第三章 模索
9歳で祖国を追われた劉煌は、22歳で国を取り戻した。
しかし、祖国は以前のような秩序だった国ではもはやなく、今度は国の立て直しという使命が彼を待っていた。
彼の初恋の人である小春が暇を持て余しているのとは裏腹に、彼は祖国復興のため脇目もふらず日々皇帝として邁進していた。さらに、祖国の政治だけでなく医療もお粗末になっていると気づいた医師としても一流な劉煌は、ひょんなことから自ら御典医長も兼務することになり、仮面をつけている時は皇帝、素顔の時は御典医長の小高蓮と、二重生活を送ることに。そんな余裕のない彼の前に皮肉にもそういう時に限って運命の女性が現れる。
果たして、劉煌は祖国を復興できるのか、そして彼の恋の行方はいかに。
登場人物の残忍さを表現するため、残酷な描写があるのでR15としていますが、それ以外は笑いネタありのラブコメ
劉煌は更に多忙を極めていた。
旧後宮跡のリノベーションは、そう計画通り行くほど簡単ではなかった。
ハード面でも毎日なんらかの問題が勃発しては劉煌を悩ませたが、それ以上に悩ませたのは、セラピストの技術面だった。
パックなどただ塗って待つだけ等のそれほどの技術を伴わないものは何とか誤魔化せても、デコルテやフェイシャルマッサージなど細心の注意が必要な技術について、劉煌の及第レベルを出せる者は、最初に見つけた二人の他にはいなかった。その彼女らと三人で研修を行ったものの、こういう物は、後天的な要素より素質がものを言うようで、いくら本人が努力してもできない人はできなかった。結局人数が足りないので、旧後宮だけでなく、皇宮全体の女官・宮女達に声をかけ、マッサージをさせたところ、100人素質があるものが見つかった。
そこで、旧後宮のマッサージ素質の無い女官・宮女達の100人とその素質組100人にトレード的な配置転換の命を出すと、素質組の中でもずば抜けて素質のある柳美という女官がただ一人、それを固辞してきた。
彼女は劉煌の追っかけ女官の一人であり、美人でTPOをわきまえない派手な化粧で目立つことから、中ノ国でのスタンスとはうって変わって追っかけをがん無視に決め込んでいた劉煌でも、彼女のことを知っていた。
劉煌は勿論ここでも御典医長:小高蓮として全ての試験に関わってきたが、柳美ほどの美人で自己顕示欲の強い女性が、何故目立つトータルビューティーセラピストではなく、目立たない女官にこだわるのか全く理解できなかった。給料を3倍出すと言っても、やらないと彼女が言ってきたときには、劉煌も驚いて、俄然理由をしりたくなった。
すると彼女は臆せず、
「私は柳美、皇帝陛下の妃になるべき女です。今のポジションより皇帝陛下に出会う確率が低いトータルビューティーセラピストなどやりたくありません。」
とのたまわった。
”そうだったのか。。。”と妙に納得しながらも、
「なら、私はいかが?皇帝陛下と同い年だし、同じ位ハンサムよ。」
と得意のこめかみに右手をあて左手は腰にあて右斜め下向き加減から目だけ上目遣いに動かすポーズを取りながら劉煌が御典医長:小高蓮としてからかって言ってみると、柳美は思いっきり見下した目をして、
「私には山ほど崇拝者がいるんです。小高御典医長などおよびではありません!私にふさわしいのは皇帝陛下ただお一人です!」と憤慨して言い切った。
「では、皇帝陛下に今より出会う確率が高くなれば、最初に提示した(安い)お給料でトータルビューティセラピストを引き受けてくれるのかしら?」と聞くと、彼女は挑戦的に
「勿論です。」と答えた。
劉煌はここで奥の手を使った。
「ならば、毎週水曜日の夜6時から8時の間、天乃宮のお掃除をお願いね。」
何しろ、自分の目の前から女という女を排除している劉煌は、当然天乃宮にも従業員を含め白凛以外の女性を一人も入れていなかった。
