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テニス少女1 U12  作者: コビト
19/35

-5-2 ゼロポイント(2)

第15コート U11女子SF

真田鈴 北摂ローンTC

VS

坂口優花 マチカネTS


2つのボールを左手に掴んだままフォアバックと軽く素振りをしながら優花は向こうサイドのベンチへ歩いていった。

この時点で出遅れた対戦相手は自分のラケットを急いで取り出すと、こちらもブンブンとラケットを振りながら急いで手前のベンチへ向かった。

協会の大会記録にも出てこず、インターネットの検索にもヒットしなかったこの対戦相手に夕子と和仁は少なからず不安をおぼえたが、対戦相手の姿を確認するとようやく少し気持ちを落ち着かせることができた。

背が低い。3年生?いや4年生か?

早生まれ6年生の優花に比べるとまだまだかわいい子供といったところで、子供らしく元気いっぱいという感じが真冬の半袖半パンに現れていた。

優花はさすがにリラックスしてという風にはいかず、緊張の面持ちでサーブ練習を始める。

それでも適度に力をセーブしたサーブは確実にサービスボックスを捉えていた。

「緊張はしてるけど大丈夫。落ち着いてる」

和仁がそう言うのをうんうんと自分にも言い聞かすように夕子が頷いた。

後ろの第7コートで試合を終わらされた萌菜が応援に駆けつけ、間もなく、優花の試合が始まった。



第12コート U11女子SF

服部七海 北大阪TC

VS

鈴木千尋 TC三宝


服部七海を一目見ようと第11コートに集まった人たちは物足りない顔をしてまた別のコートへと移動を始めた。

七海はネットにぶら下げられたスコアの片方だけをパラパラとめくって0-0に直すとラケットケースを担いで、対戦相手の片付けが終わるのを待った。

それに気付いた対戦相手が片付けもほどほどに荷物をガバッと脇に抱えてコートから出ると、七海もそれに続いた。

「涼しい顔してんなぁ」

見学していた誰かがつぶやく。

「ま、余裕なんやろね」

「あんなん繋いでるだけやけどなぁ」

「やっぱり小学生くらいやと繋いでる方が有利なんかもね」

この試合、七海のミスはおそらく2本程度だった。

そして相手が取れたポイントも同じ2本程度だった。

強すぎる相手に対戦相手は悔しがる気持ちも忘れてコートから出てくると、両親の元に行って「ポイント取れんと終わるトコやったわ」と照れ隠しに笑っていた。

七海はそんな相手陣営に挨拶を済ませると、顎を上げてチラと奥のコートへ目をやった。

視線の先では優花とその対戦相手が試合をしていた。

それをほんの一瞬だけ見て、七海はすぐに前を向いた。

「七海、見に行かんでええの?」

「うん。見んでもわかってるし」

七海は母親に返事をするとスタスタと本部へ向かって歩いて行った。



第13コート U11女子SF

北嶋陽未 ヤマトリバーTC

VS

上坂小町 南港TC


隣の七海とほぼ同時にゲームが始まり、少なからず意識した陽未は結果6-0で勝利をしたが、七海より先にゲームを終わらせることは出来なかった。

陽未は心の中で悔しがったが同時に(やっぱりな)という思いもあって、いつものポーカーフェイスで平静を装い、コートから出た。

七海だけを意識していてもいけない。他にもライバルはたくさんいるんだし、と気持ちを落ち着ける。

それに。

新しいライバルは突然現れる。そして足元をすくおうとする。

陽未は本部へ向いつつ、後ろを振り返る。

視線の先には先日陽未が思わぬ接戦を強いられた優花がいた。

優花のスライス回転のかかったサーブが相手のフォアサイドへ飛び、そこから更に曲がっていった。

陽未は足を止める。

「いいサーブ」

先日の優花のプレーがマグレではなかったのだと陽未は認識した。

優花の対戦相手は小さな体から両手を高く上げて、大きくテイクバックしながら、体から遠ざかろうとするボールを追跡する。

すでに数歩動かされ崩れた体勢から、前に出した左足をぐっと踏ん張って左手でしっかりボールを指差すと、そこから無理やりに体を回してボールを力一杯引っぱたいた。

オーバーパワー気味に打たれたそのリターンが優花のフォアサイドを襲う。

優花はすかさず利き腕の方向へ走ってボールに追い付くと、こちらも足をぐっと踏ん張って、しっかりとラケットを振り抜いた。

フラットに少しだけスピンのかかった優花のボールがストレートに飛んでいきエースを奪う。

「カモーン!!」

優花は序盤にしては大きなガッツポーズをした。

陽未は思わず息を飲む。

好調なサーブを打つ優花はラリーでもともすれば陽未と対戦した時より威力を増しているようにも見えた。

そしてそれが実力だと証明するかのように、しっかりしたストロークをまた何球も何球も連続して打つ。

そしてその連続を自ら断ち切るフォアのダウンザラインをもう一度相手コートへ突き刺すと、相手も二度続けて同じエースは取らせないとばかりに懸命にバックへ走り、ベースラインの後ろの方でなんとか追い付いたボールにスピンをかけて高くストレートへ返球する。

少し時間をもらった優花は余裕を持ってポジションにつくと、しっかり肩を入れてスピンを十分にかけたフォアハンドを相手のバックへ運んだ。

そのボールが少しセンター寄りに入るのを見て、相手はリターンの時と同じように両手を上げてフォアへ回り込むと頭より高い位置から逆サイドへ打ち込んだ。

横殴りに振り抜いたそのボールはサイドスピンを伴って優花のコートを滑って通り過ぎようとするが、優花はそれにも追い付き、ショートクロスにエースを取った。

「カモーン!!!カモン!」

優花はさっきまでよりもっと大きくガッツポーズをした。

「すご・・・」

陽未はプレーに見惚れた。

「陽未、早く本部に結果言いに行きなさい」

「うん、わかってる」

母に促された陽未は第15コートに背を向けた。

「お母さん、あれ」

「自分の試合に集中しなさい」

母はこれ以上娘に余計な試合を見せたくなかった。

「陽未の試合、良かったよ」

「うん」

母が話題を反らそうとしても陽未の気持ちは第15コートに向いていた。

無理に気持ちを押し込めてもダメだと思った母は言葉を繋ぐ。

「前にやった子。坂口さん?すごいうまくなってるね」

「うん」

母娘は優花の成長を素直に認めた。

「て、言うか」

陽未が続ける。

娘が気にしているのがそこにないことは母もわかっている。

「スコア、見た?」

「ううん。いくらなん?」

「坂口さんから1-3」

陽未は思わず振り返る。

「あれ誰なん?」

急に実力を上げてライバルに名乗りを上げてきた優花が劣勢に立たされていた。

母は小さく頭を振った。

「また出てきた・・・」

娘を心から応援する母は突然現れるライバルを歓迎することが出来なかった。



テニス少女U12 -5-2 

『ゼロポイント(2)』

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