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テニス少女1 U12  作者: コビト
5/35

-1-4 デビュー(4)

「ゲームカウント3-2」

玲奈の弱々しい声が今の状況を伝えていた。

3-0になって玲奈の気持ちが緩んだわけではなかった。初めての勝利を予感した玲奈の動きはむしろキビキビしていた。

ただ相手が少しマシになっただけだ。

それまで玲奈のサーブが好調だったこともあった。初出場の対戦相手のショットがまったく入らなかったこともあった。

ほとんど何の展開もないまま3ゲームが終わって、第4ゲームの初めに相手のショットが入った。

それを玲奈は特に打ち込むでもなく、ごく普通に返球した。

「アウト!」

相手の子が左手を上げて、大きな声でコールした。

そして横の観覧席を見て、嬉しそうにガッツポーズをした。

視線の先の女性から笑顔がこぼれて、玲奈はその女性が相手の母親であることに気付いた。

そして同じ観覧席の端の方に自分の母親を発見した。

「ダブルフォルト!」

相手の子がまた左手を上げて言う。

「フォルト」でいいのを「ダブルフォルト」と言うのが玲奈の気に障った。

玲奈は好調なサーブにもう少し力を込める。

スピードが上がった玲奈のサーブが相手のバックを突く。

相手が強引に出したラケットに当たったボールは玲奈のコートで変な方向に跳ねて、玲奈は空振りをした。

0-40となると、玲奈はこのゲームを捨てるように2本のサーブを簡単に打って、ダブルフォルトでゲームを落とした。

1ポイントで大喜びする母娘は、1ゲームを取るともっと大喜びをして、玲奈はそれを見て何かイヤな予感がした。

案の定、1ゲームを取った相手は、これまで玲奈がやった2試合の相手と同じように、まるで何のプレッシャーも無くなったかのように簡単にサーブを入れ始めた。

こっちが入らなくなると途端に調子を上げてくる。

このままだとまた前と一緒だ。

これじゃダメなんだと玲奈は思う。

でも、それをどうにかする術を玲奈は知らない。

「アウト!」

何も対策が無いまま打ったボールは悪い結果しか生まなかった。

玲奈が持つ2試合分の経験が生み出した貯金はもう残り1ゲームになってしまった。

(あかん、今日も勝たれへん)

玲奈の頭に自分が負ける姿が浮かんでくる。

(勝ちたかった。勝てば・・・)

玲奈は観覧席を見た。

そこには自分を睨む母親がいた。

自分の勝つ姿を知らない玲奈は、一人で自分の負ける姿と戦うにはまだ未熟過ぎた。

貯金を使い果たした後、さらに2ゲームを失った。それからお互いミスばかりという展開から1ゲームを取り返して少し期待を持たせたが、結局4-6で負けてしまった。

ネットの向こうにやってきた相手は満面の笑みを浮かべていた。これまでの2試合もそうだった。

玲奈はこの笑顔を披露したことはなかった。

そしてそれがテニスコートに限ったことではなかったと玲奈は思った。

コートを先に出た勝者がさっき以上の笑顔で母親とハイタッチをした。

楽しそうだった。

優しそうなお母さんだ。

玲奈はコートから出るのがイヤになった。

このまま消えてしまいたいと思った。

「早くしなさい!」

周りの人たちが一斉に声のするほうを見た。

今から玲奈が行く場所だ。

「あんた、同じミスばっかりしてアホちゃうか!」

玲奈の母は席から立ち上がり、いつものように怒った。

「あんた教えたこと覚えてたか?!何も考えんとやってたんやろう!!」

さっきの相手の母娘が玲奈のほうを見ている。

哀れんだ顔だ。玲奈は自分が哀れであることを知る。

「ほんまにどうしようもないなぁ、あんたは!」

玲奈にはどうしようもなかった。

「お父さんにどう言えばええん?!」

そんなのわからないと玲奈は心の中で反論する。

「あんたのせいやからな!!」

「何が?!」

「何がって、あんたが勝ったらよかったんやん!」

「うるさいねん!言いたいことがあんねんやったらパパに直接言ったらええやろ!!」

それだけ言い返すと玲奈は走ってどこかに行ってしまった。

母親はそれを止めようともせず、その場に立ち竦んだ。

そして周りの視線も気にならない様子で、その場に座り込んでしまった。



テニス少女U12 -1-4

『デビュー(4)』


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