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第三章 模索

Wishing for the loveliest Valentine’s day.

 翌、日曜日の午後1時半に張麗が家を出ると、門のところで”小高蓮”が彼女の隣の家の夫婦と楽しそうに話をしているのが見えた。


 やれやれと思いながら張麗が近づくと、劉煌はすぐに気づいて彼女に向かって手をあげ、

「今晩、皆で食べに行こうって話してたんだよ。」と嬉しそうに言った。


 そして彼女が彼の隣に着いた時には、彼は夫婦に向かって「僕、西乃国に来たばかりなんで、お知り合いになれて嬉しいです。どこかいいお食事処をご存知ですか?」と聞いていた。


 夫人の方が「福建飯店なんていいんじゃない?」と言ったところで、張麗が「私は先約があるので、お先に失礼します。」と言うと、法捕司に向かってスタスタと歩き出した。劉煌はしまったという顔をしながら頭をかいて「そうでした。仕事があるので、それでは後程。」と言うと、愛想よく夫婦に手を振りながら走って張麗を追いかけた。


 残された夫婦は、張麗に追いついた劉煌が、一生懸命彼女に身振り手振り使いながらアプローチしている姿を見て、

「ねえ、あなた、あの二人、結婚すると思う?」と呂夫人が呂葦に聞くと、彼は家の門の方に向きなおして歩きながら

「そうだな。男の粘り勝ちになるんじゃないか。どうみてもしつこそうな男だぞ。」と言って門をくぐって中に消えた。


 呂夫人は、もう一度振り返って張麗と劉煌の方を見ると、さっきより随分小さくなった二人が肩を並べて歩いているのが見えた。


 彼女はため息を一つつくと彼女の夫を追いかけて門をくぐった。



 法捕司では、既に秦卓が検死準備室の前で待っていた。


 秦卓は、張麗が一人ではなく、”小高御典医長”と二人でやってきたことに驚いて、彼に向かって

「これは小高御典医長、昨晩は御馳走様でした。今日はところで何用で?」聞いたので、劉煌は

「何用とは、失礼ね。捜査の手伝いにきまってるじゃない。大体最初にあなたがどうにかしてくれって私に泣きついて来たんじゃないの。」とふんぞり返って顎を斜め上にあげた。

「協力は頼みましたけど、泣きついてはいないですよ。人聞き悪いなぁ、ね、張麗さん。」と、秦卓は昨晩一緒に夕飯を食べたことで、すっかり張麗に打ち解けて彼女に相槌を求めた。


 張麗は、付き合ってられないという顔をすると、「さあ、始めましょうか。」と言って、秦卓に早く鍵を開けるよう促した。


 3人で部屋に入り、秦卓がろうそくに火を灯している間に、張麗は昨日の頭部復顔に掛けてあった白い布を取った。


 最初に口を開いたのは、劉煌だった。


「これは、見事だな。昨日、骨に深層筋を付けてから表情筋をつけていくとは聞いていたけど、聞くのと実際に見るのとでは大違いだ。確かにあの被害者だ。」

片手を顎にあてながら、様々な角度から頭部復顔を見て感心しながら劉煌はそう言った。


 秦卓が全てのろうそくを付け終わり近づいてくると、復顔は見ずに「ではさっそく凶器の検証をしましょう。これが、黄敏の持ち物です。」と言って、机の上に物を並べ始めた。


 劉煌は、机の上の物を一瞥すると「犯人って凶器持ち歩くかしら。」とボソッと言った。


 うっと言葉に詰まった秦卓をよそに、頭部の傷を凝視していた劉煌が、危うく「皇父(ちち)の…」と言いそうになるのをかろうじてとどまって、ゴホンと咳払いしてから


「そういえば、黄家にある聖旨は回収したのかしら?」


 と秦卓に聞くと、「はい、陛下の勅命でしたから。」と秦卓がすぐ答えたので、「うん。」と頷いてから「それここに持ってきて貰えないかしら。」と頼んだ。


 秦卓は、「聖旨を?」と怪訝そうに言うので、劉煌は面倒くさくなって、とても嫌そうな顔をしながら「いいじゃない。早く持ってきてよー。早く、早く。」と言って、今度は、頭部の傷の部分に自分の目線を合わせるために、腰を低くした。


 張麗も秦卓も、”小高蓮”が何を言っているのかわからず、お互いに目を合わせると、わからないよねと心で言い合っていたが、しつこく彼が早く早くというので、秦卓はしぶしぶそれを取りに部屋を出ていった。


 狭い部屋に”小高蓮”と二人きりになった張麗は、部屋の温度が上がったように感じて頬が火照りソワソワしたが、劉煌は全く気にならないようで、しきりに患部への凶器の進入角度を手で計っていた。


