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第三章 模索

9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。

しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。


彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々皇帝として邁進していた。さらに、祖国の政治だけでなく医療もお粗末になっていると気づいた医師としても一流な劉煌は、ひょんなことから自ら御典医長も兼務することになり、仮面をつけている時は皇帝、素顔の時は御典医長の小高蓮と、二重生活を送ることに。そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそういう時に限って運命の女性が現れる。


果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 月曜から朝政に復帰した劉煌は、病み上がりにも関わらず、午後は御典医長の仕事をし、夜は室内設計士と医療施設の病室設計を検討した。それを2日ほど続けると、3日目の水曜日には、またフラフラになり、それでも、御典医長として、継続研修の壇上に立った。


 いつものように、開始ギリギリに部屋に飛び込んできた張麗は、席について筆記用具を出し、正面を向くと、何やらとても細い人が壇上に立っているので、ようやく小高御典医長は彼女の言うことを聞いて休んだのかと思った。ところが、その別人と思った人物が口を開いた瞬間、彼が小高御典医長その人であることがわかった張麗は、怒りで自分の頭に血がどんどん昇ってくるのがわかった。


 小高御典医長が、開業医たちに先週の非礼を詫びている言葉など全く耳に入らない張麗は、一番後ろの席から、彼をギッと睨みつけていた。


 そしてその日の継続研修時間中、気の強い張麗は、心の中で小高御典医長に、


 ”覚えてらっしゃい!”


 と叫び続けていたのだった。


 案の定、その日の検死解剖もお願いと言われ(ま、これはお願いされた方が張麗にとってもよいのだが。)、張麗はいつも通り解剖し、後始末を終え、御典医長室にやってきた。


 いつもと違っていたのは、張麗は、抜き足、差し足、忍び足で部屋に入ると、床にマントを丸めて枕にして寝ている小高御典医長の横を息を潜めて通り、机のところまで行くと、机の引き出しをソーっと開けたことだった。


 ”やっぱり、飲んでない!”


 そこには、先々週、張麗が<親切>にも置いていった処方薬が、全く手をつけられないまま入っていた。


 ”道理で先週倒れたはずだわ。飲んでいたら倒れずに済んだものを!”


 怒りがまたこみ上げてくるのをグッとこらえて、張麗は引き出しを音を立てないようにそーっと閉め、検死報告書を机の上に叩きつけたい気持ちをグッと押さえてそっと置くと、拳をグーにして、また忍び足で寝ている彼の横を素通りし、静かに御典医長室の扉を閉めて廊下に出た。


 靈密院の鍵を閉め、いつものように守衛小屋に着いた時、守衛の高明が声をかけてきた。


「先週は大変だったね。」と優しく話しかけてくる高明に、

「いえ、高明さんの方がとんだとばっちりでしたよね。あんなのにお部屋占拠されて。ちゃんと休めなかったですよね。本当に申し訳ありませんでした。」


 何故だかわからないが、高明にだけはいつも自分の気持ちに正直な対応をしてしまう張麗は、不愉快そうにそう答えた。


 それでも高明は耳が遠いせいでよく聞こえていないのか、

「あの人は良くなったかね?」と聞いてきた。

 すると張麗は露骨に嫌そうな顔をして、

「良くなっても、また無理するからまた悪くなってますよ。」と吐き捨てるように言った。


 高明は、やれやれという顔をしながら、「張麗さん、男はね、まあ、そういうもんですよ。」と言ったので、思いがけない返事が返ってきた張麗は、キョトンとしてその場に立ち尽くしてしまった。


「まあ、立ち話もなんだから、ちょっとお入りなさい。」と高明は張麗の肩を優しくポンポン叩くと、小屋の中の椅子に座るようすすめた。


 言われた通り中に入って座った張麗に、高明は、お茶をすすめながら、「男って生き物はね、仕事に命を掛ける時もあるんですよ。」と静かに言った。

 張麗はお茶をいただきながら、「でも死んでしまったら元も子もないのではないですか?」と悲しそうな顔をして高明にきいた。

 それを聞いた高明は、ふっと微笑むと、「勿論そうですよ。命は一番大切です。でもね、死んでもいいという位の気合が無いと、新しい仕事を成し遂げるのは難しい時もあるんです。特に背負う物が大きければ大きいほど、命を掛けるくらいの気迫がなければ成功しないでしょう。」と言った。

 この言葉を黙って咀嚼している張麗に、高明は、「男にとって仕事とは、時には戦争のようなものなんですよ。どんな仕事でもね。」と言うと、外を見て、これはまずいという顔をし「さ、私は門番に戻らねば。張麗さんは好きなだけゆっくりしていかれなさい。」と言って立ち上がった。


