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第三章 模索

いつもお読みいただきありがとうございます。

 こともあろうに武装集団は、街中のその皇帝一行に襲い掛かった一派だけではなかった。


 武装集団、すなわち謀反貴族の私軍の集団は、皇宮の前にも潜んでいたのである。


 彼らはやはり狼煙が上がったのを見て、ワーワーと鬨の声をあげながらなんとこともあろうに皇宮の銚期門に突入したのである。


 悪いことに今日は、皇帝の外出ということで、皇帝から皇宮で働く者たちへの特別休暇が出ていて、それは門番も対象だった。そのため銚期門にいたのはわずかに数名の禁衛軍の兵士達だけだった。

 いくら門番よりも強い禁衛軍の兵士が守っているとはいえ、多勢に無勢で、彼らはあっという間に反乱軍に倒されてしまった。勢いに乗った反乱軍は、計画より楽々と第一関門を突破し、意気揚々としてドドドと門の中へなだれ込んだ。


「攻撃開始!進め!」


 反乱軍がさらに深く侵攻しようと勢いに乗っていたまさにその時、突然そう命令する大きな男の声が、反乱軍の頭上から響き渡った。


 反乱軍の兵士達が何事かとガバッと声の方向に頭を持ち上げたまさにその時、皇宮内と門の内側で待機していた国軍の第一部隊が彼らに向かって前後左右から突撃し、あっという間に反乱軍の行く手を遮ったかと思うと、彼らを完全に包囲した。


 反乱軍はいったい何が起こったのか理解できないでいた。


 行く手を阻まれながら、反乱軍の兵士達は一様にどうしたらいいのかと右往左往し始めた。


 それなのに、銚期門の上から「今だ!打て!」という李亮の容赦のない掛け声がまた響いたかと思うと、国軍の弓矢部隊が反乱軍に向かって矢の嵐を容赦なくお見舞いし始めた。


 形勢は完全に逆転し、反乱軍の勢いは消失し、戦意喪失した多くの兵士がどんどん武器をバンと投げ捨ててその場で投降した。


 その一部始終を銚期門の上から余裕で見ていた李亮が叫んだ。

「反乱軍を全員捕まえろ!陛下がお戻りになられる前にこの場を元通りにしておくんだ!」


 これを聞いた反乱軍の一人がふふふと笑い出すと「何を言っている。劉煌は死んだ!我々が成敗したのだ!」と叫んで、不敵にワハハと大声で笑い続けた。


「何を言っているのはどっちだ。あの狼煙は陛下が上げたんだ。まさかお前ら、影武者を陛下と思ったのか?陛下はあの行列の中にはいなかったんだよ。その証拠に、どうして国軍がこんなところでお前らを待ち伏せしてると?どうして皇宮の人間に暇をやっていると?お前らの考えなど陛下には全部お見通しなんだよ。」

 李亮が親切に涼しい顔で、反乱軍の笑っている奴にそう教えてやると、そいつは途端に真っ青になり、今度は壊れたレコードのように馬鹿な馬鹿なと繰り返し言い続けた。


 一方、大通りでは、武装集団が襲い掛かった瞬間、馬車の傍の道端で大の字になって倒れていた皇帝(その実は影武者)は生き返り、バッと飛び起きるや否や、禁衛軍と皇輝軍を従えて、あっという間に武装集団を鎮圧した。そして梁途と白凛は屋根に上って隼を追い詰めていた。


 隼は形勢不利とみてその場でドロンと消えようとしたが、回転の途中で誰かに阻まれてしまい、消えることができなかった。


 焦った隼が「だ、だれ!」と言った瞬間、その口に猿轡をされ、彼女の両手は後ろでに縛られてしまった。そしてあれよあれよという間に彼女は全身縄で縛られがんじがらめになってしまった。


 ”西乃国No.1くノ一の私でも見えないほどの速さでこんなことができる奴が、この西乃国にいたなんて、、、ありえない、、、ありえない!”


