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嫌な部屋

作者: 雉白書屋

 季節は夏。夜空を彩る花火……その下。ひいひい、汗を垂らし歩く男。主張先、予約していたはずのホテルが手違いによりキャンセルになっていたのだ。

 他に泊まれる場所を探すが、今夜はそう、花火大会。見つからない上にどこのホテルも通常より、かなりの割増料金となっていた。

 ゆえに料金が安い時にホテルを予約した男はもしや手違いとは嘘偽り。利益重視のために追い出されたのでは? と勘ぐったがホテルのフロントにて謝り倒され、どうすることもできないと言われればそれ以上何も言えず、警察を呼ぶわけにも行かず、むしろ呼ばれかねない。

 なのでとぼとぼ寝床を探し歩き、汗みどろというわけだ。

 断られ続け、最悪野宿でもまあ死にはしないだろうと諦めかけた時、人混みから大分離れたところにあるホテルでようやく一部屋見つけた。

 まさに救い。バスルームで汗を流し、やっと人心地つき、そのまま就寝。疲れた。疲れすぎた。きっと鼾をかいてしまうな。隣に悪いな。なんて思いつつ、ぐっすりと。



 しかし、突然目が覚めた。


 ――なんだ……? 変な……これは……金縛り……?


 一切身体が動かない。目を見開き、力を入れるもできたことといえば眼球を動かすことのみ。そこに幽霊の姿は見当たらないが、恐怖がベットから背中、そして心臓を鷲掴みにするようであった。

 ただ疲れすぎているんだ。きっとそのうち自然に、なんならこのまま寝てしまっても……などと冷静に考えることはできなかった。

 隣の部屋から物音がした気がし、息を呑めば次はその息苦しさに霊の仕業だと怯え、男は必死になって体を動かそうと試みた。念仏も唱えた。産気づいた妊婦がやる呼吸法も試した。神に祈った。誰にとではないが、とにかく謝り倒した。

 そのどれが功を奏したかはわからない。

 体をずり動かし、手を徐々にだがベッドの中から傍の電話へと伸ばすことができた。

 そして……


『はい、こちらフロントです。どうされましたか?』


「あ、か、あが、か、か、か、か……」


『ああ、またか……すぐに参りますので』


 その電話の通り、すぐに従業員が二人、部屋に入ってきた。

 廊下の光が入り込み、そして部屋の明かりが点くと不思議と金縛りは解けた。


 ありがとう。実は、信じて貰えないかもしれないが今、金縛りに……。

 

 そう言おうとした男だったが、ふと思った。


『ああ、またか……』とは?


 先程の電話でのあの言葉。一体、どういう意味だろうか。


「ああ、その、大変申し訳ございません……実は――」


 まさかと思い訊ねると、もはや見慣れた光景。またも謝り倒されたのだ。

 そして、事情を聞いた男は驚いた。


 実は以前、この部屋で人が亡くなったことがある。そして、何度も不可解な現象が起きている……と。


 男は大きく息を吸った。そんな部屋に案内、人が死んだベッドの上になんて、と怒鳴ろうとしたのだが、出たのは咳一つ。

 それもそのはず。失禁、お漏らし、世界地図。無我夢中で気づかなかったが、相当長い時間、金縛りと格闘していたのか、あるいは変に力んだせいか漏らしていたのだ。

 これじゃ説教しようにも威厳も何もあったものじゃない。従業員も目のやり場に困っているようだった。

 しかし、いつまでもこの状態でも、この場にいるわけにもいかない。

 まずは風呂、いや移動が先だ。こんな部屋には一秒だっていたくはない。

 男がそう言うと、では一先ず隣の部屋が空いているのでそちらに、と告げられた。


 隣か……と男は思ったが、他に空いている部屋があったとして、裾まで湿ったパジャマでホテル内を歩くのも嫌だ。長々と移動し廊下を汚したと、向こうの非を軽減するような真似も気が進まない。さすがに代金はタダになるだろうが……。


 そう考えた男は大人しく隣の部屋に移動した。

 パジャマを脱ぎ捨てシャワーを浴び、そのまま浴槽に入り湯を溜めた。どっぷり浸かり、ようやく人心地。


 と……話し声がした。一瞬、ビクリとしたがなんてことはない。隣の部屋から、つまりホテルの従業員たちの声だ。

 あーあ、汚しやがって、とまさか文句でも言っているのではないかと男は耳をそばだてる。


「ふー、この部屋いっそ使用禁止にすればいいのに」


「まったくだ。でも今みたいな繁盛期はそうもいかないんだろうなぁ」


「あー、だなぁ。ん? でもなんで隣は空いてたんだ?」


「あれ? そう言えばそうだな……」


「そもそも、客が死んだのって確かバスルームじゃ――」

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