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第三章 模索

9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。

しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。


彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々皇帝として邁進していた。さらに、祖国の政治だけでなく医療もお粗末になっていると気づいた医師としても一流な劉煌は、ひょんなことから自ら御典医長も兼務することになり、仮面をつけている時は皇帝、素顔の時は御典医長の小高蓮と、二重生活を送ることに。そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそういう時に限って運命の女性が現れる。


果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 小高蓮の行方が気になっていたのは、なにも中ノ国皇后付きの女官木練だけではなかった。


 ある日突然、李亮から西乃国軍が北盧国から撤退するという連絡を受けたゾロンも、彼の行方を捜していた。

 いや、それは正しい表現ではない。

 正確に言うと、ある日突然1枚の手紙を最後に姿を消したお陸を探す手がかりとして、小高蓮の行方も探っていた。


 そんなゾロンの元に、西乃国との調停の根回しをしていた西乃国在住の蔵家所縁の男が、中間報告に訪ねてきた。ゾロンから見れば、はとこのそのまたはとこの舅にあたる人物なのだが、彼が言うのには、西乃国の新皇帝は若いが非常にやり手であり、ガンガン改革を行い、毎日目まぐるしく物事が変わっていくとのことだった。


「それは朝令暮改ってことか?」


 西乃国の現皇帝は、西乃国を叔父から取り返した後まず北盧国から無条件で撤退したのだが、またやはり侵攻しようと企んでいるのではと毎日疑心暗鬼になっているゾロンは、皮肉交じりにこう聞いた。


「いやいや、有言実行ですよ。朝やるって決めたら夜にはもう実行されているって感じです。特にインフラ関係については待ったなしですよ。だからあんなに寂れていた街が、貧困だった民が、本当に見違えるようですよ。先月も中ノ国から皇族が来て街中でトークショーをやって大賑わいでした。」

「ふーん、皇族が来てトークショーなんて、その皇族ももの好きだなぁ。」

「まあ、なんのことはない、結局は美容クリームの宣伝イベントだったんですけどね。でもこれがなかなか侮れないクリームで毎年この季節の変わり目に湿疹ができるんですが、これを塗ると一発で治る。」

「美容クリームなんじゃなかったの?」ゾロンが怪訝そうな顔をして聞いた。

「そうなんですがね、、、」


 ”湿疹にも効く美容クリームなんて、そんなもの、、、”

 そこでゾロンは、ハッとした。

 ”ま、まさか、、、”


「えっ、ちょっと待って。その美容クリームって今持っている?」

青ざめながらもゾロンはすぐさま彼にそう聞いた。

「持ってますよ。」

 ゾロンの変化に気づくことなく彼はそう言ってがさがさと袋の中をあさっり、それを取り出すとゾロンに渡した。


 ゾロンはおそるおそる手を伸ばし、それを受け取ると震える手でその蓋を開けた。

 その瞬間、ゾロンはこの美容クリームの正体がわかってしまった!!!


