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第三章 模索

9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。

しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。


彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々皇帝として邁進していた。さらに、祖国の政治だけでなく医療もお粗末になっていると気づいた医師としても一流な劉煌は、ひょんなことから自ら御典医長も兼務することになり、仮面をつけている時は皇帝、素顔の時は御典医長の小高蓮と、二重生活を送ることに。そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそういう時に限って運命の女性が現れる。


果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。


登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ

 倒れた劉煌が発見されてから半日が経過した。


 守衛小屋の周囲に取り巻いていた医師たちはとっくに消え去り、守衛小屋の入口にはいつものように年老いた守衛の高明が立っていた。


 辺りは真っ暗な夜半時、突如、馬の足音といななきと共に、女の「開門!開門!」という声が銚期門に響き渡った。


 外の守衛も守衛小屋の中の張麗にも緊張が走ったが、李亮だけは、その声に飛び上がってすぐに守衛小屋から出ると、いそいそと門を開けに走った。


 門の外では思った通り、白凛が馬に乗って開門を待っていた。

 白凛は汗だくで、馬を飛ばしてきたから、束ねていても髪もバサバサだった。


 ”髪が乱れていてもいい女だなぁ”うっとりとそう思いながらも、

「お凛ちゃん、いいところに来たよ!」と李亮が言うと、白凛は、

「なんで亮兄ちゃんがそこにいて、門を開けてるの?」と聞いてきた。

 李亮は、まあまあとでも言うかのように手を上下に振りながら、

「とにかく馬から降りてきて、話があるんだよ。」と言った。


 しかし、白凛は、全くニコリともせず、

「私にそんな暇はないのよ。太子兄ちゃんに早く知らせないと。そこをどいて!」と言ってきた。


 それに慌てた李亮は、

「そのことなんだが、、、今は無理なんだ。うん。」

と言うと、とにかく馬から降りなさいと彼女の手を引いて馬から降ろさせた。


 しぶしぶ馬から降りた白凛は、どういうこと?という顔をしてくるので、李亮は守衛に聞こえないように、白凛の耳元で「太子が倒れた。」とだけ言った。驚いた白凛が叫びそうになったので、彼は慌てて彼女の口を手で塞ぎ「大丈夫だ。今、京安一の名医がつきっきりで診てくれている。おかげでだいぶ持ち直してきている。」と小声で素早く言うと彼女の口から手をゆっくりと放した。


「また、どうして?」乱れた髪を結わえなおしながら白凛は聞いてきた。

 ”髪を直す仕草って本当に色っぽいなぁ”とまたうっとりしながら、

「多分過労だな。」とまるで劉煌のことはどうでもいいかのようにサラッと李亮が答えると、信じられないという顔をして、白凛がまた聞いてきた。

「本当に?何を根拠に?」

「先週も靈密院で正体不明で寝入っているところを発見した。」

「・・・・・・」


「で、お凛ちゃんは何でこんな夜半に太子んとこに一人で来たのさ。」

 李亮は眉をあげながら嫉妬まじりの声で聞いた。


「あの張麗って女医。曲者よ。」


 真剣な顔をして白凛が言い放った。


 その発言に仰天した李亮がどういうことだと聞くと、白凛はまた真顔で、ヒソヒソと彼に告げた。

「張麗は彼女の本当の名前じゃないの。張麗っていうのは彼女が乗っ取った人の名前。彼女がいったい何者なのか全くわからないのよ。ただ、命を狙われていて逃げているらしいわ。」


 李亮は少しホッとしたような顔で「命狙われているんだろう。それなら悪い奴じゃないんじゃないか?」と聞くと、白凛は、「彼女が現れた直後に人が死んでるのに?」と李亮に向かって顎をあげて憤慨してきた。


 李亮はその迫ってきた美しい顔を見て、”やっぱ、一番美人だぁ。”と、彼女の顎を突き上げた顔に見惚れていると、そんな彼に気づかない白凛は険しい顔のまま「それに、自分に何もやましいことが無いのに、命を狙われるなんてこと無いと思う。」と付け加えた。