 高明が小屋から出ていくと、北の方から門に向かって凄い勢いで走ってくる一人の若い男が見えた。


 その男は高明を見ると、「若い女の子がここに鍵を返しに来なかったかね?」と走りながら聞いてきたので、高明は、「ああ、張麗医師なら中にいますよ。」と守衛小屋を指さした。

 その男は、「ありがとう。ごめん。」と言うと、守衛小屋にそのまま飛び込んだ。


 守衛小屋の扉が突然激しく開いたので、湯飲み茶わんを洗っていた張麗が驚いて振り向くと、そこには小高御典医長が肩で激しく息をして立っていた。


 張麗がキョトンとしていると、彼の第一声が「なんで起こしてくれなかったんだ。」だったため、先ほどの怒りが舞い戻ってきた張麗は、「なんで私があなたを起こさないといけないんですか。私はあなたの付き人ではありません。」と叫ぶと、荷物を持ってそのまま出ていこうとした。


 彼は右腕をスッと肩の高さに上げ、彼女の動きを遮ると、まだ肩で息をしながら、「ここが病室か?」と彼女に聞いた。彼女は顔を右斜め上にあげ、彼の顔を見ると、彼は小屋の中をつぶさに観察していた。彼女は下を向くと、大きくため息をついてから、「そうです。」とだけ言い、その場に立ったまま、目を左右に動かし続けた。彼は「うん」とだけ言って、彼女の行く手を遮っていた腕を降ろした。


 彼女は遮りが無くなったので、彼を見ることなく小屋から出ようとして2,3歩進んだものの、何を思ったのか、そこで立ち止まって彼の方を振り返った。


 小高御典医長は、片手を腰に当て、もう一方の手を拳にして口元に当てて、何かブツブツ言いながら小屋の中を上下左右見ながらゆっくりとねり歩いていた。


 彼女は、彼に声をかけようか迷ったが、かけるのを止めて外に出ると、夜風が気持ちよく彼女の顔をかすめていった。その心地よさに思わず張麗は目をつぶって深呼吸した。そして、高明に礼と挨拶をすると一人、銚期門をくぐっていった。


 しばらくすると守衛小屋の扉がバーンと開き、中から先ほどの若い男が慌てて飛び出して、高明の前を素通りすると、そのまま銚期門を駆け抜け、皇宮外に走り去っていった。


 この光景を見ていた高明は、やれやれと言うと、また守衛小屋に入っていった。



「君は歩くのが早いな。」


 息を切らせながら、ようやく張麗に追いついた劉煌が彼女に声をかけると、張麗は聞き覚えのあるその声に驚いて歩くのを止めて振り向いた。


 劉煌は、振り向いた彼女に、ハアハア言いながら、「さあ、今日はどこに食べに行く?」と聞いたので、彼女は驚きのあまり目を大きく見開いて、口をポカーンと開けてしまった。しばらくそれで固まっていたものの、彼女はやおら辺りを見渡すと、そこにちょうど麺の屋台があったので、彼女はそれを指さしてから、どう?という感じに首を傾けた。


 劉煌は、うんと頷くと、彼女の背中に手を回し、右腕を さあこちらへ といっているかのように上げて、彼女を屋台へ導いた。


 屋台のある場所の木々の枝にはランタンが吊るされ、食事用の外のテーブルの上にはろうそくが灯っており、そこの空間だけが夜なのにとても明るかった。


 麺を注文して席に座ると、張麗は、テーブルに肘をつき両手で顎を支えながら、何よ?という感じに劉煌の目を見た。


 劉煌は一度咳払いをすると「意外に屋台も趣があっていいわね。」と言った。


 その言葉に、張麗は、ばかじゃないといっているかのような目を劉煌に向けてから、屋台の大将の方に顔を傾けた。


 肩幅ほどの長さの太い麺を両手に持ち、それを腰の高さほどに置いてある板に打ち付ける度に、太かった麺がどんどん細く、沢山に分裂していく大将の見事な技を見ながら、張麗は、先ほどの高明との会話を思い出していた。


 相変わらずテーブルに肘をつき、両手で顎を支え大将を見ながら張麗は、突然「あなたの仕事は、あなたの命をかける価値があるものですか?」と聞いた。

 その言葉にハッとした劉煌は、驚いて張麗を見た。

 彼女は相変わらず、劉煌の方は見ないで、大将の方を見ている。


 劉煌は一度大きく深呼吸すると、丹田から「ああ。」と一言だけ、彼女の方をしっかり向いて真剣な顔で答えた。

 張麗はやはり大将の方を見たまま「うん。」とだけ言った。


 やがて、二人の前にアツアツの麺が置かれると、張麗は「いただきます。」と言って、麺を箸でつまみ、麺にフーフーと息を吐きかけてからすすった。それを見ていた劉煌も自分の麺に箸を入れた。


