表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編版】女神様と唯一会話ができる聖女、『神に祈るなど誰にでもできる!』と神聖帝国を追放される~その女神様、私の言うこと以外聞かない殺戮の神ですけど大丈夫ですか?~

(ファンタジー短編は)初投稿です

「聖女ラズリー……いや、卑しい半人の国賊ラズリー! 貴様との300年に渡る契約を破棄し、国外追放とする!!」


 絢爛な謁見の間にがなり声が響き渡る。


 皇帝陛下にある日突然呼び出された私は、いきなりの追放宣言にこれは夢か何かじゃないのかと疑わざるを得なかった。


「グリフォニア陛下、せめて私を追放とする理由をお聞かせください」


「決まっておろうが! 貴様が『聖女』などと持て囃され300年もこの国に寄生し、贅を貪っておったからだ!! 女神様に祈るなど信心深くあれば誰にでもできる!!」


 は? 『聖女』としての仕事……女神アルコア様への〝お祈り〟や国防の要である神聖結界の構築が、寄生? それに自分の意思で贅沢なんてしたこともない。


 皇城の地下の小さな一室で、食べ物は自分の魔法で育てた野菜や果物のみ。衣服も国から与えられたものだけの最低限の衣食住で生きてきたというのに。


 あ、この生活は私が自ら望んでしてきたことだからね。物欲ぜんっぜんないの。



 ……いや、贅を貪ってるというのは建前なんだろう。


 恐らくは、私のことが邪魔になったんだろうね。


「それで……その真意は? 私がどのように邪魔になったのでしょうか?」


「フン、今言った事が真意だ。聖女はアルコア様と言葉を交わす事ができる、などと言う嘘にこの国は300年騙され血税を貴様の糞尿に変えられ続けてきたのだ!! この穢らわしいハーフエルフめが」




『くすくす……ほんとに〝嘘は〟ついてないみたいよ?』



 ……アルコア様、それマジすか?







 神聖帝国デルタノルド――


 建国からおよそ300年。この国は世界屈指の大国へと成長してきた。


 その大きな理由は、女神アルコア様による恩恵だ。この国に属しアルコア様を信仰する者は、その対価として『神聖魔法』の行使が可能になる。





 ……というのが表向き。


 実際は『聖女』である私がアルコア様に『お願い』して、国民たちに神聖魔法を授けてもらっているのだ。


 神聖魔法は武力としても産業としても何にでも応用可能で、この国のありとあらゆる運営は神聖魔法に大きく依存している。


 言ってしまえば私は国と女神様との仲介を担っているのだ。



 その事を皇族が知らないはずはない。


 だがアルコア様が『嘘はついてない』と言うからには、何か勘違いがあるのだろう。


「よいか、元聖女ラズリーよ。我は寛容であるから貴様を契約破棄と追放で済ませてやるのだ。

 ……アルコア様は信心深き全ての者に平等に祝福を授けてくださる。貴様1人が祈ったからといって、我らに祝福を授けるなどあり得ない。貴様のしてきた事はアルコア様への侮辱に他ならないのだ」


 落ち着いたのか急に穏やかに語りかけてくる皇帝グリフォニア。

 アルコア様は平等に祝福を授けてくださる……か。本気でそう思ってるあたり、もはや救いはあるまい。


 ……いや、他国へ神聖魔法を用い軍事侵攻を始めた先代王の時から愛想は尽きていた。それでも聖女を続けていたのは、かつて私を救ってくれた初代国王への恩義と契約に他ならない。