 李亮はごほんと咳払いをしてから「やましいこと無かったが、太子だって命狙われていたぞ。」とボソッと言うと、「そうだけど。。。でも女なのに医者だったり、怪しすぎるわ。とにかく太子兄ちゃんに彼女を近づけさせるのは危険だから止めさせないと。」と、女なのに将軍な白凛が興奮して言うので、李亮はお前がそれを言うかと思い、苦笑しながら「それについてなんだが・・・・・・」とゆっくり話し始めた。


 彼女の腕を自分の腕に絡ませながら「実は、、、今、太子と張麗さんは二人っきりであの小屋ん中にいる。」と守衛小屋を指さした。


「なんてことを!」


 李亮を叩くような勢いで迫ってくる白凛に、絡んでいる彼女の腕を諭すように手で軽くぽんぽん叩きながら、李亮はポツリと「中を見てごらん。」と白凛を促した。


 白凛は彼の腕を乱暴に振り払うと、急いで守衛小屋の中を覗いた。


 中では、張麗と名乗っている女が、横になってピクリとも動かない劉煌の顔や首の汗を手拭いで拭いていた。


 その光景を見て、茫然と立ち尽くす白凛の横に、いつの間にか李亮が立っていた。


「俺は今日半日あの二人と一緒にいた。信じてくれ、彼女はあいつの命を狙ってはいない。少なくとも小高蓮の命は狙っていない。それどころか助けようと必死だったよ。他の靈密院の医者たちもベテラン開業医たちもみんなろくに見ようともせず、手伝おうともせず、サッサと匙投げたのに、彼女一人だけ、奴の命を救おうとしていたんだ。」


「・・・・・・」


「お凛ちゃんも”気”がわかるからわかるはずだ。今、彼女から出ているのは人を殺す”気”ではないと。」李亮がそう言うと、白凛は彼の方を振り向いて彼を見上げた。


「とにかく中に入ろう。」と言ったのに、李亮はすぐに前言撤回し「その前に・・・」と言いだした。


「その前に何よ。」と、もうすぐに小屋に入る気だった白凛が出足をくじかれイライラしながら聞くと、

「彼女は俺が大将軍だと知っている。」と李亮が爆弾発言をした。


 それを聞いた瞬間白凛が、非難した目で睨んできたので、

「あ、俺が自らばらしたんじゃないから。守衛が知っていたんだよ。」と李亮は言い訳すると、次に「んーで、彼女から奴と俺の関係を聞かれて、、、」

「聞かれてなんて言ったのよ。」

「ペンパル。」

「はあ?」

「子供時代からの文通相手ってことになっているから一つよろしく。」

「バッカじゃないの!」

「しょうがないだろう。とっさのことだったんだから。だから奴と俺は子供の頃から文通での友達ってことで、辻褄合わせろよ。いいな。」

「・・・・・・」

「あと、お凛ちゃんの名前は有名過ぎるから言うなよ。」

「じゃあ聞かれたらどうするのよ。」

「そうだなぁ。。。では、俺の夫人ってことで。」

「はああ?」

「いいじゃないか、いずれそうなるんだから。」

「勝手に決めないでよ!」

 二人が言い合っていると、守衛小屋の中から李亮を呼ぶ声がした。


「大将軍、また着替えさせたいのでお願いします。」

「よっしゃー!今行く!」と李亮は答えると、白凛に目くばせし、顎で中に入れと促した。


 李亮は小屋の中に入ると、すぐに劉煌の枕もとに駆け寄り、横たわっている劉煌を見た。

 まただいぶ顔色が良くなってきた。

 その様子を見て、白凛が恐る恐る小屋の中に入ってきた。

 それを横目でみた張麗が、あなたはどなた?という顔をしたので、それを見た李亮が、

「あ、うちの家内だ。」とさらっと言うと、白凛も渋々「帰りが遅いのでどうしたのかと。」とボソッと休めの姿勢で右を向きながら愛想なく言った。


 そうすると張麗は目を輝かせて「小高御典医長のお友達はご夫婦なのですね。それなら明日から3日は小高御典医長を御宅で見ていただけませんか?」と切り出したので、予想外の展開に、李白ペアは思いっきりうろたえた。しどろもどろになっている二人に張麗はさらに攻めの姿勢で「小高御典医長に必要なのは何より休息なんです。」と理由を付け加えて説得してきた。


