γα 文字列 日南茉莉
動画配信チャンネル『ひなまつり』の配信者。
「そんな声でよう生きてけるな」言われてから、声にコンプレックス持って、人と話すのが怖なった。
現実逃避先はライブ配信サイト。配信時に絡んでくる<文字列>が唯一の話し相手。
やかましくて変な<文字列>と、配信者〝祭〟の日常。
§ プロローグ
配信者〝祭〟が自由気ままにライブ配信してるチャンネル〝ひなまつり〟。
掲示板やSNSでの無根拠な書き込みが、視聴者の想像を掻き立てる。
勝手に創り上げられた〝祭〟の人物像は、祭り好きのエセ関西人で自称JK、ニートで作り声おばちゃん芸人――ということになっとる。茉莉はそないなことになっとるなんて知らへんから何も言わんだけやのに、真実やから否定できひんて伝わる。
正しい情報が何一つ無くても、まことしやかに伝えられていくのがネットの世界。
~~ 説・始 ~
説その一。チャンネル名を〝ひなまつり〟、配信者名を〝祭〟にするくらいやから祭り好き。
本名は日南茉莉。読みはひなまつり。
三月三日に生まれたことが名前の由来。茉莉は読めへん言われたことあるから、当て字の〝祭〟をハンドルネームにしただけ。
説その二。エセ関西人。
生まれも育ちも大阪。コテコテの関西人。
大阪弁で話すことについて何ぞ言われたことはあれへんから、普段から大阪弁で話しとる。
説その三。自称JKのニート。
高校生になったのを機に上京して一人暮らしを始めたばかり。部活動やバイトはしとらん。時間に余裕があるから夕方頃から配信しとる。学生やからニートやあれへん。
説その四。作り声。
誰かに『そんな声でよう生きてけるな』言われてから、声にコンプレックス持って人間と話すのが怖なった。配信しとる理由は、素の声で気兼ねなく話せるから。
~ 説・終 ~〜
元々は見る専の視聴者。人の声聞くの好きやから、オススメに出てくる配信見て、気に入った人おったらまた見に行くっちゅう感じ。面白い配信には配信者と会話する<文字列>がおって、茉莉も<文字列>として会話に参加しとった。
ただ、気に入った配信者おっても、いつも配信してくれとるわけやない。おもろい配信あれへんくて暇やったとき、なんとなく配信してみたことが配信者になったきっかけ。そんとき来てくれはった<文字列>が空虚感を埋めてくれはった。
§ 配信者デビュー
二〇一〇年。
(うちも配信してみようかな。人間と話すのは抵抗あるけど、ゲームしてるのを垂れ流すだけならいける気ぃする)
作りたてのチャンネルでの配信はどこも過疎っとって<文字列>きぃひん。ぐだぐだな配信ばかりやから、おもろない配信が一つ増えたところで誰も気にしぃひんやろ。
<文字列>が来てくれるなんて思うてへんから、全画面モードでゲームしとった。
壁掛け時計に視線を移すと、二十時を指しとる。
「遊び過ぎてしもた。宿題せなあかんし、ぼちぼち終いにしよ」
ゲーム画面を閉じると配信ウィンドウが現れた。
「配信してること、すっかり忘れとった。<文字列>も見てへんやろうし、まあええか」
配信を止めようとマウスカーソルを動かした際、コメント欄がカクッと動いた。
58:良くない
59:いい加減、コメントを読みなさい
60:我々を放置したことを詫びたまえ
「うわっ。<文字列>おる」
61:失敬な
「いつからおったん?」
62:ずっと
63:二十分くらい前
64:始めから見てた
「暇なん? うちならいぬわ」
65:ドS幼女かよ……
「誰が幼女や。大人のお姉さんやで? おっぱいぼいんぼいんやし」
66:嘘乙
67:なるほど。小学生だな
「ちゃうわ」
68:証明せよ
69:カメラある?