 けど、こうも蔑ろにされるならもういいや。私は聖女ではあるけど聖人君子でもなんでもないのだから。



「追放命令を受け入れましょう。ただし…」


「何だ?」


「1週間だけ、猶予を与えます」


 それだけ呟くと、私は謁見の間を去った。



 こうして私は、300年仕えた国を追放される事となった。










 *











 お城を出てからは、兵士に見張られながら『神聖結界』の外へ出ていくことになった。


 その道中の民たちからの視線は、どれも冷ややかで憎しみさえ混じっていた。

 時には罵声と共に石を投げつけられたりもした。


『血税を貪る屑女』という噂があらかじめ流されていたのだろう。


 ……昔はもっとみんないい人たちだったのにな。






 さて、私を神聖結界の外へと追い出すと、兵士さんたちは特に何もせずに去っていった。


 もっと何かされるかと思ったけど、まあ神聖結界の外なら魔物とかうじゃうじゃいるし食い殺されるとでも思っていたのだろう。


 生憎だけれど、私は神聖魔法に頼らずとも普通の魔法だけでめちゃくちゃ戦えるのです。


 まあこれもアルコア様が修行をつけてくれたおかげだけれど。




 さてさて。断言するけど、この国は近々滅亡する。


 まず帝都をドーム状に包んで守ってる『神聖結界』なんだけど、あれは実は私の力によるものでアルコア様の神聖魔法とは関係ないんだよね。だから私がいなくなれば、結界の維持もできなくなりじきに崩壊する。


 アルコア様の力がなくとも、この結界があるだけで帝都は国の体裁を保てただろう。けど、私ほどの結界術の使い手は恐らくこの世界には存在しない。


 まあいくら説明しても信じてはくれなかったけど。




『――で、どうするのラズリーちゃん? あいつら処す? 処す?』


「ステイステイ、まだだよ。一応は1週間猶予は与えてあげるつもりだからね」


 かつて神聖帝国は、この私ラズリーと契約を結びアルコア様の御力を得た。私はアルコア様と契約しているけれど、神聖帝国そのものはアルコア様とは別に契約なんてしていない。


 そして国と私との契約は先ほど破棄されている。

 アルコア様にもはや帝国に肩入れする理由はない。


 けれど私は今までの義理で1週間だけ神聖魔法の恩恵の削除を先伸ばしにしてもらっている。その間に悔い改めて私に謝罪するようなら、再契約も考えてあげようかと思うけどね。


 ただまあ、そんな事は起こらない。断言できるね。


『これからどうするの?』


「うーん、1週間は帝都近くの森で野宿しようかな」


『私の神域で寝泊まりしてもいいのよ?』


「はは、それはさすがに畏れ多いよ~」


 女神アルコア様はとても気さくな御方だ。

 今夜の夕食の相談に乗ってくれたり、したことはないけど多分恋バナとかもいけるクチだ。


 しかし、アルコア様がなぜ私にここまで良くしてくれるのかは実はわからない。

 どうしてと聞いても、『知る必要はないわ』とはぐらかされる。


 そこが少し不気味だけど、害意は無いみたいだし、1人の友人として彼女のことを信頼している。


 これから1人で生きていくけど、寂しくはならない。


 さて、今日の晩御飯は何にしようかな。アルコア様、何かオススメってありますか?








