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ホウの葉

 初ダンジョン攻略から二日、俺たちはまず畑を作っていた。

 ダンジョンの入口を浄化した際に周囲の土地も少々浄化できていたから、清浄となった土地を耕して種を撒くことにしたのだ。



「はあ、はあ。ちょっと休憩しましょーよぉ」

「なんだもう疲れたのか。そんなことで今までどう一人で暮らしてきたのやら」

「私はね! 魔法使いなの! 学術の探究者なの! いつも机に向かっていたんだから体力なんてあるわけないじゃない!」

「一人暮らしでそんなこと言ってる余裕なかったろう」

「それはそれ、これはこれ!」

「そうかそうか。とにかく鍬を振る姿が堂に入るまで頑張って貰うからな。覚悟しておくこと」

「いやあぁぁあーっ!」



 俺はこう見えて爺やに鍛えられていたお陰で体力面だけには自信がある。

 剣術の腕はイマイチだったが、身体が動かないわけではないのだ。

 俺はルールルの倍以上の速度で畑を起こしていった。


 午前は畑起こしをし、食事。

 ルールルがグッタリしていたので、俺が食事を作る。

 食事を作った経験がないので少し心配だったが、ルールルの見よう見まねでやってみた。



「美味しいじゃない……!」

「疲れているだろうから贅沢に塩気を多くしただけだよ。疲弊した身体は塩分を欲するんだ」

「そうなの? 物知りね」

「まさかエルフに物知り扱いされると思ってもなかったが、これも爺やに教わったんだ。爺やは昔戦場で活躍した剣士だったらしくてね、身体の扱いに詳しい」



 いつの頃からか忘れたが、俺は貴族社会から離脱して自活することを考えていたので、爺やに一人で生きていく為の知識を訊ねることが多かった。

 畑を起こす知識も、その過程で得たものだ。

 またいつか、爺やにはあれこれ教えて貰いたいものだった。



「ところでカイン、午後はどうするの?」

「俺は革袋投擲の練習でもする予定だ。ルールルは好きにしてていいよ」

「じゃあ私は少し休んだら木ノ実でも採ってくるわ。夕飯も私が作るから、気兼ねなく練習してていいわよ」

「そうさせて貰おうかな」



 投擲練習。

 先日のダンジョン攻略で生じた、俺の問題。弱点を克服しなくてはならない。


 俺の戦い方は、魔法生物に対して革袋に詰めた『解呪の水』を敵に投げつけて、敵を水浸しにするというものだ。

 解呪の水にさらされた魔法生物は、解呪作用で魔法を維持できなくなり、結果身体の維持も不可になり崩壊する。


 だけど革袋の当て方が悪いと、革袋の口から水の零れる方向が良い塩梅にならず、敵に水が掛からない。それは敵が小さければ小さいほどそうなる確率が高く、思ったようにダメージを与えられないのだった。