 ほどなくして秦卓が部屋に戻ると、張麗はホッとして秦卓を見たが、劉煌はすぐに秦卓の手から聖旨を無造作に奪い取った。


 現皇帝が無効にしたとはいえ、聖旨の扱いが乱雑だったことを気にした秦卓が「あ、気を付けて下さいよ。」と言ったか言わないかのうちに、劉煌はそれを左手に持ち替え、振り上げてから


「こういう角度で振り下ろすと。」


と言うと、頭部の傷の所に優しく当てた。


 それを見た張麗と秦卓が目を大きくして驚いていると、劉煌は涼しい顔で「黄敏の利き手は?」と秦卓に聞いてきた。「左手です。」と秦卓が答えたので、劉煌は「決定ね。終了。」と言って、ポーンと秦卓に聖旨を投げた。


 秦卓はオロオロしながらそれを落とさずキャッチすると、上半身で大きく息をしてから


「先々代のとはいえ、聖旨なんですよ!小高御典医長!もう寿命が縮むじゃないですか!」


と、半泣きになりながら彼を咎めた。


 劉煌はいつものごとく、飄々として両肩をあげてすくめて見せると

「あら、そう。寿命縮んでご愁傷様。」と悪態をついた。

そして「じゃ、もういいわよね。帰りましょ。」と張麗に向かって嬉しそうに言ったが、張麗は首を横に振り「私は復顔を仕上げてから帰りますので、小高御典医長はどうぞお先に。」と言って、頭蓋の前に座ってしまった。


「えっ?もう終わりじゃないの?」と驚く劉煌に、

「若い女性なのに、これではあまりに気の毒です。」と言うと、カバンから取り出した道具で皮膚に色を塗りだした。


 それを見た劉煌はしぶしぶ横の椅子に座ると、秦卓に向かって「お茶くらい出してあげてよね。」と言って張麗の方を顎でしゃくった。


 それが聞こえた張麗は首を横に振りながら作業を続けていたが、1時間もすると、患部だけが露出している髪の長い、年頃の女の子の頭がそこに出来上がった。


 秦卓は感心しながら「これなら、死体の身元もわかるかもしれませんね。」と嬉しそうに言うと、待ちくたびれた劉煌は「何はともあれ、早く解決して頂戴。では、ごきげんよう。」と秦卓に告げ、今度は張麗の方を向いて「さあ、帰りましょう。お隣さんを待たせちゃいけないわ。」と誘った。


 ~


 なんだかんだ言いくるめられた張麗は、日曜日の夜を福建飯店でお隣さん夫婦と”小高蓮”と共に過ごしていた。


 今日は彼が何と言ってくるやらと思って警戒していた張麗は、”小高蓮”が殆どお隣さん夫婦と話していることで、肩透かしを食らっていた。


 張麗は、小高蓮のことをおしゃべり、もとい、話し上手だと思っていたが、意外に聞き上手であることをここで発見した。


「ということは、ご主人は戦地から最近お帰りなったばかりなんですね。国のためにご尽力いただいたんですね。あなたのおかげで皆今平和に暮らせています。ありがとうございます。」と、劉煌が呂葦を持ち上げると、呂葦は照れながらもとても嬉しそうにして、「先帝の時は本当に大変でした。遠征は3か月と言われていたのに、結局家に5年帰してもらえなかった。もっとも帰れたのは、今の皇帝が先帝をやっつけたからなんですが。もし今の皇帝が決起してくれなかったら、きっとまだ遠征先にいたんじゃないでしょうか。」と言って、夫婦揃って大きなため息をついた。


 更に呂葦は聞いてもいないのに続けて、

「今はね、日雇いみたいな暮らしですが、毎日コイツと一緒にいられるから本当に嬉しいです。なんてたって、私はずっと『鬼も怖がる白将軍』の元にいましたから。毎日が針のむしろでした。」としみじみと言った。


 思いもよらないところで、白凛の話が出たため、劉煌は思わずブーッと茶を吹き出してしまった。


 周囲が驚いて大丈夫ですか?と心配そうに彼を見つめている中、劉煌は、全員に手で大丈夫と示してから「はあ、はあ。大丈夫よ。ごめんなさい。」と言うと、呂葦に向かって「白将軍は女性の方ですよね。そんなに厳しかったのですか?」と口元を袂で拭きながらなんとか聞いた。


「とにかく、初めての女将軍だからでしょうかね。成果を出したがってましたよ。先帝が1言ったら100やるみたいなね。とにかく先帝の命令は、どんな理不尽なことであろうと、どんな時であろうと何でも即従っていましたから、白将軍が先帝に反旗を翻して今の皇帝を支持した時には、全軍耳を疑いましたよ。」と、彼は回鍋肉に箸を伸ばしながら言った。