 訳がわからなくなり、くノ一になって初めてパニックになった隼の背後から、大通りにいる胸から血(その実は赤絵具)を流しながら大立ち回りをしている皇帝と全く同じ格好の劉煌が、梁途と白凛に向かって仮面の下でニッと笑いかけて言った。


「みんなご協力ありがとう。それにしても謝墨(やつ)は、迫真の演技だったなぁ。まさか馬車から転げ落ちてくれるとは、、、役者になれる。」

「こっちは本当に刺さっちゃったのかと思って真っ青になったわよ。」

白凛も左の口角だけ上げてフッと笑い、劉煌から隼の身柄を引き継ぎながらそう答えた。


「それはそうと、かのじょは生かしといてくれよ。火口衆のあぶり出しに必要だからな。」

 梁途と白凛の「御意。」という返事の最中に、劉煌はくるっと回ってその場からドロンと消えた。


 ”まさか、あの人が皇帝なの?まるで忍者、、、それもただの忍者じゃない。トップクラスの忍者よ。この隼に全く気配も何も感じさせることなく、技をかけられるなんて、、、あの伝説のくノ一:中ノ国のお陸を彷彿とさせるわ。”

 彼らの御意という返事が聞こえてしまった隼は、それまでの彼らの会話を思い出し愕然とすると、今朝彼女の身に起こったことが頭によみがえってきた。


 ~隼は計画通り毒を塗った手裏剣を持ち、高級料理店:天抱貴来の向かいの建物の屋根に隠れていた。


ところがそんな隼の前に、彼女の依頼人達が待つ天抱貴来の窓からなんともう一人の自分が、自分目掛けて飛んできたのだ。


「何者?」

隼はその人物が敵なのか味方なのかわからず混乱して聞いた。だがもう一人の隼も、隼に向かって

「この隼に化けるとは、そっちこそ何者?」

と聞いてくるではないか。


 隼はすぐに戦闘態勢に入り、手裏剣をシュシュシュっと打った。


 もう一人の隼、それは隼に変装した劉煌だったのだが、、、は、なんなくそれをよけると同時に、全く音もたてずに目にも止まらぬ速さで手裏剣を打った。

 隼をしても、相手から手裏剣が打たれたとは気づかず、突然彼女の目の前に出現した手裏剣をぎりぎりなんとか鼻先をかすめるくらいのところでかわした時には、目の前にいたはずのもう一人の隼と名乗る女は既にいなくなっており、自分の偽物を探そうと隼が一歩前に出た瞬間、何者かが彼女の背後から手刀で彼女の首を打った。


 うすれゆく意識の中で隼が最後に目にしたのは、倒れていく自分を見つめる自分の顔だった。


 しばらくして下から響いてくる悲鳴で意識が戻った隼は、慌てて起き上がり大通りがよく見える位置まで移動すると、下から軍人が彼女を指さして「刺客だ!」と叫んだ。~


 そこまで思い出した時、隼は白凛に肩を掴まれ無理やり連行されながら、こう思った。

 ”ふ、忍者な皇帝なんているわけない。きっと私の名を騙ったあのくノ一も皇帝と一緒にいて、彼女が私に縄をかけて皇帝をあの場から隠遁させたんだわ。この隼でも存在に気づけないとは、まったく忌々しいあの女!”


 一方大通りでは、馬車の中から悠然と劉煌が現れ、2人の皇帝を疑問符いっぱいの頭でかわるがわる見ている宋毅に向かって、まるで何事もなかったかのように「宋公公、王政を連れてきてくれ、さあ、視察に行こう。」と言った。

 呆気に取られて何も言えなければ行動もできない宋毅をよそに、王政自ら劉煌の側によると「陛下、どうぞこちらへ。」と言って、彼を天抱貴来の入口へと誘導した。


 天抱貴来の中では、店のオーナーや支配人だけでなく、高みの見物に来ていたこの謀反の首謀者達がパニックになっていた。


「裏口から出られないのか?」


 形勢不利と感じた貴族たちは支配人に詰め寄ったが、支配人は本当に困ったという顔をして答えた。


「裏口は勿論のこと、この建物の周囲ぐるっと包囲されております。隠し部屋ならありますがそこに入られますか?」


 そうやって棚を回転させ隠し部屋を彼らに見せたが、隠し部屋は入れても大人3人入るのが限度だった。


 彼らはお互いに見合うと、すぐに我先にその中へ入り込もうとした。


 しかし、当然物理的に無理なことは無理なわけで、終いには天抱貴来の特等室である鳳凰の間は、仁義なき修羅場と化し、刃物に慣れていない者同士が刃物を振り回して真剣に戦い始めた。総金造りの部屋に、銀色に輝く刃物が縦横無尽に動き、それに刺されたために飛び散る真っ赤な血潮が部屋のあちらこちらに赤の模様を描いていた。


 その様子に恐ろしくなった支配人は、両手を挙げながら部屋から慌てて飛び出した。そしてあまりに慌てたために、彼は3階の踊り場から足を滑らせ文字通り階段から転がり落ちてしまった。