 *






 ラズリーを追放した直後――皇帝グリフォニアは、暗部の者を密かに呼び出した。


「頃合いを見てラズリーを殺せ。……子供のような姿をしておるが、300年は生きている魔女だ、油断するでないぞ」


 先代皇帝は女神アルコアの名の元に数多の国を飲み込み帝国を築いた。

 それで気をよくしたのだろう、皇帝と対等でありながら政治干渉はしない契約の聖女すらも、グリフォニアは皇帝となったことで見下してしまうようになった。


 生まれついての帝王である今代の皇帝は、更に傲慢であった。


 政治には関わらない――とはいえ、建国当時から国を形だけとはいえ支えている聖女。その影響力は絶大だ。

 自身と次代の権力を絶対のものとすべく、グリフォニアは聖女ラズリーを地に落とすと決意する。


 ラズリーは滅多に街に出ることはない。記者を買収し聖女の悪評を吹聴させ、少なくとも帝都の民衆たちはラズリーを悪と認識している。

 それだけでなく、コツコツと長年をかけ貴族のような上流階級たちに『共通の敵』としてのラズリーの印象を植え付けた。


 そして、先日の追放。聖女の評判は地に落ちているとはいえ、処刑してしまうのは聖女を信仰する一部の因子を刺激してしまう恐れがある。


 故に、一見恩情ある追放という形とした上で誰にも知られない闇のなかで命を奪う。




 完璧な策であった。




 ……もはや女神は彼らを見捨てているという点に目を瞑れば、だが。












 *










 追放から1週間。私は近くの村に素性を隠して滞在していた。

 帝都近くでありながら、アルコア信仰がまだそこまで根づいていない集落だ。


 さすがに1週間もサバイバルするのは難しかったよ。ハーフエルフの私では本物のエルフさんみたいにはいかないようだ。


 とはいえ、もう約束の1週間だ。


 帝都近くに滞在していたのはもしも皇帝陛下が間違いに気づいて頭を下げてきたときに戻れるようにだ。けれど、それももはや必要あるまい。


 私は村を発ち、再び深い森の道を進む。




『ラズリーちゃん、気づいてる?』


「気づいてますよアルコア様。

 少し後ろから誰かがついてきてますね。上手く気配を消してるあたり、なかなかの手練れでしょうか」


 追跡者はつかず離れずの距離を保っている。もしかして皇帝が差し向けた刺客だったりして?


 なんて思っていたら、いきなり私のうなじあたり目掛けてナイフが飛んできた。うん、殺す気だね。まあ、効かないけど。私はアルコア様の助けなしでも結界術があるからね。


 常時張っている防護結界は、私に対して害となるものを自動で判別して攻撃を弾くのだ。


 そういうようにプログラムしている。


「あなた、誰ですか?」


 振り向くと、真っ黒なコートに身を包む細身の男が立っていた。顔はフードに隠されよく見えない。



「……」


「グリフォニア陛下の命令で私を殺しに来たんでしょう?」


「……!」


 お、図星かな。どんなに感情を隠していても1000年生きてきた私にはお見通しなのさ。


「帝国の暗殺者、というだけあって確実に私を殺す算段があるんだろうね。油断もしていないし、あの愚帝とは大違いだ」


「……陛下を愚弄した事、地獄の底で後悔するといい」


「おや」


 暗殺者の手の内に握られたナイフが白く清く光輝く。なるほど、あの神聖魔法は身体強化と、それから……



「神聖魔法――【絶対切断(ザンテツケン)】」


 暗殺者は滑り込むように私の懐へと潜り込むと、そのまま首へとナイフを振るう。

 しかし私は直前でナイフをキャッチすると、そのまま握り砕いた。


「馬鹿な!?」


「遅い。神聖魔法〝絶対切断〟は確かに強力だけどね、私の命へ届くには練度が足りないよ?」


 私がやったのは、神聖魔法を用いた純粋な身体強化。絶対切断はその世界・空間もろとも万物を切り裂く力だが、同じ神聖魔法による身体強化で存在を強く保てば弾くことも可能なのだ。


「私が何百年アルコア様と向き合ってきたと思ってるの? 一介の暗殺者風情が私を殺せるとでも?」


「くっ、こうなれば――」



 暗殺者は身を翻し、私から逃げるように駆けてゆく。

 帝都に戻ってグリフォニア陛下に報告するつもりなのだろう。駆け抜けるあのスピードも神聖魔法によるものだ。全く、アルコア様におんぶにだっこが過ぎないかな?


 ……あ、そういえば。




『ようやく思い出したのかしら?』


「いやぁ、ごめんごめん。もうやっちゃっていいよ、帝国へ貸してるもの全部持っていっちゃって」


『うふふ……それじゃ遠慮なく。

――悔い改め絶望なさい、下等生物ども』


 その瞬間、世界から〝何か〟が失われた。


「うぐっ!?」


 森を駆けていた暗殺者の身体から、突然神聖魔法による強化が失われた。


 勢いを殺しきれず派手に転んだ暗殺者へと、私はゆっくりと歩み寄る。



「何故だ、何故神聖魔法が使えぬ……!?」


「何故って、たった今アルコア様が帝国から手を引いたからよ。使えなくなったのはあなただけじゃない」


「そんな馬鹿な……」


「アルコア様は、誰にでも平等に祝福を与える訳じゃない。私がお頼みして初めて、祝福を分け与えてくれていたの。わかる? あの御方は私以外の全てに興味がない」


 おお、怯えているね。人の命を奪おうとしたくせに、何に怯えることがあるんだろうか。


「――けどね。私を害そうとした存在は別。アルコア様は今ね、すごーっく怒っているんだよ」


「やめろ、やめてくれ、悪かった、俺が悪かったから――」


 虫のように這いずって、まさかまだ助かるだなんて思っているのかな?

