてきた。


 劉煌が首を傾げていると、白凛はとうとうと語り始めた。

「太子兄ちゃん、私が5歳の時、親に太子兄ちゃんと会っているのがバレた時のこと覚えてる?あれから無理やり簪つけて遊びに行かされるようになったの。あれ以降8歳で太子兄ちゃんが居なくなるまで、親は私を太子兄ちゃんの皇后にすることを夢見ていたのよ。そしてまた大人になって太子兄ちゃんが帰ってきたら、また私を皇后にする気で私にこんな変な恰好させている訳。」

 そう説明すると、白凛は椅子から立ってもう一度自分の姿を頭からつま先まで指でさし示した。


 そして

「これ、私の親だけだと思いますか?朝廷の重臣は勿論のこと、国の官僚や貴族、地方の豪族でも、年頃の娘を持っている野心のある親は、誰でもみーんな自分の娘を皇后にしたくてしょうがないのよ。」と白凛が一気に言うと、劉煌も、先日の野心女官:柳美との面接時の会話も思い出し「そうか、私が男色という噂が立てば、婚姻を押し付けてくる輩が少しは減るか。」と顎に手を当てて考え始めた。


「とにかく張麗さんにはしっかりそれは誤解だと言っておきました。あ、あと、私、近日中に引っ越します。」と白凛は考えこんでいる劉煌にそう話しかけると、「張麗さんと一緒に友鶯宮で暮らすんで、今後ともどうぞよろしくお願いします。」と付け加えた。


「そんなの勝手に決めないでよ。」

「張麗さんは私をボディーガードと思っているみたいだけど、私は太子兄ちゃんのために一緒に暮らすつもりだから。彼女が何者なのか、四六時中側にいれば何か見えてくるかも。」

 白凛がそう言うと、劉煌はしばらく考えてから、「では家具調度品をもう一揃え搬入させよう。」と言った。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