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テニス少女1 U12  作者: コビト
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-0 エピローグ

エピローグ はじまりまーす。

一週間が過ぎて、私はまた都会の真ん中にあるテニスコートにいた。

夜に練習があるからテニスウェアを着ているけど、負けた私が今日ここのコートに立つことはない。

今日ここのコートに立つのは先週の予選を勝ち抜いた子たちだ。

またここに集まってきたみんなは、なんだか一週間前よりも強そうに見えた。

それは自信がついて堂々としているからとパパが言って、私はなんとなくわかったようなわからないような気になる。

そしてみんなが集まるのを少し離れたところから眺めた。

あの時ああすれば、こうすれば。

想像の中でも七海ちゃんにエースを取られて、私はがっくりした。

それから1時間もしないうちに、七海ちゃんは現実の中でもズバズバとエースを取っていた。

強い子たちが集まった今日のこの日。

その中でも七海ちゃんは特別に強くて、相手に1ゲームも取らせないで1回戦を勝ち上がった。

「七海ちゃんは強いよ。私より」

いつの間にか友達になった美月ちゃんが肩をぐるぐる回しながら言った。

「ドローがよかったらベスト8にも入るし、ベスト4もいけるかもしれん」

それを聞いて私は自分のことのように嬉しくなる。

「でも七海ちゃんは9位以上になった事はないねん」

9位でもすごい、そう思う。

「それは七海ちゃんが大きな大会で自分より強い子とあたってしまうからやねんけど」

それはそうだろうと思う。

美月ちゃんは手首をブラブラさせて続ける。

「その一人が凛々やねん」

私はコートを見た。

そこでは凛々ちゃんがミスを連発していたから、やっぱり七海ちゃんの方が勝つんだろうと思った。



第2コート

U12女子本選2R

倉凛々 ちはやTC

VS

服部七海 北大阪TC



凛々が4つめのミスを出して、5分とかからず第1ゲームが終わった。

次のゲーム、凛々の速いだけのファーストサーブはサービスボックスを捉えることが出来ず、セカンドサーブにしっかりスピンを効かせると、七海はそれをしっかり構えて打ち返す。


ズバッ。


それは決して速いようには見えないけれど、凛々の足を止めてリターンエースを奪った。

凛々は次のポイントもサーブで優位に立とうとして力を込めるが、小学生が打つフラットサーブがそうそう入るはずもなく、やはりセカンドサーブを狙い撃ちされる。


キュッ。


凛々は七海のリターンが打ち出される直前に走り出した。

その賭けに勝った凛々はリターンのコースに先回りする。


ボゥッ。


極端に厚いグリップで極端に大きく構える。

凛々はそこから思いっきりラケットを振りぬいた。

ミスの多そうなそのフォームはやはりミスを連発して七海に1ゲームを与えたが、同時にパワーのありそうなそのフォームは入ればやはり相当な威力を発揮した。

七海は全力でフォアサイドへと走る。

サイドラインを飛び出す勢いの打球は直前でギュギュギュッとブレーキをかけて急降下を始める。

七海は走りながらラケットを持ち上げて構えに入る。


ギュバッ。


七海が追い付いて逆襲をするかと思われたその瞬間、ボールはコートを蹴り上げて一気に七海の横を駆け抜けた。

観覧席は静かなままだった。

鈴も何とも言わなかった。

でも鈴も観客もわかっていた。

みんな展開の急激な変化についていけなかったのだということを。

凛々のショットがみんなを置いてけぼりにするほどすごいのだということを。



しばらくして見慣れないホームページに新しいドローがアップされた。

そこには凛々ちゃんや何人か前の大会で見た名前があったけど、七海ちゃんの名前はなかった。

そしてドローの上には選抜とか関西という文字が書いてあった。

勝った凛々ちゃんは次に繋がった。

負けた七海ちゃんは次に進めなかった。

あの日七海ちゃんに教えてもらった通りだった。

そして七海ちゃんは言った。

「私、次は絶対に関西に行く」

そのセリフに私は素直に七海ちゃんはすごいなと思った。

「だから鈴ちゃんも絶対に上がっておいでや」

七海ちゃんはまっすぐ私を見た。

私はそれから逃げるように目を逸らす。

テニスの強さ以外でも七海ちゃんに負けているんだと気が付いた。

そして今日ここでコートに立てなかったことが悔しくてしょうがなくなった。

道はその都度、途切れてしまう。

それは後からどんなに悔やんでも繋ぎ直すことは出来なかった。

チャンスにやり直しはない。

それでも悔やんでばかりいる必要はないんだと思った。

七海ちゃんが途切れた道を次は繋げようとしているように、私も次に向かえばいいんだ。

「鈴ちゃん、すぐ春が来るで」

そうしていつもの見慣れたホームページに春の大会のドローがアップされた。

繋がらなかった道のことを考えている時間はなかった。

だって、新しい道は次々にやってくるんだから。



テニス少女U12 -0

『エピローグ』



テニス少女1 U12 終わりました。

下手な言い回しや単純な言葉やその使い方の間違い等々、読みにくく、引っ掛かる文章に長々とお付きあい頂きましてありがとうございました。

色々な思いを込めて書いてきた物語です。

テニスに関わらずジュニアスポーツをしているご家庭、もしかすると受験や他のことでも家族で何かに取り組まれている方々の心に響いていれば嬉しいのですけれど。

またそんな環境にない方々にも真剣に何かに打ち込む人がいる世界があるのだと、彼らと同じ熱量になって感じて頂けましたら幸いに思います。

後書きまで長くてすみません。

改めまして、最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。

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