 突然ゾロンは、美容クリームの入った壺をおっぽり投げて、驚愕している、はとこのはとこの舅にしがみついて叫んだ。

「これ、誰が売ってたのおおおおおおお?!」


 はとこのはとこの舅はビビりながら、突然しがみついてきたゾロンを放そうとやっきになりながら答えた。


「そ、そのイベントで買ったんですよ。欲しかったらあげますよ。3つ買ったらおまけで1つついてきたから。。。」


 その怪しい売り方にますます自分の考えに自信を持ったゾロンは、彼を追い払おうとしている手を払いのけ、必死にしがみついて叫んだ。

「ちがう!誰が!誰が売ってたんだ!もしやドクトル・レン、、、小高蓮では!!!」


 はとこのはとこの父は身の危険を感じながらも、やけくそになって答える。

「そうです!そうです!西乃国の御典医長!」


 彼がそう答えた瞬間、ゾロンは彼を解放し、

「フレッドオオオオオオオオ!!!!!!!」と、その場をつんざくような悲鳴をあげた。


 フレッドはすぐに何事かと飛んできた。

「いかがなさいましたか。坊ちゃま!」

「すぐ西乃国に行く!」

「へ?」


 はとこのはとこの舅は、ゾロンにしがみつかれていた場所をさすりながら、涙目で伝える。

「だからクリームならあげるよ。」

「クリームなんか要らない!ドクトル・レンが要るのだ!」


 *YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*Z


「小高御典医長、小高御典医長。起きてください。」

 張麗が彼の肩を優しく揺らした。


 気持ちの良い眠りを妨げられてちょっと不機嫌になった劉煌は、「うーん、うるさいなぁ。もう少し寝させて。」と答えると、今度は聞き覚えのある男の声で、「いつまで寝てるんだ。もう帰るぞ。」という言葉が部屋の中に響いた。


 劉煌が目を手でこすりながら、見上げると、そこには何故か李亮と白凛が二人そろって腕組みをしながら劉煌を睨みつけていた。


 劉煌は着物を着なおしながら、「どうしたのよ。」と半分寝ぼけまじりにそう聞くと、張麗が粗相があっては困ると思い、慌てて、「小高御典医長、大将軍と夫人が心配して見に来られたのですよ。」と劉煌に事態を理解させようと説明した。


 しかし劉煌は、それに、

「ふ、夫~人?」と

 素っ頓狂な声をあげて固まってしまった。


 張麗は『大将軍夫妻』の方を振り向くと、頭を下げて「たぶんまだ寝ぼけているんだと思います。」と申し訳なさそうに言った。


 その張麗の後ろで、どういうことだ?と言わんばかりに、腕をまくり眉をあげて顔を突き出す劉煌に目くばせしながら李亮は「まあ、よくあることですから。ハハハ。」と張麗に向かって言うと、今度は劉煌に向かって「陛下が、まだかって心配しているぞ。」と言いながら、切れ長の目を何回も見開いて見せた。


 ”しまった。今日は土曜日だった。みんなが見舞いにくる日だった。”


 そう思い出した劉煌はただ「そうか。」と言うと治療台から飛び降りて、李亮と白凛の前に立ち「先に行ってて。後片付けするから。」と言って、二人を部屋から追い出した。


 劉煌がテーブルをみると、もう料理の乗っていた皿は綺麗に洗って重ねられていた。劉煌はオカモチを開けて下の段から箱を取り出し、それをテーブルの上にコトンと置いた。


 劉煌は「張麗、世話になったね。本当にありがとう。私の治療代をここに置いておくから。」と箱の上をタンタンと2回叩いた。そして下を向くと「陛下が君にとても感謝していた。」と付け加えた。彼はおもむろにテーブルの皿をオカモチの中にしまって、オカモチを手に持ち、最後に彼女の方を振り返って微笑むと「お休み。」と言って静かに外に出ていった。


 張麗はしばらくその場に立ち尽くしていたが、テーブルの箱を移動させようと思い、箱を持ちあげようとしてその重さに驚いて手を放した。それでも恐る恐る中を開けると、紙が1枚入っており、その紙の下には金貨が数え切れないほど入っていた。驚いた張麗が震える手で箱の紙を手に取ると、その紙は4つに畳まれていて、開くと、文字が書いてあった。


 独坐幽篁裏、弾鈴復長嘯、深林人不知、明月来相照


 ”王維の竹里館だわ。”


 張麗は今日の小高御典医長とのやり取りを思い出していた。


 ”小高御典医長、あなたって本当に不思議な人。”


 紙を手に持ったまま張麗はその場にしばらく立ち尽くしていた。


 *YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*ZF*YZY*Z


 劉煌が門の外に出てくると、李亮と白凛がやれやれようやく来たという顔をして待っていた。


劉煌は素直に「ごめん、もうみんな集まってた?」と聞くと、馬車の中から、孔羽と梁途が顔を出して、「ああ」とぶっきらぼうに答えた。


 はああとため息をついて一番最後に馬車に乗ると、劉煌は全員に「ごめん。見舞いに来てくれる話をすっかり忘れてた。」と正直に白状して謝った。


 全員から非難されると覚悟していたのに、皆非難するどころか、何故かニヤニヤしながら劉煌を見ているだけなので、「みんな、どうしたの?」と劉煌が聞いたのが百年目だった。


