第一章 現実
9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。
しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。
彼の初恋の人小春が暇を持て余している中、彼は国内の敵と戦っていた。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
しかし、喉元過ぎれば熱さを忘れるという言葉は、まさに彼女らと西乃国の文官たちのためにある言葉だったようで、結局翌朝になると彼女らの中でもしつこい、もとい打たれ強い何人かは草葉の陰に隠れて劉煌に近づくチャンスを狙い、文官たちで宿題をやってきたのは、娘の白凛から剣を突きつけられ渋々宿題をした秘書省副長官の白学と法捕司卿の王政だけだった。
それどころか、あろうことか官職たちは劉煌に国政は自分たちにまかせ、劉煌が最も触れてほしくない跡継ぎのことだけを考えろと、まるで女官達と結託したようなことまで言ってきたのだ。
こうして、国政の重要人物たちの現状を嫌というほど把握してしまった劉煌は、西乃国皇帝として、国の改革のためにまず朝廷官職や中央省司の役人を選びなおすところから行わなければならなかった。
ドラスティックな変化は、特にけたたましい私財や多数の私兵を含めた使用人を持っている現職の官職たちの敵意をあおりかねないので、劉煌としては本当は避けたかった。しかし残念ながら西乃国の現状は待ったなしで、そんな悠長なことは言っていられなかった。
幸い劉煌には西乃国の守護神獣の龍がついていたので、劉煌は現職たちの謀反の覚悟を決めて大胆な政策を施すことに決めた。
なんと、この国政を司る重要な人材について、全員公平に一から選びなおすことにしたのだ。
今迄科挙と言われていた文官登竜門の試験の内容を、従来の国政とは全く関係のない教養的学力試験から、政治・外交・経済・軍事等の実務力・創案力を重視した試験に一新し、身分は関係なく、今までの官職・役人さらに武官志願者も含め、皇帝自らが試験監督になりすまして、筆記試験・実務実技試験と面接を行い、合格者を採用することにしたのだ。
劉煌は、今迄真面目に仕事をしていれば簡単に解ける問題だからとして、受験希望者に試験準備期間をわずかに1か月しか与えなかった。
皆これに異議を唱えたかったが、ふっと上を見ると金龍が劉煌の頭上でぐるぐるととぐろを巻いて睨みを利かせていることから、誰も何も言うことができず、しぶしぶこれに従うしかなかった。
その晩劉煌は、いつものように彼の夕食用に並べられた料理の匂いを嗅いだ瞬間、彼の目は不敵にキランと光った。そして突然宋毅に向かって上機嫌に話しかけた。
「今日のお料理はいつにも増して豪華ねぇ。あれほど朕には一汁一菜で十分と言っているのに。食べきれないしもったいないから、朝廷のみんなを呼びましょう。あ、大丈夫よ、官職たちは全員龍が連れてくるから。宋公公は宮廷料理人を全員呼んできて頂戴。朕から今日の御馳走への感謝を伝えたいし、なによりももうこんなに作らなくてよいことをわかってもらえていないようだから、そのことを朕の口からちゃんと説明するから。」
通常、皇帝と直接やり取りできるのは、本当に限られた人たちだけである。従って皇帝が宮廷料理人を全員呼んで来いと言った時に宋毅は心底驚いたが、この皇帝ならそんな慣習などおかまいなしでやりかねないことだとすぐ理解した。
宋毅がそう思いながら尚食司に向かっていた時、劉煌は両手を顔の横ですり合わせながらニターと笑っていた。
”ふ、ふ、ふ。早速来たわねぇ~。しかもこの劉煌をこともあろうに毒殺しようだなんてっ♡♡♡”
宋毅が宮廷料理人を全員連れて天乃宮に戻ってきた時、劉煌は気味が悪いほど上機嫌に官職たちをもてなしていた。
御馳走を前にして劉煌は、何故かまだ仮面をつけたままで、甘い香り、スパイスの香りに炒めたしょうゆの香りやらで、やたらと食欲を誘ういい匂いのする料理を前に待てをさせられている官職たちは、何回もゴクリとつばを飲み込んでいた。
劉煌は宮廷料理人たち全員も応接間に入れたので、広大な応接間も少し手狭になった。
「朕一人でいただくにはもったいないお食事が出たので、皆さんと分かち合うことにしたのだ。他でもないこれを作ってくださった宮廷料理人の皆さんありがとう。みなさんはいつも作るだけであろう?だから今日は是非一緒にいただこうと思って呼んだのだ。今日は無礼講だ。」と言うと、劉煌は自ら一つの皿に3、4種類のおかずを盛って全宮廷料理人一人一人に渡した。