 さらに言えば、小さい敵や素早い敵には革袋自体当てにくい。

 これは大きな問題だった。



「よし、準備はオッケーだな」



 木の枝に、人の顔大の麻袋をロープで吊るし、大きく揺らす。

 これで左右に動く「マト」はできた。


 俺が出せる水は一日に1000ml程度なので、それはバケツに貯めておいて練習には泉の水を詰めた革袋を使う。

 革袋を、マトに向かって投げつけた。

 はずれ、はずれ、当たり。

 三回目にして命中。


 しかし当たり方が良くない。

 マトにほとんど水が掛かっていなかったのだ、これでは意味がない。



「回転を加えてみるか?」



 しっかり水が掛かってくれるように、投げ方も工夫せねばなるまい。

 俺は革袋の口を意識して回転させてみた。


 遠心力で、マトに当たる前に革袋の水がほとんど零れてしまった。

 水が派手に零れながら飛んでいくので、もしかしたら少しはマトに水が掛かってるかもしれないが、これでは水が掛かったとしても大したダメージは与えられなさそうだ。


 他の回転方向も試してみるが、投げにくくなるだけで旨くない。難しいものだ。



「仕方ない。とりあえず、命中精度だけを考えて特訓していくか」



 結局、この日の午後は、動いている小さなマトに水袋をぶつける訓練に終始した。

 投擲にはそこそこ自信がある方だったのだが、これは単純に難しい。

 練習しても急に精度が増す、ということはなかった。


 だがまあ。



「こういうのは積み重ねだからな」



 ――焦らない。

 爺やに教わっている。こういうことは時間を掛けることが大事だと。

 これからは毎日少しづつ訓練していこう。

 俺はそう心に決めて、この日の練習を終えた。



☆☆☆



「要するになにも解決はしてないのね」



 夕食の席にて、口をモグモグさせながらルールルが言った。

 今日も干した魚と木ノ実がメイン、どこかの機会で街に買い出しでも行きたいものだ。

 それはともかく、俺はルールルの言葉に少し虚勢を張ってみた。



「解決はしてないけど、色々考えはしたよ。そもそも小さい魔物は俺がサポートする必要もないんじゃないか? ルールルの魔法一発でドン! だろ」

「ダンジョンの浅瀬ならそうだろうけど、奥に潜ればどんなのが居るかわからないじゃない。小さくて強い魔物もいるかもしれない」



 俺はグッと黙らされた。



「特に魔法生物の強さは、身体の大きさよりも魔力の強固さに由来するっていうし、小さくて強力な個体がいる可能性は高いわ。そんな相手からカインを守りながら戦うのは、私だって難しい」

「そう言われてしまうと弱い」

「まあダンジョンは逃げないから、ゆっくりいきましょ」



 もそもそと、俺は干し魚をむしって食べる。

 美味しくないわけではないのだが、心が沈んだせいか味気なく思えてしまう。

 俺は別皿の塩をかけ足して食べた。


 皿。そう、緑の葉で作られた皿。硬めの葉を重ね合う形に折って作られた皿。

 確かこの葉は、ホウの葉で――。



「あ」



 思いついたことがあった。

 俺は思わず大きな声を上げてしまった。



「ルールル!」

「な、なによ突然大声で!」

「この葉、ホウの葉はどうしたんだ!? この森に生えているのか!?」

「え? ――ええ。よく見掛けるわよ? この森の中では珍しいものじゃあなくて――」

「ナイスだ! あはは、これでいけるぞ、問題の一つは解決だ!」



 この葉は確か……うん間違いない、そうだ!