「太子の操がっ!」との孔羽の爆弾発言を皮切りに、馬車の中が、ここぞとばかりに皇帝大イジリ大会に変わった。


「なんでアンタが知っているのよ!」

 と、劉煌が飛び上がった拍子に馬車の天井に頭をぶつけて、頭を手で押さえながら、怒り心頭で孔羽に喰いかかると、

「大将軍さまにそんなことさせるから。。。わはは。いやー腹痛ぇ~。ははは」と孔羽の大笑いが狭い馬車中に響いた。というか、劉煌以外全員の笑い声が馬車中に響きわたった。


「いや、『切り裂き張麗女史』から御指名を受けたからには、断れないだろう。命かかってるんだし。」と李亮が真顔で言うと、劉煌は唾を飛ばしながら、

「私が言ってるのは、なんでコイツしか知らないことを、アンタが知っているのかってことよ!」と孔羽に向かって叫ぶと、今度は李亮に向かって「お前が話さない限り誰もしらないはずだろ!」とわめいた。


 ところが、李亮は悪びれることも無く「それなんだが、、、実はお凛ちゃんもその場に居たんだな。」と更に爆弾発言をしたので、劉煌は今度は頭を抱えてうずくまってしまった。


 李亮は、そんな劉煌を慰めるように、彼の肩を軽くポンポン叩きながら「大丈夫だ。お凛ちゃんには見えないように、俺の身体でブロックしといたから。」と、全く慰めにならないようなことを言った。


 それでも全くリカバリーする様子の無い劉煌に、李亮が、とどめの一言を突き刺した。


「文字通り、裸の王様だった!」

 

 勿論車内は大爆笑の嵐になった。


 笑いがだんだんと引いていったところで、李亮が「でも本当に一時はどうなるかと心配したぞ。」とぼそっと真顔で言ったので、その場がシーンと水を打ったように静かになった。聞こえるのは、馬車を引く馬の足音と車輪の回る音だけだった。


「笑い話で済んで良かった。」と、劉煌本人がぽつりと言って沈黙を破った。


 李亮が「全くだ。」と言うと、劉煌を抱きしめた。

 そして、「本当に全くだ。」と言うと、劉煌を更に強く抱きしめた。心なしか李亮の声が涙声になっている気がした。


 劉煌は李亮から離れると「ところで、どうしてお前が助けに来たのか?」と、おもむろに聞いた。


「宋公公がお前が運ばれているところを見て、俺の所に飛んできたんだ。」

「運ばれて?」

 李亮は言いにくそうに、

「ああ、靈密院にはベッドがないだろう?お前も身分を隠しているから天乃宮にも運べないし、、、で、確保できたのが、、、守衛小屋だった。」と言った。


「守衛小屋?」

「うん、『切り裂き張麗女史』によると狭い空間にベッドがあり、キッチンがあり、厠も側にあるってことで、重病患者の治療には向いている所だそうだ。」と、李亮が申し訳なさそうに劉煌をチラチラ見ながら言った。


 何しろ劉煌は40代以上続く劉王朝の直系皇帝だ。

 家柄がいいとか、身分が高いとか、そんなレベルではない。


 天子なのだ。


 その天子が守衛小屋に寝かされていたと思うと、どんな天罰が下るやらと、あの李亮でさえ思ってしまう。


 しかし、当の劉煌は李亮の話に怒るどころか、真剣な顔をして、時折目を輝かせながら、うんうんと頷くと「そうだ!」と叫んだ。


 そして間髪入れずに「李亮、旧後宮の医療施設だが、まだ内装工事はしていないよな?」と、今度は劉煌が両手を李亮の肩にかけて聞いてきた。


 突然話が変わって驚いた李亮は、なんとか

「まだだが、、、」とだけ答えると、

「工事はいったん休止だ。医療施設の病室を変える。設計士を呼んでくれ。」と、劉煌は嬉しそうにそう言った。

 李亮は、何がなんだかわからず、ただ「ああ。」とだけ答えると、隣に座っている白凛に「君はわかるか?」というような顔をして首を傾けた。


 その様子をみていた劉煌は、また「そうだ!」と閃くと、今度は李亮を通り越して、李亮に向かって首を横に振っている白凛に向かって「お凛ちゃん、何かわかったのか?」とだけ聞いた。


