天空戦線
3006年4月
1人の少女の天空軍養成学校への入学が決まった
『114の少女』と呼ばれる彼女の天空軍学校への入学は世間を震撼させた
世界が天空都市と大地、天人と大地人の二つに分かれてから100年余り
さまざまな諍いがありつつも不可侵協定によって戦争は免れていた
しかし、今から10年前の2996年11月4日
2人の5歳の天人が好奇心から地上へ降りたった
そのうちの1人が不幸にも何者かによって殺害され、もう1人の生き残りの子供は世間から『114の少女』と呼ばれるようになった
そしてその日を境に世界は、細い糸で繋がれていた仮初の平和と別れを告げた
学校裏の広場、春の日にふさわしい暖かな太陽に木々の緑が揺れる
白い軍服の女が服の汚れも気にせず木にもたれて座り、遠くに聞こえる吹奏楽の音に耳を傾けていた
「君、新入隊生だろう?
これから入隊式なのにこんなとこにいていいのかい」
おそらく自分にかけられたのであろう言葉に顔を覆い隠していた制帽を取ると、太陽の眩しさに目を細める
目の前に立つすらりと高い影
白く長い前髪の間から覗く黒い目がこちらをじっと捉えている
白い軍服姿からして天空軍生であろう
「そっちこそ、入隊式なのに出席しなくていいんですか?センパイさん」
「ハハッ僕は先輩なんかじゃないよ」
こちらの悪態は気にもとめず愛想の良さそうな笑顔で襟のバッチを見せる
そこにはローマ数字で一本線
「なんだ、そっちもサボりなんじゃない」
「サボりじゃないさ
色々忙しいからね、式に出てる暇はないんだ
僕は刹那慧、これから5年間よろしくね」
図々しくも隣に座り握手を求める手を一瞥し再び制帽で顔を隠す
「隣に座ることを許可した覚えはないんだけど
忙しいんでしょ?とっととどっかに行ってちょうだい」
男は肩をすくめ、その場を立ち去った
「あれが噂の子かぁ
聞いてたより可愛い子だ」
愛想のいい笑顔で発した言葉は誰の耳にも届かず虚空に消えた