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第一章 現実

9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。

しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。


彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々邁進していたが、そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそんな時に限って運命の女性が現れる。


果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 千年に一人の天才劉煌は、今迄その千年に一人の天才の賦を目に見えて発揮する機会にあまり恵まれなかったが、それがとうとう日の目を見ることになった。


 劉煌は、この13年間の各省司の規則、文書等を彼の御所である天乃宮の応接間に運ばせた。彼はその文書の入った数十の挟箱の一つを持ち上げひっくり返して中身を全て床にぶちまけた。そして文書の山の前の床に直接あぐらをかき、目の前に7冊並べ、1冊数十頁はある漢字の羅列の文書を7冊同時に30秒で読みきり、次から次へとぽんぽん元の挟箱の中に入れていった。


 茶を入れながら、その人間離れした技を目撃した宋毅は、劉煌に茶を渡しながら恐る恐る聞いてみた。


「陛下、、、いったい何をなさっているので?」

「うん、これまでの中央の仕事内容を確認してる。」


 そう言いながら、次々と目の前にある文書を別の文書に変えている劉煌を見て、宋毅は「陛下、、、どうやって確認なさっておられるので?」と、両手を前でこすり合わせながらこれまた恐る恐る聞いた。


「全部読んでるんだよ。」


 宋毅は、【え】と【あ】と【あに点々】を足して3で割ったような音を口から放ちながら苦笑した。


 その音を聞いた劉煌は、文書から目を外し、宋毅から貰ったお茶をすすりながらいたずらそうな顔をして彼に聞いた。

「嘘だと思っているだろう?」


 宋毅はそれを聞いて真っ青になり、すぐにその場で跪き「陛下、滅相もございません!」と叫んだ。


 劉煌は、跪いている宋毅を笑って起こしながら「宋公公、いいんだよ。誰でも初めて朕の読書法を目撃すると懐疑的になるのさ、母上も、、、」と言ったところで、急に顔を曇らせて話しができなくなった。

 朗らかだった劉煌の突然の変化に宋毅は、この新皇帝の母親の死にざまを思い出し、激しく心を痛めた。

「陛下、、、」

 宋毅のその彼を呼びかける声に、深い心の底からのコンパッションを感じた劉煌は、彼の心がすこーしずつほんわか温かくなるのを感じた。

 彼は心の中で宋毅に礼をいいながら、取っていた宋毅の腕を強く握って「あの挟箱の中のどれでも1冊とって試してごらん。どこに何が書いてあるか朕に聞いてみて。」と挑発した。


 宋毅は、劉煌より10歳年上であるけれども、宦官の中では決して年齢的に年寄りの方ではない。

 いたずら心と好奇心から宋毅は劉煌の挑戦に乗り、劉煌が読み終わったとして外した挟箱の中をあさりだすと、ちょうど真ん中くらいにある文書を取り上げその文書名を唱え始めた。


「土木司、操世3年事業記録 48頁」

と宋毅が文書の題名と頁数を読み上げるや否や劉煌が口を開いた。


「つまるところ、国の財政を最優先として南岩県の農地治水事業を中断する。これによる弊害は皆無と考えられ、、、」

「わわわ!」


 文書を目で追っていた宋毅が驚きのあまり、そう叫びながら手から文書を床にボトッと落としてしまった。


 劉煌の能力&脳力を疑って彼を試した人は必ず宋毅と同じ反応をしていたので、それに慣れっこな劉煌は、彼が落とした文書を拾ってそれを読書済みの挟箱の中に戻すと、宋毅を見てニッコリと笑った。


「朕はこれで本当は6歳の時には既に博士に教える側になっていたのだ。皆には驚くだろうから9歳ってことにしていたがね。だから全省司の13年分の文書など、ものの1時間もあれば全て頭に入る。だから試験の問題なんてすぐに作れてしまうが、それを作って保管していれば良からぬ者が盗み見るとも限らない。だから当日まで問題用紙は作らない。また皆が朕のようにはいかないことを知っているから準備期間を1か月も与えたんだ。」


 劉煌と異なり、志願者は自分の専門分野だけおさらいすればいいだけなのだが、、、


 ”いや、それでも普通、1か月でも無理っしょっ!”宋毅は心の中で泣き叫んでいた。


 昔っから公明正大な性格の劉煌は、忍者、もとい、くノ一修行時の師匠だったお陸の影響でかなり融通という名のハードルが下がったものの、ことこの試験内容については融通を利かせることは全くなく一切誰にも何も話さなかった。


