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政治家系  作者: 未世遙輝
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シチェーションルーム(アメリカ)

地下のシチュエーションルームは異様な熱気と緊張感に包まれていた。20人が入ればぎゅうぎゅう詰めのその空間には、政府の中枢から集められた高官たちが、各々の席でじっと前方のモニターを見つめていた。殺風景で窮屈な部屋だが、一面の壁に掲げられた大統領府の紋章が、その場所がいかに特別な意味を持つかを無言で語っていた。クリーム色の壁は穏やかで温かみを持たせているはずだが、この空気を落ち着かせるには到底足りなかった。


ルームの一角に立っているのは、初老の男、ジョン・ケインだった。薄青のワイシャツはくしゃくしゃに巻き上げられ、肘まで露わになっている。彼は、腕を組みながら前方の一点に鋭い視線を送っていた。目の奥には冷静さと興奮が混ざり合い、今にも噴き出しそうな何かが潜んでいる。ケインはホワイトハウスのベテラン顧問であり、数々の危機を乗り越えてきた。だが、この瞬間、彼の視線は、まるでスリリングな映画に釘付けになっている評論家のようだった。


「どうなっているんだ、ケイン?」隣の男、軍事アタッシェのロバート・モーガンが小声で聞いた。オリーブ色のピシッとしたシャツを着たモーガンは、几帳面そうな風貌で、やや小柄な体格をしている。彼の知的なメタルフレームの眼鏡が反射し、ひややかで冷徹な雰囲気を醸し出していたが、その目もスクリーンからは離せなかった。


「さあな…」ケインは低く答えた。「しかし、間違いなくタフな判断を迫られることになるだろう。」


モーガンは一瞬うなずき、再びモニターに目を戻した。その表情には緊張が滲んでいるが、兵士としての冷静さも保っていた。二人の会話は短く、これ以上の言葉を交わすことはなかったが、互いの考えは暗黙の了解として伝わっていた。


その二人の視線の先に座る男がいた。紺のブレザーを着た大柄なジェームズ・コールドウェル将軍だ。彼は大きな手で小さなノートパソコンのキーボードを忙しなく叩いていた。その指さばきは驚くほど機敏で、まるで自分の体格を忘れたかのようだ。彼の胸には数多くの勲章が輝き、長年の軍歴と功績を示している。将軍は眉間にしわを寄せ、視線をラップトップとモニターの間で行き来させていた。


「大統領、映像の切り替えを行います」とコールドウェルが言うと、その言葉に部屋の全員が一瞬息を飲んだ。


その言葉を聞き、向かいに座っていたエリザベス・ケリー国務長官は、ふと息を止めた。地味なベージュのチェック柄のスーツを身にまとい、左手の薬指には大粒のサファイアが輝いている。彼女は無意識に口元に手を当て、目の前の映像に驚きの表情を浮かべていた。その瞳には冷静さが失われ、明らかに動揺が見て取れた。エリザベスは何度も過酷な国際問題を乗り越えてきたが、今見ている光景が何か非常に異質なものであることを直感していた。


「こんなことが…本当に…」エリザベスは小声でつぶやいたが、それは誰に向けたものでもなかった。彼女の右手にはメモ帳が置かれていたが、手は震えており、まだページをめくる余裕すらない。


そんな中、唯一冷静を保っているように見えるのが、アレックス・カートライト大統領首席補佐官だった。彼は数々の危機を乗り越え、大統領の右腕としての役割を果たしてきた男だ。銀髪のウェーブは広い額に沿って整えられ、白いシャツはしわ一つなく清潔感があった。彼は腕を胸の前で組み、いつもの冷静さを保っていた。しかし、その瞳には、目の前に映る光景への険しい洞察が垣間見える。


「エリザベス、大丈夫ですか?」カートライトがそっと声をかけると、彼女はハッと我に返り、震える声で答えた。


「ええ、もちろん。ただ…この光景が、どうにも信じがたくて。」


カートライトは軽くうなずき、再び目をモニターに向けた。そして、その視線の先にいるのが、この部屋で最も重要な人物、大統領、デイビッド・パウエルだ。黒人初の大統領として知られる彼は、短く刈り込んだ髪と鋭い黒い瞳を持つ、威厳ある人物だ。だが、今その姿は少し小さく見えた。黒いベストのようなカジュアルな上着を羽織り、両手を膝の上で軽く組んでいる。彼は国民に話しかけるときと同じ姿勢で、モニターに視線を注いでいた。


しかし、デイビッドの視線は他の人々とはどこか違っていた。彼の目には、今見ている映像の奥にいる人々や、この映像を見ている彼の側近たちの反応まで映し出そうとするような、深い洞察が宿っていた。


デイビッドはゆっくりと息を吐き出し、言葉を選びながら低く話し始めた。「みんな、今ここで私たちが見ている光景は、単なる映像ではない。これから私たちが何を選択するかが、この国の未来を左右するだろう。」


その言葉に、部屋全体が静まり返った。カートライトが軽くうなずき、目を伏せた。ケリー国務長官はその言葉に震えるように息を吐き出し、手に力を込めた。コールドウェル将軍もキーボードを叩く手を一瞬止め、大統領を見つめる。


デイビッドは続けた。「私はこの責任を、私一人で背負うつもりだ。しかし、君たちの意見が欲しい。今ここで、我々がすべき最善の行動について率直に話してほしい。」


ケインが少し前に身を乗り出し、口を開いた。「大統領、我々の選択肢は限られています。もし、この状況を放置すれば、さらなる脅威が我々の国土に降りかかる可能性がある。しかし、先制攻撃を選べば、国際的な非難は避けられません。」


デイビッドは深くうなずき、その瞳に決意の光を宿した。「ならば、どちらを選んでも我々は覚悟が必要だな。」


部屋には再び緊張が走り、全員が大統領の言葉の重みを感じ取っていた。

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