「あるよ」
70:見せたまえ
71:本当に大人なら映せるよな
パソコンの上部にカメラ付いとるから、撮ることは出来る。
「なんや偉そうやな。カメラ用意するから一旦配信切るよ?」
72:りょ
73:おk
74:おっぱいキボンヌ
75:wktk
どこをどう撮ろう――撮影範囲を確認しながら調整する。部屋には物が何もあれへんくて殺風景やから映したない。身長低くて小学生と弄られそうやから全身も映したない。顔は見たいて書かれてへんから、映してもしゃあない。
『おっぱいキボンヌ』て書いてあったし、撮影範囲は胸だけでええか。胸だけはすくすく成長してFカップある。『大人のお姉さん』て言うたの怒られへんやろ。
タイトルを『おっぱいぼいんぼいんまつり』に設定して配信開始。
1:1ゲト
2:2げと
3:わこつ
4:ひy
5:真っ暗
6:何も見えん
「心がきれいな人にしか見えんのやな。うちには見えとるし」
7:ふざけるな
8:詐欺だ……
9:おまわりさん、こっちです
「設定方法わかる? ゲームしてたときとおんなじようにカメラの映像選んだんやけど」
10:オーバーレイのせいかな
「どうすれば見えるようなる?」
11:映像ソースをカメラに切り替えてみて
「やってみるわ」
12:おっぱい
13:ふつくしい
14:眼福
15:通報しますた
「見えたみたいやな。大人のお姉さんやろ?」
ランキング上位にある配信の見様見真似で、胸を寄せたりツンツンして見せる。
『まもなくクルーズが到着します』
16:クルーズw
『***クルーズが到着しました***』
*:こん
*:おっぱいおっぱいおっぱい
*:BAN
*:デブ
*:メタボ
*:ぶた
*:見せないところに肉があr
*:おへそ見せて
「ちゃうわ! なんや変なの来たな。カメラ動かすから待って」
カメラのレンズを下げて腹部を映す。
*:ぺろぺろ
*:痩せてる……だと
*:引っ込めとるだけやろ
*:二の腕見せてみろ。話はそれからだ
「信じる心失ってしもて、かわいそうな<文字列>やなあ」
二の腕下部をつまんで見せる。
「伸びるほどあれへんやろ。腕は引っ込められへんから、嘘つけへん」
*:信じてやろう
*:細い
*:延長
*:疑ってすまん。これから全力で推す
37:クルーズから
38:クルーズから
「反省したなら許したるわ」
*:謎の上から目線w
140:完走おめ
141:おっぱい見せて
142:クルーズから
143:おっぱいおっぱいおっぱい
144:降り過ぎ
145:おっぱい見られると聞いて
「宿題せなあかんから、ぼちぼち終いにする」
158:大人設定崩壊
159:前の配信で既に宿題すると言っていた件
160:乙
配信終了ボタンを押す。
いっぺんも『声が変』て書かれへんくて安堵した。
§ コメビュ
翌日。学校から帰宅。
いつも通りに配信を見て、いつも通りに<文字列>としてコメントを書く。
『祭ちゃん、いらっしゃい! 来てくれて嬉しい』
いつもとちゃう。
(名前教えてへんし、こんなん言われたことあれへん)
<文字列>に名前はあれへん。
184:なんでうちやてわかるん?
『コメビュに名前表示されてるから』
185:コメビュってなんぞ? よぉわからへん
『凸してくれたら使い方教えるよ。ID:***』
凸とは通話すること。momoは凸待ち配信者で、よく視聴者と通話しながら配信しとる。
人間と話すのは抵抗あるけど、教えてもらいたい欲が上回る。
「使い方教えて」
197:幼女ktkr
198:萌え声キターー!!
199:お兄ちゃん、教えて。と言ってくれ
「お兄ちゃん、教えて」
200:hshs
201:配信者?
「うちの配信やないのに、つい反応してしもた。堪忍な」
【〝ひなまつり〟の祭ちゃん。チャンネルはこちら】
配信画面の上部に載せられた案内文。
「なんでわかるん? わかった。ストーカーや」
202:お兄さんが通報してあげよう
203:おまわりさん、こっちです
ダウンロードするとこから教えてもろて、コメビュ使えるようなった。
配信者が書いたコメントの前に〝momo〟て表示されるようなった。
「名前わかるようなったわ。おおきに」
用が済んだから通話終了ボタンを押す。
通話終了後は配信が終わるまで<文字列>として会話に参加した。
次に見る配信探したけど、おもろい配信あれへんかった。
(コメビュの使い方ようわからへんから、配信しながら試してみよ。タイトルは『コメビュ練習枠』でええか)
コメントの試し打ちしとったら<文字列>来た。
21:何してるの?