 1階まで階段落ちした支配人の身体がようやく止まったのは、こともあろうに王政と劉煌の真ん前だった。


 劉煌が顎で指図すると、禁衛軍の兵士が支配人を起こした。

「王政、ここは高級料理店と聞いていたが、全く接客ができていないのではないか?こんなのが高級とは嘆かわしい。まったく西乃国の一番の都だというのに、この京安も地に落ちたものだ。これではインバウンド消費を狙えないじゃないか。」

 そうぶつぶつ文句を言いながら劉煌は、支配人には一言も話を聞かず、ずんずん自ら階段の方へと向かって言った。


 それをみた支配人は真っ青になり兵士の手を払って劉煌の前に躍り出て土下座をした。

「陛下、申し訳ございません。陛下、どうかお許しを。」


 ”ここで足止めして奴らを逃がす気か。そうは問屋が卸さないぞ。”


「そんな時間稼ぎをすると、お前も共謀者とみなされるぞ。わかってるだろうな、謀反の共謀者となると死刑は免れないぞ。」


 劉煌の冷たい言葉に、支配人はハッと息をのみ、商売人らしく彼がつくべき相手は誰なのかを瞬時に計算すると、さっさと踵を返し「こちらでございます。」と自ら劉煌を3階へと誘導した。


 ところが、彼らが3階に到達するまでもなく、3階からは、お互いを激しく罵りあう声、刺し合うブシュッという鈍い音と同時に響き渡るギャーッという叫び声が、途切れることなく響き渡っていた。


 これに閉口した王政は、顔を思いっきりしかめて、後についていた捕官長にさっさと全員ひったていと命じた。


 20名の補官達が3階に突入した時には、鳳凰の間と書かれた部屋中に血なまぐさい臭いが立ち込め、その臭いとは対照的に上等な装いの人々が四方に所狭しと倒れ込んでいた。


 そして視線を元に戻すと、部屋の奥の棚が回転していて、その向こうに部屋か通路らしきものがあるのが見えた。部屋で倒れている中の数人は、そのからくり棚に向かうようにして棚の付近で血を流して倒れており、彼らがこの隠し部屋に入ろうとして争ったことが明白だった。


 法捕司の捕官達が次々と倒れている者を起こしてお縄にしていると、王政と共に劉煌が鳳凰の間にやってきた。

 王政が顔をしかめ鼻を袂で覆っている中、劉煌はその光景や臭いに全くひるむことなくある人物の前にやってくると口を開いた。

「この江漣という奴は絶対に殺すな。首謀者だからな。火口衆を顎で使えるようになった経緯も知りたいからな。」


 劉煌から江漣と指さされた男は、縄の中でもがきながら「何を言っているのかわからない。私が何の首謀者だと言うんだ。」と無駄な抵抗を試みた。


「先ほど申したではないか。朕を殺した暁には火口衆から抜けさせると。」


 それを聞いた江漣は自分の耳が信じられなかった。

 ”ど、どうしてそれを、、、なんでさっきここで隼に言ったことを、、、も、もしかしてこの中に劉煌の間者がいたのか?まさか私に焚きつけた前の大蔵長官か?”

 そう頭の中でいろいろな思いが交錯していた江漣は、彼の身体は動揺を隠せないものの、口は決して割らなかった。


「な、何を言っている。そんなことは知らぬ。」


 江漣が激しく抵抗する中、劉煌は突然自分の仮面に手を当てると、なんとそれを彼の前でゆっくりと外し始めたではないか。


 公の席で劉煌が仮面をつけている理由を知っている王政は、大慌てで「陛下、、、」と彼を止めようと手を出したその瞬間、仮面の下からは見たことも無い女の顔が現れ、聞いたことのない声がその口からこぼれた。


「これでも知らぬと?」


 さっきとは全く違う女の声が皇帝の装いの者の口から響き、冕冠の下で隼の顔が現れた瞬間、江漣の心臓は少なくとも10秒間は完全に停止した。


 そしてそれは王政も同じであった。


 サッとまた仮面を元の通りに戻した劉煌は、彼の地声で江漣に話しかけた。

「わかったか?先ほどお前が隼だと思って話した相手は朕だったのだよ。」


 すると江漣は今までの強気が嘘のようにガタガタと震えだし、その場で失禁して気を失った。そしてそれはこの部屋にいた謀反に加担した貴族たちも同じだった。


 ”と、、、それは理解できるものの、なぜ王政まで、、、”