 勿論、彼の友達の五剣士隊隊員にも一切何も伝えなかったが、五剣士隊の中には冴えわたる山勘の男:李亮がいる。


 試験が実施されることが公式に発表された当日、李亮は他の3人の志願者達を呼び出し、試験に何が出るか山をはった。


 案の上、当初皆それに懐疑的だったが李亮は孔羽に科挙の時のことを思い出せばわかるはずだと言ったので、孔羽は渋々納得して、李亮の山勘に従うことにした。


 李亮は、彼に従うと言った孔羽の肩に手をかけると、梁途と白凛に向かってとうとうと語り掛けはじめ、最後には孔羽に話を振った。


「俺の山勘は私利私欲のためには全く使えないが、それが世のため人のための天意であれば100%当たる。だから太子の側に俺たちがついていることが天意であれば必ず試験は俺が言った所が出る。というか、それしかでない。それは、コイツの科挙で立証済みだ。そうだな?」

「悔しいけど、その通りなんだ。亮兄の勘は、それが天意なら百発百中だ。それは梁途だって知ってるよね。出羽島の賭博場事件、、、」孔羽が観念してそう梁途に伝えると、梁途は、1両が10万両に化けた事件を思い出し、ああ!とだけ言って目を白黒させた。それでも白凛はこの3人の男たちを訝し気に見て、李亮の勘を信じては、いなさそうだった。


 3人と別れて帰宅した白凛は、自分の部屋に知らない中くらいの大きさの挟箱が置かれていることに気づいた。彼女は脇差から剣をサーッと抜くとその挟箱の蓋を剣先でヒョイと持ち上げ、チラッと中身を見た。その中身が何なのかに気づいた白凛は、そのまま蓋を剣でバンと後に落とすと、慌ててその中身を確認した。


 なんとその挟箱には、この13年の中央省司及び国軍、禁衛軍と黒雲軍の文書、ようは武官志願者向けの出題範囲の文書がぎっしりつまっていたのだ。


 その箱いっぱい隙間なく埋め尽くされている文書の山を見て、白凛は気を失いそうになってしまった。


 とりあえず震える手を伸ばし、重ねてあった1番上の文書を1冊手に持ったものの、元々ジッとしているより身体を動かす方が好きな白凛は、集中して文書を、、、しかもつまらない文書を、、、読むことが不可能だった。


 結局白凛は、早々にその膨大な試験範囲を全て読むことをあきらめ、外れたら李亮のせいと腹をくくり?、彼の()()のところしか目を通さなかった、、、もとい、通せなかった。なぜなら1か月あっても、それがどの文書にあることなのか、探すだけで精一杯だったからである。


 そんな訳で当日、武官志望受験者の筆記試験会場に赴いた白凛は、ため息をつきながらもう実務実技試験と面接にかけるしかないと思っていた。


 ところが、彼女の懸念は「試験開始!」という号令で、部屋の前方上部に巻かれてあった掛け軸20軸が一斉に解かれ、書初めのような大きな、しかもかなりな達筆の楷書で1軸毎に1問問題が書いてある物の全容を見た瞬間一掃されてしまう。


 そう、白凛は、その筆記試験の問題を見て、李亮という男の彼女がまるで知らなかった側面に気づいたのだった。


 答案用紙に名前を書きながら白凛は思った。


 ”亮兄ちゃんは、参謀というより山師?本当に全部山はったところが出てるっていうか、それしかでていない!?”

 ”それにしてもあまりにも出来過ぎてない?もしかして太子兄ちゃんは、亮兄ちゃんにだけこっそり試験問題の話をしていたとか、、、”

 ”ふっ、それは無いわね。太子兄ちゃんの性格ではそんなことは絶対しない。”

 ”はっ!まさか亮兄ちゃん、試験問題をくすねたんじゃ!”

 ”亮兄ちゃんの性格ではそれはありうるけど、太子兄ちゃんの脇は決して甘くないから、それは物理的に無理ね、、、”

 ”ってことは、やっぱり亮兄ちゃんの山勘が当たったってこと?!”