「さあ、どうぞ。」
にこやかに劉煌がそう宮廷料理人に向かって言うと、官職の数名はそれが自分たちにもかけられた言葉だと勘違いし、早速料理に箸をつけた。
劉煌はその様子を微笑みながらつぶさに観察していた。
すると宮廷料理人では尚食と劉煌付配膳係の二人、官職では首相と兵部大将軍がまったく出されたものに箸をつけていなかった。
”なるほどね。”
「おや。首相、兵省大将軍、尚食と配膳の崔さんは何故箸をつけぬ?今日は朕に遠慮はいらぬのだぞ。」
「しかし、、、」
「あ、遠慮は全くしていないな。筑都、紫慈、雫泉と粋枝を同じ食卓に並べるとは。」
それを聞いた瞬間、4人は真っ青になったが、兵省大将軍はさすがに昔とった杵柄で天乃宮にいるというのに大胆にも剣を抜いて劉煌に襲いかかった。しかし、龍が介入するまでもなく劉煌はそれをサッと飛び上がってかわし、剣を持つ手をけりつけ彼の剣を落とすと、そのまま兵省大将軍の肩に飛び乗って腕を組んで下々を見下ろした。
「首相の計画?それとも大将軍?ダークホースで尚食もあるかもな。朕が一汁一菜では尚食の名が廃るから。」
大将軍が自分の肩の上の劉煌の足を取ろうとしたが、劉煌の反応はくノ一の修行を積んできたので大将軍の動きなどスローモーションのようにしか見えない。パッと大将軍の肩から飛び上がって彼から離れると、劉煌は瞬く間にここの料理を食べた人たちの口に一粒ずつ丸薬を入れていった。
「今、与えたのは解毒薬だ。ここの4人は4つの食材を合わせることで毒になることを利用して、別々の料理に一つずつその食材を入れたのだ。一つ一つの料理では問題ないが、3,4種食べると毒がまわるように考えてな。」
劉煌のその発言にざわめくギャラリーを無視して、尚食は叫んだ。「どうして、それを!」
それには、劉煌ではなく白凛の父である白学が答え始めた。
「その年で知らないのか?陛下は幼少の砌より千年に一人の天才と誉れ高かった。9歳にして博士らを指導して、、、」
「え?大学レベルじゃなかったの?」尚食は大学レベルならこのカラクリはわからないだろうと踏んでいたので、慌てて自ら墓穴を掘るようなことを叫んだ。
「大学のあとに、”の博士を教える”という言葉を省略していたのだ。何しろ9歳だぞ。誰がそんなことを信じられるか?だからそれでも温和に大学レベルという言い方にしていたのだ。」白学は哀れな顔をしている尚食らに向かって、全く温和でない言い方をした。
「それは何も一つのことではござらぬ。薬の知識もでござる。何度事件に使われた毒のことで当時皇太子殿下だった陛下にお世話になったことか。」
警察・裁判機能を司る法捕司卿の王政がしみじみそう言った後、劉煌の方を振り向いて今度はいとも悲し気な顔をして付け加えた。
「しかし、陛下はもう私は必要ではないと考えていらっしゃるようだ。」
王政を買っている劉煌としては、彼のこの発言は聞き捨てならなかった。
「どうしてそうなる。」
劉煌は仮面から露出している口の下唇を突き出しながら不満そうに言った。
王政は寂しそうに告白した。
「私には解毒薬を下さらなかった。」
「王政が食べた組み合わせは問題なかったからだ。なんだ、昔授けた毒の知識で回避していたんじゃなかったのか。」
劉煌は露骨にガッカリしながらそう言うと、完全に戦意喪失している犯人グループ4人を指さしながら、命じた。
「王政、禁衛軍と共にただちにこの4人を捕まえて天牢に収監し、皇帝毒殺未遂事件として調査せよ。」
禁衛軍は現在統領が劉操に殺されたため、副統領が取り仕切っていた。彼はこの声を聞いて禁衛軍と共に廊下から応接間に突入すると劉煌の前で跪いて「御意。」と言ってから4人の身柄を確保した。
劉煌は連行された4人を手をこすりながら見送ると、今度は皆の衆の方を振り返って言った。
「さあ、せっかくの料理だ、みんなで食べよう。一緒に食べちゃいけない組み合わせは、、、」
劉煌が教えたのにも関わらず、その場にいる全員は、知識が無いので”毒”という言葉にすっかりおじけづいて、まったく食欲をなくしていた。
それを見て溜息をついた劉煌は宮廷料理人たちにむかって言った。
「あなたたち、いつも食材を扱っているから知っているよな。あの4つの一つ一つには毒性はないだろう?」
30人はいる宮廷料理人たちはうつむいたまま答えない。