 二人とも一口麺をすすったところで、目を見張ってその場で固まってしまった。

そして次の瞬間、まるで示し合わせていたかのように二人はお互いを見合って、信じられないというような顔をした。


「この麺、めっちゃ美味しくないですか?」珍しく張麗が今どきの女の子言葉で劉煌に話しかけた。

「うん、絶品だ!」と言いながら、劉煌はどんどん麺をすすった。

「〇が5個じゃ足りないです。」と張麗が嬉しそうに言いながら、麺の上に乗っている肉を頬張った。

「そうだな。今までの最高が〇5個だったら、完全にこれは逸脱している。」と言うと、劉煌は蓮華を使うことなく丼を持ち上げてスープをゴクゴク飲んだ。


 ここの麺は、味もさることながら、本当に心のわだかまりまでを溶かしてしまう魔法のような一杯だった。


 二人は無我夢中で丼をかかえるようにしてあっという間に麺を食べきった。


 食べ終わってお箸をテーブルの上に置くと、張麗は、ふーと息を漏らしてから「こんな屋台があるなんて知らなかった。」と独り言を言った。劉煌は席を立つと二人の丼を大将に返しながら、大将と少し話をした。


 テーブルに戻ってきた劉煌は「さ、帰ろうか。」と言うと、張麗に手を差し出した。


 彼女は一瞬ためらったが、劉煌の手をかりることにして、彼の手に自分の手を乗せて席から立ち上がって、彼に「ありがとう。」と言った。


 張麗の家に向かって歩き出すと、劉煌が口を開いた。

「あの屋台は2年前からあそこで開業しているそうだ。」

「そうなんですね。もうずっとあったのに、全然気づかなかった。こんな感じでそこにあるのに、気づかないでいることって、もしかするといっぱいあるのかも。」

感慨深げに張麗がそう呟くと、劉煌も頷きながら「そうだな。その通りだな。」と張麗を見てしみじみと言ったので、張麗は自分の右側を歩く劉煌を見上げた。しばらく二人は見つめ合ったまま歩いたが、二人とも視線を前に戻して無言で歩き続けた。


 沈黙を破ったのは張麗だった。

「ここでちょっと待っていてください。」というと、自分の家に走って戻って行った。


 劉煌が暇つぶしに小石を蹴っていると、張麗が戻ってきて「はい。」と言って彼に手拭いを渡した。劉煌が何これ?という顔をしているので、「先日お借りしていたものです。クリームを付けたので油じみがどうしても取れないところが2,3箇所あって申し訳ないです。」と彼女は説明した。


「なんだ、そんな手拭い、いいわよ返さなくて。染みも残っているし。そんなこと気にしないで。それより手首はどう?」

「おかげさまで、おさまりました。ほら。」と言って手首を劉煌に見せた。


「とにかくもう遅いから帰りなさい。お家に入るところを見とかないと、安心して帰れないから。」劉煌がそういうと、張麗は、うんと頷いて手拭いを持ったまま家に入っていった。



 *LY*ZF*LY*ZF*LY*ZF*LY*ZF*LY*ZF*LY*ZF*LY*ZF*LY*ZF*LY*ZF*



 楽虹夢殿(らっこうゆめどの)は、京安一の女郎屋で、建物は木造3階建て、その1階は庶民向け、階数が上がるごとに内装が派手になり、最上階は地位も名誉もある金持ち以外は使えない部屋となっている。


 その最上階の部屋で、女郎を膝に座らせながら彼女に酌をさせていた黄敏の所に、男がいきなり転がり込んできた。


「無礼な、誰だ!」と黄敏が怒って叫ぶと、

「拙です。」と回答した男の声で、黄敏が「ああ、お前か」とかなりトーンダウンしてそう呟くと、「何か動きがあったのか?」と続けた。


「間違いないです。もう何度も張麗の家に来ていますし、食事にも行っています。今日は屋台だったのでハッキリわかりました。」

「俺を追い出しておきながら、あのアマ、いい根性してるじゃないか。なめるんじゃないぞ。男ともども後悔させてやる。」と黄敏は酒を煽りながら叫ぶと、御ちょこを床に叩きつけて割った。


 いつものこととは言え、黄敏の気分のムラに閉口しながら「若様、どうしましょうか?」と男が恐る恐る聞くと、黄敏は膝に座らせていた女郎の尻を掴んでから「お前は下がっていてくれ、また呼び出すから、その時はもっといい思いをさせてやるからさ。」と言った。


 へっへっへと気味悪く笑った黄敏に「絶対また私を指名してくださいよ。」と女郎が科を作って言うと、その女郎は入ってきた男を見下して、「ふん」と言ってから部屋の外に出ていった。


 黄敏はその男に彼に近づくよう、手で指示すると、男は「ごめん。」と言って黄敏の側にやってきた。


 黄敏は、その男の耳元で、「ならず者たちを10人は集めろ。」と言うと、早く出ていけと言わんばかりそっぽを向きながら、男に向かって手でしっしという仕草をした。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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