 そして、その時のことが思い出されたのか、彼はボソッと「あの時中ノ国の皇宮を取り囲んで攻め入った時は、本当にどうなるんだろうと思ったけど、後から今の皇帝が出てきてね。その時、なんつーか、言葉ではうまく言えないんだけど、皆の前に立っただけで、遠くにいらっしゃるから顔なんか全然見えないんだけど、あー、この人は本物の天子なんだって本当に思ったんだよね。」と呟いた。


 「本当にね、うちの人、よく言うんですよ。今度の皇帝は違うぞって。私にはあまりに世界が違い過ぎて、前の皇帝だろうが、今の皇帝だろうが、何が違うのって感じだけど。」と、呂夫人の方が酒を飲みながら笑って言った。


「おまえ、前の皇帝のままだったら、まだ俺はずっと戦地だぞ。しかも戦って勝っても、その地を離れたら、またその地の前の勢力が勢いを増しての繰り返しで、結局西乃国は金ばっかり使って、若い男たちが沢山死んで、棚ぼたで北盧国が手に入っただけなんだぞ。そんな北盧国だってゲリラが抵抗して、西乃国の男たちが何万人その犠牲になったと思っているんだ。そんな不毛なことをスパッと止めただけだって凄い事なんだよ。」と、呂葦も1杯入っているからか饒舌に話し出すと、劉煌に向かって言った。


 「小高御典医長、典医だから皇帝のお近づきなんだよね。私はね、皇帝に一つだけお願いしたいの。今は年金と日雇いでやっていってるけどさ、私はまだ若いし、元兵隊の私に何かできることがないかなって最近思うようになったんだよね。年金は有難いよ、本当に思いもしなかったよ。こんなの貰えるなんて。でも、働かないのにお金貰えてるのに罰あたりな言い方かもしれないけど、何かやりたいんだよね。元兵隊でも何かできることないかって。」と彼がこぼすと、すぐに呂夫人が

「あんたは、本当に贅沢だよ。仕事だったら、奥地の山の話だってあったのにさ。それはやろうとしなかったくせに。」とどうしようもないという顔をしながら彼を責めた。

「だって、あれはお前と離れ離れになるから嫌なんだ。」とすねた顔をして呟いてから、「まあまあ。」と言って、彼は夫人の肩をもみだした。


 夫人はまんざらでもないという顔をして、劉煌と張麗の方を向くと「この人ね、私にあんますれば何でも許してもらえると勘違いしているの。」とこそっと教えると、後ろを振り向いて夫を見上げた。


「まあ私もこの人が若くてハンサムだからあんまして貰えると嬉しいですけどね。私だって年頃の女ですから、いくら張麗先生があんま上手でも、素敵な男性にやってもらうのにはかないませんよ。」と、お酒で出来上がった真っ赤な顔で嬉しそうに彼女は笑った。


 張麗は、うつむいてククッと笑っていたが、劉煌が真剣に

「そうなのね。女性は、男にやって貰った方がいいのね。」と言うので、


「それは人によりますよ。」


と、呂夫人と張麗が同時に言ってお互いに顔を見合わせた。


 すると呂夫人は「若くてハンサムじゃないと。」、

     張麗は「私は女性の方がいい。」と、

 今度は全く違う解釈をした回答をして、また二人で顔を見合わせて笑った。


 呂夫人は、今度は真っ赤な顔で目を座らせて

「それはね、張麗先生、男にあんあんしてもらったことがないからですよ。」と、言って張麗の肩を指でポーンとはじいてから、

「やっぱりね、男の手って大きいし力があるから、あんまは絶対男ですよ。」と、力説して笑った。


 そうすると今度は話があんま論議に変わって行った。


 話は盛り上がり、結局いつの間にか閉店時間ということで店を追い出されてようやく話が終わった。


 今日も「元兵隊さんにお金は払わせられない」と言って劉煌が会計を済ませると、張麗が「お隣さんと一緒なので、大丈夫です。お休みなさい。」と劉煌が送るのをやんわり断ったが、「同じ方向だから。」と言われて、やっぱりこの日も張麗は劉煌と一緒に歩いて帰ることになった。


 お隣さん夫婦が前で楽しそうに手を繋ぎながら何やら話して帰って行っている後ろ姿を見ながら、劉煌と張麗は静かに後ろをついて歩いていた。


 すると途中で劉煌が前を向いたまま首を左に傾けながら、

「一緒に時を過ごしていくって素敵よね。」

とポツリと呟いた。


 何を言っているのかよくわからなかった張麗が「えっ?」と言って劉煌の方を振り向くと、劉煌も張麗を見て、顎をしゃくりながら


「あの二人。完全に二人だけにしかわからない、新たな二人の世界を作って行ってるじゃない?私はそういう家族像に縁がなかったから、凄く素敵だと思う。」


と、珍しく大袈裟な身振りをつけずに静かに言った。


 張麗はそれにYESともNOとも答えず、ただ黙って前の二人を見て歩き続けた。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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