「4つを一緒に食べなければ大丈夫なのだ。じゃあ、こうしよう。グループを4つに分けてそのグループごとに食べられるおかずを変えれば安心だろう。」
劉煌はそう言うと、一皿一皿匂いをかぎ、何が入っているかを言ってからそれを作った宮廷料理人に確認する作業を行い、見事に全く食べて問題ないどころか美味しいおかず群を4つ作り、それぞれのグループがそれだけを食べられるように分配した。
宮廷料理人たちは劉煌の確認作業に答えながら、この皇帝に誤魔化しは全く通用しないと悟り、この作業を通じて彼に絶対逆らってはいけないと肝に銘じた。
「さあ、今日は無礼講だ。」と言うと、劉煌自ら宮廷料理人の1グループの中に入り込んで仮面をつけたまま食べ始めた。
「うん、これはうまい。誰が作ったの?」劉煌は完全にかしこまっている彼らに親し気に話しかけた。
この皇帝にこびを売っておいたほうが得策といち早く察した宮廷料理人の一人がおそるおそる答えた。
「陛下、それは私が味付けいたしました。」
劉煌は嬉しそうに彼に向かって言った。
「味付けも火の通し具合も完璧だ、ただそうできたのもこの食材を切った人たちのおかげだな。誰が切ったの?」
一人が口火を切り、それに皇帝が好意的な反応をしたことを察知した宮廷料理人たちは、安心して口を開き始めた。
「陛下、それは私が一人で切りました。」
劉煌は箸でその人物を指しながら「手が器用だ。ベジタブルカービングもやるといいだろう。」と言った。
「陛下、それはいったいなんでしょう?」若い宮廷料理人が屈託なく皇帝に尋ねると、
「野菜に彫刻するのだよ。龍とか彫ったりしているだろう?」そう言って劉煌は皿の中央にある人参で作った龍の像を箸でさした。
「陛下、その仕事は私がやっております。」劉煌の左横に座っている中年の男がそう申告すると、
「宮廷料理人のみなさんが素晴らしい技術を持っていることはわかった。いつもありがとう。
ただ後宮の住人もいなくなり、朕だけがこの恩恵に与れるとは何とも勿体ない話だ。もう朕も育ち盛りではないから、こんなに沢山の食べ物は食べきれないから無駄になってしまう。特に地方の民は食うにも困っている者がいると聞く。そんな貴重な食べ物を朕が無駄にするなど以ての外だ。朕は民の父なのだ。子が腹を空かせているのに父だけが食べるわけにはいかないだろう?わかってくれるな。」劉煌は優しく子供に諭すように彼らにそう伝えた。
宮廷料理人たちは急にトーンダウンし、みんな箸を止めてうつむいてしまった。
しかし、その中で、先ほどの若い宮廷料理人が思い切って口を開いた。
「陛下、でも最高の物を最高の技術で最高の方に召し上がっていただくのが私たちの夢で、そのために日々精進しているのです。陛下が最高の物をお召し上がりにならないのであればどうしたらいいのでしょう?」
それは一人や二人ではなく宮廷料理人全員の心の叫びだった。
「うむ。確かにそうだ。式典に出す時だけでは腕も鈍るだろうし。そうだ、どうだろう。このどう見ても20人前はある朕一人分の料理を朝政終了後迎賓館に出してもらい、朝政参列者が朕と一緒に食するというのは?みんな毎日戻るのが遅くなるのでは家の者も困るだろうから18人ずつ交代で。あと宮廷料理人も交代で1名来てもらって。」
官職たちはこんなに美味しいお料理を食べさせてもらえることには全く抵抗は無かったからか何も答えなかったが、ここで今まで劉煌の命令で黙っていた宋毅が、耐え切れずに命令を破って口を挟んだ。
「陛下、陛下ともあろうお方が、官職達とはともかく料理人と一緒に食事など、、、」
すぐに宋毅に向かって劉煌は手をあげて彼が言い続けることを阻止した。
「朕だからこそ料理人と一緒に食事をする必要があるのだ。宮廷料理人は朕のために食事を作っている。朕が何を好み、何を望んでいるのか今のままではわかるまい。それに毎食全て一緒にと言っている訳ではない。昼食だけだ。それも毎日という訳ではない。」
「でも、、、」そう宋毅が粘った時、龍が飛ぶ時に出す独特の風がピューっとその部屋に吹き込んだ。
その場で食事を楽しんでいた全員の箸が止まり、部屋が固まった。
劉煌は苦笑いしながら、「じゃ、そういうことで。これはきれいに平らげるのだぞ。お百姓さんたちに申し訳ないからな。」と言うと、はいっと言って隣の席の宮廷料理人の飯の上に玉ねぎたっぷりのチリソースでさらに赤く染まった蝦を一尾置いた。
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