 白凛は劉煌の方を向いた後、声を潜めて「はい、でもここで話していいですか?」と周りを見渡して念を押した。劉煌は「勿論だ。張麗について何かわかったのか?」と聞いた。


 白凛は、包み隠さず自分が見聞きしてきたことを話した。


「・・・ということは、清水県の役人の娘ではないということか?」

 劉煌は、顎と口に拳を当てながら顔を曇らせて呟いた。

「はい。私は、自称張麗と名乗るあの女医は、清水県の役人の娘ではないと思います。」

 そう白凛は明言した。


「では誰なんだろう?」


 いつも寡黙で、今日もこれまであまり会話に加わってこなかった梁途がポツリとこう言った。


「私にはさっぱりわからないわ。」と白凛が答えると、続けて「太子兄ちゃん、私は太子兄ちゃんの身が心配です。どこの誰かもわからないし、彼女が訪ねた後に人も死んでいるし。」と本当に心配そうに言った。


「でも、命を狙われている方なんだろう?」と同情気に孔羽が聞くと、すぐさま

「狙うも狙われるも紙一重よ。」と、白凛は不信感をあらわにしてそう吐き捨てた。


 白凛は、孔羽の方をみて念を押すように「とにかく危険人物であることは確かよ。」というと、劉煌の方を振り返り「太子兄ちゃん!」と言った。


 すると今まで黙っていた李亮が、口を開いた。

「俺は彼女と狭い空間に半日一緒にいたが、お凛ちゃんには悪いけど、彼女が危険人物とは思えなかったなあ。他の大の男の医者たちがオロオロして何もできない中、彼女だけが必死になってお前を診ていたよ。」

 それにすかさず劉煌が反論した。

「だけどお前、この前彼女が置いていった薬を、飲むなって言ったじゃないか。」


 李亮は、非常にばつが悪そうにして「それについてだが、、、」と言い始めると、「お前が倒れていた時に彼女がお前に飲ませた薬も、俺、毒だって思ったんだよ。それで思わず酷い匂いだなと言っちまったら、それは健康な証拠だって言われたんだよ。俺病人じゃないから勘が外れたんだ。」と、頭をかきながら弁解した。


 その言葉が終わるか終わらないかのうちに「その通りだ!」と劉煌が立ち上がって叫んだので、みんな馬車の中なのに飛び上がって驚いた。


「薬は基本毒なんだ。必要な時、必要な量を必要な人に与える時だけ、毒が薬になるんだ。そんな基本的なことを私は忘れていた!私としたことが。」

 劉煌はそう言うと、李亮の両肩に両手を添え「ありがとう、李亮」と言った。


 李亮はちょっと安心してふっと笑うと「それに、彼女、うーん、何て言うかな~、なんかお前と雰囲気が似てるんだ。」と、劉煌をちらちら見ながら言った。

「それはどっちも医者だからじゃないか?」と孔羽が、暑くなったのか扇子をバタバタと大きな音をたてながら仰ぎながらそう言った。


 そういう孔羽を無視して、李亮は静かにこう言った。

「あの子の父親は病気がちで、小さい頃から彼女がよく面倒を見ていたそうだ。」


 すると、みんなの目が一斉に劉煌に集中し、みんなが出会った頃のことを思い出していた。


 それぞれが、物思いにふけっていると、

「彼女、命狙われているんだろう?」と、梁途が低い声でボソッときいてきた。

「うん。そうみたい。あっ。」と白凛が言うと、思い出したように懐から華景の小屋で見つけた手紙を取り出し「これを。」と言って劉煌に手渡した。


 ちょうどその時、馬車が天乃宮の前に横付けされた。


「では中で秘密会議をするか!」との劉煌の掛け声で、皆が一斉に顔を見合わせると、全員が「スゥ~パ~・ファイヴッ!」と言って、腕を高々とあげながら馬車から飛び降りていった。


 まるで皆が出会ったあの時のように。


お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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