そのため、これを聞いた柳美は、自分だけに皇帝陛下と出会えるチャンスが巡ってきたことに喜びのあまり悲鳴をあげ、なぜ御典医長が天乃宮の人事を自由に決定できるのかという疑問も浮かぶことなく、喜んでトータルビューティーセラピストをやると言って契約書にサインし、スキップしながら出ていった。
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その日は、継続研修の開始時間になっても小高御典医長が来ないことから、研修の教室内はざわついていた。
「もういい加減帰ろうぜ。奴さん来ないんだから。」
こういう事を言って、他の開業医を焚きつけるのはいつも通り林修だ。
「そうだな、帰ろうぜ。」という賛同の嵐の中、先週の木曜日に小高蓮を診察した張麗は、彼がどれだけ命を削りながら生活しているかわかっていたので、その発言に思わずムッとしてしまい、
「まずは御典医長室に行って様子をみるべきでは?都の開業医が靈密院に今日集まっていることは誰もが知っていることです。もし御典医長が倒れていて、私たちが何もしてしなかったら、評判に傷がつくのでは?」
と脅し文句を吐いた。
開業医達にとって評判が傷つくのは死活問題である。
その脅しは鶴の一声で「それもそうだ。悪い評判がついたら困る。」と皆が言い出し、あの林修までさっきの発言はなかったかのように、全員で御典医長室に様子を見に行くことになった。
「ところで、御典医長室ってどこよ?」
「張麗なら詳しいだろう。」
「おい、張麗、お前が言い出しっぺだし、先頭を行けよ。」
「そうだ、そうだ。」
という声に、”情けない男たちめ!”とあきれ返りながら、張麗が先陣を切った。
御典医長室のドアは閉まっており、ノックしても返事がなかった。
「返事ないし、帰ろうぜ。」という意気地のない声を無視して、張麗が、「小高御典医長、開けますよ!」と声をかけながらドアを開けると、そこには、床にうつぶせになって倒れている男がいた。
張麗は、慌てて、倒れている男に近づき、呼吸と首の脈を確かめると、意識のない男を抱き起こした。
“凄い熱だわ。”
「小高御典医長!」
部屋中に野郎どもの驚きの声が響いても、その男はぐったりしたまま反応が無かった。
「誰か、どこか小高御典医長が横になれるベッドのある部屋がないか聞いてきて!」と張麗が叫ぶと、男どもは、「どこの誰に聞いてきたらいいのかな。」と埒が明かない。
とっさに「いいわ、誰かここで彼を仰向けにして診察してて。私が呼んでくるから!」と叫んだ張麗は、一番前にいた陳然に手伝わせて劉煌を仰向けに床に横たえると、後を彼に任せて御典医長室から飛び出した。
靈密院には、皇帝を診る御典医長以外にも名目上、その他皇族を診る医師が数名ほどおり、張麗はまず彼らに助けを求めたが、彼らと小高蓮を合同で診る話は取り付けられたものの、ベッドのある部屋の確保は彼らの権限外とのことだった。
張麗はとりあえず彼らを御典医長室に行かせると、彼女は何を思ったのか猛ダッシュで銚期門に向かった。
*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZY*YZ
時を同じくして、白凛は京安に向けて、馬を走らせていた。
一頭の馬を走り続けさせるのは半日が限度なので、もうこれで3頭目である。
いくら戦場で鍛え上げられたとはいえ、馬に乗り続けるのは大の男でも至難の業である。
白凛の全身も悲鳴をあげていた。
それでも、白凛は痛みで気が遠くなりそうになるのを気合で振り切って、馬を思いっきり走らせ続けた。
”何が何でも、一分でも一秒でも早く帰って太子兄ちゃんに知らせなければ!”
”あの張麗という女が食わせ者だって!”
”太子兄ちゃん、どうぞご無事で!”
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