 ははは、笑っちゃうね。


 だから私は、彼の『未来』を告げてあげる。


「来るよ――


 ――――〝神罰〟が」






「あがっ!? ぎ、いあああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!?!?!」


 暗殺者の身体が、裏返る(・・・)


 内臓が、骨が、身体の外へ、身体の表面にあったものは内側へ。靴下を裏返すように、中のものを引きずり出し、人体が異様な音をたてて無理やりねじ曲げひしゃげて裏返り、覆ってゆく。


その姿はさながら『花』のようであった。


 脳すらも露出していてとうに死んでいてもおかしくないような状態だが、しかし彼は未だ死んではいない。

 アルコア様の力で無理やり生かされているのだ。


 アルコア様が飽きればいずれ彼も死ぬ事はできるだろう。


 けれど、もう来世はない(・・・・・)


 私は暗殺者の末路を踏み越えて先へと進むのであった。











 それはあまりにも唐突であった。

 この国のあらゆる箇所において、未だかつてない混乱が巻き起こったのだ。


 特に帝都においては、神聖魔法の消失により皇帝へあちこちから罵声や追及の声が届く。


 産業も、医療機関も、軍部も、農作も、すべて神聖魔法の消失により一瞬で機能を永久に失ったのだ。更には国防の要たる神聖結界さえも。


「な、何が起こっておる……?! アルコア様は我らになにゆえこの様な試練を――」


「へい、陛下ぁ、おだすげ、ぐぶっ」


「さ、宰しょ――? ひぃぃぃおぉぉぉ!?」


 宰相の身体が、花を咲かせたように〝裏返る〟。


 宰相だけではない。その場にいた大臣も貴族たちも、皆次々に苦悶の呻きを発するだけの肉の花へと姿を変えてゆく。


「へイ、か、だスけ、ごぼっ」


 誰かの口だったであろう穴から、血の雑ざった黄色い液体が飛び散りグリフォニアの頬に付着する。


「お、お助けを、アルコア様、アルコア様ぁ!!」


 皇帝グリフォニアは、突然の事態に狼狽え女神像に縋り付いた。しかしつい先ほどまで輝きを放っていた女神像は、いまや沈黙し、ただの石材の塊と成り果てていた。


――何故、何故だ、どうしてなのだ!?


 考え、考えて、考え抜いて、ようやくグリフォニアは思い出した。




 ――1週間だけ、猶予を与えます




 自ら追放した、聖女の言葉を。

 そしてようやく過ちに気がつく。


 ――代々語り継がれてきた、『聖女が女神と言葉を交わし頼むことで、国に恩恵をもたらしてもらっている』という話。

 あれは本当だったのだ。


「わ、我が間違っていた! すまない、申し訳ない!! ラズリーへの非礼を詫びる! 待遇も改善する! だから、だからどうか、どうかご慈悲を――」



 ――くすくす、もう何もかも手遅れなのに。


 蕃神(アルコア)は笑っている。


 遅すぎる後悔の中、やがてグリフォニアは本当の地獄を見ることとなる――








 *









 あぁ、そうそう。

 言い忘れていたけど、アルコア様ってみんなからイメージされているような善神なんかじゃないんだよね。




『うふふ、ははは、あははははははっ!!!!!!!』






 ――〝魂を狩り立てるもの〟


 アルコア様は、嘗てこの世界を滅ぼしかけた殺戮の神であり、私以外の人間は虫と等しいらしい。


 さて、そんなアルコア様の怒りを買ってしまった神聖帝国はどうなることやら……。

 神聖魔法が失われただけで済めばいいけどねぇ?





 ま、もう私には関係のないことか。

この短編が『面白い!』『続きが読みたい!』と思っていただけたら、星評価をよろしくおねがいします。


連載版を投稿しました《https://ncode.syosetu.com/n4540jo/》

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 実質人柱(神との関係は良好)を冒涜したらそら神罰一直線よ
[一言] いいね
[良い点] いやもう良い点なんて全部ですよ。面白さが詰まってる……  変なところで思い切りがいい解像度の高い悪人共が1000年以上生きてきた存在に殺されていくって構図が見ててすごく痛快でしたよ!!  …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