エアホースワン
高度20,000メートルを飛行中であることを知らされなければ、この空間が航空機の内部であると気づく者はほとんどいないだろう。通常であれば、エコノミークラスの座席がぎっしり詰められる機内の床には、柔らかく厚みのあるグレーの絨毯が隙間なく敷き詰められ、足元から重厚な静けさを感じさせている。両側の壁には、本来なら30センチ四方の小窓があるはずだが、精巧なブラインドがそれを隠し、まるで高層オフィスビルの窓際のような風景が広がっている。
ブラインドはスイッチひとつで巻き上げることができ、その奥には機内特有の二重ガラスの窓が顔を覗かせるが、誰もそれを気にする様子はない。両サイドには、上質なオーク材で仕上げられたオイルフィニッシュの壁が約10メートルの距離を空けて並んでおり、その間に広がるのはおよそ30平方メートルほどの贅沢なオフィス空間だ。小ぶりながらも機能的なデスクや折り畳み式のチェアが左右に設置され、さらに中央には革製のソファがゆったりと配置されている。
もしこれが通常の旅客機であれば、ぎっしりと座席が詰められ、シートピッチに頭を悩まされるような場所だろう。しかし、今ここには贅沢に仕切られた広々とした空間が広がっている。そして、この空間を独占するのは、まさにその特権を享受するべき人物——合衆国大統領とその側近たちだった。
この機体、エアフォースワン。アメリカの空を象徴する飛行機だ。その広々とした空間の中央で、革張りのソファに深く腰掛けているのは大統領本人。彼は足を組み、対面に座る補佐官から到着後のスケジュールについて説明を受けている。小柄ながらもがっしりとした体格で、肩幅の広さと自信に満ちた姿勢が見る者に威圧感すら与えていた。元空軍大佐という経歴が滲み出るその佇まいは、通常の政治家とは違った確かな存在感を持っている。軍歴のある大統領は珍しくないが、空軍出身は少数派だった。
この機内空間の配色はホワイトハウスを意識してブルーを随所に取り入れ、落ち着きと品格が感じられるデザインが施されている。空の上にいながら、まるで大統領執務室のような空間が具現されていた。