「コメント打つ練習。さっきコメビュ入れてん」
22:ふむふむ
「名前表示されへん。なんでやろ?」
23:名前は登録しないと表示されない
24:▏▎▍▌▋▊▉█▉▊▋▌▍▎▏▏
25:░▒▓█▓▒░▒▓█▓▒░▒▓█▓▒░
「何したん? ぐちゃぐちゃの出てきた」
42:弾幕。放送中の画面見て
画面にカラフルな模様が流れる。
「すごいな。そんなんできるんや」
73:何か歌って
「音痴やから耳腐るで?」
74:大丈夫だ。問題ない
♪〜
画面にぎょうさん可愛い文字が流れる。
「めっちゃきれいやった。おおきに」
397:8888
398:天使の歌声
399:耳が幸せ
「そんなん言われたら、調子乗ってまうやろ」
400:hshs
401:褒められて伸びる子
「伸びんと懐くだけやけどな。全然上手くなられへん」
402:設定乙
403:練習あるのみ
「ほな、カラオケ行って練習してくるわ」
404:ここで歌いなさい
「耳腐るで?」
405:耳が幸せになる
406:禿同
407:おっぱい見せて
「おっぱいで思い出した! 誰か掲示板にうちの写真載せたやろ。検索したら出てきた」
408:おっぱい検索してたのか
「ちゃうわ。配信画面開くとき検索して、そんとき出てきてん」
409:晒されてどんな気分?
「嫌がらせで載せたん? 嫌われてんのなら配信するの辞めよ」
410:嫌がらせではないかと
411:削除要請してみたら?
412:消すと増える
413:主はどうしたいの?
「うちが配信したやつやし、好きにすればええんちゃう?」
414:強い
415:保存しました
416:おかずにしました
「報告いらん。キモイわ」
417:おっぱい見せて
「エロ本でも見とき。ぎょうさん載っとるやろ。ジブンの名前、変態て登録しとくわ」
418:ミュート推奨
419:やめてくれ
420:ミュート
「ミュートはどうやってするん?」
421:NGユーザーに登録すればOK
422:OKじゃない やり方教えるな
「あった。これか」
423:やめろ!
424:この後、奴を見たものは居なかったとさ
426:めでたしめでたし
「飛んどる番号が変態か」
427:そう
「勉強になった。色々教えてくれておおきに。今日はぼちぼち終いにするわ」
428:乙
429:乙
430:また明日
§ 夏休み
終業式を終え、直帰する。
用事があるわけやないけど、はよ配信しとうて毎日直帰しとる。
明日から夏休みやのに同級生のツレは未だにゼロ。常に明るく振る舞って、関心を持ってもらおうと試みたけど空回り。期待する反応を得られへん。
(地元のツレに、こっちのツレと撮った写真送って言われたけど、どないしよう……)
垢抜けた印象にしたくて思い切って髪を染めた。雑誌や動画を参考にしてメイクの練習もした。あとは一緒に写ってくれる人さえおれば写真送れるのに――。
落ち込んどってもしゃあないから、とりあえず配信することにした。
「暇やあ」
362:彼氏に構ってもらえ
「おらん。おったら配信してへん」
483:正論だな
484:我々が彼氏
「ぎょうさんおるな。独り占め出来んくてもええの?」
491:それは嫌だな
492:暇なら我々と遊ぶといい
493:それがいい
「今遊んどるやろ」
529:うむ
530:リア凸配信しようず
531:クンカクンカしたい
「明日から夏休みなのに予定あれへん。どないしよ」
969:だからリア凸をだな
970:学校の友達誘おう
971:デートしようず
「うち、ツレおれへんからなあ」
1019:ぼっち乙
1020:ここに居るじゃないか
1021:より取り見取り
1022:顔面に問題があるのか?
「女子高やし顔面は関係あれへん思う。うち性格悪いんやろか」
1069:裏表が激しいとか?
