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第三章 模索

9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。

しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。


彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々皇帝として邁進していた。さらに、祖国の政治だけでなく医療もお粗末になっていると気づいた医師としても一流な劉煌は、ひょんなことから自ら御典医長も兼務することになり、仮面をつけている時は皇帝、素顔の時は御典医長の小高蓮と、二重生活を送ることに。そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそういう時に限って運命の女性が現れる。


果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 その夜、天乃宮では、秘密会議と称して、応接間の皇帝の椅子に腰掛けている劉煌と、その壇下にある丸いテーブルを囲んで座っている4人とに分かれて、早速『自称:張麗』なる人物の調査が繰り広げられていた。


 劉煌が片手を口元に置きながら白凛の持ち帰った書類2点を読んでいる間に、他の4人は、とりあえず張麗のことで知っていることを洗いざらい書き出そうということになった。


 彼女は、女で医者である。年齢は10代後半20歳に近い。

 彼女は、一人暮らしである。

 彼女は、京安出身ではない。

 彼女は、京安で開業医をしている。

 彼女の父親は病弱

 彼女は、清水県の役人:張盛の娘の張麗ではない。

 彼女は、華景の兄弟弟子(チョウという苗字)の一番弟子。

 彼女は、命を狙われている。

 彼女は、黄敏に襲われたことがある。

 彼女は、男嫌いである。


 ここまで来た時に、4人の話はピタっと止まった。


 やがて、書類を読み終わった劉煌が、皇帝の椅子から立ち上がり、壇から降りて、他の4人が囲んでいるテーブルにやってくると、書き出された情報を一瞥し、今度は彼しか知らないであろう彼女の情報を話し始めた。


 彼女は、気が強い。

 彼女は、鍼を使う。

 彼女は、化粧をしない。

 彼女の髪はいつもぼさぼさ。

 彼女の字はきれい。

 劉煌が一気にそこまで言ったところで、今度は李亮が、そうだ!と叫ぶと、

「彼女の所作は全て上品!」

 と付け加えた。


 ”何よ、なんでそんなこと知っているのよ!ほんとムカつくわ。”

 劉煌はそう心の中でそう呟きながらも、何事もなかったように、


 彼女は、野菜が好き。

 彼女は、うす味がすき。

 と続けたら、今度は、李亮が

「彼女の入れるお茶は天下一品」と間髪入れずに言った。


 その瞬間、突然劉煌が真っ赤になって「アンタ、なんで彼女が入れるお茶が天下一品だって知ってるのよー!」と、李亮に手をあげんばかりに喰ってかかってきた。


 この劉煌の反応に、前々から怪しいと思っていた李亮は、


 ”大BINGOだぜー”と思い、


 他の3人は何がなんだかわからずに呆気にとられていた。


「お前が生死の境を彷徨っている時、俺の苦労を気遣って、彼女が俺にお茶を入れてくれたんだよ。1杯目、2杯目はただ喉の渇きを取り去る用、そしてあの見事な3杯目のお茶。」と、わざとウットリするような目をして頭を左右に動かしながら李亮が言ったものだから、完全にこの回答に頭にきた劉煌が、テーブル越しに李亮に襲い掛かろうとした。それを素早く察知した梁途が、劉煌を羽交い締めにして阻止すると、


 ”とどめを刺すか”と李亮の心の中の悪魔が囁き、


「それに、彼女は、水も滴るいい女!」


 と言ったので、劉煌は、頭から湯気を出し、真っ赤になって梁途の腕の中で暴れながら「お前は打ち首獄門だっ!」と李亮に向かってわめいた。


 さすがにこの頃になると、他の3人にも劉煌にとって『自称張麗』がどういう存在なのかがわかってしまい、”これは早く『自称張麗』の身元をハッキリさせなければならない”と、白凛は心の中で思った。


 こういう時、いつもほとんど話さない梁途が活躍する。そして、今回も例外ではなかった。


 梁途は劉煌に「太子、太子はまだ病み上がりだ。この件は僕に任せて、もう寝たほうがいい。大丈夫、亮兄は介入させないから。」と諭すと、宋毅を呼び、宋毅と二人で左右をサポートしながら劉煌を寝室に連れて行った。


 劉煌が完全に視界から消え、声も聞こえない所まで行ったことを確認してから、

「本当にわかりやすいやつだ。」と李亮がボソッと言うと、孔羽も白凛もうんうんと頷きながら、「どうするよ。」と困ったように口々に言ってお互いの顔を見合わせた。


「とにかく、『切り裂き張麗女史』の身元確認だな。」と李亮が言うと、

「どうやって身元確認するんだよ。直接聞いたって絶対本当のこと答えないぞ。」と、孔羽がお茶をすすりながら答えた。


「女で読み書きができるから、まずは農民でもないし、地方の庶民でもないだろう。」と、いつの間に帰ってきたのか、梁途が腕を組みながらそう言うと、白凛が大きな無地の紙を出してきて、テーブルの上に置き、すぐさまそれに「農民×、地方庶民×」と書きだした。


「娘を医者にさせる家って、どういうところだろう。身分は高すぎず、低すぎずってところか。」と孔羽が呟くと「そう考えると、やっぱり地方の役人の娘って感じだよな。」と、李亮が言った。


「私が気になるのは、彼女の言葉遣いや発音よ。」と白凛が別の視点から話し始めた。

「地方にしては綺麗すぎるのよ。訛りもないし。」


「それは確かにそうだな。」と李亮が相槌を打った。更に、

「それに、あの品の良さとお茶の入れ方。そう考えると、地方役人の娘というより、ある程度身分高い出なんじゃないかな。」と言うと、李亮は腕組みをして考え込んでしまった。