「でも・・・」と白凛が本当に困ったように言い始めると、張麗はハッとして「もしかして、小高御典医長はご家庭がおありなんですか?」と全く方向の違う想像をしてきたので、李亮は瞬時に「いや、こいつはシングル。現在お相手絶賛募集中。」と言ったので、白凛は李亮の足を思いっきり踏みつけた。


 足を痛がっている李亮を無視して、

「うちよりも、きっと陛下が彼に合った療養の場所を提供されるはずです。」と、白凛が咳払いをしてから教科書にのせたいくらいの模範解答を一気に言うと、李亮を睨みつけた。


「そうですか。それなら良かった。後はお薬を飲んでしっかり休んでいただければ全快すると思うんですよ、ほら、こんなに顔色も良くなって、熱も下がってきました。」と張麗は本当に嬉しそうに言うと、李亮に向かって「さあ、着替えさせましょう。」と言い、張麗と李亮は、この夜二人で行う6回目の劉煌の着替えと全身拭きを慣れた手つきで行っていった。


 そしてまた同じように張麗が薬を飲ませると、むせたのか劉煌がゴホゴホと咳き込んだ刺激で、彼の意識が戻ってきた。


 劉煌は朦朧としながら、「ここは?」と聞いてきたので、李亮は「病室だ。」と答えると、更に「お前は3日絶対安静だそうだ。京安一の名ドクターの指示だ。絶対守れよ。」と言って、劉煌のほっぺたを平手で優しく叩いた。


 劉煌は、わかったのかわからないのかわからないが、「そうか」と答えると、また眠りについてしまった。


 それを見ていた張麗は「完全に峠は越えました。もう心配いりません。」と嬉しそうに『大将軍夫妻』に向かって言うと、「私は、この後の3日分の薬を調合してきます。」と言い残して小屋を後にし、靈密院に向かっていった。


 その場に残された李亮は、白凛から”締め上げられる”のを覚悟して目を細めて緊張していたが、白凛は白凛で、地方で収集した情報と今この目で見た『自称張麗』とのギャップに、狐につままれたような顔をして何も言葉を発さなかった。


 このチャンスを逃すまいと李亮は「あ、俺は宋公公に奴を迎えに来させるわ。」と言って、白凛を残してサッサと守衛小屋から出て行ってしまった。


 そうこうしている内に張麗が靈密院から戻ってきて、『大将軍夫人』に「大将軍は?」と聞いた。


 白凛は「太、、、小高御典医長のお部屋確保に行きました。」と答えると、今度は急に張麗に向かって真剣な表情で「あなた名前は、年齢は、住所は、家族構成は、小高御典医長との関係は、、、」とまるで就職面接のように矢継ぎ早に、質問しはじめた。


 張麗は面食らいながらも、質問に全て真摯に回答すると、「では、私から・・・」と白凛に向かって張麗が話し出そうとしたので、白凛はとっさに「御化粧室はどちらかしら?」と言うと外に飛び出した。


 張麗はやれやれと思うと、紙に薬の煎じ方と分服法を筆でスラスラと書き始めた。ちょうど書き終わったころに、李亮が戻ってきたので、李亮に薬と説明書きを渡し「それでは私はこれで。」と言って、自分の荷物をまとめ始めた。


 それを見ていた李亮は、「馬車を出すからそれに乗ってお帰りなさい。」と張麗に向かって優しく言うと、張麗は「それでは遠慮なくお言葉に甘えます。正直言って私もへとへとですから。」と言ってにっこりと笑った。



お読みいただきありがとうございました!

またのお越しを心よりお待ちしております!

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