1170:配信してるときが素なら悪くはない
1171:わがままではあるな
1172:すぐ配信切るの良くない
1173:我々を<文字列>と呼ぶの良くない
1174:扱いが酷い
「相変わらず<文字列>やかましいな。うちが同級生やったら避ける?」
1175:僕をスルーするの良くない
1176:いらんことばっか言っとるから、ミュートされとるだけやろ
1177:積極的に話しかける
1178:抱きつく
1179:ぺろぺろ
1180:何か致命的な欠陥があるんだろ
1181:今電話して誘ってみて
「電話するのはええけど、心の準備出来てへんから明日でええ?」
1293:おk
1294:おk
「ほな、今日は終いにするわ」
*
夏休み初日。朝から配信を始める。
同級生と遊ぶ約束を取り付けることが目標。連絡先の上から順に発信していく。出てくれへんのはダメージあれへん。相手忙しいんやろうと思うだけで済む。そやけど『無理』とか『嫌や』言われるのはダメージおっきい。
同級生は出身中学校でトップの成績やった子ばかり。そないな子らが集まったら、誰かはベベになる――それが茉莉やった。そないなこと恥ずかしうて誰にも言われへん。視聴者には隠せても、校内に順位表が掲示されるから同級生には隠されへん。
(べべの相手してもメリットあれへんから、断られるのはしゃあない。頭でわかってるのと、受け入れられるんは別。納得出来たら苦労しぃひん)
「全滅や……泣きたい。配信切ってええ?」
2142:我々がついてる
2143:ここで泣け
2144:一人になると余計辛くなるぞ
2145:リア凸するか
2146:我々は祭の味方
着信音が鳴る。
2217:出て
「うっさい。今しゃべりたない」
2241:zzz
着信音が止まらない。
「たいがいにしたってや! 話すことあれへん言うとるやん」
クリックしたタイミングが悪く、誤って出てしもた。
『友達、本当に居ないんですか?』
<文字列>が騒めく。
「全員に断られたの見とったやろ」
『さっきので本当に全員ですか?』
「あと一人おるけど……絶対無理やで。うちが一方的に憧れてる人。話したことあれへん」
掛けてへんのは、絶対にあかんとわかりきっとるから飛ばした一条羽菜だけ。
『誘ってみましょう!』
2328:鬼畜
2329:死体蹴り
2330:合掌
目で追いきれない速度でコメントが流れる。
「憧れてる人に拒絶された後、平気でおれると思う?」
2431:やめておこう
2432:誘ってみよう
2433:拒絶されると決まったわけではない
2434:一縷の望み
「接点ほんまにあれへんから、知り合いに誘われたことにしてもええ? アンケートで決めよ」
OKが98%。ほとんどの<文字列>には慈悲の心があるらしい。
<文字列>に後押ししてもろて電話する覚悟を決める。
「明日、海行こうや。知り合いに誘われてん」
テンパってしもて、今までで一番雑な誘い方をしてしもた――今更後悔してもしゃあないけど悔やむ。
2501:おい、誘い方(笑)
2502:雑過ぎ
2503:オワタ
返答は案の定――みんなの予測を裏切り、まさかのOK。知り合いに誘われたなんて見栄を張ったことを悔やむ。普通に誘っとったらツレになれたかもしれへん。
「朝九時に田町駅のコーヒーショップ前で待ち合わせ」
頭が真っ白になって、それだけ伝えて電話を切ってしもた。
コメント欄には祝福メッセージが溢れとるけど、重大な問題に気付く。
「うち誰にも誘われてへん! 明日どないしよう!?」
2911:我々と行けばいい
『田町駅なら行けますよ』
「通話繋いだままやったな。ほんまに!?」
3110:男は狼になr
3111:4545
3112:危ない
「<文字列>は、うちが嫌がることするん? <文字列>のこと信じん方がええ?」
3113:しない
3114:耐える
「ならええやん。ツレ呼べる? 男女二人で出掛けるとこに呼ぶのおかしい。付きお合とるみたいやし。何人かおったら疑惑持たれへんやろ」
『呼べますよ』
同行者が男や言うてたら断られたやろう。幸か不幸か同行者の性別を確認されてへん。問題は配信を見とるだけの関係で、どないな人間か知らへんこと。
「一つだけ約束して。呼んだ子が嫌がることだけはせんといて。約束出来る?」
3121:自分も大切にして
3122:当然、祭が嫌がることをするのもダメだ
『もちろん! 嫌がることなんてしませんよ』
「信じる。うち、撮影するもの持ってかへんから、代わりに撮ったって。配信するためにさそた思われたない」
3141:万一のときは我々が通報する
【momoのチャンネルはこちら】
配信画面の上部に案内文載せる。
『俺に撮影任せると、顔映しますよ?』
3343:早速の嫌がらせ
3344:相手選び直す方が良いんじゃないか
「かめへんよ。顔知らへんと待ち合わせできへんし映すわ」
カメラのレンズを顔に向ける。
3345:嘘やろ……
3346:不細工……じゃないだと!?
