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イチオシ短編

子死庵 〜巨大怪獣あんこ吐きの巻〜

作者: 七宝

「美味しい美味しい、饅頭は要らんかえ〜」


 饅頭を1つ手に持った老婆が町を歩いている。手入れのされていない傷んだ髪の毛に、破れ破れのピンクのミニスカート。そして、数年前見かけた時は白かった()()()のタンクトップ。


「あんこがたっぷりの饅頭だよ〜」


 その皺だらけの笑顔は皆にいつでも元気を与えていた。強風の日にはミニスカートの中の、数年前は真っ白だった真っ黄っ黄のパンツが見えることもあるので、男子たちは密かに楽しみにしていたのであった。


「あ! 喜多音(きたね)ばばだ! みんなーっ! 喜多音ばばがいるぞー!」


「うぉーっ!」


 1人の男の子が声を発し、それに3人の同級生らしき男の子が反応した。


「おーおー可愛い可愛い。どれ、ワシの二の腕を触ってみい」


 馬場(ばば) 喜多音(きたね)は子どもたちと戯れるのが好きだった。いつもシワシワになった手の甲や、垂れすぎて液体のような柔らかさになった二の腕を触らせて遊んでいる。


「ほっぺも触りたい!」


 1人の男の子が言った。喜多音の頬はこぶとりじいさんのように大きくて垂れているのだ。昔食べた鼻くそが美味すぎてほっぺが落ちたのが原因らしい。


「あんたたち、ほっぺたより饅頭はどうだい?」


「うーん」


「饅頭ねぇ」


「ケーキならなぁ」


 どうやら今どきの子どもは饅頭より洋菓子の方が好きなようだ。しかし、喜多音が素手で持っているこの饅頭は、世界でも5本の指入るほどの饅頭なのだ。


「僕の顔の倍はあるもんなぁ。4人でも食べきれないよぅ」


 世界で5本の指に入るほどの大きさの饅頭を食べたがる子どもは中々見つからない。そんな時、喜多音は試食を配って回ることにしている。饅頭の美味さを体験させて病みつきにさせるのだ。


「よいしょ」


 喜多音は(きたね)ぇ腕を饅頭の中に突っ込むと、中からひと握りのこしあんを取り出した。


「おらよ」


 4人の手のひらに、握った手の小指側から少しずつあんこを絞り出していく喜多音。手から出てくる細長いこしあんは、やがてとぐろを巻いて立派なうん⋯⋯チョコソフトのような形になった。


「汚ぇ手だけど、僕らも大概汚いからな。いただきます」


 聞いたことのない枕詞(まくらことば)とともに手のひらのこしあんを舐め取る4人。彼らは手のひらが無味(むみ)になるまで4時間ほどなめなめしていたそうだ。


 気がつくとそこに喜多音の姿はなかった。家に帰ろうぜという動きが始まる中、1人黙々と舐め続けている子がいた。3人は呆れた様子で別れの言葉を交わし、おいしいおやつにホカホカご飯、暖かい布団がある家に帰っていった。


「フンフンフンフン」


 世界で5本の指に入るほどの荒さの鼻息を立てながら手のひらを舐める1人の少年。


「うちに来るかい?」


「フンフン!」


 激しく首を縦に振る少年。喜多音に連れられ、山の(ふもと)の小屋に入っていく。


「フン!?」


 少年の目線の先には、テトリスのブロックの形のような体勢で積み重なる無数の子どもたちがいた。下から2段目の右の方と、上から3段目の真ん中らへんが空いている以外は全て綺麗に積まれている。6段消せるほどの人数はいるだろう。


「さぁ、饅頭をお食べ」


 喜多音は少年にストローを手渡すと、テトリスチルドレンのもとへ歩いていった。渡されたストローを饅頭に刺し、チューチューとこしあんを吸う少年。


「オラァ!」


 喜多音はテトリスチルドレンを壁ごとぶっ壊し、死体の山を作ってしまった。


「フーン」


 少年はこしあんを吸いながらそれを見ていました。あまり興味がなさそうな顔をしています。よほどこしあんが美味しいのでしょう。そのこしあん、私にもひと口くださいな、なんて言っちゃったりしちゃったりなんかして! って、作者がそんなこと言っちゃダメでしょうがこのおバカ!


「さぁ、子どもを饅頭で釣って殺すババアの住むこの『子死庵(こしあん)』の扉は開かれた。どこへでも()くがいい!」


 喜多音はこしあん吸い少年に逃げろと言っているのだ。しかし、こしあん少年は微動だにしない。顔の倍ほどの大きさのこの饅頭の中身を全て吸い尽くすつもりでいるのだろう。


「フンフンフンフン! チューチューチューチュー!」


「やめるんだ! そんなことをしたら君は死んでしまう!」


「フンフン(本望)!」


 少年がこしあんを吸いきった頃、突如として2人の前に人型の光が現れた。


『力が欲しいか、少年よ』


「フンフン!」


「だめじゃ! そいつはワシの作った邪神じゃ! 君も悪に成り果ててしまうぞー!」


 邪神がこくりと頷いたかと思うと、子死庵はまばゆい光に包まれた。


「うわああああああああ!」


 喜多音は命からがら逃げ出したが、中にはまだ少年がいる。喜多音は神に祈りながら光が止むのを待った。


「少年が無事でありますように⋯⋯」


 40分後、暇になった喜多音が指毛の本数を数え始めた頃に光は止んだ。しばらくすると、子死庵の中から巨大な人型饅頭が出てきた。背中から頭にかけて約5万本の羊羹が生えており、とても禍々しい見た目をしていた。


「なんということ⋯⋯!」


 喜多音は自分のせいで少年がこうなったと反省するどころか、完全に他人の顔をしている。


「少年や、ワシのことが分かるかい?」


「少年ではない。我は世界をこしあんに染める巨大怪獣『あんこ吐き』だ。お前のような汚いババアなど知らぬ」


「なんということ⋯⋯! ぐはぁ!」


 本日2度目の「なんということ⋯⋯!」が出たところで喜多音はあんこまみれにされてしまった。巨大怪獣なら踏み潰せよと思うところだが、饅頭にしては巨大なだけであり、サイズは人間とほぼ変わらないのだ。


「我が覇道を阻むものなし!」


 あんこ吐きはそう言って町へ走っていった。それを聞いていた邪神は「ラオウのセリフかな?」と思ってググってみたが見つからなかった。これラオウ言ってなかった?


「うわー! 人型の饅頭があんこ吐きながら走ってるー! (あめ)ぇよーっ! 助けてくれぇー!」


 町の人々は逃げ惑っている。あんこは多量だと甘すぎるしベタつくから嫌なのだ。


「そこまでだ!」


 あんこ吐きの前に1人の男が立ちはだかった。今年のフードファイター王者、黒青木(くろあおき) 氷丸(こおりまる)だ。


 彼はあんこ吐きを捕まえると、濃厚なキスを交わした。10秒⋯⋯20秒⋯⋯何秒たっても離そうとしない。


「フンフンフンフン!」


 あんこ吐きはもがいている。


「ふふふ、どうだ、あんこを吸われる気分は」


 あんこ吐きの口を塞いだまま喋る氷丸。


「フンフンフンフン⋯⋯」


 あんこを吸われ、みるみるうちに細くなっていくあんこ吐き。しばらく吸ったあと、氷丸はあんこ吐きの口から離れた。


「フン〜」


 皮だけになったあんこ吐きはよろめきながら山麓に帰っていったのであった。

 タグ分かんない作品が多すぎる。

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