「試験時間は、この線香1本が燃えつきるまでです。」


 試験監督を仰せつかった宦官が、そう宣言して初めて我に返った白凛は、慌てて答案用紙上にすらすらと筆を滑らせていった。


 1日目の筆記試験が終わり、受験者全員が迎賓館の控えの間に退避した時、それまでずっと緊張していた白凛は、初めてこの場所がどこであるのかに気づいてしまった。


 だだっ広い控えの間で互いに答え合わせをしたり、議論したりしている受験生たちを後目に、白凛はその場から一人離れ扉を開けて廊下に出た。


 廊下には劉煌と初めて出会った時に飾ってあった実物大の鎧兜を纏った人形が3体、時を感じさせることなく16年前と一寸の狂いもなく同じ姿勢で佇んでいた。


 白凛は俯き加減にふっと笑うと、16年前彼女が脇差を抜こうとした人形の前に立った。


 あの頃は何と大きな人形だろうと思っていたが、今ではその人形の兜は自分の顔の正面にある。彼女はまたふっと笑って俯いてからおもむろにその人形の脇差に手をかけた。


「なんだ、一日でも剣を持たない日を作れないのか。」

 そう彼女にかけられた声は、16年前の人の声ではなかった。


 白凛は微笑んで声の主の方を振り返り


「そうよ。私と剣は一心同体、切り離すことはできないわ。」と言った。


 その答えに李亮は大げさに両手を挙げて降参してみせた。


「それは大変だ。並みの男では君の相手は無理だ。。。だが、、、俺なら大丈夫だ。」


 自分史上最高にセクシーな流し目記録を更新する勢いで李亮は、そう囁いた。


 白凛は微笑んで頭をどうしようもないと振ってから顔を傾けて李亮を見上げた。


 彼女の方に一歩また一歩と近づきながらスッと手を伸ばして、李亮は人形の剣をかっこよく抜いてみせたつもりだったのだが、それは彼が思っていた重さでもなければ、キーンという音も立てなかった。


 15年ずっと想い続けてきた最愛の人の前で、全く格好がつかなかった李亮は、口をポカンと開けた呆けた顔で自分が引き抜いた木剣を見つめた。


 白凛はクククと笑いを押し殺しながら呆けている李亮の手から木剣を優しく取り、それを元の鞘に収めた。


「これが本物だったら陛下を襲えるでしょ?」

白凛は、16年前自分が言われたことをそのまま李亮に伝えた。


「たしかに、、、」

「ここでそう太子兄ちゃんに言われたのよ。16年前、、、初めてあった時。」

「16年前、、、というと太子は6歳か。まったくかわいげのないガキだな。」

「それより、どうしてわかったの?」

「その、、、お凛ちゃんの後をつけてきたから、、、」


 李亮はてっきり何故白凛がここにいるのを知っているのかと尋ねられたのかと思い、わざと声を1オクターブ低くし、ビブラートを効かせてそう囁いた。


「違う。そのことじゃない。試験のことよ。」


 李亮は、自分の狙った展開とはまた違ってしまったことに露骨にがっかりしながら普段の話し方で答えはじめた。


「だから言ったじゃないか。俺たちがまだ太子の側にいるべきだという天意ってことさ。」


 そう呟いたものの、気を取り直して李亮が今度こそと、積極的に白凛との物理的な隙間を埋めようとした時、彼の後ろから「じゃあ、僕はもうお払い箱だって言うことだ。」という不貞腐れた孔羽の声が響いてきた。


 李亮は内心”まったくいい時に、このお邪魔虫め!”と思いながら振り返ると、孔羽が腰の脇に手を当てて仁王立ちしていた。


 李亮は怪訝そうな顔をしてみせると、孔羽は「文官の試験は違ったんだけど。」と一言愚痴った。


 迎賓館の控えの間の前の廊下に、気まずい空気が流れ李亮はどう取り繕うか頭を巡らせていた時、まるで天の助けのように実務実技試験のアナウンスが流れ始めた。


 李亮はポンポンと孔羽の肩を叩くと「お前なら大丈夫だ。お前以上に実務がわかっている奴はいないからな。」と言ってから白凛の腕をガバっと掴んで逃げ出した。


「お凛ちゃん!受験会場遠いだろ、早く行かなきゃ!」


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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