3347:謎の敗北感
3348:何故今まで隠してたんだ
3349:この顔と身体で萌え声とかチートだろ
3350:神は何ブツ与えてんだよ
──コメント欄が荒れる。
「<文字列>やかましい。隠してへん。見せろ言われへんから、興味無いと思うとった」
3865:俺のチャンネルで配信させて。チャンネル登録者数多いから宣伝になるよ
「さそてくれなんだやん。どんくさいやつ嫌。困ってるときに助けてくれる人選びたい」
4164:即行でフラれてる件
4165:安定の毒舌
4166:誘えば良かった
「次あったらさそてみればええ。明日の準備したいから配信終いにするわ。水着買いに行きたい」
4214:露出多めで頼む
4215:要求すると応じてくれるのが祭クオリティ
「一分後に切るからそれまでに要望書いといて」
4221:水着は水色で
4222:サイドは紐で
4223:濡れると溶けるやつ
4242:手作り弁当
4243:作れるのか?
4244:作れるやろ 一人暮らしやぞ
4245:三食コンビニかも
4246:自炊してるぞ
4247:※炊飯器の音が鳴ると配信が終わります
*
翌日。午前四時。
同級生と――憧れの一条さんと遊べることが楽しみ過ぎて寝られへん。目がギンギンに冴えとって、眠れる気せぇへん。絶対寝坊できへんから、弁当作って時間潰すことにした。
(ツレ何人連れてくるんやろ。こないな時間に聞かれへんから多めに作っとけばええか)
――この調子で作り続けたら食べきれへんなってまう。現地で買う楽しみあれへんくなるのもあかん。時間潰しぼちぼち終いにせぇへんといけへん。
*
午前八時。田町駅へ到着。待ち合わせ時刻は一時間後。
一条さんに知り合いと伝えた人らが、どないな人か知らへん。もしも変な人やったら、断りの連絡せなあかんから余裕を持ってはよ来た。
既に緊張と不安で落ち着かん――緊張で口が乾くたび、水筒のお茶を流しこむ。
*
午前八時五十分。待ち合わせ時刻の十分前。
男性三人組が近付いてきた。
(待っとる相手、この子らやろか? うちに手を振っとるし、多分そうやんな)
茉莉はmomoの顔を知らへん。
「今日はよろしゅうお願いします。momoさんは……」
カメラ持っとる子が手を上げる。
(合うとって良かった)
momoに耳打ちする。
「うちが配信してること黙っといてください。配信に利用するため呼んだと思われたない」
すぐに耳打ちし返される。
「おっぱいぼいんぼいんまつりを生で見たいです」
(見るだけで満足するか怪しい。やけど呼んだのうちやしそんときはしゃあないと諦めるしかないな……一条さんに変に思われんかったらええ)
見るだけでええか確認して、他のこと求めとると解釈されたら本末転倒。
「恥ずかしいから、誰もいひんとこでかめへん?」
「もち! 海に着いたら、買い物名目で移動しましょう」
横断歩道を渡る一条さんが視界に入る。
(もう来てしもた……同行者がどないな人か掴めてへんけど、しゃあない)
「こっちやで」
不安を悟られないよう笑顔を作り、おっきく手を振る。
*
電車で一時間程かけて海水浴場に到着。
「飲み物を買ってくるので、場所取りをお願いします。祭さんは持つのを手伝ってください」
momoに手を握られ、予定通り連れ出される。
「誰もいひんとこ、あれへんなあ」
それよりも、momoのスマホが気になる。
「さっきから鳴りっぱなしやな。何かあったんちゃう?」
画面を覗き込むと、一条さんが映っとる。
「何配信してん!? はよ戻ろ」
(嫌な予感的中。一条さんとおる二人がどないな人か知らへん。怖い思いさせたらあかんのに……)
*
急いで戻ると、衝撃の光景を目にする。男二人が四つん這いで一条さんに踏まれとる――。
「え……どういう状況なん!? 何があったん?」
「女王様の逆鱗に触れてしまったので、罰を受けているところです」
(さっぱりわからん……そやけど、何かやらかした罰なら、うちも罰受けなあかん)
「それは大変やな! ようわからんけど、連帯責任なんやな? わかった。うちも踏んだって」
四つん這いになり、踏まれるのを待つ。