 王政は失神こそしていないが、完全に腰を抜かしていた。


 劉煌は王政に手を貸そうと手を伸ばすと、王政は反射的に後ずさりした。


「王政!なぜ抵抗するのだ。なぜ腰を抜かす。なぜ後ずさりする。」


 劉煌が口を尖らせてそうぼやくと、ようやく王政は少し安心して「陛下、陛下なのですね?本当に陛下なのですね?」と囁いた。


「もう、しっかりしてくれ。一番長い付き合いなのに、朕を疑うとは、、、」

 そうボヤキながらも王政に手を貸した皇帝は、そのまま他の者の制止を振り切って今度は王政に肩を貸しながら下へ降り、天抱貴来の外へと出て行った。


 外に出るなり劉煌は王政に向かって囁いた。

「言ったはずだぞ。くノ一の手の内はわかっているって。」


 ”そういうことだったのか!!!!!!!!”

 ”陛下がわずかに9歳で追われる身となられ、お一人でどうやって生きのびてこられたのかと常々疑問に思っていたが、今、陛下の離れ業を目の当たりにして、私はその疑問の回答の断片を得たに違いない。”

 ”お生まれになった時から、凡人とは違うお方であったが、二十歳そこそこで軍もなく劉操から国を取り戻したことといい、その後の御英断の数々といい、この方は本当にまぎれもなく天が遣わされたお方なのだ、、、()()()()()()()()()()()()


 ようやく腑に落ちた王政は、突然その場で跪き劉煌に向かって両腕を高く挙げ

「皇帝陛下万歳。陛下の御代よ永久に。皇帝陛下万歳。陛下の御代よ永久に。皇帝陛下万歳。陛下の御代よ永久に。」

 と叫んでひれ伏した。


 王政という人物は公明正大であり、貴族だけでなく民からも誰からも一目置かれている存在だった。

 そんな人物が、人目もはばからず突然路上に跪き、自ら皇帝をあがめたのだから、その場に居たもの達は騒然となった。


 ”あの王政が絶対服従を誓う若き皇帝とは、いったいどんなにか素晴らしいお方なのか、、、”


 人々がそう驚愕する中、次々と王政率いる法捕司衆が王政に続き、さらに皇帝の影武者を皮切りに、禁衛軍と皇輝軍の兵士たちも我先にと跪いて行った。それに呼応するように、その場が騒然となって駆け付けてきた野次馬たちも一人また一人と跪き、その場にいる劉煌以外の者が、地に額をこすらんがごとく近づけ、皇帝陛下万歳と唱えた。


 劉煌は周りを見回しながら語りかけた。


「皆の衆、お楽になさい。数か月前、皆の前で所信表明演説を行ったが、その時と朕の考えは一つも変わっていない。皆もよくわかっている通り、これからも身分に関係なく性別に関係なく国を背負えると思った人物にはそれ相応の職を与える。なぜなら民の暮らしが最優先だからなのだ。今迄自動的に肩書が手に入った貴族には不満もあろうが、それぞれ家の祠堂でご先祖と向き合い、もう一度よく考えるのだ。汝らの家の先祖は、劉王朝の創始時に高祖と志を一つにし、民のために戦い西乃国を築いたのだ。そのご先祖の心を踏みにじらぬよう、心してこの国のために尽くしてほしいと朕は願っている。。。

 残念ながら今日のことで官職に数名の欠員ができてしまう。そこで近日中にまた欠員分の募集を行うことになるであろう。勿論前回と同じ試験範囲で試験を行い、公正になるよう成績順に採用する。貴族もはじめから諦めるのではなく、頑張ってその試験に挑戦してほしい。。。汝らとの関係が、それぞれの家の先祖と我が高祖のような関係に戻れることを、朕は心から願っている。。。

 この国を、皆で力を合わせて、今まで誰も無しえなかった弥勒の世にするのだ!」


 あたりは大勢の人だというのに、まるで水を打ったようにシーンと静まり返り劉煌の演説に聞き入っていた。


 そして劉煌が語り終わると、また人々は一斉に「皇帝陛下万歳。陛下の御代よ永久に。」と叫び続けた。


 そしてその声は離れた長屋街にも響き渡った。

 引っ越し準備の合間に扉を開けて外に出た張麗は、その大合唱の聞こえる方に向かって振り向いた。

 勿論その大合唱の先は、彼女からまったく見えるわけではなかったが、張麗の心の目には、その姿がしっかりと映っていた。


 ”劉煌殿、変わらず素晴らしいお方、、、”


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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