 俺の胸は高鳴った。



「明日の午後は再びダンジョンに入ろう! 俺の新技を見せてやる!」



 こうして次の日、俺たちはもう一度ダンジョンに潜っていったのであった。



☆☆☆



「じゃあ私、見てるから」

「おう、まかせ……」



 そういうとルールルは前衛から退いた。

 三十センチ程度の魔物が三匹、羽音を立てて浮遊している。

『武装した巨大カブトムシ《アームド・ビートルジャイアント》』だった。



「ダメダメ! あいつら魔法生物じゃない、ただの虫! 俺の攻撃効かない、タッチだタッチ!」

「あらホント」



 俺が慌てて後衛に戻ると、ルールルは落ち着いた声で魔法を詠唱した。



「フリージング・エフェクト!」



 冷気が押し寄せ、空気がキラキラと光る。

 低温を作り出す魔法なのだろう、なるほど虫には効果的そうだ。


 寒さに耐えきれなかった巨大カブトムシが、ボトボトボト、と床に落ちた。

 すかさず近づいていったルールルが、杖で巨大カブトムシを殴る。



「ほらカインも! もう無力だからさっさと倒しちゃって!」

「お、おう」



 俺も近づいて巨大カブトムシを踏みつけた。

 一気に倒してしまう。



「あいつの甲殻は堅くて役に立つから、帰りにでも剥いでいきましょ」



 小瓶に巨大カブトムシの体液を収めながら、ルールルが言った。

 体液は体液で、錬金術の素材になるそうだ。

 魔法使いは生き物の死体を無駄にしないなーと妙な関心をしてると、ルールルが俺のことをジロリ睨んできた。



「にしても、別にもう教えてくれてもいいと思うんだけど」

「まあ待てって、せっかくだから勿体付けたい」

「これで大した案じゃなかったら、引っ掻いてやるんだから」



 俺は今日の午前中に一人で森に向かい、ダンジョンに潜る用意をしてきた。

 なにをどう用意したのか、まだルールルには告げてない。

 ダンジョンをお預けにしてくれたルールルを、ちょっとだけびっくりさせてやろうと思ったのだ。



「来たわ、敵襲! 『魔法体のマジックアストラル・ビースト



 次の魔物こそ、俺が相手をするべき敵だった。

 大きさは大きな犬程度、魔力で維持された身体を持つ四足の獣。噛みつく力が強く、旅の途中などに遭遇するとなかなかに凶暴で危険な相手だ。



「俺の出番だな」

「任せたわよ!」



 再び前衛後衛を入れ替わる俺たち。

 獰猛な敵だからだろう、ルールルが俺に防御の魔法を掛けてくれたことがわかった。


 俺は腰袋から一つのアイテムを取りだした。

 それは葉を編んで作ったものだ。今朝採取してきたホウの葉を丸く隙間ないように編み込んで、中に水を流し入れたもの。



「えやっ!」



 投げた葉玉が魔法体の獣に当たると、編まれた葉がほどけて中の水が飛び散った。

 中の水は、もちろん解呪の水。

 これまでの革袋投げと違って、今回は中の水がほぼ全て、魔法体の獣の身体にかかった。



「ワフゥゥゥンッ!」



 苦しげな断末魔を残して、魔法体の獣が消えていく。

 身体を維持するための魔力が、俺の解呪の力で中和された為だ。

 白い光の粒となって、魔力と共に拡散していく。

 俺の一撃で退治できたのだ。



「よし! 見たか葉水弾ウォーターボール!」



 俺はルールルに向けてガッツポーズした。ルールルも驚き顔。

 たたたたた、と魔法体の獣が消えた場所に走り、編みこみが解けたホウの葉を手に取る。



「葉っぱ? これ、昨日の葉っぱ?」

「そうだよ、ホウの葉。昔、爺やに教えて貰ってたんだ、ホウの葉を編んで簡易な水筒が作れるって。これも戦場での知恵らしい」



 ホウの葉の水筒。

 それを投げつければ、相手に当たったときに編み込みが解けて中の水が飛び散る。

 中の水が攻撃性のあるものならば立派な投擲武器になるはずだと、俺は考えたのだった。



「これで、小さな敵にそもそも投擲が当てられないっていう問題はともかく、『当たっても水が相手に掛からないことがある』という欠点は克服できただろ!?」

「……そうね、うん。いい案だと思う。恐れ入ったわ」

「だろ? だろ!?」



 やったぜ、と俺はハシャいだ。

 この上なく嬉しかった。爺やに褒められたときよりも嬉しかったかもしれない。

 俺は自分で問題点に気づき、解決までたどり着けたのだ。

 そしてそれを褒めて貰えた。嬉しくないはずがない。


 小さな敵を相手にする為の算段は、また今度考えればいいさ。

 今日はただ、一つの成功を噛みしめていきたい。


 ハシャいでる俺を見て、ルールルがクスと笑った。



「なーにカインたら、子供みたいに喜んじゃって」

「あはは、嬉しいからな! 嬉しいときは喜ぶ! 俺はそうするって決めてるんだ!」

「もう、馬鹿ね」



 ふふふ、とルールルも笑ってくれる。

 俺も、もう一度笑った。二人で笑う。

 二人で笑うのは、一人で笑っているよりも楽しい。

 楽しいことが今、嬉しい。


 この日勢いに乗った俺たちは、これまでの浅瀬よりも少しだけだが深くダンジョンに潜った。

 新規エリア攻略で得られたものはいくつかの宝石に魔法工芸品、あとは魔物を解体して得た素材。

 なかなかの実入りになる一日になったのだった。


 さて。

 次は手に入れたこれらを、貨幣に交換しなくてはなるまい。だから。



「街にいくか」

「えっ! 街!?」



 ルールルが目をキラキラさせて、俺の方を見たのであった。


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