「お凛ちゃん、お凛ちゃんが訪ねた医師の師匠が誰だかわかるかな。その師匠の弟子の中でチョウという苗字の人を探せば身元がわかるんじゃないの?」と、孔羽が我慢が限界にきてテーブルの上にあった饅頭を頬張りながらそう言うと、「それは、調べたのよ。でも弟子でチョウという苗字の人はいなかったの。」と白凛が筆を持ちながら残念そうに答えた。


「俺ずっと気になっているの、命狙われているってとこだな。」と、梁途が他の連中から一人離れ、劉煌の机に向かって歩きながらボソッと言った。梁途は、劉煌の机の上にある『自称張麗』に関する2通の書類を掴むと、戻って皆のいるテーブルの上にその2通をポイっと投げ置いた。


 1通は孔羽が、もう1通は李亮が目を通し始めた。


「張盛の家の火災記録からは、張麗という娘が大けがをしたということだけしかわからないな。」と、孔羽が残念そうに言うと、李亮は南京豆をつまみながら「こっちの手紙は面白いぞ。」と始めた。


 李亮は、手紙の一文を指さしながら「彼女の”命が狙われているのは、理不尽なことに巻き込まれたからだ”そうだ。」と言った。


「命が狙われるほどの”理不尽なこと”ってどういうことだ?」

 南京豆の薄皮を取りながら梁途が聞いてきた。


「例えば、犯罪を目撃して命が狙われているとすると、それって理不尽なことになるのか?」

「ううーん、なるっちゃ、なるだろうし、ならないっちゃ、ならないかな。。。微妙。」と、孔羽が薄皮ごと南京豆をどんどん口の中に入れながら言った。

「とにかく、「彼女は、理不尽なことに巻き込まれている。」をさっきの項目に追加しないとな。」と、梁途が、孔羽が手にしようとしていた最後の饅頭を横取りしながら言った。


「そうそう、話は変わるけど、亮兄ちゃんと羽兄ちゃんは山の調査に現地に行くの?」と、白凛が梁途の言ったことを紙に書きながら聞いてきた。

 ”そうだ!”と思った李亮は、

「山の調査に派遣する者達に、張麗女史の似顔絵を持たせて、現地で聞いて回ってもらうってのはどうだろう。あと地方官僚と豪族の娘で失踪者はいないかも調査させたら。」と言うと、孔羽が「そうだな。それがいいだろう。俺は、念のため元中央省司の御令嬢を当たってみる。」と、空になった皿を手に持ち、歩きながらそう言った。


 よしよしそうしようとお互いの顔を見合わせたとき、テーブルには3人しかおらず、梁途が見当たらなかった。


「あいつどこ行ったんだ?」と、振り向いた李亮はぶっ飛んだ。


 そこには梁途がちゃんといて、何やら書いているのだが、その場所が大問題だった。


 なんと、梁途は、皇帝の椅子に座って、皇帝の机で、皇帝の筆を使っているのだ。


「お前、どこに座ってるんだよ!」

 李亮が慌てて、梁途の所に駆けつけると、彼は涼しい顔で、「ほれ」と言って紙を一枚李亮に差し出した。

 李亮が、梁途に手でそこからどくようにという仕草をしながらその紙を見てみると、それは見事な『切り裂き張麗女史』の似顔絵だった。


 李亮が、顎に手を当てて「ほお~。うまいな。そっくりだ。」と、何度も頷きながら見ていると、孔羽と白凛が側によってきて、李亮の手にある紙を覗きこんだ。

 白凛が本当に驚いて「ほんと、そっくり。」と感心しながら言う中、実物を見たことのない孔羽は、「へえ、そうなんだ。」というと、「これなら確かにかなりの美人だね。」と頷いた。


 皇帝の椅子から離れようともせず、同じ似顔絵を描き続けている梁途は「だろう。」と言うとふふんと鼻を鳴らした。


 すると白凛が突然怪訝そうな顔をして「ところで、途兄ちゃんはなんで『自称張麗』の顔を知っているの?」と、不思議そうに聞いてきた。


 孔羽も李亮も、白凛のこのセリフに、”せやせや、なんで知ってるん?”と思ったらしく、3人が梁途を囲むと、いつも沈着冷静な梁途が慌てて「そ、その、彼女が開業した当時から、母が世話になっている。」と言うと、真っ赤な顔で下を向いてまた似顔絵を描き続けた。


 孔羽、李亮と白凛の3人は、サッと梁途から離れると、円陣を組み、3人でひそひそ話し始めた。


李亮:「あいつ、もしかして、夜な夜な『切り裂き張麗女史』の姿絵、書いているんじゃないか?」

孔羽:「目の前にいないのにスラスラ描いているもんな。」

白凛:「しかもそっくり。」

全員:「・・・・・・」


 しばらく続いた沈黙の後、孔羽が本当に国の一大事のような顔をして、

「この展開、マジでやばくないか。」と、李亮と白凛の顔を交互に見ながら嘆いた。

「太子が知ったら、アイツ命がいくつあっても足りないな。」

 李亮が真剣にそれに答えると、3人は同時に頭をそろそろとあげて梁途の方を振り返った。


 梁途は、同じ場所で、真っ赤な顔のまま、黙々と張麗の似顔絵を描き続けている。


 それを見た白凛は、どうしたらいい?と言わんばかりに李亮を見上げた。それを察知した李亮は、ため息をつきながら「こればっかりは、なるようにしかならないからな。」と、本当に困ったような声でボソッと言った。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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