召喚魔法の指定は明確に!~性的嗜好を添えて~
突然だが、俺の性的嗜好の話を聞いてくれ。
俺は男性優位より女性に搾り取られる話が好きだった。
広義のマゾってやつである。
現実的な話、俺にはその手のサービスを受ける勇気はなかったし、そういうことをしてくれそうな親切なお姉さんは存じ上げなかった。
ほとんどは妄想で補っていた訳だけれども、いくつかできないシチュエーションもあった。
だから俺は、記憶を持ったまま新しい生を始めたとき、ひそかに感激したんだ。
これで。
ショタがお姉さん淫魔に搾り取られるシチュエーションを完遂できると!
都合のいいことに、新しい家は魔法使いの血筋で。
世界はファンタジックで。
淫魔はいて。
人間は悪魔と契約するのが一般的だった。
しかもだ!
契約するのは、遅くても15歳までだというから最高だ。
魔法使いの家で、秀才である証を残せば、まず間違いなく早いうちに契約できる。
完璧なシチュエーションのために、俺は優等生の皮を被り、小さいうちから鍛錬を重ねた。
そうして歴史的な天才として名の知れた俺は、学園に入るよりもはるか前、つまり旬のショタ頃に契約の儀式を行うことになったのだ。
契約の儀式は明日、自宅の稽古場の中で行うことになっている。
儀式と言っても簡易なもので、魔法陣の上で決められた呪文を唱えるだけだ。
そうすれば、召喚を行う人間の力量に相応しい悪魔が現れるのだそう。
このまま行けば、俺はいまだ呼ばれたことがないという悪魔王ですら呼び出せるかもしれない。
だが、それは俺の本懐ではないのだ。
せっかく新しい人生を歩き出して、再びショタの時代を過ごすことができたのだ。
俺の完璧なシチュエーションのため、儀式は前日の夜に決行することにした。
両親たちには悪いが、ショタというのは一過性のものだ。
過ぎ去ったら二度とは戻れない。
もちろん、魔法で幼い姿を保つこともできようが、それは本当のショタではない。
身体だけでも本当のショタのうちに、これだけはヤりたいのだ。
既に調べは付いている。
悪魔の中に淫魔の存在があり、それが前世で想像していたエッチな生き物とそう変わりがないこと。
淫魔を契約の悪魔としている人間は案外多いこと。
儀式の場で唱える呪文にはアレンジが加えられること。
呪文に悪魔の種族を入れることで、あらかじめ現れる悪魔の種族をコントロールできること。
そして、淫魔を呼び出す呪文。
この日のために、禁欲してきた甲斐があった。
精神は前世から地続きだったためか、正直子どもの身体とはいえ、いろいろと辛かった。
しかしそれも今日で終わり。
魔法陣から出でる豊満なお姉さんに搾り取られる、そんな未来を想像してうっとりした。
両足の下には魔法陣。
夜は施錠されているはずの稽古場に忍び込んだ俺は、期待に胸をおさえ呪文を唱えた。
「我、魔術師の家たるフレンドレスの長子なり。古来ヒトに力を与えし悪魔よ、我が願いに呼応して現れよ。我、カケルタの名において、欲望と阻害の権化たる淫魔よ、招来せよ!」
俺の紫色の魔力が魔法陣に吸い込まれ、魔法陣から噴き出したピンク色の奔流に混じっていく。
やがて目の前はピンク一色になり、それがゆっくりと薄れていく。
同時に先が触手のようになった尻尾が見え。
こっくりとした紫色のコウモリのような羽根が見え。
ピンク色のさらりとした前髪は整った鼻先の上に乗っている。
そうか、メカクレか。
瞳の色が見えないのは残念だが、これはこれでえっちだぞ。
髪は後ろで結んでいるようで、これを引っ張ったりしたものなら酷いお仕置きが待っていることだろう。
ぺたりと座り込んだ姿勢。
俺に目線を合わせてくれているみたいだ。
人間と同じ肌色が惜しげもなくさらけ出されていて、ひどく興奮する。
呼ばれた悪魔はうっとりと唇を震わせると、俺をその豊満な身体に寄せた。
「やっと呼んでくれたんだね……」
低くしっとりとした声が、耳朶を叩く。
「待ってたよ、カケルタ。俺のご主人様の願いは……搾り取られること?」
いや。待て。こいつ全然豊満な身体じゃなくね?
固くてごつごつしてて、いくら俺がショタだって言ってもでかい。
いや、色々とでかい女の人になすすべもないっては乙だが、そうじゃない。
今、俺って言った? 俺っ子だったの? やめろ、現実逃避してる場合じゃない。
「そんな簡単なことでいいの? やった、ご主人様の喜ぶとこ、これから勉強するね!」
あー健気だなー。これがまだ年若いロリ淫魔とかだったかぐっと来たかもしれない。
呼び出した淫魔が俺をぎゅっと抱きしめた。
ピンク色の奔流はいつの間にか止まり、視界はクリアだった。
俺は恐る恐る足元を見る。
胸と急所を隠しただけの悪魔の股間は、俺と同じくもっこりしていた。
待って? 俺と同じく? いやさっき確かに興奮しちゃったけども!
これは物理的な刺激によるもので、俺に男性同士の性的嗜好はございません!
「待って、助けて!」
「ふむふむ、ご主人様はちょっと刺激的なプレイが好きなんだね。本当にやめてほしい訳じゃないのは分かったよ。無理やり? 乱暴にされるのがいい? なるほどなるほど」
「ストップ! ノン! 触っちゃダメー!!!」
「恥ずかしがり屋のご主人様も可愛いね。じゃ、遠慮なく……いただきます」
成人男性特有の響くような低い声が降って来て。
俺はライオンの前のウサギよりも震えた身体でなすすべもなく――。
ぺろりと平らげられた。
【男淫魔によるねっとりとした搾精シーン】
※例によって描写はない。
「美味しかった♪ ご主人様、俺のために初めて……とっといてくれたのかな?」
「は、はへ……」
「ご主人様の魔力……とっても美味しかった。これで強くなったから、ご主人様のことたくさん護って。ご主人様が喜んでくれるように、いーっぱい、勉強するからね」
それで、ご主人様のこと、たくさん虐めてあげる……。
ほんとは女の子が好きなんだろうけど、もう俺が見初めちゃったから誰にもあげないよ?
翌日。
ベッドの脇に座り込んでいる淫魔を見つけて、俺は悲鳴を上げてしまった。
あ、あれはやはり夢ではなかったのだ。
お姉さん淫魔に絞られるウハウハショタライフは終わりを告げてしまったのだ。
……いや、その、ああそうだよ! はっきり言って気持ち良かったわ、ちくしょう!
これで嫌悪感でもあればまだ、突き放せたのに。
契約を反故にする理由を探してしまうぐらい、ショックな出来事だった。
でも、反故にできる理由が見つからないぐらい……それはそれは良い夜だった。
ちょっと想定していた性別が違うとはいえ、確かにショタは淫魔に絞られた。
それはちょっと意地悪で、淫魔にしては誠実なくらいに絞られた。
完全に俺の性的嗜好を理解した責めに俺は感動したのだった。
それに、性別に関して呪文に記載しなかった自分が悪いのもあった。
淫魔は女性しかいないものだと、勝手に思い込んでいたからだ。
ベッドの端に腰掛け、黙ったままこちらを見ている淫魔の瞳は相変わらず見えないが、心配そうにしているのは気配からして分かった。
「あーっと、おはよう?」
そう言えば呼びかける名前を知らない。
「ご主人様、おはよう。身体疲れてない? お風呂入る?」
「あ、いや。大丈夫だ。おまえがその、色々気遣ってくれたからか?」
「良かった。ああ、そうだ。俺の名前、ご主人様が決めて?」
「あれ? 悪魔って名前があるって聞いたぞ」
「そうだけど、俺はご主人様から特別な名前で呼ばれたい」
このときは、悪魔にもそんな感傷があるんだな、としか思わなくて。
俺はこの淫魔にカロンと名前を付けた。
その後、カロンと共に両親の元へでかけた。
叱られて当然、と思ったが、思いのほか両親は喜んでくれて――。
「魔法使いにとって花形の悪魔を捕まえたのね!」
「よくやった。内緒で勉強していたのはこのためだったんだな」
「彼の名は何というの、カケルタ?」
「カロンって付けたけど」
「名前を付けたのか……! やはりおまえは賢い子だ」
「ねえ、お祝いをしましょ! カケルタ、今日はごちそうよ。ふふっ、本当は明日儀式のお祝いをするつもりだったけれど……前倒しよ! シェフに掛け合ってくるわ!」
「カケルタ。おまえは召喚で疲れているだろう? 私たちが呼ぶまで、部屋でゆっくりするといい。ああ、彼とよく話すんだよ。くれぐれもお風呂を使うようなことにはならないように、な?」
最後の発言で真っ赤になったのは言うまでもない。
そのあと、真面目なカロンが教えてくれたところによると。
強大な魔法を操り、敵の能力を減衰することができる淫魔は、魔法使いにとって最良のパートナーであること。
魔法使いの多くは、契約の悪魔に淫魔を望むこと。
しかし、そうして結んだ多くの契約が長続きしないこと。
契約の悪魔は特別指定しなければ、同性の者が現れること。
悪魔は魔力を得ることで強大になり、人間は魔力を与えることで悪魔の知識を得ること。
名前を与えることは、契約者が一定の支配権を得ることであり、悪魔側から一方的に契約を切ることができなくなったり、魔力の受け渡しがスムーズになったりするらしいこと。
そして、魔力の受け渡しは多くは性交渉で行われること――。
「ま、待ってくれ。じゃあ、この世界じゃ男同士や女の子同士のもにょもにょは普通ってことか!?」
「ご主人様ったらせっかちだね。俺の話をよく聞いて? 普通の契約だったら、まずキスまで。それも唇に、じゃなくて、頬とか手の甲とかにするんだよ。よほど気に入ってなければセックスはしない」
「せ、セックスって、せっかく濁したのに……」
「照れ屋なご主人様も可愛いね。でも、セックスした方が魔力伝達もいいし、悪魔からの見返り……悪魔の知識と呼ばれる色々な法則のことだけど……も、たくさんもらえるよ。だから誘ってくる人間も少なくはないよ」
「粘液で魔力交換ってありがちな設定だな……」
「ご主人様、ちゃんと聞いてる?」
「あ、うん。聞いてます」
「だからさ。ご主人様が魔法のためでもなく、そのためのセックスでもなく。ただ単に淫魔とセックスしたいからって俺を呼び出してくれたこと、感謝してるんだ。ご主人様の願い事、割と何でも叶えてあげるからね」
そんなことをすごく嬉しそうに言うので、俺はカロンに謝りそびれてしまった。
実はお姉さん淫魔に搾り取られたくて召喚したけど、女の子の指定を忘れてしまったのだと。
本当はライトマゾで、虐められたい願望があるのだとか、どうでもいいことばかり言ってしまって。
ちなみに冗談半分で女の子になってみて、とお願いしたら。
とても申し訳なさそうな声でこう言われた。
「ごめん……さすがに生まれ持った性別を変えるのは無理、かな。あ、でも! ご主人様を精神的や肉体的にオンナのコにすることは可能だから、いつでも言ってね!」
……え?
その意味を知り、カロンと本番をしちゃうのは、ほんの少し先のこと。